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狭間に生きる僕ら

#17

思い出せ(1)

「どうしたよ急に」
バットが手を圭吾くんの背中に添えたまま、素っ頓狂な声を上げた。対して蓮くんの声は真面目だった。
「ここにいる一裕って奴…かず、お前ちょっと出ていけ。…危ないから」
バットが声を張り上げておばさんを呼ぶと、おばさんが大きな懐中電灯を持って一裕を迎えに来て、台所でお菓子でも食べて待っていてくれるかしら、などと言いながら連れて行った。一裕がバットの部屋から出ていったことを確認すると、蓮くんは再びウルフとバットに向き合った。
「あの一裕って奴、将来どうやら宇宙人と恋をして子供を作るみたいなんだ」
「あれま」
バットの手が圭吾くんの背中から離れる。
「俺たち、前に一裕の子供で、地球人と宇宙人の血が混ざった楓っていう男の子に会ったんだ」
ウルフの右眉がピクリと動いた。
「でも、楓は。一裕を暴走させるんだ。なんでかは分からないけれど、後悔や自責の念に襲われるみたいに、あいつ、暴れるだ」
「その楓っていう子は?」
「…地球人の子供に生まれ直すって言って…」
「…死んだか」
「いや、いったん生まれる前の世界に戻っただけだ」
ウルフが何かを思い出そうとしているような表情で、蓮くんの話に耳を傾けていた。
「なあ?」
ウルフがバットを見る。
「そういえばさ、俺らが戦った相手に、別の惑星から来た奴らがいなかったっけ」
バットがハッと目を見開いた。
「そいつら…胸に勲章を付けてた…楓の…形をした…」

楓くんと、楓の形をした勲章。もし、楓と言う名前を宇宙人である楓くんのお母さんが付けたのであれば、ネーミングセンスが単純すぎる気もするけど、でもきっと、楓くんと言う存在が彼女にとって存在意義そのものだったのかな。あるいは。楓くんが生まれたから、宇宙人たちは楓くんのために戦い始めたの?でも、楓くんは宇宙人に虐げらたって言ってた。だけど、楓くんのお母さんが地球人である一裕を愛したように、地球人の血が混ざっていても楓くんのことを愛した地球人もいたんじゃないだろうか。

「いつまでも暗いところに座らせておくのも申し訳ないから、そろそろ部屋から出ようぜ、バット」
バットとウルフを先頭に私たちは部屋を出た。真っ暗な階段を光の玉を頼りに上っていく。
「お、夜だ」
バットが私たちをリビングに案内する。
ポチ
バットがリモコンで電気を点けた。久しぶりに浴びた電気の照明が眩しい。
「俺の母さんなら、明日の朝まで仕事でいないけど、君たちはどう?そろそろ帰った方がいいよね?」
バットがリモコンで玄関の電気も点けた。
「いや、俺たちの親も長期出張でいないから」
蓮くんがそういうと、バットは玄関の電気を消した。そしてもう一回点けた。
「ウルフ、お前は?」
「親には俺が吸血鬼だっていうことを打ち明けてある。夜になっても帰ってこないからって、そんなに心配しないだろ」
バットはまた、玄関の電気を消した。
「ねえねえねえ」
バットがリビングの大きなソファに、ボフンと腰を下ろした。
「教えてよ、一裕のこと。宇宙人のこと」
私たちもまだ、答えは探している状態。だけど、この人たちが鍵になってくれるかもしれない。私たちも、一裕のことが知りたい。

「じゃあ、まずは…」
そう言って蓮くんは、初めて私たちが楓に出会ったこと、楓くんが教えてくれた残酷な過去のこと、一裕が「楓」という名前を耳にするたびに父親としての人格が現れて豹変すること、そして、私たちが先日会いに行った、一裕の彼女「翠さん」が例の宇宙人かもしれないことを、淡々と話し出した。
「そうねえ…」
バットがソファの背もたれに背中をもたれさせた。
「でも、なんでその一裕って奴が吸血鬼になりかけてるんだ」
「それを、お前たちに相談したいって思ってたんだ」
バットが鼻の下を人差し指でこすりながら言う。
「間違いなく、俺ら以外の何かが介入してるな。でも、何が、なんで…」
「吸血鬼って、さっきも言ったけど、ほとんどが罪を犯した人間なんだもともとは」
静かに蓮くんの話に耳を傾けていたウルフが口を挟んだ。
「もしかしたらあいつも、あの国で罪を犯したんじゃないか」
みんなが一斉にウルフに視線を向けた。
「たとえば、あの国のルールを破ったとか…あのルールに従うには…優し過ぎたんじゃないか」
「でもさあ」
バットが、鼻の下をこすっていた人差し指を太ももに置いた。鼻の下が少し赤くなってる。
「俺たち、生まれた時から吸血鬼だったじゃん」
「だから…俺も一裕のことが不思議でならないんだ…」

「…あれ、例の一裕って奴、どこ行った?」
バットがソファにもたれたまま顔をあっちこっちに向けて一裕を探し始めた。蓮くんも一裕に電話をかけた。
ツーツーツー
一裕は電話に出ない。圭吾くんが玄関に一裕の靴があるかどうか確認しに行った。
「一裕お兄さんの靴、あるよ」
圭吾くんの声が玄関から廊下を伝ってリビングに響く。
「ええ…どこ行ったんだ」
バットが玄関に向かう。
「おいおい、俺らこんなに靴、汚く脱いだか?」
みんなでバットと圭吾くんがいるところに向かう。玄関の靴は無造作に脱ぎ捨てられたような形で転がっていた。私の靴の片方は蓮くんの近くに転がっているけど、もう片方は靴箱の下にある。確かに靴を揃えてきたはずなのに。私の後ろにいたウルフがわずかに息を吸ったのが聞こえた。
「あいつ、とうとう、吸血鬼になったんじゃ」
蓮くんの顔が青ざめる。
「…やっばいねー」
バットが玄関のドアを開ける。匂いを嗅ぐような素振りを見せる。
「…さっきより…匂いが強くなっちゃったね…」
蓮くんがバットを押しのけて玄関を飛び出す。
ガシャン
玄関に立てかけられていたバットの自転車が倒れた。
「かずは今、どこにいる!」
蓮くんの目が血走っていた。自分の友達が、人を殺めるかもしれない。自分の友達が、この世界でも罪を犯してしまうかもしれない。蓮くんの血走った目がそう言っていた。

キキッ
ウルフがコウモリの姿に戻っていた。
「こっち」
ウルフが私たちを一裕のいる場所に案内するように飛び去っていく。その後ろを蓮くんが全速力で走っていく。
「君たち」
バットがさっき、蓮くんの倒した自転車を起き上がらせた。
「俺の後ろに乗んな」
そう言ってバットは圭吾くんとりこちゃんを後ろに乗せて勢いよく走りだす。りこちゃんは何も理解できていないような表情。圭吾くんの額から、汗が一筋流れたのが光って見えた。
「女子高生さん」
バットが自転車を漕ぎながら私の方を見て叫んだ。
「悪いけど、君は走っ…やっぱ、ダメ」
バットがその場で自転車から降りて、私を手招きする。
「君が自転車を漕いでくれる?」
私は少し座高の高いサドルにまたがった。
「若い女の人の汗の匂いって、刺激しちゃうのよ」
私はウルフと蓮くんを自転車で追いかける。その後ろをバットが走ってついてくる。どれだけ走り続けても、全く疲れた素振りを見せない。息も乱れていない。これが、吸血鬼なのか。ウルフが連れて行ってくれたのは、意外にも一裕の家だった。「ここが、匂いの源だ」
キキッ
ウルフは空中でポンと人間の姿に戻ると、スタっと地面に軽々と降り立った。蓮くんが一裕宅の玄関の戸を片手で押した。蓮くんはヒューヒューと息を切らせながら、肩を上下させている。
「かず…」
玄関には鍵がかかってなかった。
「入るぞ…」
蓮くんの声は、一裕に呼びかけているようにも、自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
「お前…何をやってんだ」
扉の向こうで蓮くんの戸惑った声がする。
「開けてみようか」
バットが扉に手を触れた。
「ウルフ、子どもたちのこと、しばらく見てやってくれ。子供には刺激の強すぎる光景が広がっているかもしれないからな」バットは静かに扉を押した。
「女子高生さん、名前、なに?」
「…佳奈美」
「佳奈美さん、覚悟決めや」
そう言ってバットは扉を開けた。圭吾くんとりこちゃんが不安な面持ちで、ウルフさんに肩を抱き寄せられながら私たちを見守っていた。
一裕の台所では床も机も、真っ赤に染まっていた。でも、それは血ではなかった。
「なんかさー、赤いものが見たくなっちゃって」
一裕がバケツの中で筆をバシャバシャと激しく動かしている。真っ赤な液体があたりに散る。
「小学校の時に使ってた絵具が残ってて良かったわ」
一裕は無我夢中で筆を動かす。一裕の目が、バットやウルフよりも怖い。
「…急いだ方が良いかもね。俺たちが一裕の変化に気付いたことを、何かに知られてしまったみたいだ」
バットが衝動的に床に散った赤い色水を舐めた。
「…変な味…」

蓮くんが筆を激しく振って、赤い色水で濡れた一裕の腕を握って止めた。
「…お前、自分が変だと思わないのか…」
バットが見守る。
「そんなのねえ。お前、自分が人間であることに違和感を抱かないのかって聞かれても困るのと同じでしょ」
バットが近づいて行って一裕の肩に右手を乗せた。
「むしろ、こっちの方が自然になりつつあるな」
バットが一裕の肩から右手をどける。バットは、ぬいぐるみを見ていた。以前、楓が消えた日、楓が残していった、あのぬいぐるみ。一裕が大切にしていた、あのぬいぐるみ。
「君は、あの世界にいた頃の記憶がないだけなのかなー」
バットが一裕に向き直った。一裕の顔は、赤い絵の具が飛び散って、ところどころ赤い点が付いていた。
「俺たちで、今から見てみよう。一裕の眠った記憶を呼び起こしてみよう」
パチン
バットが指を鳴らす。催眠術をかけられように、一裕は気を失って倒れる。蓮くんは膝からガクッとくずれ落ちて倒れる。蓮くんの頭が一裕の背中に叩きつけられる。めまいがする。世界が回って見える。床も天井もグニャグニャになって硬さを失ったよう。
ガン
私の頭がフローリングにぶつかった音が、頭の中に鈍く響く。

「大丈夫?」
目が覚めると、そこには私の知らない景色が広がっていた。エメラルドグリーンの草原。星雲のような紫色の空。
「俺たちの故郷へようこそ」
バットは、遠くの山に見える荘厳なお城を背景に私に手を差し伸べた。一裕と蓮くんは、まだめまいが治まっていないようで、頭を抱えたまま地面に座り込んでいた。

バットの手を握って私は立ち上がった。身体がフワッと浮いているように軽い。月面に立っている感じ。
「魂だけ持ってきたんだよ。身体があると、いろいろ不便だからね」
バットは一裕と蓮くんを両手で順番に立ち上がらせた。一裕と蓮くんは、まだ身体がフラフラと不安定に揺れている。
「さてと」
バットがお城の方に向かって草原を歩き出した。
「謎を解き明かしに行くぞ」
バットがフラフラとしている一裕と蓮くんの手を引いて歩いていく。私はその後を、ついていく。地面を踏みしめる感覚が全くないのが慣れなくて不思議。お城に近づいていくにつれ、空気が重くなっていく。人は、まだ誰もいない。
草原を抜けて山のふもとまで行くと、小さな関所みたいなものがある。見たことのない文字。バットが二人の手を引いたまま、看板に書かれた文字を読んでいた。
「…無視しちゃえ」
そのまま、バットは山の頂上に続く坂道を登り始めた。山を登っていくと、民家が現れ始めた。中世的な、レンガ造りの家。童話に迷い込んだみたい。
「あれ、昔の俺とウルフ」
蓮くんと一裕はめまいが治まったのか、バットの手を離してしっかりと立っていた。
「あれが、昔のお前?」
「そう」
バットが指さす方には、ボロボロに破れた布切れみたいな服を着た10歳くらいの男の子が二人いた。その子達は、私たちの存在に気付いていないみたい。地面に座り込んで、蟻の行列をよだれを垂らしながら見守っている子。こぶし大の大きな石をガジガジと噛んでいる子。
「で、俺はどこなの?」
一裕がその子らの瘦せこけた姿から目をそらすように、街を見回した。
「お前はね、もしかするとだけど」
そう言ってバットは頂上付近のお城を指さした。いや、お城の近くに立っている石で出来た牢獄みたいな建物を指さした。「俺、罪を犯したから、閉じ込められているの?」
一裕が絶望したようにその建物の全体をぼおっと見つめていた。
「いや、逆。閉じ込める側」
バットはそう言って、過去のバットたちをしばらく見守ると、牢獄の方へ歩き出した。私の知らない一裕が、一裕自身が知らない一裕が、私たちを待っている。私たちは、ふわりふわりとバットについていった。昔のバットとウルフは、まだ私たちの後ろで飢えたように地面に座り込んでいた。

私たちが牢獄に向かっていると、前から龍に乗って武装した若い男の人が飛んできた。龍の影が私たちを勢いよく通り過ぎて行った。低空飛行の飛行機みたいな迫力だった。
「あ、思い出した」
バットがもと来た方を振り返って、龍に乗った男の人の後ろ姿を見た。
「俺たち、自分で龍隊に志願して入ったんじゃなかったわ」
龍に乗った男の人の後ろ姿が小さくなっていく。10分くらい私たちはそこで立っていた。何をすればいいのかも分からず。蓮くんは、街の建物一つ一つを観察している。
「なんか、俺、ここに帰りたくなかった気がする」
一裕は空を仰ぎながら、独り言を言った。バットは、龍が飛んで行った方を見つめている。
バサッバサッ
龍に乗った男の人が戻ってきた。今度は、縄で縛られて必死に抵抗しているバットとウルフを連れて。
「…ついていこう。俺も…何か忘れている気がする」
バットが龍の後を走って追いかける。
「俺らも行こう」
蓮くんが走り出す。私がその後を走る。一裕がしばらく私達の後ろ姿を見送ると、遅れて走り出した。

牢獄に着いた。男の人が縄で縛ったバットたちを龍から降ろしながら、何か怒鳴っている。言葉が分からない。だけど、何を言っているのかはテレパシーみたいに心の中に入ってきた。
「来い!」
男の人はそう怒鳴って、バットたちを牢獄に押し込むようにして連れて行った。
「俺たちも入るぞ」
バットが、必死に抵抗する過去の自分を見つめる。
「みんなで確認しよう」
牢獄の扉が閉まり始めた。バットが急いでその隙間を走って通る。
「君たちもおいで」

牢獄の中は乾燥していた、バットたちの幼いうめき声と、男の人の足音だけが響いている。
ガシャン!
鉄の柵が勢いよく閉められる音がした。バットたちは柵の向こうで、投げられたような姿で横たわっていた。
「しばらくここにいろ」
倒れた少年たちの膝に付いたかすり傷をチラッと見てから男の人は私たちの方へ歩いてきて、そのまま通り過ぎて行った。

バットが鉄の柵に歩み寄る。そして横たわって息も絶え絶えになった、昔の自分とウルフを見下ろした。バットの目から涙が一筋流れた。
「俺、この時、このまま死ぬんだって思ってたわ…」
バットが鉄の柵を固く握っていた。蓮くん、一裕、私はそれを数メートル離れたところから見守ることしか出来なかった。
コツ…コツ…
男の人が戻ってきた。手にはパンのようなものが二つ握られていた。
ガシャ…
男の人が鉄の柵を開けて、バットたちの横に胡坐をかいて座ると、持っていたパンを一つずつバットたちの口に押し当てた。「とりあえず食え。ガキのくせに死人みたいな面を見せるな」
1時間くらい男の人は姿勢も崩さず、ただ黙って少年たちにパンを食べさせようとした。ウルフがやっと、一口パンにかぶりついた。バットはそうする体力すら残っていないようで、力なく横たわっている。服の上からバットの肋骨が、バットの呼吸に合わせて浮かび上がっては消えた。男の人が、パンを小さくちぎって無理やりバットの口の中に入れながら、少年たちにだけ聞こえるように小さな声で伝えた。
「お前たちは今から殺される…ふりをしろ…俺に…協力してくれ…」
バットが小さなパンのかけらをごくりと飲み込んだ。

男の人が二人の縄をほどいた。バットたちはパンを食べて、多少体力を取り戻したようで、男の人と向かい合うように座った。
「俺たちのこと、殺すのがおじさんの仕事でしょ」
ウルフが諦めきった表情で男の人を見ている。涙が流れた後は少しもない。
「そうだ…だから…演技をするんだ…」
そう言うと男の人は、突然、腕をまくるとどこからか取り出した短刀で自分の腕を切った。男の人の血がぼたぼたと濁流のように流れる。
「王国が龍隊の志願者を募集している。そこに行け。死ぬかもしれないが、生きられるかもしれない」
男の人の血が牢獄の石で出来た床を流れていく。血が苦手な一裕は口を押えて後ずさった。男の人は鉄の柵から、少年たちを追い出すようにして押し出した。
「絶対に孤児であることを誰にも知らせるな」
少年たちは顔を見合わせて牢獄を出口の方へ走っていった。腕から血を流した男の人がそれを最後まで見送っていた。少年たちの姿が見えなくなると、男の人は胸ポケットから包帯を取り出して止血し始めた。包帯を巻き終えて袖を戻す。さっきまで大量の血を流しているようには見えなかった。
カツ…カツ…
硬い足音が後ろから近づいてくる。男の人の上司のようだ。男の人が胸に手を当てて一礼する。
「孤児たちは始末いたしました」
上官らしき中年男性の足元に、血が流れる。
「よくやった」
中年男性はそれだけ言って去って行ってしまった。近くの龍舎で、男の人の乗っていたドラゴンが、グルルルル…と低く唸っていた。

上官が牢獄から出て行ったのを見届けると、男の人は血で汚れた床を一瞥してから、どこかに歩き去ってしまった。
「少し、時を進めてみるか」
バットが血に濡れた床に視線を落とす。
「知らなきゃ」
一裕は私たちの後ろで血から目を背けるようにして立っていた。
パチン…
バットが指を鳴らした音が牢獄に静かに響く。
「出てみよう」
バットは出口に向かって歩き出す。
牢獄から出ると、荒れ果てた民家が修築されて綺麗になっていた。新しい瓦が太陽に照らされて光っている。新しいペンキの匂いが充満している。赤ちゃんたちが増えた気がする。だけど、城の方が騒がしい。
「…行くか」
バットが騒音の方へ重い足取りで歩み始めた。騒音は城の広場からだった。野次馬たちが大量にいて、何か叫んでいる。
「殺せ!殺せ!」
老若男女問わず、拳を振り上げて叫んでいた。私たちはバットを先頭に群集をかき分けていく。群集は、二人の青年を囲んでいた。成長していたけれど、彼らは間違いなくバットとウルフだった。誰かに蹴られたような跡が顔についている。縄がきつく二人を縛っている。
「宣告!」
城から巻物を持った官僚みたいなおじさんが、マイクのようなものを前に叫んだ。群集が静まり返る。
「この忌まわしき魂は、何度生まれ変わろうと、永遠に血を求め続けること」
バットがギュッと両手を握りしめた。宣告文を聞いた群集は、さっきよりも大きな叫び声でバットたちを罵った。バットは城の方を充血した目で睨む。ウルフは、最初から分かっていたように地面を睨んでいる。城の方から長い槍を持った兵士が二人やってきた。察したように一裕は耳を塞いで目をつぶった。蓮くんは、彼らの最期を見届けた。バットの身体がガタガタと震えている。
ふわつ…
柔らかい何かが私の腕を撫でた。…圭吾くんだった…長い槍が二人を貫く。血が二人に口から噴き出る。
「お似合いだ」
兵士の一人が捨て台詞のように言った。バットたちが息絶えた。バットたちの身体が砂のように崩れ始めた。血が砂を染めていた。二人の身体が完全に砂のようになってしまうと、群集は歓喜の声を上げた。バットは、自分の身体だったものを見つめていた。

「来たぞ!」
群集の中の誰かが叫んだ。群集はまた叫び始めた。縄に縛られて、一人の男の人が連行されて地面に無理やり座らされた。そして、土下座させて、兵士の一人が男の人の頭を踏みつけた。男の人は、バットとウルフを逃がしたあの人だった。
「静粛に!」
さっきのおじさんがマイクの前で叫んだ。群集が静まり返る。
「この男は、二人の孤児を始末する責任を全うせず、聖なる龍隊に孤児を送り込んだ。我々を欺き、聖なる龍隊を汚した罪は計り知れず。よって!」
群集が宣告文に耳を傾ける。
「聖なる龍の生贄とする!」
群集は歓喜した。男の人が乗っていたあの竜が連れてこられる。男の人は、バットとウルフだった血と砂の塊に視線を向けた。
「…ごめんな…」
声にならないような声でつぶやくと、涙が男の人の目からこぼれ落ちた。
グチャッ
男の人が咀嚼される音が龍の口から聞こえてくる。
「あれが…」
バットが龍の口から滴り落ちる男の人の血を見ていた。
「あの男の人が、あんただったんだ…一裕…」
一裕は群衆から離れたところで耳を塞いでしゃがみ込んでいた。

三人の人が死んだ。バットとウルフと、もう一人の一裕。バットが群衆から離れて、地面に突っ伏するようにして座っている一裕に近づく。
「俺たちを救ったことが、君の罪だ…ありがとね」
バットが優しく一裕の背中をさすった。一裕の嗚咽する声が群衆の歓喜の中、弱弱しく聞こえた。
「さ、」
バットが立ち上がる。
「今度は、あのことを確かめなくちゃね」
バットが腰に手を当てて仰け反る。あのこと。楓くんと、翠さんと、宇宙人のことだ。蓮くんが一裕の肩を抱える。
「俺は悪くない…」
蓮くんに抱えられながら一裕が訴えるようにつぶやいた。


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2025/06/24 12:08

花火
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