文字サイズ変更

狭間に生きる僕ら

#21

兄の過去(1)

峻兄ちゃんは、こんな笑えない冗談を言う人じゃない。
「今日はもう遅い。みんな寝ろ」
私たちは寝室に入った。蓮くんは圭吾くんを寝かしつけたまま寝てしまったのか、圭吾くんのお腹に手を添えて眠っていた。バットたちも私たちと一緒に寝るつもりのようで、バットは蓮くんの頭の近くで顔を羽根にうずめ、ウルフは寝室のカーテン軸にぶら下がり、エメラルドは蓮くんの両脚にすっぽりと収まっている。
「佳奈美にちょっかい出したら、ただじゃおかねーぞ」
パジャマに着替えた峻兄ちゃんが棒のようなものを持って入ってきた。
「佳奈美」
峻兄ちゃんが私に棒を投げて渡してきた。パン生地を伸ばすのに使うやつ。いつ使うねん。
「何かされたら、遠慮なくこれで殴れ」
峻兄ちゃんは私たちに背中を向けるようにして眠ってしまった。
『そういえば、私たちが虫になれること、言いそびれたなあ』


「お姉さん、起きて」目を開けると太陽みたいに笑うりこちゃんがいた。
「朝ごはんできたって」
私の知らない少年がお皿にパンを乗せて台所からやってきた。
「って圭吾くん?」
圭吾くんの長い髪がチョキンと短く切られていた。ツーブロックっていうんだったっけ。
「へへ」
圭吾くんは短くなった自分の髪を嬉しそうに撫でた。
「エメラルドさんに爪で切ってもらったんだ」
峻兄ちゃんがしゃもじを手に顔を覗かせた。
「連れて行きたいところがある。早く食べて準備しろ」
バットとウルフはワシとコウモリの姿のまま、太陽の光から避難するように押入れの中にいた。

「お兄ちゃん、連れて行きたいところってどこ」
峻兄ちゃんが歯を磨いている。
「どっか行くの?」
バットがトマトジュースをストローで飲みながら押入れから顔を出した。峻兄ちゃんがペッと吐き出す。
「悪いな、今日は兄妹だけで話したいんだ」
峻兄ちゃんは蓮くんたちに子供たちの面倒を見るように頼んで、私を自転車の後ろに乗せた。
ギーコギーコ
峻兄ちゃんが重たそうに自転車を漕ぐ。
「重いなら私歩くけど」
「いや、」
峻兄ちゃんは水筒の中の水を飲んだ。カラン、と中で氷がぶつかる音がする。
「今日くらいはこうしてみたいんだ」
そう言って峻兄ちゃんは私をどこかへ連れて行った。峻兄ちゃんは私の知らない公園に連れて行ってくれた。人気の少ない場所にあって、遊具が錆びれている。苔に覆われた大きな箱のようなものが、錆びたジャングルジムの向こうに見えた。ゴミ箱。中には何も入っていなかった。雑草が生い茂っていた。
「これが…」
自転車を公園の入り口に立たせた峻兄ちゃんがゴミ箱に近づく。
「俺は覚えていないけどな。俺が生まれたばかりの頃に捨てられていたっていう場所や」

ページ選択

2025/06/23 23:04

花火
ID:≫ 6.vyqE1zzWDXY
コメント

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は花火さんに帰属します

TOP