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桜の下で、もう一度

#3

すれ違う視線

教室が少しずつざわつき始めた。
新しいクラスの空気はまだ固くて、誰もが探り合うように席へ向かっていく。

藤宮凛は、自分の席に座りながら、そっと横目で橘夕奈を見た。
夕奈は窓際の席で、静かに筆箱を並べている。
その仕草は中学の頃と同じなのに、どこか遠く感じた。

――話しかけたい。
でも、どう話しかければいいのか分からない。

「ねぇ凛、写真部入るの?」
前の席になった男子が気軽に声をかけてきた。

「あ、うん……たぶん」
凛は曖昧に返事をしながら、夕奈の反応を気にしてしまう。

夕奈はその会話に気づいているはずなのに、
まるで聞こえないふりをするように視線を外していた。

その横顔が、少しだけ寂しそうに見えた。

チャイムが鳴り、担任が教室に入ってくる。
自己紹介が始まり、順番に名前が呼ばれていく。

「橘夕奈さん」

夕奈は立ち上がり、簡単に自己紹介をした。
声は落ち着いていて、どこか淡々としている。

凛はその声を聞くだけで胸がざわついた。
懐かしいのに、触れられない距離。

そして――

「藤宮凛くん」

名前を呼ばれた瞬間、夕奈の肩がわずかに揺れた。
ほんの一瞬だけ、凛のほうを見た。

その視線は、驚きでも戸惑いでもなく、
言葉にできない何かを含んでいた。

凛は立ち上がり、自己紹介を終える。
席に戻ると、夕奈はもう前を向いていた。

すれ違う視線。
交わりそうで交わらない距離。

高校生活は始まったばかりなのに、
凛の心はもう落ち着く場所を失っていた。

作者メッセージ

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2026/06/30 06:31

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