昼休みが終わり、教室に戻ると、さっきまでのざわめきが嘘みたいに静かになった。
新しいクラスの空気はまだ固くて、誰もが様子を探りながら席に座る。
凛は自分の席に戻りながら、夕奈の背中を見た。
屋上での会話が、まだ胸の奥に残っている。
――中学のこと、いつか話す。
その言葉は嬉しいはずなのに、どこか不安を連れてきた。
夕奈が“言えない”理由。
それが何なのか、考えれば考えるほど胸がざわつく。
「凛くん」
名前を呼ばれて、凛は顔を上げた。
夕奈が、少しだけ不安そうな表情でこちらを見ていた。
「さっき……屋上で言ったこと、気にしないでね」
「気にするよ。夕奈が言ったんだし」
夕奈は視線を落とした。
その仕草は、まるで何かを隠すようだった。
「……ごめん。ほんとは、言わないほうがよかったのかもしれない」
「どうして?」
夕奈は答えない。
ただ、机の端を指でなぞるように触れた。
その指先が震えているのを見て、凛は息を飲んだ。
「夕奈……」
名前を呼ぶと、夕奈はびくりと肩を揺らした。
まるでその名前が痛みのように響いたかのように。
「……ごめん。ちょっと、びっくりしただけ」
夕奈は笑おうとしたが、その笑顔はうまく形にならなかった。
「凛くんに名前呼ばれるの、久しぶりだから」
その言葉は、優しさよりも寂しさのほうが強かった。
凛は胸が締めつけられるのを感じた。
名前を呼ぶだけで、夕奈がこんな顔をする理由。
それが分からないことが、余計に苦しかった。
「……呼んじゃだめだった?」
凛がそう言うと、夕奈は慌てて首を振った。
「違うの。だめじゃない。むしろ……嬉しいよ」
夕奈は小さく息を吸い、続けた。
「でもね、凛くんに名前呼ばれると……中学のこと、思い出しちゃうから」
その声は、震えていた。
凛は言葉を失った。
夕奈が“思い出したくない何か”を抱えていることだけが、はっきり分かった。
チャイムが鳴り、授業が始まる。
夕奈は前を向いたまま、もう何も言わなかった。
凛はただ、夕奈の背中を見つめるしかできなかった。
名前を呼ぶだけで痛む記憶。
その記憶の正体を、凛はまだ知らない。
春の光が教室に差し込み、ふたりの影を静かに揺らした。
止まっていた時間は、また少しだけ重くなる。
新しいクラスの空気はまだ固くて、誰もが様子を探りながら席に座る。
凛は自分の席に戻りながら、夕奈の背中を見た。
屋上での会話が、まだ胸の奥に残っている。
――中学のこと、いつか話す。
その言葉は嬉しいはずなのに、どこか不安を連れてきた。
夕奈が“言えない”理由。
それが何なのか、考えれば考えるほど胸がざわつく。
「凛くん」
名前を呼ばれて、凛は顔を上げた。
夕奈が、少しだけ不安そうな表情でこちらを見ていた。
「さっき……屋上で言ったこと、気にしないでね」
「気にするよ。夕奈が言ったんだし」
夕奈は視線を落とした。
その仕草は、まるで何かを隠すようだった。
「……ごめん。ほんとは、言わないほうがよかったのかもしれない」
「どうして?」
夕奈は答えない。
ただ、机の端を指でなぞるように触れた。
その指先が震えているのを見て、凛は息を飲んだ。
「夕奈……」
名前を呼ぶと、夕奈はびくりと肩を揺らした。
まるでその名前が痛みのように響いたかのように。
「……ごめん。ちょっと、びっくりしただけ」
夕奈は笑おうとしたが、その笑顔はうまく形にならなかった。
「凛くんに名前呼ばれるの、久しぶりだから」
その言葉は、優しさよりも寂しさのほうが強かった。
凛は胸が締めつけられるのを感じた。
名前を呼ぶだけで、夕奈がこんな顔をする理由。
それが分からないことが、余計に苦しかった。
「……呼んじゃだめだった?」
凛がそう言うと、夕奈は慌てて首を振った。
「違うの。だめじゃない。むしろ……嬉しいよ」
夕奈は小さく息を吸い、続けた。
「でもね、凛くんに名前呼ばれると……中学のこと、思い出しちゃうから」
その声は、震えていた。
凛は言葉を失った。
夕奈が“思い出したくない何か”を抱えていることだけが、はっきり分かった。
チャイムが鳴り、授業が始まる。
夕奈は前を向いたまま、もう何も言わなかった。
凛はただ、夕奈の背中を見つめるしかできなかった。
名前を呼ぶだけで痛む記憶。
その記憶の正体を、凛はまだ知らない。
春の光が教室に差し込み、ふたりの影を静かに揺らした。
止まっていた時間は、また少しだけ重くなる。