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桜の下で、もう一度

#5

屋上に落ちる影

屋上の扉を開けると、春の風がふたりを迎えた。
校庭の桜が遠くに見えて、花びらが風に乗ってゆっくり舞っている。

夕奈は手すりの近くまで歩き、弁当を置いた。
凛も少し離れた場所に座る。
近すぎず、遠すぎず――その距離は、今のふたりにとって自然だった。

「風、気持ちいいね」

夕奈がぽつりと言う。
その声は、教室よりも少しだけ柔らかかった。

「……うん」

凛は返事をしながら、夕奈の横顔を盗み見る。
光に照らされた頬、揺れる髪。
中学の頃と同じなのに、どこか違う。

夕奈は弁当の蓋を開けながら、ふっと笑った。

「高校の屋上って、なんか特別な感じするね。ドラマみたい」

「ドラマ……?」

「うん。こういう場所で、誰かと話すのって、ちょっと緊張する」

夕奈はそう言って、凛のほうを見た。
その瞳は、ほんの少しだけ揺れていた。

凛は胸が熱くなるのを感じた。
夕奈が緊張している理由が、自分なのかもしれないと思うと、息が詰まりそうだった。

「……俺も、緊張してる」

言うと、夕奈は目を丸くした。

「凛くんが? なんで?」

「なんでって……そりゃ、夕奈と話すの、久しぶりだから」

夕奈は一瞬だけ視線を落とした。
その表情は、どこか痛そうで、どこか嬉しそうだった。

「……そっか」

風がふたりの間を通り抜ける。
桜の花びらがひとつ、夕奈の肩に落ちた。

夕奈はそれを指でそっと払う。
その仕草が、妙に綺麗で、凛は目を離せなかった。

「ねえ、凛くん」

夕奈が小さく呼ぶ。

「中学のときのこと……いつかちゃんと話すね」

凛は息を飲んだ。
その言葉は、ずっと待っていたものだった。

「……うん。聞きたい」

夕奈は弱く微笑んだ。
その笑顔は、どこか泣きそうで、どこか優しかった。

「でも今日は、まだ言えない。ごめんね」

「いいよ。急がなくて」

夕奈はほっとしたように息をついた。

ふたりの影が、屋上の床に並んで落ちている。
少し離れているのに、風が吹くたびに重なりそうになる。

昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで、
ふたりはほとんど言葉を交わさず、ただ同じ風を感じていた。

止まっていた時間が、また少しだけ前へ進んだ。

作者メッセージ

そーいえば最近ふりがなの付け方知ったw

2026/07/02 06:26

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