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狭間に生きる僕ら

#56

親子(2)

『へえ〜…ほう〜…ふうん〜?』
俺が獣神国と澄白国で見てきた、一裕と彗星の死の真相を皆に伝え終わると、桜大は俺の頭に纏わりつくように飛び回った。
『なんか、おかしくない?』
桜大は一裕の頭の上に着地した。一裕の頭頂部の髪がピンク色の光に染まる。
『楓くんは一裕のことは父親として認識してるけど、彗星のことは知らないみたいだよ』
一裕は、最後まで大事に取っておいた半熟卵を大きな口を開けて一口で食べた。

あの星では、彗星は楓を産んだ直後に息絶えた。
一裕は処刑を免れた後、岩の隙間に隠した楓を迎えに行こうとした。だけど、そこに緑の滝…獣神国への経路が現れた。一裕はそこに巻き込まれたまま。一裕は死ぬまで永遠に、獣神国の孤独の窟にいた。
…待て。
楓は、彗星にも一裕にも会ったことがないはず。
楓は、どうして一裕のことを知っているんだ。
フロストから話を聞いたのかもしれない。
でも、蓮と佳奈美さんが言うには、楓は一裕の顔を見て父親だと認識した。

つまり、楓は…一裕を見たことがある?

でも、そんな記憶…俺は見なかったぞ…?


エメラルドの前髪が扇風機の風でフワッと上がった。
俺はリビングから、蓮のノートを持ってきて机の上に置くと、表紙から1枚ずつ順番に丁寧にめくっていった。これには、今までに俺達が解き明かしてきた謎、そしてこれから解き明かさないといけない謎が記されている。
蓮はリビングから自分の筆箱を持ってくると、その中からペンを取り出して、俺が丁度見ていたページに書き加えた。

『楓は何故一裕を知っていたのか』

パチッ

ペンの蓋が気持ちよくはまった音がした。
蓮はペンを筆箱に投げ入れると、自分が書いた1行を見つめはじめた。蓮は自分の頬を右の人差し指で押さえつけている。何故なのかはよく分からないが。
「俺も気になっていたことがあって…」
ノートのページが冷房で捲れそうになるのを佳奈美さんが、箸を持っていない方の手で抑えている。
「圭吾はさ、龍獅国でメイプル第一王女様に仕えていた。本人にもその記憶はあった」
蓮はページを抑えていた佳奈美さんの手を優しく退けると、龍獅国のことを書き記したページを開いた。
「みんな、覚えてる?圭吾は間違いなくメイプル第一王女様の変わり果てた遺骸を見たから、責任を取って自決した。なのに、本人はメイプル第一王女様が亡くなったことさえ覚えていなかった」
扇風機の風でノートの端っこがペラペラと捲れる音がする。
「りこちゃんも圭吾くんも…」
佳奈美さんは噛んでいた豚肉をゴクリと飲み込んだ。
「自分達が既に亡くなっていることに気が付いていなかったから、桜大兄ちゃんに迎えに来てもらうまで、私達と一緒にいたんだよね?」

楓が一裕を知っているのは、成長してから一度一裕に会ったことがあるからだと仮定したら…何故一裕の記憶には、楓と出会った場面が無かったんだ?

圭吾には、メイプル第一王女様に仕えていた記憶はあるのに、メイプル第一王女様の死だけは記憶に無かった…。

圭吾とりこは、自分達の死さえ、覚えていなかった…。

何かが…記憶を操っている?
でもそれは…宇宙人の能力…。

俺はエメラルドの方に視線を向けた。エメラルドは麺に半熟卵の黄身を絡めて口に運んでいる途中だった。エメラルドが俺の視線に気が付いた。
「ふぁい?」
「いや…」
俺は何となく気不味くなってエメラルドから目を背けた。

時計の針は2時を指している。彗星が塾から帰ってくるまで、あと3時間。


「そういえば、エメラルド」
俺が再びエメラルドに視線を向けた時、エメラルドは昼ご飯を食べ終わって、シンクに食器を持っていく途中だった。
「お前さ、俺達だけ先に帰しただろ?アドルフとフロストの3人だけで何を話していたんだ」
エメラルドは俺達と知り合って長い。コソコソ話を好むような性格の持ち主でもないはず。エメラルドは誰よりも隠し事が嫌いなやつ。
「え?あれは、一裕が処刑から免れた後に、楓を迎えに行こうとしたはずなのにどういう経緯で獣神国に行ってしまったのかを相談するつもりだったから…」
エメラルドは今朝、俺達4人で雑木林をジョギングしていた時にも同じことを言っていた。でも、それだけだろうか。何故俺達がいたら駄目だった?俺は兎も角、サファイヤなんて誰よりも活躍出来る奴なのに。
「エメラルド、誰かに俺達を地球に帰してくれって頼まれたわけではなく?」
冷蔵庫から取り出したレモンスカッシュを一口飲むと、サファイヤがエメラルドに尋ねた。
「俺がフロストのベットの中で皆に檻の記憶を見せている時、俺は起きてたんだけど、お前もずっと起きてたよね?」
サファイヤがレモンスカッシュのペットボトルを冷蔵庫にしまった。カチャンと冷蔵庫の中で何かと何かがぶつかる音がした。
「俺が皆に檻の記憶を見せ終わった頃、フロストと一裕とウルフは完全に熟睡していたけど、エメラルドは起きてたよね?」
サファイヤはエメラルドの隣にゆっくりと腰を下ろした。
「エメラルド…正直に言って?誰を待ってたの」
エメラルドの瞳の奥が揺れた。
「いや、何も…」
「隠すな」
目を逸らそうとしたエメラルドの頭をサファイヤが掴んだ。サファイヤの鋭い水色の眼光がエメラルドの瞳を貫くようだ。エメラルドの瞳の奥が絶えず揺れ続けている。
「エメラルド…?…サファイヤ?」
蓮と佳奈美さんは、2人の只事ならぬ様子に異変を感じて戸惑い始めた。
『まあまあ』
桜大が仲介をするように、エメラルドとサファイヤの顔と顔の間に挟まった。
『言ってごらん?』
エメラルドは暫くの間、自分の目の前に浮かぶ火の玉を見つめていた。その間俺達は、息を呑んでサファイヤの様子を見守っていた。サファイヤは、エメラルドの心の奥に秘められた正体を暴かんと鋭い眼光をエメラルドに向け続けている。
「兄上とフロストにお会いして…」
どれだけ時間が経っただろうか。
エメラルドの瞳の揺れが収まった頃、エメラルドは口を開いた。
「目が変だと言われたんだ」
「目が?」
バットが火の玉を少し退けて、エメラルドの目を覗き込んだ。
「…お前…!狼だったよな…?!」
バットは目を見開いたままエメラルドの目を覗き込んでいる。バットがエメラルドの目を覗き込んだまま、俺に手招きをした。
「目がどうしたんだ」
俺はバットの隣に立ってエメラルドの目を見た。

これ…!

「ウルフ、バット?」
エメラルドの目を見たまま硬直している俺達の様子を見て、蓮もエメラルドの目を見に俺の隣にやって来た。

白目の部分が、金色とも緑ともオレンジとも言えぬ不思議な色。それを縦に切るように、真っ黒な線が1本細く走っている。

俺はバットと一緒に、龍獅国で龍隊にいた。軍旗には、龍王様と獅子王様の綺羅びやかな刺繍が施されていた。

俺は何度も何度も、その刺繍を目にした。
間違いない…。でも、いったい…なぜ…?!

蓮は間違いなくエメラルドの瞳に変化が起きていることには気付いたようだ。蓮も俺の横でエメラルドの目に視線が釘付けになっている。だが、こいつは知らない。

俺とバットだけが知っている。

「エメラルド…。お前さ」
エメラルドはコクンと静かに頷いた。
「俺の目が…ドラゴンになりかけてるらしいね」
エメラルドはフロストかアドルフに教えてもらったのか、自分の目が狼のものではないことを知っていた。
『ドラゴン?!』
佳奈美さん達が同時にエメラルドに駆け寄ってきて、俺達を押し退けてエメラルドの瞳を見た。
「ほんとだ…。でも、何で…」
佳奈美さんはエメラルドの頬を撫でた。今、自分の目の前にいるエメラルドが、エメラルドであることを確認するように。

だが、やはり俺とバットの他に気付いているやつはいない。

『あのさ、…あ』
俺とサファイヤの声が重なった。俺は自分の後ろで椅子に腰掛けていたサファイヤに振り返った。サファイヤの鋭かった眼光が、若干弱くなっている。サファイヤは、何かに戸惑っているのだ。
「…サファイヤ、先に言って良いよ」
「あ、ああ」
サファイヤの水色の瞳が困惑に揺れ動いている。
「エメラルド…お前の中から、何度も何度も『真実を、真実を』って聞こえるんだけど…それって今お前が思っていること?」
エメラルドは、はあ?と大きな口を開けて首を横に振った。
「俺が何の真実を求めるんだよ」

つまり、サファイヤがエメラルドから読み取った言葉は、エメラルドの顕在意識にはない。
「真実を、真実を」
この言葉は、エメラルドの潜在意識によるものか。あるいは…。

「サファイヤ、俺言っても良い?」
「どうぞ」

俺はエメラルドに向き直った。
エメラルドの中に、エメラルドではない何かが目覚めようとしている。エメラルドの意思に反して。まるでそれは、一裕が意思に反して吸血鬼になったのと同じように。

「お前は今、龍獅国の礎…龍王様になりかけている」

「え…?」

俺の目の前にある、エメラルドの龍の瞳が揺れ動いた。俺の横にいた蓮が、ノートに手を乗せた。
「どうする…?書く?エメラルドの瞳のこと…」

俺達はさっきまで楓に会いに行くために、生きてあの世とこの世を行き来できる方法を探っていたところだったのに。
エメラルドそのものが、俺達の謎になり始めた。

俺達が謎を追いかける度に、謎は減るどころか増えていく。謎が俺達を飲み込んでいく。

「そう言えば一裕。お前、自分で吸血鬼になること出来る?」
バットは突然、脈絡のないことを一裕に尋ねた。一裕は戸惑いながらも吸血鬼になろうと、腕や脚や顔や手、色々なところに力を加えたり叩いたりしている。一裕は後天的な吸血鬼だから、吸血鬼へのなり方が未だによく分かっていないのだろう。
「一裕、吸血鬼はこうやって…」
俺はいつも通り吸血鬼に変身しようとした。
「あれ…?」
どんなに念じても、俺の身体は一向に吸血鬼にならない。佳奈美さんや蓮たちと同じ人間のまま。
「え…?じゃあ」
俺は何だか奇妙な予感がして、コウモリに変身できるかを試してみた。
「バット…俺、出来ない」
俺は…人間のままだった。俺達は罪を背負って処刑される時、何度生まれ変わっても血を求めることになって、それで吸血鬼になったのに。
「俺もだ…ウルフ」
俺の隣に、人間姿のままのバットが呆然と立ちすくしている。

俺達までもが変わり始めている。

俺たち以外の何かが介入し始めている。

「大丈夫か…?」
峻兄さんが、俺たちの背中を優しく撫でてくれた。
『謎が2つ生まれちゃったみたいだけど…』
桜大は、峻兄さんに寄り添うように飛んでいる。ピンクの火の玉が、峻兄さんの白いシャツをピンク色に照らしている。
「分かれよう」
一裕が口を開いた。
「楓に会いに行く班と、エメラルドの瞳について調べる班」
一裕は、蓮のノートを開けると、新しいページにそれらの名簿を作り始めた。

『楓班:一裕、翠ちゃん』
『エメラルド班:エメラルド』

一裕は取り敢えず3人分だけ書き記すと、それを俺達に見せた。
「みんな、どこに入る?俺と翠ちゃんは楓の両親になる人間だから、楓班に入る。…特に、ウルフとバット。2人は、エメラルドと一緒にいたほうが良い?」
俺とバットは顔を見合わせた。俺はフロストにもアドルフにも会ったことがある。バットは獣神国や澄白国に行ったことがない。ここは、バットがエメラルド班に入るべきか?いや、前提知識を持っている俺が行くべきか?
「俺、取り敢えず楓班に入るわ」
サファイヤが表の楓班と書かれた所を指差した。
「楓の記憶を読み取る必要がある。エメラルド班でも記憶を読み取らないといけないことがあれば、悪いけど迎えに来てくれる?異世界への移動スポットのことがまだよく分からないから」
一裕が楓班に、サファイヤの名前を書き加えた。
「一緒に行こうぜ、ウルフ」
バットが力強く、表のエメラルド班と書かれた部分を指差した。
「謎には直接向き合わないと」
俺はバットと顔を見合わせて、力強く頷いた。
俺達は吸血鬼ではなくなったかもしれない。
でも、それが何だ。
俺達は、俺達だ。
俺は蓮の筆箱からペンを取って、名簿に俺達の名前を書き加えた。

『楓班:一裕、翠ちゃん、サファイヤ』
『エメラルド班:エメラルド、ウルフ、バット』

「後は、蓮達がどうするかだけd…」
「待って!何?!爪!爪!!?」
俺の真後ろにいた佳奈美さんが突然喚き始めた。
「佳奈美!!」
蓮も慌てて佳奈美さんの両手を掴んで俺とバットに見せてきた。

佳奈美さんの爪が徐々に長くなっていき、鋭く尖っていく。白かった爪は、赤と紫が混ざった色に一部変色しているところがある。

佳奈美さんが、吸血鬼になり始めている…?!
「私、どうしよう…」
佳奈美さんの瞳は、黒目の一部がワイン色に変色している。佳奈美さんの口がブルブルと震えている。震える口の中で、人間にしては鋭く尖った犬歯がチラリと見えた。

ピーンポーン!
「一裕さん!開けて!一裕さん!!」
時計の針は4時を指している。彗星の帰りは思ったよりも早かった。インターホンの向こうで、彗星は何かに怯えたように叫んでいる。
「翠ちゃん!どうした!」
一裕は、玄関に向かおうとしていた峻兄さんを押し退けて、玄関の扉を勢い良く開いた。
「翠ちゃん?…あれ?」
玄関から彗星の息切れが聞こえる。
「一裕さん…」
彗星は塾から走ってきたのだろうか。額に大量の汗をかいている。短い髪が汗で濡れてピカピカと光っている。
「一裕さん、私ね、今日ね、お手洗いに行った時に…その…あの…」
彗星は自分の足元に視線を落としてモジモジし始めた。一裕も釣られたように彗星の足元に視線を落としたが、どういう訳か、彗星の股の辺りを見ると、一裕の目がカッと開いた。
「彗星、ごめん!」
一裕はそう言うと、突然彗星に抱き着いたと思ったら、右手で彗星の股の辺りを触り始めた。
「んんっ?!」
彗星は顔を真っ赤にして、一裕の胸に顔を埋めた。
「こらこらこらこら!」
俺は、一裕の雄としての本能スイッチが入ってしまったのだと思って、一裕を彗星から引き剥がそうと一裕の腕を掴んだ。
「ある…」
一裕は彗星の股に手を触れたまま、呆然と立っていた。

え…?

彗星は女。

女が持っていないもので、男が持っているもの。

「翠ちゃん…男の身体になってるよ?」
彗星は一裕の胸に顔を頷いたまま、小刻みに何度も頷いた。

俺とバットと一裕は、吸血鬼だったのに人間になった。
佳奈美さんは、人間だったのに吸血鬼になった。
彗星は、女だったのに、男になった。

『峻、急ごう!何かが起こってる!班には分かれずに全員で楓に会いに行こう。また誰かに何かが起こるかもしれない』

桜大はそう言うと、峻兄さんのリュックサックの中に飛び込んだ。リュックサックの中で、ピンク色の火の玉が煌々と光っている。
『峻、連れてけ!』
峻兄さんは鞄の中から桜大が叫ぶやいなや、リュックサックを勢い良く片手で掴み上げた。
「今からどちらへ?」
男になってもなお、彗星の振る舞いは、元王女として相応しい上品さを保っていた。
「翠ちゃん、今から楓に会いに行くよ。峻兄さんが連れて行ってくれる。」
一裕は、自分の身体に異変が起きてしまって動揺している彗星を落ち着かせるように彗星の頭を優しく撫でた。一裕は彗星に優しい笑顔を向けている。一裕が彗星のことを、種族を越えて如何に愛しているかは一目瞭然だ。
「峻兄さん、あの世とこの世の繋ぎ目ってどこにあるんですか?」
峻兄さんはリュックサックを背中に背負って玄関で靴紐を結びながら答えた。
「京都だよ」
京都。
俺達が住んでいる県の2つ隣。
峻兄さんはまさか、日帰りで京都に行くつもりだろうか。峻兄さんは着替えも用意せずに、俺達に早く準備して出ろと促した。
「それなら私にお任せください。運転手をお呼びしますわ。高速道路を使えばすぐですもの」
彗星はそう言うと、塾の鞄からスマホを取り出して家に電話を掛けた。
「ええ…皆で小旅行に行くことになりました。勿論、部屋は佳奈美さんと一緒ですわ。一裕さんとはまだです」
彗星は電話を切ると、運転手が後半時間弱で迎えに来ると俺達に伝えた。佳奈美さんは、何とか完全には吸血鬼にならずに済んでいる。爪が長く伸びて、目の色の一部が変色している以外は。
「待って…みんな…おかしくない?」
彗星も俺達の異変に気が付いたようだ。彗星は佳奈美さんの爪と瞳、エメラルドの瞳、そして俺とバットの順番に見ていった。
「何が…起こってるの?」
『君が楓のお母さん?急ぐよ!誰かが何かに変わってしまう前に!』
峻兄さんは俺達に、各自鞄に貴重品と水分補給できる物を持って来いと言った。

「翠お嬢様、ご友人方、大変お待たせ致しました」
翠の家から、俺達が全員余裕を持って乗れるくらいに大きい車が迎えに来てくれた。
彗星は俺達を先に乗せた。
運転手さんの後ろの席に峻兄さん。
その後ろの席に、俺とバット、そして一裕。
その更に後ろに蓮、エメラルド、サファイヤ。
最後に佳奈美さんと彗星。
「目的地はどちらでございましょう」
車が発進すると、運転手さんは安全運転で田舎道を走りながら彗星に尋ねた。
「えっと…」
「六道珍皇寺でお願いします」
峻兄さんの鞄の中で、桜大はひっそりと息を潜めている。流石に火の玉が当たり前のように話し出せば、運転手さんも運転に集中できなくなる。そうなれば、俺達は本当にあの世に行きかねない。

六道珍皇寺。
俺はスマホでそのお寺を検索してみた。
修学旅行先に訪れるほど有名なお寺ではないようだが、お盆には先祖の霊をこの世に迎え入れる行事を行うらしい。
営業時間は比較的遅い時間までやってる。今から向かったとして、どうだろう。9時には着くだろうか。ギリギリ間に合うな。

「ふう〜…」
俺はスマホの画面を伏せて、窓の外を見た。
制服を着て自転車で走っている学校帰りの生徒たち。
今日の夕飯を買ったと思われる買い物袋を肩から下げて、ゆったりとした足取りで歩くお婆さん。
車と同じ方向に飛ぶカラス。
車と反対の方向に飛ぶカラス。

こいつらは何も知らない。

そして俺達にも分からない。

人智を超えた存在とされる、エメラルド、彗星、サファイヤでさえ分からない。


俺達の知らない場所で

俺達の知らない何かが

暴走し始めている。
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2025/07/19 20:16

花火
ID:≫ 6.vyqE1zzWDXY
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