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狭間に生きる僕ら

#22

兄の過去(2)

峻兄ちゃんは再び雑草が鬱蒼と茂ったゴミ箱の中を覗き込んだ。バッタが一匹、ピョンとゴミ箱の中から跳ねて、そのまま林の方に飛んでいった。
「俺は良かったんだ。父さんと母さんが俺のことを実の子のように愛してくれたし、佳奈美が生まれてきてくれた。でも楓にはそうしてやれる奴がいないんだな……帰ろうか」
峻兄ちゃんがシーソーの上に置いていた水筒を手に持って、公園の入り口付近に立てた自転車に向かう。
「乗れ」
峻兄ちゃんがサドルにまたがる。長い脚。私は峻兄ちゃんの後ろに乗った。峻兄ちゃんの腰に腕を回す。峻兄ちゃんの体温が直接伝わってくる。
ギーッギーッ…
峻兄ちゃんはスーパーの方に漕ぎだした。
「今日の昼ごはんは冷やし中華にするか?」
峻兄ちゃんの汗の臭い。
「流しそうめんしたら、りこちゃんと圭吾くん喜んでくれそうだけど」
スーパーに近づくにつれ、ポツポツと人影が現れ始めた。
「ここから先は歩いてついて来い。二人乗りしてるところを警察に見つかったら厄介なことになる」
峻兄ちゃんが私を下ろした後、またスーパーまた漕ぎだした。
峻兄ちゃんはどうして、私に秘密を打ち明けてくれたのだろう。
峻兄ちゃんの本当のお父さんとお母さんは、どうして死んでしまったのだろう。
パパは、どうして峻兄ちゃんがあの公園のゴミ箱にいると感じたのだろう。
峻兄ちゃんの後ろ姿が遠のいていく。私は峻兄ちゃんの後を走って追いかけた。

そうめんと麵つゆを大量に買って、私と峻兄ちゃんはアパートに戻った。麺つゆの入った袋が重い。指がちぎれそう。袋を一度地面に置いてから、私はインターホンを鳴らした。指の第二関節に袋の後が赤く残っていた。
「おかえり」
蓮くんがうちわで顔を仰ぎながら出迎えてくれた。りこちゃんと圭吾くんがリビングの方で何やら揉めていて、それをウルフが落ち着かせようとしているのが聞こえる。峻兄ちゃんが、自転車の籠に乗せていた、組み立て式の流しそうめんの機械の箱を両手で持って、蓮くんが開けてくれている扉の中に入っていく。
「あんたら、どうした」
峻兄ちゃんが箱を台所の机に下ろした。
「なんか、さっきテレビを見てたら、海の生物特集みたいな番組が放送されてたんだ。そしたら、りこちゃんが自分も魚と一緒に泳ぎたいって言いだしたんだけど、それを圭吾が人間は水の中の動物じゃないから危ないって注意して。それでこうなった」
バットがレバーを左手に、冷えたトマトジュースを右手に喧嘩中の二人を台所の床に腰を下ろしながら見守っていた。ウルフが二人の間でうろたえている。二人はお互いに腕を組んでふてくされている。りこちゃんが小さな頬を膨らませて圭吾くんを睨んでいる。
「エメラルドは?」
エメラルドの姿が見当たらない。
「エメラルドなら、あの雑木林に楓を探しに行った」
扉を閉めた蓮くんが台所にやってきた。エメラルドは宇宙にも縄張りのようなものを持っているらしく、その中に異物がないかをこの世界からでも宇宙と交信すれば探せるみたい。でも、なるべく人がいない所でやらないと集中できないそうだ。
「お昼までに戻ってくるかな」
峻兄ちゃんは既に流しそうめんの機械を箱から出して組み立て始めている。
ガチャ
エメラルドが人間姿で台所の窓を開けて入ってきた。
「…見つけられなかった…」
エメラルドの額から汗が噴き出るように流れている。エメラルドは腕で顔の汗を拭うと、シャワーを浴びに行った。
「エメラルド、そうめん茹で始めてもいい?」
蓮くんがそうめんの袋を少し破ってから、シャツを洗濯機に放り込んでいるエメラルドに尋ねた。
「そうめん、なんだそれ」
エメラルドがズボンを脱ぎ始めた。蓮くんが慌てて洗面所のドアを閉めた。
「食べさせてやる」
蓮くんはそう言って大量のそうめんの束を茹で始めた。エメラルドが髪を乾かし終えて台所にやってきたころ、ちょうどそうめんが茹で上がった。峻兄ちゃんが八人分のお椀に麺つゆを注いでいる。子供達はまだ不貞腐れていて、お互いに口を利かなかった。
「圭吾、りこ、ほら」
峻兄ちゃんがそうめんを箸で何本か摘まんで、機械の上にセットすると、真っ白なそうめんが滑らかに滑り始めた。圭吾くんとりこちゃんが、それを興味深そうにまじまじと見ていた。
「やってみるか」
「うん」
二人は声を揃えて台所の席についた。あっという間に二人は仲直りした。りこちゃんと圭吾くんが本当の兄弟のように見える。峻兄ちゃん、従兄妹でもいいよ、だって峻兄ちゃんだから。




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2025/06/24 13:51

花火
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