昨日、りこちゃんと圭吾くんが桜大兄ちゃんに連れられて、風に吹かれた煙のように跡形もなく姿を消してしまった。その日、蓮くんにりこちゃんは本当は亡くなっているかもしれない、自分達が生きていると思い込んでいるだけかもしれないという話を聞かされて、私は必死に信じないように意識していた。少しでも、私一人だけでもりこちゃんの命を疑ってしまったら、りこちゃんが本当に逝ってしまうって思ったから。なのに、蓮くんの話に納得している自分もいた。小学校の低学年の娘が家にずっといないことに気付かない親がいるわけない。だから、りこちゃんが亡くなっているなら、りこちゃんのご両親にとっては、いない存在なんだから、警察に娘の行方不明届を提出したりするようなこともあるはずがないって。だから、りこちゃんの身体が透明になってきたとき、私は自分のせいだと自分を責めた。私がりこちゃんの存在を疑ってしまったからって。私がりこちゃんを、死後の世界に送り出してしまったんだって。
なのに、私は蓮くんを罵った。
私に「すき」の気持ちをという教えてくれた蓮くんを。
私が失禁してしまっても、ためらうことなく汚れた畳を拭いてくれた蓮くんを。
りこちゃんが消えてしまうかもしれないことに泣きじゃくる私を、ひたすら抱き締めていてくれた蓮くんを。
私が罵ってもなお、こうやって優しく抱き締めてくれている蓮くんを。
「…ごめん…なさい…」
私は桜大兄ちゃんを罵ってしまった。
圭吾くんにも満たない年齢で、生きたかった未来を奪われた桜大兄ちゃんを。
私は、ただ自分の気持ちが一番大事になってしまって、蓮くんの気持ちも桜大兄ちゃんの気持ちも踏みにじってしまった。
「ごめん…なさい」
蓮くんのTシャツの襟が私の涙で濡れて、大きなシミがついている。峻兄ちゃんは私の頭を撫でてくれている。
「佳奈美、ごめんな。俺だって佳奈美が突然消えてしまったら、狂ってしまう。佳奈美にとって、りこと圭吾は家族だったのにな。ごめんな」
峻兄ちゃんの大きくて温かい手。優しくて、面白くて、時にバカで、私が宇宙の何百倍も何千倍も大好きな蓮くんは、私を受け入れてくれるんだ。
「佳奈美さん、大丈夫?」
蓮くんの肩越しに、バットたちが台所のテーブルで私を心配そうに見つめているのが見える。
「もう一回ぐらい、大泣きしようよ。今度は皆で」
圭吾くんが隣にいないエメラルドの瞳から、寂しいというエメラルド自身の本心が垣間見えた。子供たちの笑い声が聞こえない。寂しい。会いたい。だけど、私は知らなくちゃいけない。圭吾くんと、りこちゃんと、桜大兄ちゃんのことを全部。私は涙を拭って、蓮くんの手を引いて、バットたちのいる台所のテーブルに座った。蓮くんが私の右隣に座って、手を握ってくれている。峻兄ちゃんが私の左隣に座って、背中に手を添えてくれている。テーブルの真向かいには、サファイヤが座っている。私が狂ってしまっている間に、たった一人で王国から記憶を読み取ってきてくれた。
「佳奈美さん、王国の記憶の続きは、さっき皆にはもうしたんだ。だけど、もう一度伝えるね。蓮たちももう一度よく聞いてて。伝えそびれたこともあるし。俺たち、てっきり王国の問題は解決したように勘違いしちゃってるから」
サファイヤはそう言って、リビングから蓮くんのノートを持ってくると、新しいページを開いてインクが残り少なくなったボールペンで書きつけた。
『蓮と佳奈美さんが、灰色の世界にいたときに出会った日下部透と宮司龍臣は結局誰?』
『圭吾はどうして王国での死後に、灰色の世界にいたのか』
『灰色の世界って、そもそも何?』
『圭悟はどうして流産後、圭吾になってしまったか』
サファイヤは四行を書き終えると、それをくるりと私に向けた。
「佳奈美さん、圭吾たちは戻ってくるって桜大が約束してくれたそうだ。試しに、峻兄さんのスマホに残っている桜大の顔写真の瞳を観察してみたけど、桜大は絶対にウソをつかない人。だから、佳奈美さん、安心して未解決の問題に俺たち全員で取り組んでいこう」
峻兄ちゃんは、少し震えている手を優しく握ってくれている。
「佳奈美、お前は定期的に感情を外に出した方が良い。恥ずかしがらずに泣けばいい。恥ずかしいなら俺も一緒に泣いてやる。俺たち全員、元々は赤ちゃんなんだから。俺たちは身体がデカくなっただけの赤ちゃんなんだから」
峻兄ちゃんの手があったかい。峻兄ちゃんの温もりが、身体全身に流れていく。
「うん、みんな、ありがとう。これからもどうか、よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
私たち全員はしばらく、頭を下げていた。時計の針がチクタクと時を刻んでいく。
「…なんの時間やねん」
「ふふっ」
私の隣の蓮くんが、私に優しく微笑んでくれている。
「良かった。やっと佳奈美の笑顔が見れた」
時計の針は、もう五時を指している。
「…中途半端な時間だから、今日くらいはグダグダとお菓子でも食べながら過ごすか」
峻兄ちゃんは台所の隅に置かれた段ボールからポテトチップスの巨大な袋を取り出すと、私たちの前に置いた。
「お前ら、食え。今までは、りこと圭吾にお手本を示さないといけなかったから俺も栄養には気を付けていたけど、りこと圭吾は桜大と一緒にお出かけ中だ。そいつらが戻ってくるまでの間くらい、好きなものばかり食っていこう。人生、完璧すぎない方が味があって良いもんだ」
峻兄ちゃんは袋を開けると、ポテトチップスを何枚か掴んで口の中に雑に放り込んだ。
ポテトチップスの袋は、峻兄ちゃんの頭が二つ分丸ごと入ってしまいそうなくらいに巨大だったから、なかなか食べ終わらないかと思いきや、高校生と大学生、そして狼男が合計6人もいると、あっという間に袋の中からはポテトチップスのかけらのようなものしか出なくなった。サファイヤは冷蔵庫からジュースを何種類か出してきて、バットたちと宴会のようなことをしている。
「サファイヤ」
フルーツミックスジュースをバットのコップに注いでいるサファイヤが私を向いた。
「教えてくれる?王国で読み取ってきてくれた記憶を」
サファイヤは注ぎ終えると、しっかりとペットボトルのキャップを閉めて他のジュースも全部冷蔵庫にしまった。そして、テーブルに蓮くんのノートを広げて置いた。
「必要だったら、好きにメモとって。じゃあ、佳奈美さん以外は繰り返しになるけど、もう一回聞いてて」
そう言って、サファイヤは王国での記憶を語りだした。
第一王女が瀕死の伝令から、自分がリオンドールの実の娘でないことを知って、実父を探す旅に内密に出かけたこと。
楓に狂信的な価値を見出す宇宙からの山賊によって、惨殺されたこと。
圭吾くんは責任を取って自害したこと。
リオンドールは第一王女の死にショックを受け憤り、そのまま崩御したこと。
クランシーは、第一王女が自分の実の娘であることは最後まで知らなかったこと。
リオンドールの跡を継いだ者が愚かだったために、孤児が再び増加したこと。
朱色を愛したリオンドールの残酷な運命の話が王国中に広まって、再び朱色が排除されるようになったこと。
それでもクランシーは、亡き兄の遺志を継いで孤児を守り続けたこと。
その孤児の中には、ウルフとバットもいたこと。
「だから、一裕の父親としての怒りはリンドールのものだった。だけど蓮が前に言ったように、一卵性双生児は記憶を共有することが珍しくない。リオンドールとクランシーの二つの魂が、現実では一裕という一人の人間に宿っているから、一裕の記憶がクランシーのものとリオンドールのものが混ざっているって考えたんだ」
エメラルドが、蓮くんのメモをペンで示しながら、詳しく説明してくれた。でも、どうしてサファイヤは記憶を読み取ることが出来たの?だって…
「ねえ、サファイヤ。真実を示し裁くあの龍の像、壊されて海に沈められた記憶で終わらなかった?何者かに記憶操作されたような砂嵐も見えたし…」
サファイヤが私を見て頷く。
「俺さ、龍王様が真実を示し裁く像として崇められたなら、獅子王様の像もあるはずだって考えたんだ。昨日行ってきて初めて気づいたんだけど、龍の像の中身が空洞だったんだ。普通、彫刻って中身が詰まってるはずだろ?それで、龍の像の頭部の中身も空洞のはずだって考えたら、あったんだ。金色に光るライオンの像が。龍の頭部に収まるくらいのサイズだった。龍の像からは記憶をもう読み取れなさそうだったから、ライオンの像の瞳から記憶を読み取れないか試してみたんだ。それで読み取れたのが、今話したことだ」
峻兄ちゃんが、未解決の問題が箇条書きにされたページを見ている。一裕の記憶についてのところには、上から二重線が引かれている。峻兄ちゃんが、そのページに人差し指を立てて手を置いた。
「もう一つここに、書き加えるべきじゃないか?」
蓮くんは、峻兄ちゃんが指さしている所に『何が、いつ、何のために王国の記憶を改竄・奪取しようとしたか』と、新しいインクを補充したペンで書き足した。
「俺が思うに…」
蓮くんがボールペンのキャップをはめたのとほぼ同時に、エメラルドが話し出した。
「前も言ったけど、記憶に操作を加えることが出来るのは、俺とか彗星みたいな宇宙人なんだ。王国に宇宙人が介入していたことは確定だ」
さっきからエメラルドの声が不自然に掠れている気がする。ウルフが冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出して、エメラルドの前に置いた。
「エメラルドの奴、圭吾がいなくなってから、俺たちが寝静まっているときにずっと布団の中で泣き続けてたんだ。俺、佳奈美のことが気になりすぎて、その晩はなかなか寝付けなくって…」
蓮くんがエメラルドには聞こえないように、私の耳元でささやいた。ウルフにもらった麦茶を一杯飲むと、エメラルドの声は少し回復した。
「今度王国に行くときは、サファイヤと俺と彗星の三人で行ってみる。一裕の両親、仕事でいつも家にいないんだろ?一裕も一緒に一定期間だけ住むように出来ないか?桜大がいつ、圭吾たちを連れて戻ってくるか分からない。もしかしたらだけど、楓も一緒に連れてくるかもしれない。そうなると、高校生の一裕が父親になるっていう、社会的にはややこしいことになってしまうけど…その時はその時だ。心から祝ってやろうぜ」
…楓くん、会いたくないわけでは決してないんだけれど。あと、5年くらい待っててくれる?大人の事情がね、あるのよ。
時計の針が7時を指している。
「ピザでも頼むか。さらなる冒険に向けての腹ごしらえだ。腹が減っては戦は出来ぬ」
お菓子からのピザ。
…明日からはもう少し健康的なものを、私が作ろう。このまま峻兄ちゃんに任せたら、私、絶対に太る。
なのに、私は蓮くんを罵った。
私に「すき」の気持ちをという教えてくれた蓮くんを。
私が失禁してしまっても、ためらうことなく汚れた畳を拭いてくれた蓮くんを。
りこちゃんが消えてしまうかもしれないことに泣きじゃくる私を、ひたすら抱き締めていてくれた蓮くんを。
私が罵ってもなお、こうやって優しく抱き締めてくれている蓮くんを。
「…ごめん…なさい…」
私は桜大兄ちゃんを罵ってしまった。
圭吾くんにも満たない年齢で、生きたかった未来を奪われた桜大兄ちゃんを。
私は、ただ自分の気持ちが一番大事になってしまって、蓮くんの気持ちも桜大兄ちゃんの気持ちも踏みにじってしまった。
「ごめん…なさい」
蓮くんのTシャツの襟が私の涙で濡れて、大きなシミがついている。峻兄ちゃんは私の頭を撫でてくれている。
「佳奈美、ごめんな。俺だって佳奈美が突然消えてしまったら、狂ってしまう。佳奈美にとって、りこと圭吾は家族だったのにな。ごめんな」
峻兄ちゃんの大きくて温かい手。優しくて、面白くて、時にバカで、私が宇宙の何百倍も何千倍も大好きな蓮くんは、私を受け入れてくれるんだ。
「佳奈美さん、大丈夫?」
蓮くんの肩越しに、バットたちが台所のテーブルで私を心配そうに見つめているのが見える。
「もう一回ぐらい、大泣きしようよ。今度は皆で」
圭吾くんが隣にいないエメラルドの瞳から、寂しいというエメラルド自身の本心が垣間見えた。子供たちの笑い声が聞こえない。寂しい。会いたい。だけど、私は知らなくちゃいけない。圭吾くんと、りこちゃんと、桜大兄ちゃんのことを全部。私は涙を拭って、蓮くんの手を引いて、バットたちのいる台所のテーブルに座った。蓮くんが私の右隣に座って、手を握ってくれている。峻兄ちゃんが私の左隣に座って、背中に手を添えてくれている。テーブルの真向かいには、サファイヤが座っている。私が狂ってしまっている間に、たった一人で王国から記憶を読み取ってきてくれた。
「佳奈美さん、王国の記憶の続きは、さっき皆にはもうしたんだ。だけど、もう一度伝えるね。蓮たちももう一度よく聞いてて。伝えそびれたこともあるし。俺たち、てっきり王国の問題は解決したように勘違いしちゃってるから」
サファイヤはそう言って、リビングから蓮くんのノートを持ってくると、新しいページを開いてインクが残り少なくなったボールペンで書きつけた。
『蓮と佳奈美さんが、灰色の世界にいたときに出会った日下部透と宮司龍臣は結局誰?』
『圭吾はどうして王国での死後に、灰色の世界にいたのか』
『灰色の世界って、そもそも何?』
『圭悟はどうして流産後、圭吾になってしまったか』
サファイヤは四行を書き終えると、それをくるりと私に向けた。
「佳奈美さん、圭吾たちは戻ってくるって桜大が約束してくれたそうだ。試しに、峻兄さんのスマホに残っている桜大の顔写真の瞳を観察してみたけど、桜大は絶対にウソをつかない人。だから、佳奈美さん、安心して未解決の問題に俺たち全員で取り組んでいこう」
峻兄ちゃんは、少し震えている手を優しく握ってくれている。
「佳奈美、お前は定期的に感情を外に出した方が良い。恥ずかしがらずに泣けばいい。恥ずかしいなら俺も一緒に泣いてやる。俺たち全員、元々は赤ちゃんなんだから。俺たちは身体がデカくなっただけの赤ちゃんなんだから」
峻兄ちゃんの手があったかい。峻兄ちゃんの温もりが、身体全身に流れていく。
「うん、みんな、ありがとう。これからもどうか、よろしくお願いします」
『よろしくお願いします』
私たち全員はしばらく、頭を下げていた。時計の針がチクタクと時を刻んでいく。
「…なんの時間やねん」
「ふふっ」
私の隣の蓮くんが、私に優しく微笑んでくれている。
「良かった。やっと佳奈美の笑顔が見れた」
時計の針は、もう五時を指している。
「…中途半端な時間だから、今日くらいはグダグダとお菓子でも食べながら過ごすか」
峻兄ちゃんは台所の隅に置かれた段ボールからポテトチップスの巨大な袋を取り出すと、私たちの前に置いた。
「お前ら、食え。今までは、りこと圭吾にお手本を示さないといけなかったから俺も栄養には気を付けていたけど、りこと圭吾は桜大と一緒にお出かけ中だ。そいつらが戻ってくるまでの間くらい、好きなものばかり食っていこう。人生、完璧すぎない方が味があって良いもんだ」
峻兄ちゃんは袋を開けると、ポテトチップスを何枚か掴んで口の中に雑に放り込んだ。
ポテトチップスの袋は、峻兄ちゃんの頭が二つ分丸ごと入ってしまいそうなくらいに巨大だったから、なかなか食べ終わらないかと思いきや、高校生と大学生、そして狼男が合計6人もいると、あっという間に袋の中からはポテトチップスのかけらのようなものしか出なくなった。サファイヤは冷蔵庫からジュースを何種類か出してきて、バットたちと宴会のようなことをしている。
「サファイヤ」
フルーツミックスジュースをバットのコップに注いでいるサファイヤが私を向いた。
「教えてくれる?王国で読み取ってきてくれた記憶を」
サファイヤは注ぎ終えると、しっかりとペットボトルのキャップを閉めて他のジュースも全部冷蔵庫にしまった。そして、テーブルに蓮くんのノートを広げて置いた。
「必要だったら、好きにメモとって。じゃあ、佳奈美さん以外は繰り返しになるけど、もう一回聞いてて」
そう言って、サファイヤは王国での記憶を語りだした。
第一王女が瀕死の伝令から、自分がリオンドールの実の娘でないことを知って、実父を探す旅に内密に出かけたこと。
楓に狂信的な価値を見出す宇宙からの山賊によって、惨殺されたこと。
圭吾くんは責任を取って自害したこと。
リオンドールは第一王女の死にショックを受け憤り、そのまま崩御したこと。
クランシーは、第一王女が自分の実の娘であることは最後まで知らなかったこと。
リオンドールの跡を継いだ者が愚かだったために、孤児が再び増加したこと。
朱色を愛したリオンドールの残酷な運命の話が王国中に広まって、再び朱色が排除されるようになったこと。
それでもクランシーは、亡き兄の遺志を継いで孤児を守り続けたこと。
その孤児の中には、ウルフとバットもいたこと。
「だから、一裕の父親としての怒りはリンドールのものだった。だけど蓮が前に言ったように、一卵性双生児は記憶を共有することが珍しくない。リオンドールとクランシーの二つの魂が、現実では一裕という一人の人間に宿っているから、一裕の記憶がクランシーのものとリオンドールのものが混ざっているって考えたんだ」
エメラルドが、蓮くんのメモをペンで示しながら、詳しく説明してくれた。でも、どうしてサファイヤは記憶を読み取ることが出来たの?だって…
「ねえ、サファイヤ。真実を示し裁くあの龍の像、壊されて海に沈められた記憶で終わらなかった?何者かに記憶操作されたような砂嵐も見えたし…」
サファイヤが私を見て頷く。
「俺さ、龍王様が真実を示し裁く像として崇められたなら、獅子王様の像もあるはずだって考えたんだ。昨日行ってきて初めて気づいたんだけど、龍の像の中身が空洞だったんだ。普通、彫刻って中身が詰まってるはずだろ?それで、龍の像の頭部の中身も空洞のはずだって考えたら、あったんだ。金色に光るライオンの像が。龍の頭部に収まるくらいのサイズだった。龍の像からは記憶をもう読み取れなさそうだったから、ライオンの像の瞳から記憶を読み取れないか試してみたんだ。それで読み取れたのが、今話したことだ」
峻兄ちゃんが、未解決の問題が箇条書きにされたページを見ている。一裕の記憶についてのところには、上から二重線が引かれている。峻兄ちゃんが、そのページに人差し指を立てて手を置いた。
「もう一つここに、書き加えるべきじゃないか?」
蓮くんは、峻兄ちゃんが指さしている所に『何が、いつ、何のために王国の記憶を改竄・奪取しようとしたか』と、新しいインクを補充したペンで書き足した。
「俺が思うに…」
蓮くんがボールペンのキャップをはめたのとほぼ同時に、エメラルドが話し出した。
「前も言ったけど、記憶に操作を加えることが出来るのは、俺とか彗星みたいな宇宙人なんだ。王国に宇宙人が介入していたことは確定だ」
さっきからエメラルドの声が不自然に掠れている気がする。ウルフが冷蔵庫から麦茶のペットボトルを取り出して、エメラルドの前に置いた。
「エメラルドの奴、圭吾がいなくなってから、俺たちが寝静まっているときにずっと布団の中で泣き続けてたんだ。俺、佳奈美のことが気になりすぎて、その晩はなかなか寝付けなくって…」
蓮くんがエメラルドには聞こえないように、私の耳元でささやいた。ウルフにもらった麦茶を一杯飲むと、エメラルドの声は少し回復した。
「今度王国に行くときは、サファイヤと俺と彗星の三人で行ってみる。一裕の両親、仕事でいつも家にいないんだろ?一裕も一緒に一定期間だけ住むように出来ないか?桜大がいつ、圭吾たちを連れて戻ってくるか分からない。もしかしたらだけど、楓も一緒に連れてくるかもしれない。そうなると、高校生の一裕が父親になるっていう、社会的にはややこしいことになってしまうけど…その時はその時だ。心から祝ってやろうぜ」
…楓くん、会いたくないわけでは決してないんだけれど。あと、5年くらい待っててくれる?大人の事情がね、あるのよ。
時計の針が7時を指している。
「ピザでも頼むか。さらなる冒険に向けての腹ごしらえだ。腹が減っては戦は出来ぬ」
お菓子からのピザ。
…明日からはもう少し健康的なものを、私が作ろう。このまま峻兄ちゃんに任せたら、私、絶対に太る。
- 1.開始せよ(1)
- 2.開始せよ(2)
- 3.開始せよ(3)
- 4.扉(1)
- 5.扉(2)
- 6.灰色(1)
- 7.灰色(2)
- 8.灰色(3)
- 9.混血(1)
- 10.混血(2)
- 11.混血(3)
- 12.いのち(1)
- 13.いのち(2)
- 14.仮面(1)
- 15.仮面(2)
- 16.仮面(3)
- 17.思い出せ(1)
- 18.思い出せ(2)
- 19.楓(1)
- 20.楓(2)
- 21.兄の過去(1)
- 22.兄の過去(2)
- 23.伝えられなかった「すき」 エピソード1
- 24.海の少年(1)
- 25.海の少年(2)
- 26.伝えられなかった「すき」 エピソード 2
- 27.王国の真実(1)
- 28.王国の真実(2)
- 29.王国の真実(3)
- 30.王国の真実(4)
- 31.王国の真実(5)
- 32.桜
- 33.眠った記憶(1)
- 34.眠った記憶(2)
- 35.眠った記憶(3)
- 36.眠った記憶(4)
- 37.眠った記憶(5)
- 38.記憶よ、目覚めよ(1)
- 39.記憶よ、目覚めよ(2)
- 40.記憶よ、目覚めよ(3)
- 41.休憩タイム(1)
- 42.休憩タイム(2)
- 43.休憩タイム(3)
- 44.伝えられた「すき」
- 45.謎解きゲーム(1)
- 46.謎解きゲーム(2)
- 47.隠された宇宙(1)
- 48.隠された宇宙(2)
- 49.隠された宇宙(3)
- 50.隠された宇宙(4)
- 51.死者の想い(1)
- 52.死者の想い(2)
- 53.死者の想い(3)
- 54.死者の想い(4)
- 55.親子(1)
- 56.親子(2)
- 57.親子(3)
- 58.親子(4)
- 59.親子(5)
- 60.こどもたち(1)
- 61.こどもたち(2)
- 62.ほこり(1)
- 63.ほこり(2)
- 64.食う(1)
- 65.食う(2)
- 66.食う(3)
- 67.本当の自分(1)
- 68.本当の自分(2)
- 69.本当の自分(3)
- 70.宿題との戦いの末、2人の高校生男子「死す」
- 71.別れ(1)
- 72.別れ(2)
- 73.喧騒に紛れて
- 74.仮面を脱げ
- 75.名前は
- 76.虚構と真実
- 77.ヨミガエル
- 78.迷宮
- 79.橋を渡る、境目を越える
- 80.罪人の証
- 81.真実との対峙
- 82.扉を開ける前に
- 83.浜辺の宵
- 84.目隠し
- 85.鏡の中
- 86.夜明け
- 87.誕生日
- 88.真実の足枷
- 89.覚悟の時
- 90.逃避
- 91.罪と真実と
- 92.父の懺悔
- 93.best friend
- 94.兄弟
- 95.境界線