放課後のチャイムが鳴ると、教室のざわめきがゆっくり薄れていった。
新しいクラスの空気はまだ硬くて、誰もが遠慮がちに席を立つ。
凛は鞄を閉じながら、夕奈の席を見た。
夕奈はノートをしまい、静かに立ち上がろうとしていた。
その横顔は、昼休みの屋上で見たときよりも少しだけ暗い影を帯びていた。
――名前を呼んだだけで、あんな顔をするなんて。
胸の奥がざわつく。
理由を知りたいのに、聞く勇気がまだない。
夕奈が教室を出ようとした瞬間、凛の足が勝手に動いた。
「夕奈」
呼んだ声は、思ったよりも小さかった。
それでも夕奈は立ち止まり、ゆっくり振り返る。
「……凛くん?」
その声は、昼休みよりも少しだけ硬い。
凛は息を整えながら言った。
「今日……その、屋上のこと。気にしてるなら、気にしなくていいから」
夕奈は一瞬だけ目を伏せた。
その表情は、まるで何かを抱え込むようだった。
「……ありがとう。でもね、気にしないようにするほうが難しいんだ」
「どうして?」
夕奈は答えない。
ただ、廊下の窓から差し込む光を見つめた。
「凛くんが優しいから……余計に思い出しちゃうの」
「思い出したくないこと?」
夕奈は小さく息を飲んだ。
その肩がわずかに震えた。
「……うん。できれば、忘れたいこと」
その言葉は、凛の胸に重く落ちた。
中学のあの日――夕奈が理由も告げずに凛を振った日。
その裏に、夕奈自身が“忘れたい何か”を抱えている。
「夕奈……俺、何かした?」
凛がそう言うと、夕奈は慌てて首を振った。
「違うの。凛くんは悪くない。むしろ……優しすぎるくらい」
「じゃあ、なんで――」
言いかけた瞬間、夕奈は凛の言葉をそっと遮った。
「ごめん。今日は帰るね」
夕奈は弱く微笑んだ。
その笑顔は、痛みを隠すためのものだった。
「また明日」
そう言って、夕奈は廊下を歩き出した。
その背中は、近いのに遠い。
手を伸ばせば届きそうなのに、触れたら壊れてしまいそうだった。
凛はただ、その背中を見送るしかできなかった。
近づくほど、離れていく。
夕奈の影は、春の光の中で静かに濃くなっていった。
新しいクラスの空気はまだ硬くて、誰もが遠慮がちに席を立つ。
凛は鞄を閉じながら、夕奈の席を見た。
夕奈はノートをしまい、静かに立ち上がろうとしていた。
その横顔は、昼休みの屋上で見たときよりも少しだけ暗い影を帯びていた。
――名前を呼んだだけで、あんな顔をするなんて。
胸の奥がざわつく。
理由を知りたいのに、聞く勇気がまだない。
夕奈が教室を出ようとした瞬間、凛の足が勝手に動いた。
「夕奈」
呼んだ声は、思ったよりも小さかった。
それでも夕奈は立ち止まり、ゆっくり振り返る。
「……凛くん?」
その声は、昼休みよりも少しだけ硬い。
凛は息を整えながら言った。
「今日……その、屋上のこと。気にしてるなら、気にしなくていいから」
夕奈は一瞬だけ目を伏せた。
その表情は、まるで何かを抱え込むようだった。
「……ありがとう。でもね、気にしないようにするほうが難しいんだ」
「どうして?」
夕奈は答えない。
ただ、廊下の窓から差し込む光を見つめた。
「凛くんが優しいから……余計に思い出しちゃうの」
「思い出したくないこと?」
夕奈は小さく息を飲んだ。
その肩がわずかに震えた。
「……うん。できれば、忘れたいこと」
その言葉は、凛の胸に重く落ちた。
中学のあの日――夕奈が理由も告げずに凛を振った日。
その裏に、夕奈自身が“忘れたい何か”を抱えている。
「夕奈……俺、何かした?」
凛がそう言うと、夕奈は慌てて首を振った。
「違うの。凛くんは悪くない。むしろ……優しすぎるくらい」
「じゃあ、なんで――」
言いかけた瞬間、夕奈は凛の言葉をそっと遮った。
「ごめん。今日は帰るね」
夕奈は弱く微笑んだ。
その笑顔は、痛みを隠すためのものだった。
「また明日」
そう言って、夕奈は廊下を歩き出した。
その背中は、近いのに遠い。
手を伸ばせば届きそうなのに、触れたら壊れてしまいそうだった。
凛はただ、その背中を見送るしかできなかった。
近づくほど、離れていく。
夕奈の影は、春の光の中で静かに濃くなっていった。