「ゼノのやつ逮捕されたってよ」
下校中、歩きスマホならぬ歩き読書中に壮くんが言った。
まるで「今日の天気って雨らしいな」と、心底どうでも良さそうに大分重大な事を言うので雰囲気と内容が噛み合わずにちょっぴり対応が遅れた。
「火薬実験でもして他所様の家でも燃やしたの?」
「いや、レールガン所持で州の銃規制に引っ掛かったらしい。親が保釈金支払ったから今頃はシャバでハンバーガーでも食ってるだろ」
「ふぅん」
ページを1ページ捲る。
大統領の機密会談を合法的に盗聴するのが趣味とか言ってた法の抜け穴を探すプロが警察にバレることをするなんて珍しい。
だけども、謎に抜けている部分もあるのでまぁ納得。
アメリカだから時間かかるけど今度出所祝いに何か送ってあげよう。
ここ数年は会ってないから好みの変化とか分からないので、定番の豆腐にしておく。
壮くんにも一応何を送るのか聞いたけど、やっぱり豆腐らしい。定番だもんね、韓国のだけど。
「今度、百貨店寄ったら買って送ってあげようよ」
「その辺のスーパーのでいいだろ。どうせ研究に没頭しすぎて賞味期限切れて捨てられるんだから」
「それも確かにね。じゃあ、中身はスーパーの木綿豆腐で外装だけは百貨店の高級豆腐風にしよ。ゼノくんの舌が試されるね」
「ふはっ、それいいじゃん。俺も手伝うわ」
私達が一瞬だけアメリカにいた時に出会った友人を思い浮かべながら校門を潜る。
下校も“前”と違って集団下校ではなく一斉下校。
まぁ、一斉と言っても最終下校時刻までに学校から出れば、後は好きなタイミングで好きな人と下校できる。
なので私はいつも壮くんと一緒に人並みが引いたタイミングで帰っている。
クラスの子からしたらそれが付き合っているうおうに見えるみたいで、時々茶化してくるけど、いちいち怒る私達でもない。
寛大な気持ちで聞き流している。壮くんは寛大とかじゃなくてどうでもいいだけだろと言っているけど、私が優しいんだよ。
あっ、そういや言い忘れてた。
「豆腐で思い出したんだけど、白夜さんちの千空くんがロケット作り本格的に始めたたいから人手欲しいって言ってたよ」
「待て待て、なんで豆腐で千空が出てくるんだ」
「えっ、だって豆腐って言えば豆腐白菜スープでしょ?白菜って言ったら千空じゃん」
「白菜といえば千空という発送に突っ込んだ方がいいか?」
「や、別に」
「あっそう⋯⋯⋯俺からはなんも言わないでおく。千空の方に日曜日二人で行くって連絡しとくわ」
「頼むよ」
携帯の持っていない私の連絡手段は触接対面か手紙に限られているので、こういう連絡はいつも壮くんに頼んでいる。
いやまぁ、兄さんに頼んでパソコンを使わさせてもらえないこともないんだけど、それがバレると両親に怒られてしまうので余程緊急じゃなかったら使わない。
それに人より抱える秘密が多めな私なので兄には見せたくないメールや資料が1つ2つぐらい………いや、嘘。
軽く50個は超えているので、パソコンや携帯はよほど緊急じゃない限り、共有のものは使いたくない。
わがままでごめんねっと、思ってもいない謝罪をすると、心の中のイマジナリーお兄ちゃんが「悪いと思ってんなら夜抜け出そうとするのを辞めろ」と言うところまで鮮明にイメージできてしまった。
というか、昨日実際に言われた言葉なんだけど。
なーんて実に創造性に欠ける妄想にも一旦区切りをつけて、また本の世界に戻る。
今日借りたのは司書さんがお薦めしてくれた本だ。幻想小説風だけど、濃密なミステリーが何とも言えないギャップを生み出していてどんどん物語に引き込まれる。
「お前さぁ、いい加減歩きながら本読むの辞めろよ」
「大丈夫。誰か引き止めてくれる人がいる時にしかやらないから」
「なにも大丈夫じゃねーよ。前見ろ」
「前見たって何にもないでしょ」
と、いいつつ前を向く。
すると目の前にはヒュンっと凄い勢いで自転車達が道路を走り抜けていった。
ブレーキに指をかけずにハンドルだけ握りしめていて、スピード減速という言葉を知らなさそうな子達だなぁっと言えば壮くんは呆れたようにため息を吐いた。
「俺が前見ろって言わなかったらそのまま行って事故ってただろ」
「? 壮くんが前見ろって言いたから大丈夫だったよ?」
「そういうことじゃねぇんだよなぁ〜〜〜」
はぁ。っと、また大きなため息をついて、壮くんは本を取り上げた。
慌てて取り返そうとするけど、身長差で優位に立つ壮くんには無駄な抵抗なようで、ひょいひょいっと私のジャンプを交わされる。
この本は私が買ったものではなく、学校の図書館から借りている本なので大事にして欲しいのだが……。
「なら下校中っていうか、外で歩いてる時は読書禁止だ。わかったな」
「でも、家じゃほとんど読めないから今読まないと………」
「でもじゃありませんっ!とにかく歩き読書は禁止!!」
「うぅ、夢野先生の新作なのにぃ……」
それでも眉を吊り上げて怒る壮くんに、私は叱られた子犬のようにぺしょりとない筈の耳としっぽを垂らした。
[中央寄せ]⌘[/中央寄せ]
壮くんに「歩きながら見るな」と念を押されて返してもらった本を抱えて家に着くと、ポストの中を確認する。
時々アメリカの友人達や英会話教室の先生なんかが手紙をくれるので毎日確認しちゃう。
まぁ、大抵は入って無いんだけど今日は珍しく入っていた。
薄いピンク色の手紙だ。無地でちょっと色がキツイ。
裏を返せば少し丸いけど止め跳ね払いのしっかりした字で、立花 祐樹様と書かれていた。
手紙の色字の感じから女の子なんだろうと推測出来る。
私が持っておくのも気まずいので早く兄に渡したいのだが、兄はいるのだろうか?
時間的もう出発していても可笑しくないので、居なかったらお兄ちゃんの部屋に置いておこうと思って玄関の扉を開けると、お兄ちゃんが腰掛けてバスケットシューズの紐を結んでいた。
「ただいまお兄ちゃん」
「ん」
おかえり、ということなんだろう。
最近反抗期らしくて会話は少なくなったし、態度もそっけないけど、普通に優しいし気遣いも出来る。
しかも、身長も高くて文武両道を地で行く兄はモテるのでこういう手紙も少なく無い。
「手紙入ってたけど、どうする?とりあえず、部屋に置いておこうか?」
「いや、いい」
そういうと手紙を受け取るた後、ちょっと眉にシワを寄せて立ち上がった。
私も端っこに寄って靴を脱いで揃えると、お兄ちゃんと入れ替わるようにしてエントランスに上がる。
「秀明はいつもの9時に迎えにいくからな」
「今日も迎えに来てくれるの?」
「……嫌か?」
「嫌なわけないじゃん!でも、毎回大変じゃない?夜遅いし」
「夜遅いから迎えにいくんだよ」
ペシっと優しく頭を叩かれる。
叩かれるというより、乱暴に撫でられるって表現が近いかもしれない。
「じゃ行ってくる」
「うん、じゃあ行ってらっしゃい。気をつけてね」
お兄ちゃんが小学生だった頃みたいに手を振らなくなったけど、お兄ちゃんは危ないからって言って毎回塾の終わりは迎えに来てくれる。
優しくて自慢のお兄ちゃんだ。
「あら、綾おかえりなさい」
ぴょこっと、シースルードアを開けてママが顔を覗かせた。
挨拶してくれたので私も挨拶して、ママが聞きたいであろうお兄ちゃんの出発を先に報告した。
「ただいまママ。お兄ちゃんなら今行ったよ」
「まったく、一言もいわなんだから。どこ行ったのかしら」
「バスケットシューズ履いてたから友達のとこじゃないかな?」
「はぁ……勉強は大丈夫だと思うけど、遊んでばかりも考えものね」
むしろ遊んでる方が珍しいと思うんだけどなぁ。
昨日だって何にも言わずに出かけて行ったけど、荷物的に遊びに出かけたんじゃなくて秀明に自習しに行ったんだと思うけど。
でもここで反論したらお兄ちゃんの味方をしていると思われちゃうからこの後ギスギスしちゃうしなぁ。
とうやって乗り切ろうと思っていたら、ドアの向こうから妹の声がした。
「ママ、早く!ごげちゃう!!」
そう言えばっと、スンっと鼻を澄ませると甘いクッキーの匂いがする。
奈子がせがんでママと一緒に焼いたんだろう。私もランドセルを部屋に置くと、洗面所で手洗いうがいをしてリビングに急ぐ。
甘い匂いが漂うリビングのテーブルには可愛いナプキンが広げられていて、鉄板の上に焼きたてのクッキーが並んでいた。
「わ、美味しそうに焼けたね」
「うん!奈子がぜんぶ型ぬきしたんだよ!」
「えっ。こんなにいっぱいあるのに奈子が一人でやったの?頑張ったね!」
「えへへ、奈子すごい?」
「とぉっても!」
すごいすごいっと奈子を褒めると、奈子ははにかんだように笑った。
この前まで幼稚園だった奈子のほっぺはまだ丸くて、身長も小さいから撫でるのにちょうどいい位置に頭がある。
いつか、この身長も私と並んだり、追い越したりするのかと思いながらサラサラの髪を撫でる。
「あのねぇ、奈子はねぇ、星とハートがほしいの」
「どっちも可愛いもんね」
「それだけじゃないよ。星はね自分で食べて、ハートは智くんにあげるんだ!」
随分と可愛らしい考えに思わずママも私もクスっと笑みが溢れた。
奈子の言う智くんは幼稚園のときから付き合っているらしいボーイフレンドだ。
家庭訪問に来た幼稚園の先生が言って、その時にママが公認して、パパも子供の戯れだろうと笑顔で許している。
残念ながら私は恋人とかは居ないので、逆にこいう身内の恋愛話を聞くのが楽しい。
だからいつも奈子の話を聞いているので、奈子と智くんの間柄を本人達より詳しくなってしまった。
まぁ、楽しいからいいや。
「ふふっ、奈子は智くんが大好きなんだね」
「うん!」
元気よく頷いた奈子の黒目がちの目がキラキラしていて綺麗だった。
「お姉ちゃんはどの形が欲しい?」
「お姉ちゃんは余ったのでいいよ」
「でも、」
割と本気で甘いものが苦手だけど、それを奈子に言うのはちょっと憚られた。なので遠回しにちょっとでいいと言ったけど、奈子はそれを遠慮だと受け取ったようで、眉を困ったように下げた。
やっぱりここはいるって言おうかと思ったとき、奈子が思いついたようにクッキーの山を引き寄せてナプキンを広げた。
「みんなおんなじにします!」
なんで敬語?っと思ったけど、奈子はナプキンを6つ並べてそれぞれに同じ形のクッキーを置いていく。
奈子が一つ、私が一つ、智くんが一つ、お兄ちゃんが一つ、ママが一つ、パパが一つ。
順番にそれを繰り返していく。
それにママは驚いたみたいで、あらっと声を上げたて、私も奈子の発想に驚いて目を見開いた。
「これでみんな平等でしょ」
「すごいわね。奈子、こんなのいつの間にか覚えたの?」
ママがそう聞くと、奈子は胸を張って「今考えた」と答えた。
それには思わず私とママは顔を見合わせて「教えてないもんね……?」と無言のやり取りをかわした後、正真正銘に奈子が自力で考えたんだと分かると、私達で奈子を褒めまくる。
「すごっ!この配り方自力で考えたなんで奈子天才すぎじゃない?」
「ほんとすごいわ。二人とも、奈子ぐらいの時は全部独り占めたり、そもそもお菓子食べようとしなかったから分け方なんて考えたことなかったわ」
「そーなの?」
「そうなのよ。祐樹は「全部食べる!」って言ってリスみたいにして食べてたし、綾は「毒だから食べない」って言って部屋の端っこにうずくまったりね」
「懐かし〜そんなことあったね」
本当は甘いのを食べたく無くて毒だって言ったけど、ママには子どの面白エピソードとして記憶されていたらしい。
そもその忘れてた欲しいのだけど、まぁバレてなかっただけましか。
奈子は話にお兄ちゃんの名前が出てきたので、ちょっと不安そうにお兄ちゃん用のナプキンに取り分けたクッキーを見つめた。
「お兄ちゃん、食べてくれるかなぁ」
「大丈夫だよ。今日お兄ちゃんが迎えにきてくれるって言ってたから、私が帰る時に奈子とママが一生懸命作りましたって言うの。そしたらきっとお兄ちゃん優しいから食べてくれるよ」
実際お兄ちゃんは奈子に甘いところがあるのでいけるだろう。
そう言って笑いかけると、奈子もふにゃっと笑って「ならお手紙もつけよう」っと言った。それに私も賛同して、奈子が好きそうな可愛いメモ用紙を渡した。
貰い物でぶっちゃけ私の趣味じゃなかったけど、奈子は気に入ったので奈子にあげることにした。
まだ一年生の奈子が本来の用途でメモ用紙が要るとはおもわないけど、使わないまま捨てるより使われた方がいいだろう。それがお手紙だろうとお絵描きに使われようともね。
下校中、歩きスマホならぬ歩き読書中に壮くんが言った。
まるで「今日の天気って雨らしいな」と、心底どうでも良さそうに大分重大な事を言うので雰囲気と内容が噛み合わずにちょっぴり対応が遅れた。
「火薬実験でもして他所様の家でも燃やしたの?」
「いや、レールガン所持で州の銃規制に引っ掛かったらしい。親が保釈金支払ったから今頃はシャバでハンバーガーでも食ってるだろ」
「ふぅん」
ページを1ページ捲る。
大統領の機密会談を合法的に盗聴するのが趣味とか言ってた法の抜け穴を探すプロが警察にバレることをするなんて珍しい。
だけども、謎に抜けている部分もあるのでまぁ納得。
アメリカだから時間かかるけど今度出所祝いに何か送ってあげよう。
ここ数年は会ってないから好みの変化とか分からないので、定番の豆腐にしておく。
壮くんにも一応何を送るのか聞いたけど、やっぱり豆腐らしい。定番だもんね、韓国のだけど。
「今度、百貨店寄ったら買って送ってあげようよ」
「その辺のスーパーのでいいだろ。どうせ研究に没頭しすぎて賞味期限切れて捨てられるんだから」
「それも確かにね。じゃあ、中身はスーパーの木綿豆腐で外装だけは百貨店の高級豆腐風にしよ。ゼノくんの舌が試されるね」
「ふはっ、それいいじゃん。俺も手伝うわ」
私達が一瞬だけアメリカにいた時に出会った友人を思い浮かべながら校門を潜る。
下校も“前”と違って集団下校ではなく一斉下校。
まぁ、一斉と言っても最終下校時刻までに学校から出れば、後は好きなタイミングで好きな人と下校できる。
なので私はいつも壮くんと一緒に人並みが引いたタイミングで帰っている。
クラスの子からしたらそれが付き合っているうおうに見えるみたいで、時々茶化してくるけど、いちいち怒る私達でもない。
寛大な気持ちで聞き流している。壮くんは寛大とかじゃなくてどうでもいいだけだろと言っているけど、私が優しいんだよ。
あっ、そういや言い忘れてた。
「豆腐で思い出したんだけど、白夜さんちの千空くんがロケット作り本格的に始めたたいから人手欲しいって言ってたよ」
「待て待て、なんで豆腐で千空が出てくるんだ」
「えっ、だって豆腐って言えば豆腐白菜スープでしょ?白菜って言ったら千空じゃん」
「白菜といえば千空という発送に突っ込んだ方がいいか?」
「や、別に」
「あっそう⋯⋯⋯俺からはなんも言わないでおく。千空の方に日曜日二人で行くって連絡しとくわ」
「頼むよ」
携帯の持っていない私の連絡手段は触接対面か手紙に限られているので、こういう連絡はいつも壮くんに頼んでいる。
いやまぁ、兄さんに頼んでパソコンを使わさせてもらえないこともないんだけど、それがバレると両親に怒られてしまうので余程緊急じゃなかったら使わない。
それに人より抱える秘密が多めな私なので兄には見せたくないメールや資料が1つ2つぐらい………いや、嘘。
軽く50個は超えているので、パソコンや携帯はよほど緊急じゃない限り、共有のものは使いたくない。
わがままでごめんねっと、思ってもいない謝罪をすると、心の中のイマジナリーお兄ちゃんが「悪いと思ってんなら夜抜け出そうとするのを辞めろ」と言うところまで鮮明にイメージできてしまった。
というか、昨日実際に言われた言葉なんだけど。
なーんて実に創造性に欠ける妄想にも一旦区切りをつけて、また本の世界に戻る。
今日借りたのは司書さんがお薦めしてくれた本だ。幻想小説風だけど、濃密なミステリーが何とも言えないギャップを生み出していてどんどん物語に引き込まれる。
「お前さぁ、いい加減歩きながら本読むの辞めろよ」
「大丈夫。誰か引き止めてくれる人がいる時にしかやらないから」
「なにも大丈夫じゃねーよ。前見ろ」
「前見たって何にもないでしょ」
と、いいつつ前を向く。
すると目の前にはヒュンっと凄い勢いで自転車達が道路を走り抜けていった。
ブレーキに指をかけずにハンドルだけ握りしめていて、スピード減速という言葉を知らなさそうな子達だなぁっと言えば壮くんは呆れたようにため息を吐いた。
「俺が前見ろって言わなかったらそのまま行って事故ってただろ」
「? 壮くんが前見ろって言いたから大丈夫だったよ?」
「そういうことじゃねぇんだよなぁ〜〜〜」
はぁ。っと、また大きなため息をついて、壮くんは本を取り上げた。
慌てて取り返そうとするけど、身長差で優位に立つ壮くんには無駄な抵抗なようで、ひょいひょいっと私のジャンプを交わされる。
この本は私が買ったものではなく、学校の図書館から借りている本なので大事にして欲しいのだが……。
「なら下校中っていうか、外で歩いてる時は読書禁止だ。わかったな」
「でも、家じゃほとんど読めないから今読まないと………」
「でもじゃありませんっ!とにかく歩き読書は禁止!!」
「うぅ、夢野先生の新作なのにぃ……」
それでも眉を吊り上げて怒る壮くんに、私は叱られた子犬のようにぺしょりとない筈の耳としっぽを垂らした。
[中央寄せ]⌘[/中央寄せ]
壮くんに「歩きながら見るな」と念を押されて返してもらった本を抱えて家に着くと、ポストの中を確認する。
時々アメリカの友人達や英会話教室の先生なんかが手紙をくれるので毎日確認しちゃう。
まぁ、大抵は入って無いんだけど今日は珍しく入っていた。
薄いピンク色の手紙だ。無地でちょっと色がキツイ。
裏を返せば少し丸いけど止め跳ね払いのしっかりした字で、立花 祐樹様と書かれていた。
手紙の色字の感じから女の子なんだろうと推測出来る。
私が持っておくのも気まずいので早く兄に渡したいのだが、兄はいるのだろうか?
時間的もう出発していても可笑しくないので、居なかったらお兄ちゃんの部屋に置いておこうと思って玄関の扉を開けると、お兄ちゃんが腰掛けてバスケットシューズの紐を結んでいた。
「ただいまお兄ちゃん」
「ん」
おかえり、ということなんだろう。
最近反抗期らしくて会話は少なくなったし、態度もそっけないけど、普通に優しいし気遣いも出来る。
しかも、身長も高くて文武両道を地で行く兄はモテるのでこういう手紙も少なく無い。
「手紙入ってたけど、どうする?とりあえず、部屋に置いておこうか?」
「いや、いい」
そういうと手紙を受け取るた後、ちょっと眉にシワを寄せて立ち上がった。
私も端っこに寄って靴を脱いで揃えると、お兄ちゃんと入れ替わるようにしてエントランスに上がる。
「秀明はいつもの9時に迎えにいくからな」
「今日も迎えに来てくれるの?」
「……嫌か?」
「嫌なわけないじゃん!でも、毎回大変じゃない?夜遅いし」
「夜遅いから迎えにいくんだよ」
ペシっと優しく頭を叩かれる。
叩かれるというより、乱暴に撫でられるって表現が近いかもしれない。
「じゃ行ってくる」
「うん、じゃあ行ってらっしゃい。気をつけてね」
お兄ちゃんが小学生だった頃みたいに手を振らなくなったけど、お兄ちゃんは危ないからって言って毎回塾の終わりは迎えに来てくれる。
優しくて自慢のお兄ちゃんだ。
「あら、綾おかえりなさい」
ぴょこっと、シースルードアを開けてママが顔を覗かせた。
挨拶してくれたので私も挨拶して、ママが聞きたいであろうお兄ちゃんの出発を先に報告した。
「ただいまママ。お兄ちゃんなら今行ったよ」
「まったく、一言もいわなんだから。どこ行ったのかしら」
「バスケットシューズ履いてたから友達のとこじゃないかな?」
「はぁ……勉強は大丈夫だと思うけど、遊んでばかりも考えものね」
むしろ遊んでる方が珍しいと思うんだけどなぁ。
昨日だって何にも言わずに出かけて行ったけど、荷物的に遊びに出かけたんじゃなくて秀明に自習しに行ったんだと思うけど。
でもここで反論したらお兄ちゃんの味方をしていると思われちゃうからこの後ギスギスしちゃうしなぁ。
とうやって乗り切ろうと思っていたら、ドアの向こうから妹の声がした。
「ママ、早く!ごげちゃう!!」
そう言えばっと、スンっと鼻を澄ませると甘いクッキーの匂いがする。
奈子がせがんでママと一緒に焼いたんだろう。私もランドセルを部屋に置くと、洗面所で手洗いうがいをしてリビングに急ぐ。
甘い匂いが漂うリビングのテーブルには可愛いナプキンが広げられていて、鉄板の上に焼きたてのクッキーが並んでいた。
「わ、美味しそうに焼けたね」
「うん!奈子がぜんぶ型ぬきしたんだよ!」
「えっ。こんなにいっぱいあるのに奈子が一人でやったの?頑張ったね!」
「えへへ、奈子すごい?」
「とぉっても!」
すごいすごいっと奈子を褒めると、奈子ははにかんだように笑った。
この前まで幼稚園だった奈子のほっぺはまだ丸くて、身長も小さいから撫でるのにちょうどいい位置に頭がある。
いつか、この身長も私と並んだり、追い越したりするのかと思いながらサラサラの髪を撫でる。
「あのねぇ、奈子はねぇ、星とハートがほしいの」
「どっちも可愛いもんね」
「それだけじゃないよ。星はね自分で食べて、ハートは智くんにあげるんだ!」
随分と可愛らしい考えに思わずママも私もクスっと笑みが溢れた。
奈子の言う智くんは幼稚園のときから付き合っているらしいボーイフレンドだ。
家庭訪問に来た幼稚園の先生が言って、その時にママが公認して、パパも子供の戯れだろうと笑顔で許している。
残念ながら私は恋人とかは居ないので、逆にこいう身内の恋愛話を聞くのが楽しい。
だからいつも奈子の話を聞いているので、奈子と智くんの間柄を本人達より詳しくなってしまった。
まぁ、楽しいからいいや。
「ふふっ、奈子は智くんが大好きなんだね」
「うん!」
元気よく頷いた奈子の黒目がちの目がキラキラしていて綺麗だった。
「お姉ちゃんはどの形が欲しい?」
「お姉ちゃんは余ったのでいいよ」
「でも、」
割と本気で甘いものが苦手だけど、それを奈子に言うのはちょっと憚られた。なので遠回しにちょっとでいいと言ったけど、奈子はそれを遠慮だと受け取ったようで、眉を困ったように下げた。
やっぱりここはいるって言おうかと思ったとき、奈子が思いついたようにクッキーの山を引き寄せてナプキンを広げた。
「みんなおんなじにします!」
なんで敬語?っと思ったけど、奈子はナプキンを6つ並べてそれぞれに同じ形のクッキーを置いていく。
奈子が一つ、私が一つ、智くんが一つ、お兄ちゃんが一つ、ママが一つ、パパが一つ。
順番にそれを繰り返していく。
それにママは驚いたみたいで、あらっと声を上げたて、私も奈子の発想に驚いて目を見開いた。
「これでみんな平等でしょ」
「すごいわね。奈子、こんなのいつの間にか覚えたの?」
ママがそう聞くと、奈子は胸を張って「今考えた」と答えた。
それには思わず私とママは顔を見合わせて「教えてないもんね……?」と無言のやり取りをかわした後、正真正銘に奈子が自力で考えたんだと分かると、私達で奈子を褒めまくる。
「すごっ!この配り方自力で考えたなんで奈子天才すぎじゃない?」
「ほんとすごいわ。二人とも、奈子ぐらいの時は全部独り占めたり、そもそもお菓子食べようとしなかったから分け方なんて考えたことなかったわ」
「そーなの?」
「そうなのよ。祐樹は「全部食べる!」って言ってリスみたいにして食べてたし、綾は「毒だから食べない」って言って部屋の端っこにうずくまったりね」
「懐かし〜そんなことあったね」
本当は甘いのを食べたく無くて毒だって言ったけど、ママには子どの面白エピソードとして記憶されていたらしい。
そもその忘れてた欲しいのだけど、まぁバレてなかっただけましか。
奈子は話にお兄ちゃんの名前が出てきたので、ちょっと不安そうにお兄ちゃん用のナプキンに取り分けたクッキーを見つめた。
「お兄ちゃん、食べてくれるかなぁ」
「大丈夫だよ。今日お兄ちゃんが迎えにきてくれるって言ってたから、私が帰る時に奈子とママが一生懸命作りましたって言うの。そしたらきっとお兄ちゃん優しいから食べてくれるよ」
実際お兄ちゃんは奈子に甘いところがあるのでいけるだろう。
そう言って笑いかけると、奈子もふにゃっと笑って「ならお手紙もつけよう」っと言った。それに私も賛同して、奈子が好きそうな可愛いメモ用紙を渡した。
貰い物でぶっちゃけ私の趣味じゃなかったけど、奈子は気に入ったので奈子にあげることにした。
まだ一年生の奈子が本来の用途でメモ用紙が要るとはおもわないけど、使わないまま捨てるより使われた方がいいだろう。それがお手紙だろうとお絵描きに使われようともね。