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狭間に生きる僕ら

#25

海の少年(2)

「俺、本当は存在していないはずだったんだ。だけど、なんでだろうな。どこかに首長竜の遺伝子が残っていたのかな。
初めて目が見えるようになったとき、クジラさんやエイさんが目を丸くして俺のことを見ているのが見えたんだ。でも、そのまま彼らは泳いで去っていった。何事もなかったかのように。
俺だって初めから自分が異質だって思ってたわけじゃない。だんだん、クジラさんがヤドカリみたいに小さくなり始めた時に違和感は感じたけど、でも彼らは僕を異質だと見なさなかった。たまたま背の大きいやつがクラスの中にいる。その程度の扱いだったんだ。
でも、人間は違った。太陽の光を浴びて見たくて海面から首だけ出したら、勝手に騒がれて勝手にネッシーと呼ばれるようになった。人間に嫌気が差していた。だけど、人間に化けたら人間を好きになれるかなって、それであの海にいたんだ。疲れて寝ちゃったけれど。
目を覚ましたら、人間たちが騒いでた。またか、と思ったけど、俺を見る眼差しが全く違った。俺を受け入れる眼差し。
ああ、人間ってだけで受け入れられるんだなって、俺が本当の姿を現わしたら逃げて行っちゃうのかなって、空しくなった。
でも。俺を見て勝手に騒ぎ始めた人間どもがいたおかげで、今、俺は堂々とネッシーの姿を見せることが出来ている。あいつらが騒いだおかげで、俺は人間社会では、完全に未知な存在ではなくなった。だから、癪だけど、その点はあの人間どもに感謝しなくちゃな。
ちなみに、俺が魚介類を君たちに振舞えなかったのは、彼らが僕の家族だから。じゃあ、何を食べているのか気になると思うけど、俺は彼らの遺骸を食べている。彼らは俺に比べてずっと短命だから。食べ物には困らないんだ。
人間社会には葬式があることをいつだったか知って、してみようかなと思って、食べ始めた。だから、俺の身体には何千、何万っていう命が流れてる」
サファイヤの瞳が海の彼方へと向けられた。自分の食べた家族たちを見送るように。
「俺の身体は、家族の墓だ」
ザザン…
波の飛沫が月の明かりに照らされる。サファイヤが流せない涙を、月が代わりに流しているようだった。

「君たちは誰かを探しているんじゃない?」
サファイヤが人間の姿に戻った。月の光が少し海水に濡れた彼を照らしている。
「俺ね、人の目を見たら心の中で何を考えているのかが分かるようになったんだ。ずっと、海の中から、俺に理解を示してくれる人間を探していたから。諦めかけていたけど、諦めなくてよかった」
サファイヤが私に近づいてくる。
「君の名前は…佳奈美?君の…好きな人は…れっ」
蓮くんが一瞬私を見た。私はサファイヤの首に後ろから腕を回して口を両手で塞いだ。私の口の中で、サファイヤが「楓っていう子を探しているんだね」と、もごもごと言った。
「一緒に探してくれるか」
バットの問いかけにサファイヤは私に口を塞がれたまま、首を縦に振った。

サファイヤは自分の口から私の両手を無理やり剝がして、今度は蓮くんの方を見た。そして私を見たかと思うと、ニヤリと笑った。
「君の名前は…蓮で…好きな人は…k」
蓮くんはサファイヤを逆さまに抱えてホテルに向かって走り出した。サファイヤが助けて―とギャーギャー叫んでいるけど…知ーらないっ!

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2025/06/24 20:49

花火
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