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桜の下で、もう一度

#2

名前を呼べない

新しい教室は、まだ誰の色にも染まっていなかった。
窓から差し込む春の光が、机の上に淡く広がっている。

藤宮凛は、席表をもう一度見つめた。
自分の名前のすぐ近くに――橘夕奈。

心臓が、また小さく跳ねる。

教室に入ると、すでに何人かが席に座っていた。
その中に、夕奈の姿があった。

窓際の席。
頬に光を受けて、少しだけまぶしそうに目を細めている。
中学の頃よりも落ち着いた雰囲気で、でもどこか儚さが増していた。

凛は一瞬、足が止まった。
声をかけるべきなのに、喉が固まる。

――桜の下で「久しぶり」と言われたのに。

夕奈は気づいていないようで、静かにノートを開いていた。
その横顔を見ているだけで、胸がざわつく。

「おはよー! あ、新しい子?」

明るい声が凛の背中を押した。
同じクラスになった男子が話しかけてきて、凛は慌てて返事をする。

その声に反応したのか、夕奈がゆっくりと顔を上げた。
凛と目が合う。

一瞬だけ、夕奈の瞳が揺れた。
驚きでも、戸惑いでもない。
言葉にできない何かが、そこにあった。

凛は口を開こうとした。

「……たちば――」

名前が出ない。
夕奈の名前を呼ぶだけなのに、喉が痛いほど固まる。

夕奈は小さく微笑んだ。
その笑顔は、どこか寂しげだった。

「……おはよう、凛くん」

その声は、春風みたいに柔らかくて、
でも胸の奥を静かに刺した。

凛はただ、うなずくことしかできなかった。

高校生活は始まったばかりなのに、
もうすでに心が追いつかない。

夕奈の隣の席が空いている。
そこに座るべきなのか、座らないほうがいいのか――
凛はまだ決められなかった。

作者メッセージ

はい!おひめです!
コメント待ってるよん
※この小説ではリクエストは受け付けられない!ごめん!(いや、リクエストしたい人なんているのか?いるわけないな、うん)

2026/06/30 06:30

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