「……困りましたわ。明日の会議に必要な書類を、生徒会室に忘れてしまうなんて」
時刻は午後八時。月明かりが青白く照らす夜の暁月女学院。
忘れ物を取りに戻った小夜は、昼間とは一変した校舎の静寂に、思わず身をすくませた。
ギィ、と床が鳴るたびに、小夜の肩が小さく揺れる。
「……い、いえ。これは驚いただけですわ。わたくし、生徒会役員ですもの。幽霊なんて、非科学的なものは……っ!」
「よっ! 小夜ち、こんな時間にデートの待ち合わせか?」
「ひゃ、ひゃああああっ!?」
暗闇から突然ひょっこり現れた影に、小夜は淑女らしからぬ悲鳴を上げて飛び上がった。
「あはは、ひゃああって!あははっ、私だよ私!どしたん、夜にこんなとこで」
そこには、昼間と変わらぬ屈託のない笑顔を浮かべた日向がいた。
小夜は胸を押さえ、荒い息を整えながら、すがるような目で日向を見つめる。
「ひ、日向さん……!驚かさないでくださいまし…!え、えっと、実は、書類を……」
「お安い御用だぜ! 夜の校舎は私の庭だからな。ほら、小夜ち、こっちおいで」
日向は誇らしげに胸を張り、小夜の前を歩き出す。
いつもは「アクロバティック」に動き回る日向だが、今は震える小夜の歩調に合わせて、ゆっくりと、それでいて足音一つ立てずに進んでいく。
「……日向さん。あなた、暗闇でも平気なのですか?」
「当たり前よ! 俺は夜目が利くんだぜ。前世猫だからな!……それに、小夜ちが怖くないように、私が道を照らしてやるからさ」
実際には日向が歩く先々で、なぜか「パチッ」と静電気のような火花が散り、小夜の足元を仄明るく照らしていた。
「まぁ……。日向さんの歩く道は、なんだか温かい光が差しているようですわ」
「えっ!? あ、あはは! これが秘技〈蛍火の術〉ってやつよ! 嘘じゃないぜ?」
生徒会室に辿り着き、無事に書類を手にした小夜。
帰り際、渡り廊下でふと足を止めた小夜が、日向の手のあたりを見つめて呟いた。
「……ねぇ、日向さん。わたくし、とっても安心いたしました。あなたが隣にいてくださるだけで、夜の学校がこんなに綺麗に見えるなんて」
「……小夜ち」
「……その、図々しいお願いとは存じますが。……出口まで、一緒に来てくださらない…?」
震えて目線を彷徨わせながら「お願い」する小夜に、日向は一瞬目を見開き、そして笑った。
「合点承知! 忍法・道連れの術……。怖がりな小夜お嬢様のために、拙者が出口までお供いたしやす」
「こ、怖がってなんかなくてよ!失礼ですわ!」
「おんやぁ?小夜ちゃま声が震えてまっせぇ??あ、あそこに幽霊!」
「きゃあああああ!」
静かな夜も、日向がいれば楽しくなる。小夜はそう思いながら微笑んだ。
月明かりの下、一つのシルエットがゆっくりと校門へと消えていった。
時刻は午後八時。月明かりが青白く照らす夜の暁月女学院。
忘れ物を取りに戻った小夜は、昼間とは一変した校舎の静寂に、思わず身をすくませた。
ギィ、と床が鳴るたびに、小夜の肩が小さく揺れる。
「……い、いえ。これは驚いただけですわ。わたくし、生徒会役員ですもの。幽霊なんて、非科学的なものは……っ!」
「よっ! 小夜ち、こんな時間にデートの待ち合わせか?」
「ひゃ、ひゃああああっ!?」
暗闇から突然ひょっこり現れた影に、小夜は淑女らしからぬ悲鳴を上げて飛び上がった。
「あはは、ひゃああって!あははっ、私だよ私!どしたん、夜にこんなとこで」
そこには、昼間と変わらぬ屈託のない笑顔を浮かべた日向がいた。
小夜は胸を押さえ、荒い息を整えながら、すがるような目で日向を見つめる。
「ひ、日向さん……!驚かさないでくださいまし…!え、えっと、実は、書類を……」
「お安い御用だぜ! 夜の校舎は私の庭だからな。ほら、小夜ち、こっちおいで」
日向は誇らしげに胸を張り、小夜の前を歩き出す。
いつもは「アクロバティック」に動き回る日向だが、今は震える小夜の歩調に合わせて、ゆっくりと、それでいて足音一つ立てずに進んでいく。
「……日向さん。あなた、暗闇でも平気なのですか?」
「当たり前よ! 俺は夜目が利くんだぜ。前世猫だからな!……それに、小夜ちが怖くないように、私が道を照らしてやるからさ」
実際には日向が歩く先々で、なぜか「パチッ」と静電気のような火花が散り、小夜の足元を仄明るく照らしていた。
「まぁ……。日向さんの歩く道は、なんだか温かい光が差しているようですわ」
「えっ!? あ、あはは! これが秘技〈蛍火の術〉ってやつよ! 嘘じゃないぜ?」
生徒会室に辿り着き、無事に書類を手にした小夜。
帰り際、渡り廊下でふと足を止めた小夜が、日向の手のあたりを見つめて呟いた。
「……ねぇ、日向さん。わたくし、とっても安心いたしました。あなたが隣にいてくださるだけで、夜の学校がこんなに綺麗に見えるなんて」
「……小夜ち」
「……その、図々しいお願いとは存じますが。……出口まで、一緒に来てくださらない…?」
震えて目線を彷徨わせながら「お願い」する小夜に、日向は一瞬目を見開き、そして笑った。
「合点承知! 忍法・道連れの術……。怖がりな小夜お嬢様のために、拙者が出口までお供いたしやす」
「こ、怖がってなんかなくてよ!失礼ですわ!」
「おんやぁ?小夜ちゃま声が震えてまっせぇ??あ、あそこに幽霊!」
「きゃあああああ!」
静かな夜も、日向がいれば楽しくなる。小夜はそう思いながら微笑んだ。
月明かりの下、一つのシルエットがゆっくりと校門へと消えていった。