初めにあなたにありがとう、最後にあなたに大嫌い。
高校3年の春、
クラス替えで隣の席になった悠人が、
消しゴムを拾ってくれた。
それがすべての始まりだった。
ぶっきらぼうだけど根は優しい悠人と、
引っ込み思案な私。
正反対の二人だったけれど、
一緒に図書室で勉強したり、
放課後に部活の愚痴を言い合ったりするうちに、
自然と惹かれ合っていった。
秋になる頃には、
誰もが認めるお似合いの二人になっていた。
塾の帰り道、
冷たくなった私の手を悠人が自分のポケットに入れてくれた時、
言葉にしなくても「私たちは同じ気持ちなんだ」と分かった。
ずっとこの幸せが続くのだと信じていた。
けれど、
受験シーズンが本格化すると、
現実は残酷に尖り始めた。
私は地元の大学を目指していたけれど、
悠人は昔からの夢だった「東京の難関芸術大学」の合格ラインに届くかどうかの瀬戸際にいた。
実技試験のデッサンでスランプに陥った悠人は、
みるみる痩せて、
目の下にはクマが張り付いていった。
「最近、全然集中できないんだ。……ひかりの顔を見ると、ホッとする反面、焦っちゃうんだよ」
ある冬の日の放課後、
誰もいない教室で、
悠人は頭を抱えて呟いた。
彼は私を心から愛してくれている。
だからこそ、
私と過ごす一分一秒に罪悪感を抱き、
自分の夢との間で押し潰されそうになっていた。
私の存在が、
彼の未来の邪魔になっている。
その事実に、
胸が張り裂けそうなほど痛んだ。
このまま一緒にいれば、
二人とも受験に失敗するか、
どちらかが夢を諦めることになる。
お互いが大好きだからこそ、
もう一緒にいてはいけないのだと悟った。
私は、
悠人に夢を掴んでもらうために、
冷酷な嘘つきになることを決めた。
ポケットの中で拳をぎゅっと握りしめ、
わざと冷たい声を出す。
「……じゃあ、もう終わりにしよ。私、受験前のピリピリした雰囲気に付き合うの、もう疲れたんだよね」
悠人がハッとして顔を上げた。
その瞳が、
傷つき、
激しく動揺しているのが分かる。
言い訳をされる前に、
私はカバンを掴んで立ち上がった。
これが最後。
もう二度と隣に座ることはない、
世界で一番愛しい人。
私は最後に、
彼の記憶にずっと残るような、
とびきり強がった笑顔を見せた。
「今まで楽しかったよ。バイバイ、悠人」
私は振り返らずに教室を飛び出した。
後ろから私の名前を呼ぶ悠人の声が聞こえたけれど、
足は止めなかった。
自転車置き場に駆け込み、
サドルにまたがった瞬間、
こらえていた涙が視界を遮った。
冷たい冬の風を浴びながら、
ペダルをがむしゃらに漕ぐ。
涙が頬を伝って後ろへと流れていく。
私の退屈だった毎日に、
恋をする楽しさを教えてくれた彼への、
溢れるほどの感謝。
そして、
私を置いて夢へ行ってしまう彼への、
そして最後まで物分かりの良いフリをして身を引いてしまった自分への、
やり場のない憎しみ。
その二つの感情を胸に抱いたまま、
私は夕暮れの坂道を、
一人で下っていった。
クラス替えで隣の席になった悠人が、
消しゴムを拾ってくれた。
それがすべての始まりだった。
ぶっきらぼうだけど根は優しい悠人と、
引っ込み思案な私。
正反対の二人だったけれど、
一緒に図書室で勉強したり、
放課後に部活の愚痴を言い合ったりするうちに、
自然と惹かれ合っていった。
秋になる頃には、
誰もが認めるお似合いの二人になっていた。
塾の帰り道、
冷たくなった私の手を悠人が自分のポケットに入れてくれた時、
言葉にしなくても「私たちは同じ気持ちなんだ」と分かった。
ずっとこの幸せが続くのだと信じていた。
けれど、
受験シーズンが本格化すると、
現実は残酷に尖り始めた。
私は地元の大学を目指していたけれど、
悠人は昔からの夢だった「東京の難関芸術大学」の合格ラインに届くかどうかの瀬戸際にいた。
実技試験のデッサンでスランプに陥った悠人は、
みるみる痩せて、
目の下にはクマが張り付いていった。
「最近、全然集中できないんだ。……ひかりの顔を見ると、ホッとする反面、焦っちゃうんだよ」
ある冬の日の放課後、
誰もいない教室で、
悠人は頭を抱えて呟いた。
彼は私を心から愛してくれている。
だからこそ、
私と過ごす一分一秒に罪悪感を抱き、
自分の夢との間で押し潰されそうになっていた。
私の存在が、
彼の未来の邪魔になっている。
その事実に、
胸が張り裂けそうなほど痛んだ。
このまま一緒にいれば、
二人とも受験に失敗するか、
どちらかが夢を諦めることになる。
お互いが大好きだからこそ、
もう一緒にいてはいけないのだと悟った。
私は、
悠人に夢を掴んでもらうために、
冷酷な嘘つきになることを決めた。
ポケットの中で拳をぎゅっと握りしめ、
わざと冷たい声を出す。
「……じゃあ、もう終わりにしよ。私、受験前のピリピリした雰囲気に付き合うの、もう疲れたんだよね」
悠人がハッとして顔を上げた。
その瞳が、
傷つき、
激しく動揺しているのが分かる。
言い訳をされる前に、
私はカバンを掴んで立ち上がった。
これが最後。
もう二度と隣に座ることはない、
世界で一番愛しい人。
私は最後に、
彼の記憶にずっと残るような、
とびきり強がった笑顔を見せた。
「今まで楽しかったよ。バイバイ、悠人」
私は振り返らずに教室を飛び出した。
後ろから私の名前を呼ぶ悠人の声が聞こえたけれど、
足は止めなかった。
自転車置き場に駆け込み、
サドルにまたがった瞬間、
こらえていた涙が視界を遮った。
冷たい冬の風を浴びながら、
ペダルをがむしゃらに漕ぐ。
涙が頬を伝って後ろへと流れていく。
私の退屈だった毎日に、
恋をする楽しさを教えてくれた彼への、
溢れるほどの感謝。
そして、
私を置いて夢へ行ってしまう彼への、
そして最後まで物分かりの良いフリをして身を引いてしまった自分への、
やり場のない憎しみ。
その二つの感情を胸に抱いたまま、
私は夕暮れの坂道を、
一人で下っていった。
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