圭吾くんは、まだ何も話せないでいる。きっと、吸血鬼本人たちの前で言いたくないことを知っているんだろう。犯罪者。二人の言葉が引っかかる。バットと初めて会ったときに言っていた、堕とされたという言い方も気になる。知りたい。二人のことが。その時、前に私が峻兄ちゃんに言ったことを思い出した。
「人間が勝手に好奇心を持って語って良いような存在じゃない」
今、まさに自分が、ただの好奇心で二人の過去の傷をえぐろうとしてしまっていた。
「教えてあげるよ、俺らのこと」
ウルフとバットが、どこか遠い所を見つめながら教えてくれた。おばさんが作ってくれた光の玉が、すべて寿命を迎えた。
俺らね、ドラゴンがいた王国にいたのよ。だけどね、争いは絶えないわけ。毎日どこかで誰かが血を流していた。誰が手を血に染めていたと思う?俺たちだ。俺たちは孤児だった。親の名前なんて知らない。気付いたら、俺たちは孤児院に集められていた。おじいさんがたった一人で、50人くらいの孤児の面倒を見てくれた。俺はその中の一人だった。後からバットがやってきた。最初はみんな、飢えてギスギスだった。そんな俺らがどうして、人を殺すようなことをしなくちゃいけなくなったと思う?お腹が空いてたからじゃないぞ。おじいさんが亡くなったんだ。老衰でな。でも、俺たち孤児の存在は、国にとっては負担でしかなかった。教養もない。身分もない。俺たちは、不必要な存在だった。おじいさんが亡くなった日から、仲間が一人、また一人といなくなっていった。空腹で死んだ奴もいた。でも、訳もなく憲兵団に惨殺された奴もいた。たったの一週間で、生き残ったのは俺ら二人だけだった。このままでは、俺らも死ぬ。そう思って、荒れ果てた孤児院を抜け出した。龍隊の兵士になろうとしたんだ。龍に乗って、戦いに参加すればいいだけ。死ぬこと自体は怖くなかった。毎日空腹と戦ってたんだから。でも、誰かに命を訳もなく奪われるのだけは屈辱だったんだ。俺たちが龍隊に入ってから、5年。第一王女様が即位なさって、長年続いた争いが終わった。俺たちは、また不必要な存在になった。ただ不必要になったんじゃない。多くの罪を背負い過ぎていた。多くの命を奪い過ぎた。だから、俺たちは追放されたんだ。あの国から。
「バット、判決文を覚えているか」「忘れられるわけないな」
この忌まわしき魂は何度生まれ変わろうと、永遠に血を求め続けること
「血を求める。それは、誰かの死を求めること」
「俺たちはずーっと、怖がられなくちゃいけないわけ」
二人は話し終えると、同時に溜息を付いた。
「りこ、こわくない」
りこちゃんの言葉に、うなだれていたウルフとバットが顔を上げたのが分かった。圭吾くんは二人に挟まれてうなだれている。ウルフが思い出したようにバットを見る。
「ここ、俺ら以外には暗すぎるんじゃないか」
そう言ってウルフは、全員分の光の玉を回収して新しい電球を補充しに行った。
「怖くないかあ」
バットがウルフの後ろ姿を見送りながら、溜息交じりに言う。
「父さんと母さん以外からは初めて言ってもらったなあ」
「なあ」
「ん?」
バットの瞳が、蓮くんに向けられる。
「どうしてお前は圭吾を知っていたんだ」
圭吾くんの身体がビクッと震えた。
「こいつ?」
バットが圭吾くんの背中に手を軽く添えた。
「圭吾に教えてもらってない?こいつ、第一王女様の親友だったのよ。それで…」
バットの眼が圭吾くんに向けられる。その目は、わずかな寂しさを含んでいた。ウルフが光の玉を持って戻ってきた。
「そいつ、俺たちが処刑されるのを群集に交じって見てたのよ」
「僕のこと、嫌い?」
圭吾くんが久しぶりに口を開いた。
「第一王女様の近くにいて、ウルフさんとバットさんの助命嘆願をしなかった僕が嫌い?」
圭吾くんは依然としてうなだれたままだった。
「そんなことしてみろ、馬鹿。第一王女様のご親友であっても、生き埋めにされるだろうな」
ウルフが圭吾くんの隣に座って背中を優しく撫でた。
「俺たちの死体は、原形を留めてなかったけどな」
圭吾くんは小さく頷いた。
「嫌いじゃないよ。みーんな、何かしら仮面を被って生きてるんだ。俺たちは吸血鬼でありながら、人間として暮らしている。お前たちもそうだろ。言いたくないこと、見せたくないもの。それらを全部仮面の向こうに隠してる。どこの世界だっておんなじ。」
圭吾くんは何も言わずにうなだれていた。
「あのさ」
ウルフとバットが同時に一裕の方を見た。
「俺…誰も殺してないよ…」「そうだ」
蓮くんが自分の膝頭をピシャリと叩いた。
「お前らに相談したことがあるんだ。宇宙人ってどう思う?」
「宇宙人?」
ウルフとバットが独特なイントネーションで声を揃えた。
「人間が勝手に好奇心を持って語って良いような存在じゃない」
今、まさに自分が、ただの好奇心で二人の過去の傷をえぐろうとしてしまっていた。
「教えてあげるよ、俺らのこと」
ウルフとバットが、どこか遠い所を見つめながら教えてくれた。おばさんが作ってくれた光の玉が、すべて寿命を迎えた。
俺らね、ドラゴンがいた王国にいたのよ。だけどね、争いは絶えないわけ。毎日どこかで誰かが血を流していた。誰が手を血に染めていたと思う?俺たちだ。俺たちは孤児だった。親の名前なんて知らない。気付いたら、俺たちは孤児院に集められていた。おじいさんがたった一人で、50人くらいの孤児の面倒を見てくれた。俺はその中の一人だった。後からバットがやってきた。最初はみんな、飢えてギスギスだった。そんな俺らがどうして、人を殺すようなことをしなくちゃいけなくなったと思う?お腹が空いてたからじゃないぞ。おじいさんが亡くなったんだ。老衰でな。でも、俺たち孤児の存在は、国にとっては負担でしかなかった。教養もない。身分もない。俺たちは、不必要な存在だった。おじいさんが亡くなった日から、仲間が一人、また一人といなくなっていった。空腹で死んだ奴もいた。でも、訳もなく憲兵団に惨殺された奴もいた。たったの一週間で、生き残ったのは俺ら二人だけだった。このままでは、俺らも死ぬ。そう思って、荒れ果てた孤児院を抜け出した。龍隊の兵士になろうとしたんだ。龍に乗って、戦いに参加すればいいだけ。死ぬこと自体は怖くなかった。毎日空腹と戦ってたんだから。でも、誰かに命を訳もなく奪われるのだけは屈辱だったんだ。俺たちが龍隊に入ってから、5年。第一王女様が即位なさって、長年続いた争いが終わった。俺たちは、また不必要な存在になった。ただ不必要になったんじゃない。多くの罪を背負い過ぎていた。多くの命を奪い過ぎた。だから、俺たちは追放されたんだ。あの国から。
「バット、判決文を覚えているか」「忘れられるわけないな」
この忌まわしき魂は何度生まれ変わろうと、永遠に血を求め続けること
「血を求める。それは、誰かの死を求めること」
「俺たちはずーっと、怖がられなくちゃいけないわけ」
二人は話し終えると、同時に溜息を付いた。
「りこ、こわくない」
りこちゃんの言葉に、うなだれていたウルフとバットが顔を上げたのが分かった。圭吾くんは二人に挟まれてうなだれている。ウルフが思い出したようにバットを見る。
「ここ、俺ら以外には暗すぎるんじゃないか」
そう言ってウルフは、全員分の光の玉を回収して新しい電球を補充しに行った。
「怖くないかあ」
バットがウルフの後ろ姿を見送りながら、溜息交じりに言う。
「父さんと母さん以外からは初めて言ってもらったなあ」
「なあ」
「ん?」
バットの瞳が、蓮くんに向けられる。
「どうしてお前は圭吾を知っていたんだ」
圭吾くんの身体がビクッと震えた。
「こいつ?」
バットが圭吾くんの背中に手を軽く添えた。
「圭吾に教えてもらってない?こいつ、第一王女様の親友だったのよ。それで…」
バットの眼が圭吾くんに向けられる。その目は、わずかな寂しさを含んでいた。ウルフが光の玉を持って戻ってきた。
「そいつ、俺たちが処刑されるのを群集に交じって見てたのよ」
「僕のこと、嫌い?」
圭吾くんが久しぶりに口を開いた。
「第一王女様の近くにいて、ウルフさんとバットさんの助命嘆願をしなかった僕が嫌い?」
圭吾くんは依然としてうなだれたままだった。
「そんなことしてみろ、馬鹿。第一王女様のご親友であっても、生き埋めにされるだろうな」
ウルフが圭吾くんの隣に座って背中を優しく撫でた。
「俺たちの死体は、原形を留めてなかったけどな」
圭吾くんは小さく頷いた。
「嫌いじゃないよ。みーんな、何かしら仮面を被って生きてるんだ。俺たちは吸血鬼でありながら、人間として暮らしている。お前たちもそうだろ。言いたくないこと、見せたくないもの。それらを全部仮面の向こうに隠してる。どこの世界だっておんなじ。」
圭吾くんは何も言わずにうなだれていた。
「あのさ」
ウルフとバットが同時に一裕の方を見た。
「俺…誰も殺してないよ…」「そうだ」
蓮くんが自分の膝頭をピシャリと叩いた。
「お前らに相談したことがあるんだ。宇宙人ってどう思う?」
「宇宙人?」
ウルフとバットが独特なイントネーションで声を揃えた。
- 1.開始せよ(1)
- 2.開始せよ(2)
- 3.開始せよ(3)
- 4.扉(1)
- 5.扉(2)
- 6.灰色(1)
- 7.灰色(2)
- 8.灰色(3)
- 9.混血(1)
- 10.混血(2)
- 11.混血(3)
- 12.いのち(1)
- 13.いのち(2)
- 14.仮面(1)
- 15.仮面(2)
- 16.仮面(3)
- 17.思い出せ(1)
- 18.思い出せ(2)
- 19.楓(1)
- 20.楓(2)
- 21.兄の過去(1)
- 22.兄の過去(2)
- 23.伝えられなかった「すき」 エピソード1
- 24.海の少年(1)
- 25.海の少年(2)
- 26.伝えられなかった「すき」 エピソード 2
- 27.王国の真実(1)
- 28.王国の真実(2)
- 29.王国の真実(3)
- 30.王国の真実(4)
- 31.王国の真実(5)
- 32.桜
- 33.眠った記憶(1)
- 34.眠った記憶(2)
- 35.眠った記憶(3)
- 36.眠った記憶(4)
- 37.眠った記憶(5)
- 38.記憶よ、目覚めよ(1)
- 39.記憶よ、目覚めよ(2)
- 40.記憶よ、目覚めよ(3)
- 41.休憩タイム(1)
- 42.休憩タイム(2)
- 43.休憩タイム(3)
- 44.伝えられた「すき」
- 45.謎解きゲーム(1)
- 46.謎解きゲーム(2)
- 47.隠された宇宙(1)
- 48.隠された宇宙(2)
- 49.隠された宇宙(3)
- 50.隠された宇宙(4)
- 51.死者の想い(1)
- 52.死者の想い(2)
- 53.死者の想い(3)
- 54.死者の想い(4)
- 55.親子(1)
- 56.親子(2)
- 57.親子(3)
- 58.親子(4)
- 59.親子(5)
- 60.こどもたち(1)
- 61.こどもたち(2)
- 62.ほこり(1)
- 63.ほこり(2)
- 64.食う(1)
- 65.食う(2)
- 66.食う(3)
- 67.本当の自分(1)
- 68.本当の自分(2)
- 69.本当の自分(3)
- 70.宿題との戦いの末、2人の高校生男子「死す」
- 71.別れ(1)
- 72.別れ(2)
- 73.喧騒に紛れて
- 74.仮面を脱げ
- 75.名前は
- 76.虚構と真実
- 77.ヨミガエル
- 78.迷宮
- 79.橋を渡る、境目を越える
- 80.罪人の証
- 81.真実との対峙
- 82.扉を開ける前に
- 83.浜辺の宵
- 84.目隠し
- 85.鏡の中
- 86.夜明け
- 87.誕生日
- 88.真実の足枷
- 89.覚悟の時
- 90.逃避
- 91.罪と真実と
- 92.父の懺悔
- 93.best friend
- 94.兄弟
- 95.境界線