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狭間に生きる僕ら

#93

best friend

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「何だよ…はは……そういう事かよ」

俺とバットは実家が近くて、幼い頃から一緒に公園で遊んできた仲だ。道行く人に、本当の兄弟のようだと頻繁に言われてきた。特に顔が似ているわけではないのに何故なのか不思議に思っていたが、俺とバットが前世で異母兄弟だったなら納得だ。

「俺もバットもさ…俺達が初めてお前らに会った時のこと、覚えてるか?」

サファイヤが海水浴場の砂浜で死んだように眠っている時、他の人は男子高校生が溺れていると慌てふためいていた中、バットだけはサファイヤが人間でないことを見抜いた。

蓮の実家の近くの雑木林からエメラルドが姿を現したあの晩も、あいつの雰囲気を察知しただけで、地球上の生き物でないことが俺には分かった。

そして、アローの後ろでピンボケして写っていたソクヒョンの姿を見て、俺達はコイツが俺達と同類の吸血鬼である事が分かった。

理由なんて無い。

全てはただの直感だ。

「それも、前世で俺達に宮司龍臣の血が流れていた名残か?」
俺は独り言のように、寝起きのようなぼんやりとした顔で宙を見つめながら、ブツブツと呟いていた。
「……かもな」
エメラルドが元気なくそう返事してから、部屋は沈黙に包まれた。お葬式の日に、遠い親戚同士で控室にいる時のような、居心地の悪い気不味さが俺達3人を包み込む。

「ふぅ……」
重い空気に抗うような溜息をついて、エメラルドは悔やむように話し始めた。
「俺達が今、お前に言った記憶、ソクヒョンに映像で見せたんだ。ソクヒョンの無意識下に残っていた記憶を忠実に再現して……」

ピンポーン

俺の部屋のドアベルが鳴った。俺達は一斉に玄関の方を振り向いた。

宅配便を頼んだ覚えはない。もしかしたら、新しい入居者が挨拶をしに来たのかもしれない。或いは、父さんか母さんが抜き打ちで俺の様子を見に来たのかもしれない。

ピンポーン

「お前ら、隠れろ!!」
俺は声を落として、2人に何処でも良いから隠れるように言った。エメラルドは狼姿になると、ベットの下の陰に身を潜め、サファイヤはカエル姿になるとベットの近くの窓際をわざとらしくピョンピョンと跳ね始めた。間違えて部屋の中に入ってしまったカエルの振りをしているらしかった。

「はい」
心臓が激しく胸を叩き、震える声を俺は必死に抑えてインターホンに出た。
『あ…ウルフ…?』
インターホンの向こうから、不安気なバットの声が聞こえた。
『いや…その…呼んだ?』
「え…いや…?」
ドアベルを鳴らしたのがバットだと分かると、エメラルドとサファイヤは安心したように人間姿に戻り、俺の隣に立った。
『何となく…お前に呼ばれた気がして…その…』
「入れよ」
俺がそう返事した時には、俺の身体は既に玄関に向かっていた。俺がそう気付いた時には、俺の身体は既に玄関の扉を開けていた。
「ウルフ…」
俺が扉を開けた勢いが強すぎた為か、バットは一瞬だけビクッと身体を震わせて数歩後退りした。
「よ…呼んでなかったなら良いんだよ」
気不味そうにぎこちなく踵を返して帰ろうとするバットの腕を、俺は無意識に強く握っていた。
「ウルフ…?」
バットの血が腕を流れる感覚が俺の手のひらに伝わってくる。
「ソクヒョンの前世…」
俺は何となくバットの顔を直視出来なくて、俺はバットが履いている赤と黒のスニーカーの模様を目でなぞっていた。
「あいつの前世…?」
バットの小指が反応したようにピクリと小さく動いた。
「あ、お前らもいたんだ」
俺の背後から俺達の様子を静かに見守っていたエメラルドとサファイヤにバットが気付いた。

スッ…

俺の背後で、エメラルドが静かに息を吸った。
「バット。お前が来てくれて良かった。ソクヒョンの吸血鬼化は、ウルフとバットに対する罪悪感が根源にある。ソクヒョンの吸血鬼化を治せるのは、宇宙の中でもお前ら2人しかいない」
エメラルドは諭すように、俺に腕を強く掴まれたままのバットに語った。バットはエメラルドにそう言われると、不思議そうに目をパチクリさせて首を傾げた。
「なんでソクヒョンが俺とウルフに罪悪感なんて持つわけ」
バットの黒い瞳に、少し曇った水色の光が反射する。サファイヤの瞳だ。バットは俺とサファイヤの顔を交互に見比べると、あの日を思い出したのか、ハッと短く息を吸った。
「前世でソクヒョンが俺とウルフを処刑に導いたって仮定が……マジだった……ってこと?」

俺達は先日、3人で俺のアパートに集まって、ソクヒョンが吸血鬼化してしまう理由を勝手に色々と考えていた。その中で出た仮定が、「宮司龍臣がウルフとバットを死に導いた」というものだった。俺がサファイヤに、ソクヒョンと一緒に前世を見に行ってくれと頼んだのには、根拠のない想定ばかりをするよりは、手っ取り早く真実を確かめた方が良いという考えもあったが、本当は信じたくないような気持ちで、その仮定が嘘である事をいち早く確かめたかったという気持ちがあった。

だが、俺達の願いは余りにも脆かった。

真実は、俺達が思っていたよりもずっと残酷だった。

俺はこの時、人生で初めて真実を恨む気持ちを抱いた。

「バット。俺達が直接ソクヒョンに許しの言葉を与えないといけない」
バットの手首で脈が静かに手を運んでいく感覚が、汗ばんだ俺の手のひらに伝わってくる。
「ウルフ…」
バットは俺の指先、手首、腕をなぞる視線を動かし、少し怯えた様子で俺の顔を見た。外の生ぬるい風が部屋の中に流れ込み、部屋の冷気が外に逃げていく。空は既に薄暗くなり、電柱の電灯がポツポツと点き始めた。不安気に点滅した白い光の街灯は、バットの背中をチカチカと不規則に照らしている。
「バット…」
今まで怖くてバットの顔を見ることが出来なかった俺は、ようやく顔を上げることが出来た。バットの表情は、俺達の陰で見えづらかった。ただバットの真っ黒な瞳だけが、部屋の中の照明の光を反射して、か細い光を宿していた。
「覚悟して聞けよ。ソクヒョンの前世は……」
バットの喉仏が大きく上下した。

もしかしたら、今までみたいに、ごく普通の親友同士の間柄には戻れないかもしれない。

だけど、俺はバットに、前世での出来事を伝えねばならない。

親友として。

数少ない吸血鬼仲間として。

「兄」として。

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「はぁ…?!そんなの…」
俺はバットに、俺がエメラルドとサファイヤの2人から聞いたこと全てを伝えた。何も隠さず、全てを。バットは失望したように力無く肩を落としたが、自分を納得させるように何度も何度も静かに頷いた。
「どちらにしろ…俺達の従獣が腹違いの兄弟だと知っていたとしても知らなかったとしても…俺達はあの時に死ぬ運命だったんだよ」
バットの腕が、生温い汗で湿っている。
バットの瞳の奥に宿った光までもが、バットの後ろにある電灯と同じように不安気に点滅しているように見えた。

ポタン…

バットの腕を掴む俺の手の甲に、生暖かい水滴が一滴流れた。

これは、バットの額から流れた汗だったのか。

或いは、バットが流した涙だったのか。

「まぁ…入れよ」
俺はバットの腕を引っ張った。バットの身体が、いつもの何倍も何十倍も重く感じた。
「あぁ…」
バットは俯いたまま元気なく頷き、トボトボとした足取りで玄関に入った。そして、俺達を包んでいた重苦しい空気を振り払うように、バットは大きく腕を上に伸ばして伸びをした。そして、腕を下ろして自分の顔を両手でパンっと軽く叩いた。
「バット…」
部屋の照明を全身に浴びたバットの後ろ姿に掛けた俺の声は、死ぬ寸前なのかと思うほどか細かった。
「ん〜?」
それでも、バットは迷いなくクルリと俺の方を振り向いた。バットの瞳は、もう揺れてはいなかった。バットの瞳の奥に、光はしっかりと宿っていた。
「これからも俺の友達でいてくれるか」

カチャ…

玄関の方から、サファイヤが扉を静かに閉めた音が聞こえた。
「何言ってんの。俺達は今もこれからもずっと親友だよ」

未だに気温は高いけど、季節だけは知らぬ間に過ぎていく。

夏が幕を下ろすまで、あと僅か。

バットが俺に向けた笑顔は、夏の終わりの夜をふっ飛ばしてしまうくらいに明るかった。
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2025/09/09 07:55

花火
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