文字サイズ変更

愛の花

#3

屋上にて

昼休みのチャイムと共に、小夜は特製の重箱を持って屋上へと足を運んだ。
そこには、すでにフェンスの縁に器用に腰掛け、空を仰いでいる日向の姿があった。

「日向さん。またそんな危ないところに。……さあ、今日はお弁当を多めに作ってまいりましたの。一緒に召し上がりません?」

小夜が重箱を広げると、色鮮やかな煮物や卵焼きが顔を出す。日向は一瞬、喉を鳴らしたように見えたが、すぐにキリッとした顔で首を振った。

「……悪いな小夜ち。今日の私は、食べられないんだ」
「お加減が悪いの? 保健室へ行きましょう!」
「違うんだ! 驚かないで聞いてくれ。実は私、今……〈絶食隠密〉の修行中なんだ…!」

「ぜっしょく……おんみつ?」
小夜が首を傾げると、日向はどこか遠い目をして語り出した。

「ああ。忍者は時に、気配を消すために体の中を空っぽにする必要があるのです。数日間、太陽の光と空気中の水分……いわゆる『霞(かすみ)』だけを摂取して、魂を研ぎ澄ます……。今、私の体は羽よりも軽いんだぜ」

「……! まぁ、なんてストイックな……。日向さんは、そこまでして自分を律していらっしゃるのね」
「……ああ。だから、私の分は気にせず食べてくれ」

感銘を受けた様子の小夜は、箸を置いて真剣な表情になった。

「……分かりましたわ。ならば、わたくしも日向さんの修行にお付き合いします! 友一人が空腹に耐えている中、わたくしだけが美食に耽るなど、生徒会役員として、いいえ、一人の友人として許せません!」

「ええっ!? 小夜ちは食べなよ! 育ち盛りだよ!?」
「いいえ! わたくしも今から『霞』をいただきますわ!」

小夜はスッと背筋を伸ばし、何も持っていない箸で空気をすくい、口へ運ぶ動作を始めた。

「……ふむ。今日の空気は、少し甘みが足りないようですわね」
「小夜ちノリ良!!……じゃなくて!そ、そうかな? 私はちょっと、スパイシーな感じがするけど……」

二人は並んで、何もない空間を「美味しいですわね」「だな……」と言い合いながら、エアー食事を続けた。
通りかかった他の生徒たちが「あの人、何してるの……?」「……前衛的な演劇部かしら」とヒソヒソ噂しているが、二人の世界はどこまでもあたたかく、そして噛み合っていなかった。

「……でも日向さん。あまり無理をしてはいけませんわよ?」
「へーきへーき! 私は、こうして小夜ちと話してるだけで、お腹いっぱいになっちゃうからさ」

日向が向けた満面の笑みは、確かに空腹を忘れるほどにキラキラと輝いていた。

作者メッセージ

はぴはぴ

2026/03/16 21:06

やしろしろ
ID:≫ 6ybA8nH1Vyj8g
コメント

この小説につけられたタグ

GL百合オリジナル学生青春お嬢様系

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権はやしろしろさんに帰属します

TOP