俺たちは再び檻を訪れた。空は依然として真っ白で、真昼のように明るいが、宇宙全体が寝静まってしまったように思えるくらいに静かだった。真っ白に明るい真夜中なのだ、今は。檻を囲むようにして立っている大小様々な家々から、澄白国人の寝息が聞こえるような気までしてくる。辺りに人の気配は全くしない。真っ白な街の中心に、血に錆びた鉄の檻が寂しく佇んでいる。
俺たちの先頭を歩いていたフロストを通り過ぎて、サファイヤは少し背伸びをして檻の柵を掴んだ。檻に眠っている記憶を呼び起こすように、サファイヤは何度か柵を手で軽く叩くと、ゆっくりと瞼を閉じた。
俺たちはいったい、どれだけの間、サファイヤの横顔を眺めていただろうか。星も月も何もない真っ白な夜空が俺たちを包んでいた。真っ白な世界に、2つの水色の光が現れた。サファイヤが記憶を読み取って、目を開けたのだ。
「記憶、読み取れた。これで、全部が分かった。どうして一裕が生き延びたのかも。誰が一裕の身代わりになったのかも。どうしてその人が一裕の身代わりに自ら名乗って出たのかも」
サファイヤは台からピョンと飛び降りると、サファイヤの様子をじっと見守っていたフロストに近づいた。
「記憶、ここで見せますか?それとも、フロストさんの家に戻ってからにします?」
フロストは一度、自分の家がある方角に振り返った。しばらくそうして、フロストはサファイヤにクルリと向き直った。
「記憶はどうすれば見れるんだい?」
「両目を閉じてもらいます。俺が読み取った記憶を映像で見せます」
サファイヤがそういうと、フロストは自宅に戻ろうと俺たちに促した。フロストによれば、今は夜中の1時なのだそう。記憶を見ようとして目を瞑っているうちに街のど真ん中で眠る訳にはいかなかったからだ。自宅には余っている寝室が一つあるのだそうで、俺たちはそこで一晩を明かさせてもらうことにした。自宅で記憶を見れば、そのまま眠ってしまっても問題ない。
「こんなに広いベッドで寝ても良いんですか、フロストさん」
俺たちはフロストの自宅に戻って寝室に行ったのだが、そこには寝室の床を覆いつくすほどの広いベッドが置かれていた。手で触ってみると柔らかいし、上質の素材を使っていることが素人の俺でも分かる。
「ああ…いや、これは」
フロストが、暗い夜に慣れている俺たちのために、わざわざ目隠しを持ってきてくれた。フロストは目隠しを俺たちに順番に配りながら、照れ臭そうにベッドの縁の辺りを眺めた。
「留学生時代にアドルフと知り合ったって言っただろ。俺が留学期間を終えて澄白国に帰ることになった日に、アドルフが俺にくれたんだ」
なるほど、生粋の王族からのプレゼントなら、このデカさも上質さも納得だ。
「…すみません、ラルフ様。心を傷つけてしまいましたか?」
フロストはエメラルドが、獣神国では地下牢に長年閉じ込められていたことを知っているのだろうか。エメラルドの過去も顧みずに、上質なベッドを用意してしまったことを後悔しているようだ。ただ、アドルフの弟を粗末なベッドに寝かせるわけにもいくまい。
「いえいえ、フロストさん。過去は過去です。地球で私は学びました。何の魅力もないようなあぜ道でも、花は誇らしく太陽に向かって咲くのです。やがて実をなし、枯れて土となり、次の世代を育む未来を見据えて、胸を張るのです」
エメラルドは地下牢のことを全く気にかけず、柔らかい布団を掛けると目を閉じて、サファイヤに記憶を見せるように促した。俺と一裕は目隠しを付けて、枕に頭をそっと乗せた。頭が宙に浮いているかと思うほどに、枕は柔らかかった。
「じゃあ、記憶を見せるね。ついでにお休み」
「お休みなさーい」
これは…?
檻の記憶か。
窮屈な檻の中に頭から血を流した一裕が両手両足をきつく茨で縛られた状態で、苦しそうにもがき苦しんでいる。檻の外に澄白国人の姿は見えない。
『どうか楓が無事でありますように…どうかあの澄白国人が、楓を守ってくれますように…』
一裕は既にフロストに楓を託した後のようだ。
『神様、お願いします。楓を守ってください…』
一裕はそう言うと、また歯を食いしばった。真っ白な誰かが手ぶらでこちらに向かっている。一裕に罵詈雑言を浴びせに来たのだろうか。それとも、一裕の死刑執行人だろうか。一裕はその人が檻の真ん前まで来ると、覚悟を決めて目をギュッと瞑った。
『お前さ、知ってる?明日の朝に斬首されるってね』
その澄白国人は、声から判断するに、一裕と同い年くらいの男だった。奇しくも、声も一裕と似ていた。目を瞑っていれば、どっちがどっちかが全く分からないほどだ。男は檻の中の一裕の顔を舐めまわすように観察している。
『俺が代わりに死ぬから、お前、出な?』
『は?』
一裕は窮屈な檻に閉じ込められながらも、無理やり頭を動かして男の顔を見た。
こいつが、一裕の身代わり…。
『俺に明日の朝、どんな運命が待ち受けているか知ってるなら、なんで』
一裕の声が上ずっている。男は、自分の口に人差し指を当てた。
『あまり大声出すな。取引をしよう』
男はそう言うと、檻の鍵を無理やり壊して、一裕の両手両足から茨を慎重に外すと、一裕を檻の中から出して本人はその中に入った。
『お前、何してんの。バレたら…』
一裕が慌ただしく男を止めようとしながら、頭をキョロキョロと動かして、誰も見ていないかを確認している。
『俺は死ぬ。お前は逃げろ』
男は檻の扉を閉めて、鍵を直すと内側から鍵を掛けて一裕の姿になった。そして、血の付いた茨を自分の両手両足に巻き付けた。檻の中の「一裕」を、一裕が檻の外から眺めている。
『何で死ぬんだよ』
一裕は、檻の柵を叩いて男に生きるように説得し始めた。男は黙って一裕の必死な表情を眺めている。だが、一裕の説得も空しく、男はどうしても死のうとしていた。それは、男には愛する存在がいたからだ。
『弟が不治の病にかかった。でも、俺が死ねば弟は死なずに済む』
『…どういうことだよ』
男は弟の命を守るために、自分の命を投げ出そうとしているのだ。
『弟はまだ5歳なんだ。死ぬのを怖がってる。毎晩疲れて眠ってしまうまで泣き続けるんだ』
男は檻の中から、フロストの自宅とは反対の方角を眺めた。その方角に、男の家があるのだろうか。
『それで俺は白神様に弟の命を守ってくれるようにお願いをしたんだ。そうしたら、俺が代わりに死んで残りの寿命を弟にあげれば弟は死なずに済むと、夢の中に白神様が現れて仰った』
『…斬首…されるんだぞ。お前の弟はそれで喜ぶのかよ!自分の兄が自分を守るために死んだってさ!』
男は檻の中で、シイーッと言って一裕を宥めた。
『俺は地球人と交わったことが無い。家族から、俺の記憶を奪ってしまえば、家族の中で俺の死はなかったことになる』
…さっき、エメラルドたちが言っていたことだ。この男は地球人と交わったことが無い。男は、澄白国人として死ぬ。だから、記憶改竄・奪取能力は、男の死後も効果は持続する。
『忘れられるなんて…寂しくないのかよ』
『弟がいない世界で生きる方が寂しい。俺は弟が死の恐怖を味わずに楽しく暮らしているのを、死後の世界から見守っていられるだけで十分だ』
男は、星のない夜空を檻の中から見上げた。
『澄白の森へ行け。お前が捕まった場所だ。ずっとずっと奥へ行け。そうすると緑色の滝がある。そこに飛び込め。獣神国に行ける。俺が幼少期に間違って獣神国に行ったことがあるから、間違いない。獣神国の国王は、珍しく地球人に寛容だ。安心して逃げろ。行け!』
男の言葉は、馬の尻を鞭で叩いたときのように聞こえた。一裕は反射的に、森に向かって全速力で駆けていく。
『…俺一人の死で二人も助けられるなら…未練なんてないさ』
男は檻の中から、一裕の後ろ姿を最後まで見送っていた。
次の日。
「一裕」の処刑が行われた。剣や槍で全身を貫かれている。「一裕」の血が檻から地面に滴り落ちる。真っ白な地面が真っ赤に染まる。澄白国人が「一裕」に向かって、歓喜の表情を浮かべて罵詈雑言を浴びせている。
『あ…』
「一裕」が、群衆の中に5歳くらいの男児が母親に手を繋がれて、大人と一緒に「一裕」の死を見ていることに気が付いた。男児はまだ、「地球人の醜さ」を知らない。男児はまだ、「澄白国人の醜さ」を知らない。男児は、何が起きているのか分からないといった表情で檻の中の「一裕」を見ている。
『あ…あ…』
男の瞳から涙が流れた。それは、死に対する恐怖からではなかった。
『神様…弟を助けて下さって、ありがとうございました…』
澄白国人は、「一裕」を散々痛めつけた後、やっと「一裕」の首を落とした。
「一裕」は死んだ。
これが…檻に眠っていた記憶。
「一裕さん、おはよう」
彗星の声が俺の隣から聞こえてくる。
「翠ちゃん…」
俺は目隠しを外した。見慣れた天井に見慣れた壁。アパートの寝室だった。時計の針は6時を指している。俺達はいつの間に地球に戻ってきたんだ?
「一裕さん…獣神国と澄白国…どうだった?」
俺の隣に横たわっている一裕の顔を彗星が覗き込んでいる。
「翠ちゃん!」
一裕は横たわったまま彗星を自分に抱き寄せた。その様子はまるで、彗星も自分も生きていることを確認しているようだった。
「一裕さん…」
彗星は俺達が見てきた、一裕と彗星の死の真相を知ってか知らずか、隣から俺に見られていることにも構わず2人は堅く抱きしめ合っていた。
俺達はいつ地球に戻ってきたのだろうか。フロストは何処にいった?アドルフとランドルフは今、どうしてるんだ?
寝室にエメラルドとサファイヤの姿が見当たらない。俺は彗星と一裕に軽く挨拶して、2人を探しに台所に行ってみた。
「あ、おはよう」
台所では佳奈美と蓮が味噌汁と白米を朝ご飯に食べている途中だった。峻兄さんは新たなレポートの課題を終わらせるのにリビングに一人で籠もっていて、バットは鉄分補給サプリを取りに自宅に一度戻ったらしい。
「エメラルドとサファイヤは?」
俺は木製の御椀に味噌汁を入れて、冷蔵庫からプチヨーグルトを取り出して机に置いた。
「サファイヤなら畳の部屋で涼んでるけど、エメラルドは知らないな~。寝室にいなかったの?」
リビングにも寝室にも畳の部屋にもいない?あいつ、何処に行ったんだ?
俺は朝ご飯を食べる前に、ひとまず畳の部屋に向かった。
「あ、ウルフ。起きたんだ」
サファイヤは珍しく魚姿ではなく、人間姿で畳に横たわって、左手に持った団扇で顔を仰いでいる。
「サファイヤ、エメラルド知らないか?」
台所の方から、朝ご飯は食べないのかと蓮が声を掛けてくる。
「エメラルドなら、フロストとアドルフの3人だけで話したいことがあるから先に帰ってきてくれって頼まれたんだ。お昼前には帰ってくるんじゃない?」
団扇のパタパタと扇ぐ音が、風鈴の涼しい音と若干ズレて聞こえる。
「お前、朝ご飯はもう食べたのか?」
サファイヤは今朝、誰よりも早く起きてしまって、朝ご飯を食べ終えても誰も起きてこなかったから暇で死にそうだったらしい。台所から味噌汁の香りが漂ってきて、俺の鼻を撫でていく。正直、檻の記憶に関して気になることはまだ少し残っているんだが、俺は朝ご飯を食べに台所に向かった。
「おい、ウルフ」
一裕は彗星と並んで、俺の横で朝ご飯を食べていたが、先に食べ終わった彗星が歯を磨きに洗面所に行っている間に、一裕が俺に耳打ちしてきた。
「彗星が死の真相を知りたがってるんだけど、言ったほうが良いかな…?」
彗星は今回でさえ、地球人を愛したことで澄白国からは無かったことにされた。それだけで彗星にとっては辛いことの筈だ。ましてや、楓を産んだ彗星が、自分が王族や国民の記憶を操作して妊娠を誤魔化したり、自分の死後には「一裕に強姦されて亡くなった」などという不名誉な嘘を公式に発表されたりしたなどと知れば、どれだけ傷付くだろうか。それに、自分の家族が喜んで一裕を殺そうとしたと知れば、どれだけ憤るだろうか。自分の愛した一裕が、名前も知らない一人の澄白国人が身代わりになってくれたおかげで死なずに獣神国まで逃げたと知れば、愛した人が死なずに済んだ喜びと、本来王族の一員として守るべきだった国民を一人殺してしまった罪悪感に板挟みになって苦しむに違いない。
「一裕…彗星は…楓を産んでそのまま失血死で亡くなったとだけ伝えろ。それ以外は…やめておけ」
彗星が歯磨きを終えて、台所に戻ってきた。一裕は彗星に気付かれないように、俺に小さく頷いた。
「一裕さんってば、教えて?もう一人の私がどうやって死んだのか。私、怖くないから。私達の息子の楓についても知ってるんじゃないの?」
一裕は彗星に身体を揺さぶられても、固く口を閉ざしたままだ。
「ウルフさん、如何だったの?」
そう来たか。俺はてっきり、一裕の胸に抱かれながら教えてもらうのかと思っていたが、俺に聞くという手に出たか。
「ええと、彗星はね、楓を産んだ後に亡くなったんだ。失血死で」
「あら…一裕さんは?一裕さんは…どうやって亡くなってしまったの?」
一裕の右眉がピクリと動いた。
『自分の保身のために嘘を付くな。だが時には嘘をつけ。嘘は時に、人を助けるから』
俺の心の中に親父の言葉が浮かんだ。俺は、一裕の死の真相を伏せるべきか?正直に話すべきか?でもそうすれば、彗星は、自分が一裕を愛したばかりにと自分を責めるに違いない。それならばいっそ…
「か、一裕はさ、ほら、彗星を溺愛しているから、自分の目の前で亡くなられたショックでそのまま心臓が止まったんだ。な?」
「あ、ああ!」
サファイヤが畳の部屋から叫んだ。
「楓ならね、澄白国人でアドルフの友達だったっていう人が、偶々森でお包みに包まれた楓を見つけて保護したんだってさ」
サファイヤも、事実に少しの嘘を加えた。
「そうなんだ…私、その人に頭が上がらないわ…キャ?!」
一裕が彗星を抱き寄せた。一裕は何処か遠い所を見つめるような眼差しを、彗星の背中に向けている。
「俺は翠ちゃんを好きになって良かったと思う。俺は今度こそ、翠ちゃんと楓の3人で幸せな家庭を築きたい…翠ちゃんは、俺のこと、好きになって後悔してない?」
「まさか」
彗星は一裕の首に腕を回した。
「私は今すぐにでも一裕さんと結婚したいくらいの気持ちよ。でも、私達はまだ高校生。大学生になって、社会に出てからの経験も、親になるには必要。だから私、一生懸命にその準備をしているところですわ」
俺は今までこの2人を、常にいちゃついているだけのバカップルかと思っていた。でも、それは違うんだ。今とは別の世界で、関係者でない俺でさえ胸が張り裂けそうな辛い運命を辿ったから、今度こそは幸せになりたいと無意識に思っているのだろう。どうか、遠慮なく、今後もイチャイチャしたまえ。
「うわ、間違えた!」
畳の部屋からエメラルドの叫び声がした。
「エメラルド、何でお前は水槽に足を突っ込んでいるんだ」
サファイヤが冷静にツッコミを入れた。いったいどういう状況だ。
俺は畳の部屋に向かった。
「エメラルド…おかえり?」
エメラルドは人間姿で水槽に両足を突っ込んで立っている。頭が天井にぶつかったのか、頭を擦っている。
「お前、何やってんだ」
「移動スポットの位置調節が狂ってしまって…」
「それで水槽に入ったと」
「…はい」
エメラルドが赤面して答えた。俺はエメラルドが足を抜けるようにタオルを取りに洗面所に向かった。
「フロストたちと何の話をしてたんだ?」
エメラルドは畳を濡らさないように、床にタオルを敷くとその上に足を置いて拭き始めた。
「記憶で気になることがあって…記憶は身代わりの人が処刑された時点で終わっただろ?あの後、一裕が緑の滝を通って獣神国に行ったことは間違いないだろうけど、楓のことも心配だったはずだから、自分一人だけ獣神国に逃げるなんてことするかなって思って」
後ろから誰かが近づいてくる足音がする。彗星だ。彗星に記憶の真実を伝えるわけにはいかない。俺はエメラルドの口を塞いで黙らせた。
「ラルフ、蓮と佳奈美さんが朝食を用意して下さってるわ」
「ああ、頂く」
エメラルドはどうして俺に黙らせられたのかが分かったのか、それ以降、彗星の近くでは記憶について話さなかった。
「蓮、佳奈美さん、俺達少しジョギングに行ってくる」
一裕は着替え終わると、水筒に氷水を入れてキャップを被り、玄関に向かった。
「サファイヤとウルフとエメラルドも来いよ」
俺は一裕が、彗星のいないところで何を話したいのかが直感的に分かった。
「暑いから気を付けてね、冷製スープを作って待ってるから」
「一裕さん、ちゃんとこまめに水分補給なさってね」
彗星と佳奈美さんはそう言って俺達4人を送り出した。
「俺さ、気になることがあるんだ」
雑木林まで辿り着くと、一裕が口を開いた。木が影を作ってくれているおかげで、蒸し暑いが太陽の光が直接当たらない。木々の緑。花々の黄色やピンク。空の青。ああ、地球は色鮮やかだ。
「俺、身代わりの人に逃がしてもらった後、真っ直ぐ獣神国に逃げたわけがないと思う。父親として、何よりも先に息子の無事を確認したいはず。楓を岩の隙間に隠したのなら、緑の滝に行く前にそこに行ったはず…でも、記憶が途切れていたから…」
一裕はエメラルドと全く同じことに引っ掛かっていた。かく言う俺も同じだ。
「それなら俺が今朝、兄上とフロストさんに相談したんだ。答えは一裕、お前が地球人だったからだ」
一裕が地球人だったから?
「緑の滝っていうのは、所謂異世界への移動スポットだ。でも、一裕はその扱い方に慣れていない。一裕は移動スポットに巻き込まれたんだ」
でも、それだと一裕が楓のところよりも先に緑の滝へ向かったことになるぞ。
「ポイントは、緑の滝がずっとそこにあるわけではないということ。決まった時間にそこに現れるんだ。でも一裕はそれを知らなかった。…一裕、何で森の中にボコボコと岩があると思う。不自然だとは思わない?森の中に岩があると言えば…何処だと思う」
エメラルドはそこまで言うと、歩き出して一裕を見た。
「上流とか…」
一裕は息を呑んだ。
「俺は…異世界への移動スポットが現れる場所に楓を隠したってこと?」
エメラルドが頷いた。
「でも、一裕とフロストさんは入れ替わりになった。だからどちらにせよ、一裕が岩の所に行った頃には、楓は無事に保護された後だったんだよ」
俺達の真上を飛行機が、飛行機雲を描いていった。
俺たちの先頭を歩いていたフロストを通り過ぎて、サファイヤは少し背伸びをして檻の柵を掴んだ。檻に眠っている記憶を呼び起こすように、サファイヤは何度か柵を手で軽く叩くと、ゆっくりと瞼を閉じた。
俺たちはいったい、どれだけの間、サファイヤの横顔を眺めていただろうか。星も月も何もない真っ白な夜空が俺たちを包んでいた。真っ白な世界に、2つの水色の光が現れた。サファイヤが記憶を読み取って、目を開けたのだ。
「記憶、読み取れた。これで、全部が分かった。どうして一裕が生き延びたのかも。誰が一裕の身代わりになったのかも。どうしてその人が一裕の身代わりに自ら名乗って出たのかも」
サファイヤは台からピョンと飛び降りると、サファイヤの様子をじっと見守っていたフロストに近づいた。
「記憶、ここで見せますか?それとも、フロストさんの家に戻ってからにします?」
フロストは一度、自分の家がある方角に振り返った。しばらくそうして、フロストはサファイヤにクルリと向き直った。
「記憶はどうすれば見れるんだい?」
「両目を閉じてもらいます。俺が読み取った記憶を映像で見せます」
サファイヤがそういうと、フロストは自宅に戻ろうと俺たちに促した。フロストによれば、今は夜中の1時なのだそう。記憶を見ようとして目を瞑っているうちに街のど真ん中で眠る訳にはいかなかったからだ。自宅には余っている寝室が一つあるのだそうで、俺たちはそこで一晩を明かさせてもらうことにした。自宅で記憶を見れば、そのまま眠ってしまっても問題ない。
「こんなに広いベッドで寝ても良いんですか、フロストさん」
俺たちはフロストの自宅に戻って寝室に行ったのだが、そこには寝室の床を覆いつくすほどの広いベッドが置かれていた。手で触ってみると柔らかいし、上質の素材を使っていることが素人の俺でも分かる。
「ああ…いや、これは」
フロストが、暗い夜に慣れている俺たちのために、わざわざ目隠しを持ってきてくれた。フロストは目隠しを俺たちに順番に配りながら、照れ臭そうにベッドの縁の辺りを眺めた。
「留学生時代にアドルフと知り合ったって言っただろ。俺が留学期間を終えて澄白国に帰ることになった日に、アドルフが俺にくれたんだ」
なるほど、生粋の王族からのプレゼントなら、このデカさも上質さも納得だ。
「…すみません、ラルフ様。心を傷つけてしまいましたか?」
フロストはエメラルドが、獣神国では地下牢に長年閉じ込められていたことを知っているのだろうか。エメラルドの過去も顧みずに、上質なベッドを用意してしまったことを後悔しているようだ。ただ、アドルフの弟を粗末なベッドに寝かせるわけにもいくまい。
「いえいえ、フロストさん。過去は過去です。地球で私は学びました。何の魅力もないようなあぜ道でも、花は誇らしく太陽に向かって咲くのです。やがて実をなし、枯れて土となり、次の世代を育む未来を見据えて、胸を張るのです」
エメラルドは地下牢のことを全く気にかけず、柔らかい布団を掛けると目を閉じて、サファイヤに記憶を見せるように促した。俺と一裕は目隠しを付けて、枕に頭をそっと乗せた。頭が宙に浮いているかと思うほどに、枕は柔らかかった。
「じゃあ、記憶を見せるね。ついでにお休み」
「お休みなさーい」
これは…?
檻の記憶か。
窮屈な檻の中に頭から血を流した一裕が両手両足をきつく茨で縛られた状態で、苦しそうにもがき苦しんでいる。檻の外に澄白国人の姿は見えない。
『どうか楓が無事でありますように…どうかあの澄白国人が、楓を守ってくれますように…』
一裕は既にフロストに楓を託した後のようだ。
『神様、お願いします。楓を守ってください…』
一裕はそう言うと、また歯を食いしばった。真っ白な誰かが手ぶらでこちらに向かっている。一裕に罵詈雑言を浴びせに来たのだろうか。それとも、一裕の死刑執行人だろうか。一裕はその人が檻の真ん前まで来ると、覚悟を決めて目をギュッと瞑った。
『お前さ、知ってる?明日の朝に斬首されるってね』
その澄白国人は、声から判断するに、一裕と同い年くらいの男だった。奇しくも、声も一裕と似ていた。目を瞑っていれば、どっちがどっちかが全く分からないほどだ。男は檻の中の一裕の顔を舐めまわすように観察している。
『俺が代わりに死ぬから、お前、出な?』
『は?』
一裕は窮屈な檻に閉じ込められながらも、無理やり頭を動かして男の顔を見た。
こいつが、一裕の身代わり…。
『俺に明日の朝、どんな運命が待ち受けているか知ってるなら、なんで』
一裕の声が上ずっている。男は、自分の口に人差し指を当てた。
『あまり大声出すな。取引をしよう』
男はそう言うと、檻の鍵を無理やり壊して、一裕の両手両足から茨を慎重に外すと、一裕を檻の中から出して本人はその中に入った。
『お前、何してんの。バレたら…』
一裕が慌ただしく男を止めようとしながら、頭をキョロキョロと動かして、誰も見ていないかを確認している。
『俺は死ぬ。お前は逃げろ』
男は檻の扉を閉めて、鍵を直すと内側から鍵を掛けて一裕の姿になった。そして、血の付いた茨を自分の両手両足に巻き付けた。檻の中の「一裕」を、一裕が檻の外から眺めている。
『何で死ぬんだよ』
一裕は、檻の柵を叩いて男に生きるように説得し始めた。男は黙って一裕の必死な表情を眺めている。だが、一裕の説得も空しく、男はどうしても死のうとしていた。それは、男には愛する存在がいたからだ。
『弟が不治の病にかかった。でも、俺が死ねば弟は死なずに済む』
『…どういうことだよ』
男は弟の命を守るために、自分の命を投げ出そうとしているのだ。
『弟はまだ5歳なんだ。死ぬのを怖がってる。毎晩疲れて眠ってしまうまで泣き続けるんだ』
男は檻の中から、フロストの自宅とは反対の方角を眺めた。その方角に、男の家があるのだろうか。
『それで俺は白神様に弟の命を守ってくれるようにお願いをしたんだ。そうしたら、俺が代わりに死んで残りの寿命を弟にあげれば弟は死なずに済むと、夢の中に白神様が現れて仰った』
『…斬首…されるんだぞ。お前の弟はそれで喜ぶのかよ!自分の兄が自分を守るために死んだってさ!』
男は檻の中で、シイーッと言って一裕を宥めた。
『俺は地球人と交わったことが無い。家族から、俺の記憶を奪ってしまえば、家族の中で俺の死はなかったことになる』
…さっき、エメラルドたちが言っていたことだ。この男は地球人と交わったことが無い。男は、澄白国人として死ぬ。だから、記憶改竄・奪取能力は、男の死後も効果は持続する。
『忘れられるなんて…寂しくないのかよ』
『弟がいない世界で生きる方が寂しい。俺は弟が死の恐怖を味わずに楽しく暮らしているのを、死後の世界から見守っていられるだけで十分だ』
男は、星のない夜空を檻の中から見上げた。
『澄白の森へ行け。お前が捕まった場所だ。ずっとずっと奥へ行け。そうすると緑色の滝がある。そこに飛び込め。獣神国に行ける。俺が幼少期に間違って獣神国に行ったことがあるから、間違いない。獣神国の国王は、珍しく地球人に寛容だ。安心して逃げろ。行け!』
男の言葉は、馬の尻を鞭で叩いたときのように聞こえた。一裕は反射的に、森に向かって全速力で駆けていく。
『…俺一人の死で二人も助けられるなら…未練なんてないさ』
男は檻の中から、一裕の後ろ姿を最後まで見送っていた。
次の日。
「一裕」の処刑が行われた。剣や槍で全身を貫かれている。「一裕」の血が檻から地面に滴り落ちる。真っ白な地面が真っ赤に染まる。澄白国人が「一裕」に向かって、歓喜の表情を浮かべて罵詈雑言を浴びせている。
『あ…』
「一裕」が、群衆の中に5歳くらいの男児が母親に手を繋がれて、大人と一緒に「一裕」の死を見ていることに気が付いた。男児はまだ、「地球人の醜さ」を知らない。男児はまだ、「澄白国人の醜さ」を知らない。男児は、何が起きているのか分からないといった表情で檻の中の「一裕」を見ている。
『あ…あ…』
男の瞳から涙が流れた。それは、死に対する恐怖からではなかった。
『神様…弟を助けて下さって、ありがとうございました…』
澄白国人は、「一裕」を散々痛めつけた後、やっと「一裕」の首を落とした。
「一裕」は死んだ。
これが…檻に眠っていた記憶。
「一裕さん、おはよう」
彗星の声が俺の隣から聞こえてくる。
「翠ちゃん…」
俺は目隠しを外した。見慣れた天井に見慣れた壁。アパートの寝室だった。時計の針は6時を指している。俺達はいつの間に地球に戻ってきたんだ?
「一裕さん…獣神国と澄白国…どうだった?」
俺の隣に横たわっている一裕の顔を彗星が覗き込んでいる。
「翠ちゃん!」
一裕は横たわったまま彗星を自分に抱き寄せた。その様子はまるで、彗星も自分も生きていることを確認しているようだった。
「一裕さん…」
彗星は俺達が見てきた、一裕と彗星の死の真相を知ってか知らずか、隣から俺に見られていることにも構わず2人は堅く抱きしめ合っていた。
俺達はいつ地球に戻ってきたのだろうか。フロストは何処にいった?アドルフとランドルフは今、どうしてるんだ?
寝室にエメラルドとサファイヤの姿が見当たらない。俺は彗星と一裕に軽く挨拶して、2人を探しに台所に行ってみた。
「あ、おはよう」
台所では佳奈美と蓮が味噌汁と白米を朝ご飯に食べている途中だった。峻兄さんは新たなレポートの課題を終わらせるのにリビングに一人で籠もっていて、バットは鉄分補給サプリを取りに自宅に一度戻ったらしい。
「エメラルドとサファイヤは?」
俺は木製の御椀に味噌汁を入れて、冷蔵庫からプチヨーグルトを取り出して机に置いた。
「サファイヤなら畳の部屋で涼んでるけど、エメラルドは知らないな~。寝室にいなかったの?」
リビングにも寝室にも畳の部屋にもいない?あいつ、何処に行ったんだ?
俺は朝ご飯を食べる前に、ひとまず畳の部屋に向かった。
「あ、ウルフ。起きたんだ」
サファイヤは珍しく魚姿ではなく、人間姿で畳に横たわって、左手に持った団扇で顔を仰いでいる。
「サファイヤ、エメラルド知らないか?」
台所の方から、朝ご飯は食べないのかと蓮が声を掛けてくる。
「エメラルドなら、フロストとアドルフの3人だけで話したいことがあるから先に帰ってきてくれって頼まれたんだ。お昼前には帰ってくるんじゃない?」
団扇のパタパタと扇ぐ音が、風鈴の涼しい音と若干ズレて聞こえる。
「お前、朝ご飯はもう食べたのか?」
サファイヤは今朝、誰よりも早く起きてしまって、朝ご飯を食べ終えても誰も起きてこなかったから暇で死にそうだったらしい。台所から味噌汁の香りが漂ってきて、俺の鼻を撫でていく。正直、檻の記憶に関して気になることはまだ少し残っているんだが、俺は朝ご飯を食べに台所に向かった。
「おい、ウルフ」
一裕は彗星と並んで、俺の横で朝ご飯を食べていたが、先に食べ終わった彗星が歯を磨きに洗面所に行っている間に、一裕が俺に耳打ちしてきた。
「彗星が死の真相を知りたがってるんだけど、言ったほうが良いかな…?」
彗星は今回でさえ、地球人を愛したことで澄白国からは無かったことにされた。それだけで彗星にとっては辛いことの筈だ。ましてや、楓を産んだ彗星が、自分が王族や国民の記憶を操作して妊娠を誤魔化したり、自分の死後には「一裕に強姦されて亡くなった」などという不名誉な嘘を公式に発表されたりしたなどと知れば、どれだけ傷付くだろうか。それに、自分の家族が喜んで一裕を殺そうとしたと知れば、どれだけ憤るだろうか。自分の愛した一裕が、名前も知らない一人の澄白国人が身代わりになってくれたおかげで死なずに獣神国まで逃げたと知れば、愛した人が死なずに済んだ喜びと、本来王族の一員として守るべきだった国民を一人殺してしまった罪悪感に板挟みになって苦しむに違いない。
「一裕…彗星は…楓を産んでそのまま失血死で亡くなったとだけ伝えろ。それ以外は…やめておけ」
彗星が歯磨きを終えて、台所に戻ってきた。一裕は彗星に気付かれないように、俺に小さく頷いた。
「一裕さんってば、教えて?もう一人の私がどうやって死んだのか。私、怖くないから。私達の息子の楓についても知ってるんじゃないの?」
一裕は彗星に身体を揺さぶられても、固く口を閉ざしたままだ。
「ウルフさん、如何だったの?」
そう来たか。俺はてっきり、一裕の胸に抱かれながら教えてもらうのかと思っていたが、俺に聞くという手に出たか。
「ええと、彗星はね、楓を産んだ後に亡くなったんだ。失血死で」
「あら…一裕さんは?一裕さんは…どうやって亡くなってしまったの?」
一裕の右眉がピクリと動いた。
『自分の保身のために嘘を付くな。だが時には嘘をつけ。嘘は時に、人を助けるから』
俺の心の中に親父の言葉が浮かんだ。俺は、一裕の死の真相を伏せるべきか?正直に話すべきか?でもそうすれば、彗星は、自分が一裕を愛したばかりにと自分を責めるに違いない。それならばいっそ…
「か、一裕はさ、ほら、彗星を溺愛しているから、自分の目の前で亡くなられたショックでそのまま心臓が止まったんだ。な?」
「あ、ああ!」
サファイヤが畳の部屋から叫んだ。
「楓ならね、澄白国人でアドルフの友達だったっていう人が、偶々森でお包みに包まれた楓を見つけて保護したんだってさ」
サファイヤも、事実に少しの嘘を加えた。
「そうなんだ…私、その人に頭が上がらないわ…キャ?!」
一裕が彗星を抱き寄せた。一裕は何処か遠い所を見つめるような眼差しを、彗星の背中に向けている。
「俺は翠ちゃんを好きになって良かったと思う。俺は今度こそ、翠ちゃんと楓の3人で幸せな家庭を築きたい…翠ちゃんは、俺のこと、好きになって後悔してない?」
「まさか」
彗星は一裕の首に腕を回した。
「私は今すぐにでも一裕さんと結婚したいくらいの気持ちよ。でも、私達はまだ高校生。大学生になって、社会に出てからの経験も、親になるには必要。だから私、一生懸命にその準備をしているところですわ」
俺は今までこの2人を、常にいちゃついているだけのバカップルかと思っていた。でも、それは違うんだ。今とは別の世界で、関係者でない俺でさえ胸が張り裂けそうな辛い運命を辿ったから、今度こそは幸せになりたいと無意識に思っているのだろう。どうか、遠慮なく、今後もイチャイチャしたまえ。
「うわ、間違えた!」
畳の部屋からエメラルドの叫び声がした。
「エメラルド、何でお前は水槽に足を突っ込んでいるんだ」
サファイヤが冷静にツッコミを入れた。いったいどういう状況だ。
俺は畳の部屋に向かった。
「エメラルド…おかえり?」
エメラルドは人間姿で水槽に両足を突っ込んで立っている。頭が天井にぶつかったのか、頭を擦っている。
「お前、何やってんだ」
「移動スポットの位置調節が狂ってしまって…」
「それで水槽に入ったと」
「…はい」
エメラルドが赤面して答えた。俺はエメラルドが足を抜けるようにタオルを取りに洗面所に向かった。
「フロストたちと何の話をしてたんだ?」
エメラルドは畳を濡らさないように、床にタオルを敷くとその上に足を置いて拭き始めた。
「記憶で気になることがあって…記憶は身代わりの人が処刑された時点で終わっただろ?あの後、一裕が緑の滝を通って獣神国に行ったことは間違いないだろうけど、楓のことも心配だったはずだから、自分一人だけ獣神国に逃げるなんてことするかなって思って」
後ろから誰かが近づいてくる足音がする。彗星だ。彗星に記憶の真実を伝えるわけにはいかない。俺はエメラルドの口を塞いで黙らせた。
「ラルフ、蓮と佳奈美さんが朝食を用意して下さってるわ」
「ああ、頂く」
エメラルドはどうして俺に黙らせられたのかが分かったのか、それ以降、彗星の近くでは記憶について話さなかった。
「蓮、佳奈美さん、俺達少しジョギングに行ってくる」
一裕は着替え終わると、水筒に氷水を入れてキャップを被り、玄関に向かった。
「サファイヤとウルフとエメラルドも来いよ」
俺は一裕が、彗星のいないところで何を話したいのかが直感的に分かった。
「暑いから気を付けてね、冷製スープを作って待ってるから」
「一裕さん、ちゃんとこまめに水分補給なさってね」
彗星と佳奈美さんはそう言って俺達4人を送り出した。
「俺さ、気になることがあるんだ」
雑木林まで辿り着くと、一裕が口を開いた。木が影を作ってくれているおかげで、蒸し暑いが太陽の光が直接当たらない。木々の緑。花々の黄色やピンク。空の青。ああ、地球は色鮮やかだ。
「俺、身代わりの人に逃がしてもらった後、真っ直ぐ獣神国に逃げたわけがないと思う。父親として、何よりも先に息子の無事を確認したいはず。楓を岩の隙間に隠したのなら、緑の滝に行く前にそこに行ったはず…でも、記憶が途切れていたから…」
一裕はエメラルドと全く同じことに引っ掛かっていた。かく言う俺も同じだ。
「それなら俺が今朝、兄上とフロストさんに相談したんだ。答えは一裕、お前が地球人だったからだ」
一裕が地球人だったから?
「緑の滝っていうのは、所謂異世界への移動スポットだ。でも、一裕はその扱い方に慣れていない。一裕は移動スポットに巻き込まれたんだ」
でも、それだと一裕が楓のところよりも先に緑の滝へ向かったことになるぞ。
「ポイントは、緑の滝がずっとそこにあるわけではないということ。決まった時間にそこに現れるんだ。でも一裕はそれを知らなかった。…一裕、何で森の中にボコボコと岩があると思う。不自然だとは思わない?森の中に岩があると言えば…何処だと思う」
エメラルドはそこまで言うと、歩き出して一裕を見た。
「上流とか…」
一裕は息を呑んだ。
「俺は…異世界への移動スポットが現れる場所に楓を隠したってこと?」
エメラルドが頷いた。
「でも、一裕とフロストさんは入れ替わりになった。だからどちらにせよ、一裕が岩の所に行った頃には、楓は無事に保護された後だったんだよ」
俺達の真上を飛行機が、飛行機雲を描いていった。
- 1.開始せよ(1)
- 2.開始せよ(2)
- 3.開始せよ(3)
- 4.扉(1)
- 5.扉(2)
- 6.灰色(1)
- 7.灰色(2)
- 8.灰色(3)
- 9.混血(1)
- 10.混血(2)
- 11.混血(3)
- 12.いのち(1)
- 13.いのち(2)
- 14.仮面(1)
- 15.仮面(2)
- 16.仮面(3)
- 17.思い出せ(1)
- 18.思い出せ(2)
- 19.楓(1)
- 20.楓(2)
- 21.兄の過去(1)
- 22.兄の過去(2)
- 23.伝えられなかった「すき」 エピソード1
- 24.海の少年(1)
- 25.海の少年(2)
- 26.伝えられなかった「すき」 エピソード 2
- 27.王国の真実(1)
- 28.王国の真実(2)
- 29.王国の真実(3)
- 30.王国の真実(4)
- 31.王国の真実(5)
- 32.桜
- 33.眠った記憶(1)
- 34.眠った記憶(2)
- 35.眠った記憶(3)
- 36.眠った記憶(4)
- 37.眠った記憶(5)
- 38.記憶よ、目覚めよ(1)
- 39.記憶よ、目覚めよ(2)
- 40.記憶よ、目覚めよ(3)
- 41.休憩タイム(1)
- 42.休憩タイム(2)
- 43.休憩タイム(3)
- 44.伝えられた「すき」
- 45.謎解きゲーム(1)
- 46.謎解きゲーム(2)
- 47.隠された宇宙(1)
- 48.隠された宇宙(2)
- 49.隠された宇宙(3)
- 50.隠された宇宙(4)
- 51.死者の想い(1)
- 52.死者の想い(2)
- 53.死者の想い(3)
- 54.死者の想い(4)
- 55.親子(1)
- 56.親子(2)
- 57.親子(3)
- 58.親子(4)
- 59.親子(5)
- 60.こどもたち(1)
- 61.こどもたち(2)
- 62.ほこり(1)
- 63.ほこり(2)
- 64.食う(1)
- 65.食う(2)
- 66.食う(3)
- 67.本当の自分(1)
- 68.本当の自分(2)
- 69.本当の自分(3)
- 70.宿題との戦いの末、2人の高校生男子「死す」
- 71.別れ(1)
- 72.別れ(2)
- 73.喧騒に紛れて
- 74.仮面を脱げ
- 75.名前は
- 76.虚構と真実
- 77.ヨミガエル
- 78.迷宮
- 79.橋を渡る、境目を越える
- 80.罪人の証
- 81.真実との対峙
- 82.扉を開ける前に
- 83.浜辺の宵
- 84.目隠し
- 85.鏡の中
- 86.夜明け
- 87.誕生日
- 88.真実の足枷
- 89.覚悟の時
- 90.逃避
- 91.罪と真実と
- 92.父の懺悔
- 93.best friend
- 94.兄弟
- 95.境界線