放課後の旧校舎。夕陽が差し込む音楽室で、小夜は一台のピアノに向かっていた。
繊細な指先が鍵盤の上を踊り、静かな旋律が部屋を満たしていく。
そこへ、ふわりと開け放たれた窓から日向が舞い降りた。
「おっ、小夜ち! ピアノ弾けるのか、すっげー! お嬢様って感じ!」
「あら、日向さん。……ふふ、少し嗜む程度ですわ。忍者の修行はよろしいのですか?」
「今日はいいの〜! …小夜ちのピアノがあんまり綺麗だったから、ついつい聞き惚れちゃったぜ」
日向はピアノのすぐ隣、小夜の横顔がよく見える位置にちょこんと腰掛けた。
鍵盤の上の小夜の手を見つめながら儚く微笑む日向に、なぜか小夜の心はざわめいた。
「……そうだ!日向さんも、一緒にいかがですか? 拙い伴奏ですが、あなたが歌ってくだされば嬉しいですわ」
「えっ、私の歌!? 前の鼻歌で勘弁してよ〜、ちょー恥ずいって!」
「あら、とても素敵な声でしたよ。……わたくし、もっと聴きたいんです」
小夜が少しだけ首を傾けて、紫水晶のような瞳でじっと日向を見つめる。
その真っ直ぐな瞳に、日向は「……うぐっ」と言葉を詰まらせた。小夜の「お願い」は、どんな言葉よりも回避不能な威力がある。
「……も、もぉ〜!小夜ちマジずるい……私曲あんま知らんから、合唱曲しか歌えんから!ちょっとしか歌わんぜ?小夜ちのピアノに合わせて、な?」
小夜が優しく頷き、ゆっくりと前奏を弾き始める。
日向は小さく息を吸い込み、ピアノの音色に声を乗せた。
言葉にならない、柔らかなハミング。
小夜の奏でる「夜」のような静かで繊細な旋律と、日向の持つ「日だまり」のような歌声が、夕暮れの空気の中で溶け合っていく。
ふと、小夜が演奏を止めることなく、微笑みながら呟いた。
「……温かいですわね、日向さんの歌は」
「……そうかな?」
「ええ。まるで、ずっとここに居てくれるような、安心する温度ですわ。わたくし、今日がずっと続けばいいのに、と思ってしまいますの」
日向の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
ふらふらと急に現れて急に去る自分のことを見つめてくれる少女の言葉が、何よりも嬉しかった。
「……大丈夫だよ、小夜ち。私が〈忍法・永遠の術〉でもかけてやるからさ! ずっとずっと、小夜ちの隣で歌ってあげる。」
「まぁ、そんな術まで。……ふふ、日向さんは本当に、わたくしのヒーローですわね」
二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑い声を上げた。
黄金色の床に影一つ、窓からの夕陽が映し出す。
日向はそっと、小夜の肩に自分の肩を寄せる。
どうかこんな穏やかな時間が続きますようにと、心から願うのであった。
繊細な指先が鍵盤の上を踊り、静かな旋律が部屋を満たしていく。
そこへ、ふわりと開け放たれた窓から日向が舞い降りた。
「おっ、小夜ち! ピアノ弾けるのか、すっげー! お嬢様って感じ!」
「あら、日向さん。……ふふ、少し嗜む程度ですわ。忍者の修行はよろしいのですか?」
「今日はいいの〜! …小夜ちのピアノがあんまり綺麗だったから、ついつい聞き惚れちゃったぜ」
日向はピアノのすぐ隣、小夜の横顔がよく見える位置にちょこんと腰掛けた。
鍵盤の上の小夜の手を見つめながら儚く微笑む日向に、なぜか小夜の心はざわめいた。
「……そうだ!日向さんも、一緒にいかがですか? 拙い伴奏ですが、あなたが歌ってくだされば嬉しいですわ」
「えっ、私の歌!? 前の鼻歌で勘弁してよ〜、ちょー恥ずいって!」
「あら、とても素敵な声でしたよ。……わたくし、もっと聴きたいんです」
小夜が少しだけ首を傾けて、紫水晶のような瞳でじっと日向を見つめる。
その真っ直ぐな瞳に、日向は「……うぐっ」と言葉を詰まらせた。小夜の「お願い」は、どんな言葉よりも回避不能な威力がある。
「……も、もぉ〜!小夜ちマジずるい……私曲あんま知らんから、合唱曲しか歌えんから!ちょっとしか歌わんぜ?小夜ちのピアノに合わせて、な?」
小夜が優しく頷き、ゆっくりと前奏を弾き始める。
日向は小さく息を吸い込み、ピアノの音色に声を乗せた。
言葉にならない、柔らかなハミング。
小夜の奏でる「夜」のような静かで繊細な旋律と、日向の持つ「日だまり」のような歌声が、夕暮れの空気の中で溶け合っていく。
ふと、小夜が演奏を止めることなく、微笑みながら呟いた。
「……温かいですわね、日向さんの歌は」
「……そうかな?」
「ええ。まるで、ずっとここに居てくれるような、安心する温度ですわ。わたくし、今日がずっと続けばいいのに、と思ってしまいますの」
日向の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
ふらふらと急に現れて急に去る自分のことを見つめてくれる少女の言葉が、何よりも嬉しかった。
「……大丈夫だよ、小夜ち。私が〈忍法・永遠の術〉でもかけてやるからさ! ずっとずっと、小夜ちの隣で歌ってあげる。」
「まぁ、そんな術まで。……ふふ、日向さんは本当に、わたくしのヒーローですわね」
二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑い声を上げた。
黄金色の床に影一つ、窓からの夕陽が映し出す。
日向はそっと、小夜の肩に自分の肩を寄せる。
どうかこんな穏やかな時間が続きますようにと、心から願うのであった。