「うわああああああ!」
光に包まれて、俺は真っ逆さまに落ちていった。
――と思ったら、いきなり着地していた。
「いっててて……」
石畳の上に、思いっきり尻もちをついている。どうやら空から落ちてきたわけじゃなくて、いきなりこの場所にワープしたらしい。
周りを見渡すと、そこは――
「な、なんじゃこりゃあ……」
石造りの建物が立ち並ぶ街並み。空には見たことのない二つの月。道を行き交う人々は、なぜか全員が特徴的な服装をしている。鎧を着た人、ローブを纏った人、なぜか和服の人、なぜかスーツの人……完全にカオスだ。
『おい、あれ見ろよ。新入りか?』
『また来たな。どんな称号だろうな?』
周りの視線が痛い。俺は今、完全に浮いているみたいだ。
「あの……すみません!」
近くを歩いていた、鎧を着たお兄さんに声をかける。
「ここはどこですか?」
『ん?新入りか。ここは「[漢字]英傑界[/漢字][ふりがな]えいけつかい[/ふりがな]」。日本一の称号を持つ者だけが住める世界だ。お前もこれから「天命開示の儀」を受けるんだろ?神殿はあっちだ』
お兄さんが指さした方向には、巨大な神殿が見えた。日本の神社と西洋の教会を足して2で割ったような、不思議な建築様式だ。
「あ、ありがとうございます!」
俺は走り出した。
[太字][大文字]神殿[/大文字][/太字]
神殿の中は、さらに荘厳だった。高い天井、色とりどりのステンドグラス、そして中央にある祭壇。
周りには大勢の人が集まっている。みんな俺を見ている。好奇の目、期待の目、そして少しバカにしたような目。
『次に来たる者は――桐谷ユウト!』
神官っぽい人が呼ぶ。俺は祭壇の中央に立った。
神官長と思われる老紳士が、穏やかな笑みを浮かべて俺に語りかける。
『新たなる者よ、ようこそ英傑界へ。これより行うのは「天命開示の儀」。まずは簡単に説明しよう』
神官長は参列者たちにも聞こえるように、ゆっくりと語り始めた。
『この儀式では、お前が前世で成し遂げた「日本一の称号」が明らかになる。そして、その称号に相応しい「聖遺物」の授与も行われる』
『聖遺物は、この魔法陣を通じて与えられる。基本的にはランダムだが、才能ある者には神が直々に選んだものが与えられることもある。聖遺物にはランクがあり、下から[漢字]一般級[/漢字][ふりがな]いっぱんきゅう[/ふりがな]、[漢字]練磨級[/漢字][ふりがな]れんまきゅう[/ふりがな]、[漢字]達人級[/漢字][ふりがな]たつじんきゅう[/ふりがな]、[漢字]英傑級[/漢字][ふりがな]えいけつきゅう[/ふりがな]、[漢字]英雄級[/漢字][ふりがな]えいゆうきゅう[/ふりがな]、そして――』
そこで神官長は一度言葉を切り、厳かな表情で続けた。
『[漢字]神話級[/漢字][ふりがな]しんわきゅう[/ふりがな]。そして、伝説上のみとされる[漢字]創世級[/漢字][ふりがな]そうせいきゅう[/ふりがな]。神話級以上の聖遺物を授かった者は、この200年で一人もおらん。もし授かれば、この場にいる者は皆、歴史の目撃者となるだろう』
周りから『まさか』『そんなの無理だろ』と囁きが聞こえる。
『さあ、では始めよう。まずは称号の開示からだ』
神官長が手をかざすと、祭壇が淡く光り始めた。
『汝、生前の行いを称え、ここに称号を授ける。その称号は――』
周りがざわつく。期待のざわめきだ。
『――「日本一の眼精疲労」である』
静寂。
一瞬の、完全な静寂。
そして――
『ぶはははははは!』
『眼精疲労!?それで日本一!?』
『まじかよ!そんなんで英傑界に来れるのかよ!』
爆笑が巻き起こった。
俺の顔が真っ赤になる。いや、確かに。確かにそうだ。眼精疲労で日本一って、なんの自慢にもならない。でも、でもさ……
『おい、あれ見ろ。あいつ、死因が眼精疲労らしいぞ』
『ゲームのやりすぎで死んだんだと。情けな』
『俺なんて日本一の剣豪だぞ。戦いで死んだんだ』
ちくしょう。ちくしょう。
でも反論できない。事実だから。
『お静かに!』
神官長が叫ぶ。笑い声が少し収まった。
『さて、続いて「聖遺物授与」を行う。手をかざせ』
俺はおとなしく手をかざした。
どうせ大したものは出ない。眼精疲労に相応しいアイテムって、目薬か?冷却シートか?
[水平線]
魔法陣が光り始める。
最初は淡い光。でも、徐々に……強くなる?
『ん?なんだこの光』
『おい、あれ……』
光がどんどん強くなり、色も金色に変わっていく。まぶしい。目が開けていられない。
そして――
[大文字]ドォォン![/大文字]
爆発のような閃光が会場を包んだ。
『な、なんだと!?』
『この光はまさか!』
『ありえない!200年ぶりだ!』
神官長の声が響く。
ざわめきが悲鳴に変わる。俺は目を開けられず、ただ光の中でじっとしていた。
やがて光が収まる。
そこにあったのは――
『……メガネ?』
一見すると、普通の黒縁の伊達メガネだった。どこにでもありそうな、シンプルなデザイン。
『なんだ、ただのメガネか』
『光っただけだったな』
『びっくりさせやがって』
また笑い声が聞こえる。
でも、俺は違った。
このメガネ、ただものじゃない。
手に取った瞬間、感じた。ひんやりとした金属の感触。でも重さはほとんどない。そしてレンズに、かすかに見える微細な回路のような模様。
そして、ツルの内側に刻まれた文字。
[太字]『KAI-SHI』[/太字]
「カイ……シ……?」
思わず呟く。
その瞬間、メガネがかすかに光った気がした。
『おい、新入り!早くメガネかけてみろよ!』
『見せてもらおうじゃないか、その「神話級」の力を!』
神話級?
周りを見ると、さっきまで笑っていた連中の表情が変わっている。羨望、嫉妬、驚き……様々な感情が混ざった目で、俺を見ている。
「えっと……このメガネ、すごいやつなんですか?」
俺の質問に、神官長が震える声で答えた。
『そ……それは「神話級」……この世界でも最高峰の聖遺物……200年以上、誰も手にしていなかった……なぜ、そんな称号の者が……』
神官長の言葉に、周りがまたざわつく。
『神話級だって!?』
『あのメガネが!?』
『うそだろ……眼精疲労とかいう称号で神話級聖遺物ってありえるのか?』
『200年ぶりって……まじかよ』
俺は恐る恐る、メガネをかけた。
その瞬間――
視界が、変わった。
まず目に飛び込んできたのは、大量の文字情報だった。
目の前の神官長を見れば、
【対象:神官長ガルド】
称号:日本一の儀式司会者
聖遺物:英傑級『天命の鈴』
ステータス:魔力A/耐久C/敏捷D
備考:200年以上神官を務めるベテラン。実は甘党。
周りの観客を見れば、
【対象:観客A】
称号:日本一の剣豪
聖遺物:英雄級『斬魔の太刀』
現在の感情:嫉妬(神話級聖遺物が欲しい)
弱点:打たれ弱い(プライドが高い)
【対象:観客B】
称号:日本一の爆睡者
聖遺物:一般級『永遠の枕』
現在の状態:居眠り
備考:儀式中も睡眠を欠かさない
「な、なにこれ……」
情報が、視界にオーバーレイされている。まるでゲームのHUDだ。
『おい、何か見えるのか?』
『教えろよ、そのメガネの能力!』
周りが騒ぐ。でも、それどころじゃない。
情報が多すぎる。頭がパンクしそう。
俺は慌ててメガネを外した。
はあ、はあ、と息を切らす。
『どうした?大丈夫か?』
さっきの剣豪だ。顔つきに似合わず心配性なのか、心配そうな顔をしている。
「だ、大丈夫です……ちょっと、情報が多すぎて……」
『情報?何が見えるんだ?』
「えっと……相手の名前とか、称号とか、聖遺物とか……」
言いかけて、やめた。弱点が見えるなんて言ったら、もっと騒がれそうだ。
『すごいな……それだけでも十分すごいぞ。相手の力が一瞬でわかるなんて』
剣豪は感心したように言う。
「あ、ありがとうございます……」
俺はもう一度、メガネをかけてみた。
さっきは驚いたけど、よく見ると、情報は整理されている。視界の端っこに、ポップアップのように表示される感じ。慣れれば使えそうだ。
そして、もう一つ気づいたことがある。
このメガネ、さっき「カイシ」って呟いた時に光った気がする。
試しに、心の中で呼びかけてみる。
〖カイシ……〗
すると、視界の端に小さな文字が浮かんだ。
【システムメッセージ】
呼び名が登録されました。
これより、聖遺物『極限演算機構・界視』は「カイシ」として認識されます。
よろしくお願いします。マスター。
「……マスター?」
思わず声に出ていた。
『あ?何か言ったか?』
「い、いえ、なんでもないです!」
ヤバい。このメガネ、なんか喋った。いや、文字だけど。でも、明らかに意思があるっぽい。
俺はもう一度、心の中で話しかけた。
〖お前、話せるのか?〗
【カイシ】
テキスト形式での基本的なコミュニケーションは可能です。
マスターの思考に反応して、必要な情報を提供します。
〖す、すげえ……〗
ガジェットオタクの血が騒ぐ。このメガネ、ただものじゃない。明らかにハイテクノロジー……いや、ハイファンタジーだ。
〖カイシ、これからよろしく〗
【カイシ】
はい、マスター。
あなたの目となり、より広い世界をお見せします。
[太字][大文字]新たな世界[/大文字][/太字]
儀式が終わり、俺はカイシをかけて神殿の外に出た。
まだ周りには人がいて、チラチラとこっちを見ている。有名人になった気分だ。まあ、良い意味でも悪い意味でも。
「さて、これからどうしよう……」
日本一が集まる異世界。目的もない。知り合いもいない。
【まずは拠点を見つけることをお勧めします。宿屋やギルドなどがあります】
「お、ナビしてくれるのか?」
【可能な限り。ただし、情報提供が主です。戦闘は……マスター、戦えますか?】
「いや、全く」
【では、戦闘は避けた方が良いでしょう】
「だよなあ……」
そんなことを呟きながら俺は街を歩き出した。
看板には見たことのない文字が書いてあるけど、カイシを通して見ると、ちゃんと日本語に変換されている。
しばらく歩くと、大きな建物が見えた。看板には「ギルド」と書いてある。
「ここかな。とりあえず入ってみるか」
ドアを開けると、中は冒険者らしき人たちで賑わっていた。カウンターでは、可愛らしい受付嬢が忙しそうに動いている。
『いらっしゃいませ!冒険者の方ですか?』
受付嬢が声をかけてきた。
【対象:リリカ】
称号:日本一の対応速度
聖遺物:練磨級『快速の羽ペン』
備考:ギルドの受付嬢。仕事は早い。
「い、いえ。さっきこの世界に来て儀式が終わったばかりで……」
『なるほど!どんな称号なんですか?』
「えっと……眼精疲労、です」
受付嬢──リリカさんの動きが一瞬止まった。
『……眼精疲労?』
「はい。日本一の。」
『……それで、聖遺物は?』
「神話級?っていうやつのメガネです」
その瞬間、リリカさんの目がまん丸になった。
『えええええ!?さっき冒険者の皆さんが騒いでいた、200年ぶりの神話級聖遺物を授けられた人って、あなたのことなんですか!?』
「はい、たぶん……」
『すごーい!でも称号は眼精疲労……うーん、複雑ですね!』
リリカさんは笑いながらも、手際よく書類を準備してくれた。
『とりあえず、ギルド登録をしましょう!これで依頼を受けられるようになりますから!』
こうして、俺の異世界生活が始まった。
最弱の称号と、最強のメガネを抱えて――
光に包まれて、俺は真っ逆さまに落ちていった。
――と思ったら、いきなり着地していた。
「いっててて……」
石畳の上に、思いっきり尻もちをついている。どうやら空から落ちてきたわけじゃなくて、いきなりこの場所にワープしたらしい。
周りを見渡すと、そこは――
「な、なんじゃこりゃあ……」
石造りの建物が立ち並ぶ街並み。空には見たことのない二つの月。道を行き交う人々は、なぜか全員が特徴的な服装をしている。鎧を着た人、ローブを纏った人、なぜか和服の人、なぜかスーツの人……完全にカオスだ。
『おい、あれ見ろよ。新入りか?』
『また来たな。どんな称号だろうな?』
周りの視線が痛い。俺は今、完全に浮いているみたいだ。
「あの……すみません!」
近くを歩いていた、鎧を着たお兄さんに声をかける。
「ここはどこですか?」
『ん?新入りか。ここは「[漢字]英傑界[/漢字][ふりがな]えいけつかい[/ふりがな]」。日本一の称号を持つ者だけが住める世界だ。お前もこれから「天命開示の儀」を受けるんだろ?神殿はあっちだ』
お兄さんが指さした方向には、巨大な神殿が見えた。日本の神社と西洋の教会を足して2で割ったような、不思議な建築様式だ。
「あ、ありがとうございます!」
俺は走り出した。
[太字][大文字]神殿[/大文字][/太字]
神殿の中は、さらに荘厳だった。高い天井、色とりどりのステンドグラス、そして中央にある祭壇。
周りには大勢の人が集まっている。みんな俺を見ている。好奇の目、期待の目、そして少しバカにしたような目。
『次に来たる者は――桐谷ユウト!』
神官っぽい人が呼ぶ。俺は祭壇の中央に立った。
神官長と思われる老紳士が、穏やかな笑みを浮かべて俺に語りかける。
『新たなる者よ、ようこそ英傑界へ。これより行うのは「天命開示の儀」。まずは簡単に説明しよう』
神官長は参列者たちにも聞こえるように、ゆっくりと語り始めた。
『この儀式では、お前が前世で成し遂げた「日本一の称号」が明らかになる。そして、その称号に相応しい「聖遺物」の授与も行われる』
『聖遺物は、この魔法陣を通じて与えられる。基本的にはランダムだが、才能ある者には神が直々に選んだものが与えられることもある。聖遺物にはランクがあり、下から[漢字]一般級[/漢字][ふりがな]いっぱんきゅう[/ふりがな]、[漢字]練磨級[/漢字][ふりがな]れんまきゅう[/ふりがな]、[漢字]達人級[/漢字][ふりがな]たつじんきゅう[/ふりがな]、[漢字]英傑級[/漢字][ふりがな]えいけつきゅう[/ふりがな]、[漢字]英雄級[/漢字][ふりがな]えいゆうきゅう[/ふりがな]、そして――』
そこで神官長は一度言葉を切り、厳かな表情で続けた。
『[漢字]神話級[/漢字][ふりがな]しんわきゅう[/ふりがな]。そして、伝説上のみとされる[漢字]創世級[/漢字][ふりがな]そうせいきゅう[/ふりがな]。神話級以上の聖遺物を授かった者は、この200年で一人もおらん。もし授かれば、この場にいる者は皆、歴史の目撃者となるだろう』
周りから『まさか』『そんなの無理だろ』と囁きが聞こえる。
『さあ、では始めよう。まずは称号の開示からだ』
神官長が手をかざすと、祭壇が淡く光り始めた。
『汝、生前の行いを称え、ここに称号を授ける。その称号は――』
周りがざわつく。期待のざわめきだ。
『――「日本一の眼精疲労」である』
静寂。
一瞬の、完全な静寂。
そして――
『ぶはははははは!』
『眼精疲労!?それで日本一!?』
『まじかよ!そんなんで英傑界に来れるのかよ!』
爆笑が巻き起こった。
俺の顔が真っ赤になる。いや、確かに。確かにそうだ。眼精疲労で日本一って、なんの自慢にもならない。でも、でもさ……
『おい、あれ見ろ。あいつ、死因が眼精疲労らしいぞ』
『ゲームのやりすぎで死んだんだと。情けな』
『俺なんて日本一の剣豪だぞ。戦いで死んだんだ』
ちくしょう。ちくしょう。
でも反論できない。事実だから。
『お静かに!』
神官長が叫ぶ。笑い声が少し収まった。
『さて、続いて「聖遺物授与」を行う。手をかざせ』
俺はおとなしく手をかざした。
どうせ大したものは出ない。眼精疲労に相応しいアイテムって、目薬か?冷却シートか?
[水平線]
魔法陣が光り始める。
最初は淡い光。でも、徐々に……強くなる?
『ん?なんだこの光』
『おい、あれ……』
光がどんどん強くなり、色も金色に変わっていく。まぶしい。目が開けていられない。
そして――
[大文字]ドォォン![/大文字]
爆発のような閃光が会場を包んだ。
『な、なんだと!?』
『この光はまさか!』
『ありえない!200年ぶりだ!』
神官長の声が響く。
ざわめきが悲鳴に変わる。俺は目を開けられず、ただ光の中でじっとしていた。
やがて光が収まる。
そこにあったのは――
『……メガネ?』
一見すると、普通の黒縁の伊達メガネだった。どこにでもありそうな、シンプルなデザイン。
『なんだ、ただのメガネか』
『光っただけだったな』
『びっくりさせやがって』
また笑い声が聞こえる。
でも、俺は違った。
このメガネ、ただものじゃない。
手に取った瞬間、感じた。ひんやりとした金属の感触。でも重さはほとんどない。そしてレンズに、かすかに見える微細な回路のような模様。
そして、ツルの内側に刻まれた文字。
[太字]『KAI-SHI』[/太字]
「カイ……シ……?」
思わず呟く。
その瞬間、メガネがかすかに光った気がした。
『おい、新入り!早くメガネかけてみろよ!』
『見せてもらおうじゃないか、その「神話級」の力を!』
神話級?
周りを見ると、さっきまで笑っていた連中の表情が変わっている。羨望、嫉妬、驚き……様々な感情が混ざった目で、俺を見ている。
「えっと……このメガネ、すごいやつなんですか?」
俺の質問に、神官長が震える声で答えた。
『そ……それは「神話級」……この世界でも最高峰の聖遺物……200年以上、誰も手にしていなかった……なぜ、そんな称号の者が……』
神官長の言葉に、周りがまたざわつく。
『神話級だって!?』
『あのメガネが!?』
『うそだろ……眼精疲労とかいう称号で神話級聖遺物ってありえるのか?』
『200年ぶりって……まじかよ』
俺は恐る恐る、メガネをかけた。
その瞬間――
視界が、変わった。
まず目に飛び込んできたのは、大量の文字情報だった。
目の前の神官長を見れば、
【対象:神官長ガルド】
称号:日本一の儀式司会者
聖遺物:英傑級『天命の鈴』
ステータス:魔力A/耐久C/敏捷D
備考:200年以上神官を務めるベテラン。実は甘党。
周りの観客を見れば、
【対象:観客A】
称号:日本一の剣豪
聖遺物:英雄級『斬魔の太刀』
現在の感情:嫉妬(神話級聖遺物が欲しい)
弱点:打たれ弱い(プライドが高い)
【対象:観客B】
称号:日本一の爆睡者
聖遺物:一般級『永遠の枕』
現在の状態:居眠り
備考:儀式中も睡眠を欠かさない
「な、なにこれ……」
情報が、視界にオーバーレイされている。まるでゲームのHUDだ。
『おい、何か見えるのか?』
『教えろよ、そのメガネの能力!』
周りが騒ぐ。でも、それどころじゃない。
情報が多すぎる。頭がパンクしそう。
俺は慌ててメガネを外した。
はあ、はあ、と息を切らす。
『どうした?大丈夫か?』
さっきの剣豪だ。顔つきに似合わず心配性なのか、心配そうな顔をしている。
「だ、大丈夫です……ちょっと、情報が多すぎて……」
『情報?何が見えるんだ?』
「えっと……相手の名前とか、称号とか、聖遺物とか……」
言いかけて、やめた。弱点が見えるなんて言ったら、もっと騒がれそうだ。
『すごいな……それだけでも十分すごいぞ。相手の力が一瞬でわかるなんて』
剣豪は感心したように言う。
「あ、ありがとうございます……」
俺はもう一度、メガネをかけてみた。
さっきは驚いたけど、よく見ると、情報は整理されている。視界の端っこに、ポップアップのように表示される感じ。慣れれば使えそうだ。
そして、もう一つ気づいたことがある。
このメガネ、さっき「カイシ」って呟いた時に光った気がする。
試しに、心の中で呼びかけてみる。
〖カイシ……〗
すると、視界の端に小さな文字が浮かんだ。
【システムメッセージ】
呼び名が登録されました。
これより、聖遺物『極限演算機構・界視』は「カイシ」として認識されます。
よろしくお願いします。マスター。
「……マスター?」
思わず声に出ていた。
『あ?何か言ったか?』
「い、いえ、なんでもないです!」
ヤバい。このメガネ、なんか喋った。いや、文字だけど。でも、明らかに意思があるっぽい。
俺はもう一度、心の中で話しかけた。
〖お前、話せるのか?〗
【カイシ】
テキスト形式での基本的なコミュニケーションは可能です。
マスターの思考に反応して、必要な情報を提供します。
〖す、すげえ……〗
ガジェットオタクの血が騒ぐ。このメガネ、ただものじゃない。明らかにハイテクノロジー……いや、ハイファンタジーだ。
〖カイシ、これからよろしく〗
【カイシ】
はい、マスター。
あなたの目となり、より広い世界をお見せします。
[太字][大文字]新たな世界[/大文字][/太字]
儀式が終わり、俺はカイシをかけて神殿の外に出た。
まだ周りには人がいて、チラチラとこっちを見ている。有名人になった気分だ。まあ、良い意味でも悪い意味でも。
「さて、これからどうしよう……」
日本一が集まる異世界。目的もない。知り合いもいない。
【まずは拠点を見つけることをお勧めします。宿屋やギルドなどがあります】
「お、ナビしてくれるのか?」
【可能な限り。ただし、情報提供が主です。戦闘は……マスター、戦えますか?】
「いや、全く」
【では、戦闘は避けた方が良いでしょう】
「だよなあ……」
そんなことを呟きながら俺は街を歩き出した。
看板には見たことのない文字が書いてあるけど、カイシを通して見ると、ちゃんと日本語に変換されている。
しばらく歩くと、大きな建物が見えた。看板には「ギルド」と書いてある。
「ここかな。とりあえず入ってみるか」
ドアを開けると、中は冒険者らしき人たちで賑わっていた。カウンターでは、可愛らしい受付嬢が忙しそうに動いている。
『いらっしゃいませ!冒険者の方ですか?』
受付嬢が声をかけてきた。
【対象:リリカ】
称号:日本一の対応速度
聖遺物:練磨級『快速の羽ペン』
備考:ギルドの受付嬢。仕事は早い。
「い、いえ。さっきこの世界に来て儀式が終わったばかりで……」
『なるほど!どんな称号なんですか?』
「えっと……眼精疲労、です」
受付嬢──リリカさんの動きが一瞬止まった。
『……眼精疲労?』
「はい。日本一の。」
『……それで、聖遺物は?』
「神話級?っていうやつのメガネです」
その瞬間、リリカさんの目がまん丸になった。
『えええええ!?さっき冒険者の皆さんが騒いでいた、200年ぶりの神話級聖遺物を授けられた人って、あなたのことなんですか!?』
「はい、たぶん……」
『すごーい!でも称号は眼精疲労……うーん、複雑ですね!』
リリカさんは笑いながらも、手際よく書類を準備してくれた。
『とりあえず、ギルド登録をしましょう!これで依頼を受けられるようになりますから!』
こうして、俺の異世界生活が始まった。
最弱の称号と、最強のメガネを抱えて――