昼休みのチャイムと共に、小夜は特製の重箱を持って屋上へと足を運んだ。
そこには、すでにフェンスの縁に器用に腰掛け、空を仰いでいる日向の姿があった。
「日向さん。またそんな危ないところに。……さあ、今日はお弁当を多めに作ってまいりましたの。一緒に召し上がりません?」
小夜が重箱を広げると、色鮮やかな煮物や卵焼きが顔を出す。日向は一瞬、喉を鳴らしたように見えたが、すぐにキリッとした顔で首を振った。
「……悪いな小夜ち。今日の私は、食べられないんだ」
「お加減が悪いの? 保健室へ行きましょう!」
「違うんだ! 驚かないで聞いてくれ。実は私、今……〈絶食隠密〉の修行中なんだ…!」
「ぜっしょく……おんみつ?」
小夜が首を傾げると、日向はどこか遠い目をして語り出した。
「ああ。忍者は時に、気配を消すために体の中を空っぽにする必要があるのです。数日間、太陽の光と空気中の水分……いわゆる『霞(かすみ)』だけを摂取して、魂を研ぎ澄ます……。今、私の体は羽よりも軽いんだぜ」
「……! まぁ、なんてストイックな……。日向さんは、そこまでして自分を律していらっしゃるのね」
「……ああ。だから、私の分は気にせず食べてくれ」
感銘を受けた様子の小夜は、箸を置いて真剣な表情になった。
「……分かりましたわ。ならば、わたくしも日向さんの修行にお付き合いします! 友一人が空腹に耐えている中、わたくしだけが美食に耽るなど、生徒会役員として、いいえ、一人の友人として許せません!」
「ええっ!? 小夜ちは食べなよ! 育ち盛りだよ!?」
「いいえ! わたくしも今から『霞』をいただきますわ!」
小夜はスッと背筋を伸ばし、何も持っていない箸で空気をすくい、口へ運ぶ動作を始めた。
「……ふむ。今日の空気は、少し甘みが足りないようですわね」
「小夜ちノリ良!!……じゃなくて!そ、そうかな? 私はちょっと、スパイシーな感じがするけど……」
二人は並んで、何もない空間を「美味しいですわね」「だな……」と言い合いながら、エアー食事を続けた。
通りかかった他の生徒たちが「あの人、何してるの……?」「……前衛的な演劇部かしら」とヒソヒソ噂しているが、二人の世界はどこまでもあたたかく、そして噛み合っていなかった。
「……でも日向さん。あまり無理をしてはいけませんわよ?」
「へーきへーき! 私は、こうして小夜ちと話してるだけで、お腹いっぱいになっちゃうからさ」
日向が向けた満面の笑みは、確かに空腹を忘れるほどにキラキラと輝いていた。
そこには、すでにフェンスの縁に器用に腰掛け、空を仰いでいる日向の姿があった。
「日向さん。またそんな危ないところに。……さあ、今日はお弁当を多めに作ってまいりましたの。一緒に召し上がりません?」
小夜が重箱を広げると、色鮮やかな煮物や卵焼きが顔を出す。日向は一瞬、喉を鳴らしたように見えたが、すぐにキリッとした顔で首を振った。
「……悪いな小夜ち。今日の私は、食べられないんだ」
「お加減が悪いの? 保健室へ行きましょう!」
「違うんだ! 驚かないで聞いてくれ。実は私、今……〈絶食隠密〉の修行中なんだ…!」
「ぜっしょく……おんみつ?」
小夜が首を傾げると、日向はどこか遠い目をして語り出した。
「ああ。忍者は時に、気配を消すために体の中を空っぽにする必要があるのです。数日間、太陽の光と空気中の水分……いわゆる『霞(かすみ)』だけを摂取して、魂を研ぎ澄ます……。今、私の体は羽よりも軽いんだぜ」
「……! まぁ、なんてストイックな……。日向さんは、そこまでして自分を律していらっしゃるのね」
「……ああ。だから、私の分は気にせず食べてくれ」
感銘を受けた様子の小夜は、箸を置いて真剣な表情になった。
「……分かりましたわ。ならば、わたくしも日向さんの修行にお付き合いします! 友一人が空腹に耐えている中、わたくしだけが美食に耽るなど、生徒会役員として、いいえ、一人の友人として許せません!」
「ええっ!? 小夜ちは食べなよ! 育ち盛りだよ!?」
「いいえ! わたくしも今から『霞』をいただきますわ!」
小夜はスッと背筋を伸ばし、何も持っていない箸で空気をすくい、口へ運ぶ動作を始めた。
「……ふむ。今日の空気は、少し甘みが足りないようですわね」
「小夜ちノリ良!!……じゃなくて!そ、そうかな? 私はちょっと、スパイシーな感じがするけど……」
二人は並んで、何もない空間を「美味しいですわね」「だな……」と言い合いながら、エアー食事を続けた。
通りかかった他の生徒たちが「あの人、何してるの……?」「……前衛的な演劇部かしら」とヒソヒソ噂しているが、二人の世界はどこまでもあたたかく、そして噛み合っていなかった。
「……でも日向さん。あまり無理をしてはいけませんわよ?」
「へーきへーき! 私は、こうして小夜ちと話してるだけで、お腹いっぱいになっちゃうからさ」
日向が向けた満面の笑みは、確かに空腹を忘れるほどにキラキラと輝いていた。