屋上の扉を開けると、春の風がふたりを迎えた。
校庭の桜が遠くに見えて、花びらが風に乗ってゆっくり舞っている。
夕奈は手すりの近くまで歩き、弁当を置いた。
凛も少し離れた場所に座る。
近すぎず、遠すぎず――その距離は、今のふたりにとって自然だった。
「風、気持ちいいね」
夕奈がぽつりと言う。
その声は、教室よりも少しだけ柔らかかった。
「……うん」
凛は返事をしながら、夕奈の横顔を盗み見る。
光に照らされた頬、揺れる髪。
中学の頃と同じなのに、どこか違う。
夕奈は弁当の蓋を開けながら、ふっと笑った。
「高校の屋上って、なんか特別な感じするね。ドラマみたい」
「ドラマ……?」
「うん。こういう場所で、誰かと話すのって、ちょっと緊張する」
夕奈はそう言って、凛のほうを見た。
その瞳は、ほんの少しだけ揺れていた。
凛は胸が熱くなるのを感じた。
夕奈が緊張している理由が、自分なのかもしれないと思うと、息が詰まりそうだった。
「……俺も、緊張してる」
言うと、夕奈は目を丸くした。
「凛くんが? なんで?」
「なんでって……そりゃ、夕奈と話すの、久しぶりだから」
夕奈は一瞬だけ視線を落とした。
その表情は、どこか痛そうで、どこか嬉しそうだった。
「……そっか」
風がふたりの間を通り抜ける。
桜の花びらがひとつ、夕奈の肩に落ちた。
夕奈はそれを指でそっと払う。
その仕草が、妙に綺麗で、凛は目を離せなかった。
「ねえ、凛くん」
夕奈が小さく呼ぶ。
「中学のときのこと……いつかちゃんと話すね」
凛は息を飲んだ。
その言葉は、ずっと待っていたものだった。
「……うん。聞きたい」
夕奈は弱く微笑んだ。
その笑顔は、どこか泣きそうで、どこか優しかった。
「でも今日は、まだ言えない。ごめんね」
「いいよ。急がなくて」
夕奈はほっとしたように息をついた。
ふたりの影が、屋上の床に並んで落ちている。
少し離れているのに、風が吹くたびに重なりそうになる。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、
ふたりはほとんど言葉を交わさず、ただ同じ風を感じていた。
止まっていた時間が、また少しだけ前へ進んだ。
校庭の桜が遠くに見えて、花びらが風に乗ってゆっくり舞っている。
夕奈は手すりの近くまで歩き、弁当を置いた。
凛も少し離れた場所に座る。
近すぎず、遠すぎず――その距離は、今のふたりにとって自然だった。
「風、気持ちいいね」
夕奈がぽつりと言う。
その声は、教室よりも少しだけ柔らかかった。
「……うん」
凛は返事をしながら、夕奈の横顔を盗み見る。
光に照らされた頬、揺れる髪。
中学の頃と同じなのに、どこか違う。
夕奈は弁当の蓋を開けながら、ふっと笑った。
「高校の屋上って、なんか特別な感じするね。ドラマみたい」
「ドラマ……?」
「うん。こういう場所で、誰かと話すのって、ちょっと緊張する」
夕奈はそう言って、凛のほうを見た。
その瞳は、ほんの少しだけ揺れていた。
凛は胸が熱くなるのを感じた。
夕奈が緊張している理由が、自分なのかもしれないと思うと、息が詰まりそうだった。
「……俺も、緊張してる」
言うと、夕奈は目を丸くした。
「凛くんが? なんで?」
「なんでって……そりゃ、夕奈と話すの、久しぶりだから」
夕奈は一瞬だけ視線を落とした。
その表情は、どこか痛そうで、どこか嬉しそうだった。
「……そっか」
風がふたりの間を通り抜ける。
桜の花びらがひとつ、夕奈の肩に落ちた。
夕奈はそれを指でそっと払う。
その仕草が、妙に綺麗で、凛は目を離せなかった。
「ねえ、凛くん」
夕奈が小さく呼ぶ。
「中学のときのこと……いつかちゃんと話すね」
凛は息を飲んだ。
その言葉は、ずっと待っていたものだった。
「……うん。聞きたい」
夕奈は弱く微笑んだ。
その笑顔は、どこか泣きそうで、どこか優しかった。
「でも今日は、まだ言えない。ごめんね」
「いいよ。急がなくて」
夕奈はほっとしたように息をついた。
ふたりの影が、屋上の床に並んで落ちている。
少し離れているのに、風が吹くたびに重なりそうになる。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、
ふたりはほとんど言葉を交わさず、ただ同じ風を感じていた。
止まっていた時間が、また少しだけ前へ進んだ。