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狭間に生きる僕ら

#16

仮面(3)

圭吾くんは、まだ何も話せないでいる。きっと、吸血鬼本人たちの前で言いたくないことを知っているんだろう。犯罪者。二人の言葉が引っかかる。バットと初めて会ったときに言っていた、堕とされたという言い方も気になる。知りたい。二人のことが。その時、前に私が峻兄ちゃんに言ったことを思い出した。
「人間が勝手に好奇心を持って語って良いような存在じゃない」
今、まさに自分が、ただの好奇心で二人の過去の傷をえぐろうとしてしまっていた。
「教えてあげるよ、俺らのこと」
ウルフとバットが、どこか遠い所を見つめながら教えてくれた。おばさんが作ってくれた光の玉が、すべて寿命を迎えた。

俺らね、ドラゴンがいた王国にいたのよ。だけどね、争いは絶えないわけ。毎日どこかで誰かが血を流していた。誰が手を血に染めていたと思う?俺たちだ。俺たちは孤児だった。親の名前なんて知らない。気付いたら、俺たちは孤児院に集められていた。おじいさんがたった一人で、50人くらいの孤児の面倒を見てくれた。俺はその中の一人だった。後からバットがやってきた。最初はみんな、飢えてギスギスだった。そんな俺らがどうして、人を殺すようなことをしなくちゃいけなくなったと思う?お腹が空いてたからじゃないぞ。おじいさんが亡くなったんだ。老衰でな。でも、俺たち孤児の存在は、国にとっては負担でしかなかった。教養もない。身分もない。俺たちは、不必要な存在だった。おじいさんが亡くなった日から、仲間が一人、また一人といなくなっていった。空腹で死んだ奴もいた。でも、訳もなく憲兵団に惨殺された奴もいた。たったの一週間で、生き残ったのは俺ら二人だけだった。このままでは、俺らも死ぬ。そう思って、荒れ果てた孤児院を抜け出した。龍隊の兵士になろうとしたんだ。龍に乗って、戦いに参加すればいいだけ。死ぬこと自体は怖くなかった。毎日空腹と戦ってたんだから。でも、誰かに命を訳もなく奪われるのだけは屈辱だったんだ。俺たちが龍隊に入ってから、5年。第一王女様が即位なさって、長年続いた争いが終わった。俺たちは、また不必要な存在になった。ただ不必要になったんじゃない。多くの罪を背負い過ぎていた。多くの命を奪い過ぎた。だから、俺たちは追放されたんだ。あの国から。

「バット、判決文を覚えているか」「忘れられるわけないな」

この忌まわしき魂は何度生まれ変わろうと、永遠に血を求め続けること

「血を求める。それは、誰かの死を求めること」
「俺たちはずーっと、怖がられなくちゃいけないわけ」
二人は話し終えると、同時に溜息を付いた。

「りこ、こわくない」
りこちゃんの言葉に、うなだれていたウルフとバットが顔を上げたのが分かった。圭吾くんは二人に挟まれてうなだれている。ウルフが思い出したようにバットを見る。
「ここ、俺ら以外には暗すぎるんじゃないか」
そう言ってウルフは、全員分の光の玉を回収して新しい電球を補充しに行った。
「怖くないかあ」
バットがウルフの後ろ姿を見送りながら、溜息交じりに言う。
「父さんと母さん以外からは初めて言ってもらったなあ」
「なあ」
「ん?」
バットの瞳が、蓮くんに向けられる。
「どうしてお前は圭吾を知っていたんだ」
圭吾くんの身体がビクッと震えた。
「こいつ?」
バットが圭吾くんの背中に手を軽く添えた。
「圭吾に教えてもらってない?こいつ、第一王女様の親友だったのよ。それで…」
バットの眼が圭吾くんに向けられる。その目は、わずかな寂しさを含んでいた。ウルフが光の玉を持って戻ってきた。
「そいつ、俺たちが処刑されるのを群集に交じって見てたのよ」
「僕のこと、嫌い?」
圭吾くんが久しぶりに口を開いた。
「第一王女様の近くにいて、ウルフさんとバットさんの助命嘆願をしなかった僕が嫌い?」
圭吾くんは依然としてうなだれたままだった。
「そんなことしてみろ、馬鹿。第一王女様のご親友であっても、生き埋めにされるだろうな」
ウルフが圭吾くんの隣に座って背中を優しく撫でた。
「俺たちの死体は、原形を留めてなかったけどな」
圭吾くんは小さく頷いた。
「嫌いじゃないよ。みーんな、何かしら仮面を被って生きてるんだ。俺たちは吸血鬼でありながら、人間として暮らしている。お前たちもそうだろ。言いたくないこと、見せたくないもの。それらを全部仮面の向こうに隠してる。どこの世界だっておんなじ。」
圭吾くんは何も言わずにうなだれていた。
「あのさ」
ウルフとバットが同時に一裕の方を見た。
「俺…誰も殺してないよ…」「そうだ」
蓮くんが自分の膝頭をピシャリと叩いた。
「お前らに相談したことがあるんだ。宇宙人ってどう思う?」
「宇宙人?」
ウルフとバットが独特なイントネーションで声を揃えた。

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2025/06/22 23:43

花火
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