「紹介するぞ。端から、上杉 和典」
先生がまず最初に紹介したのは[漢字]縁[/漢字][ふりがな]フチ[/ふりがな]のないメガネを掛けた男の子だった。
私よりも色素の薄い茶髪で色白。中性的だけど、レンズ越しに光る目が知的で真っ直ぐ。「数の上杉」と呼ばれていると聞いて納得できるぐらい賢そうだ。
「隣が黒木 貴和。三谷Bクラスだが、欠席が多くて中々Cクラスに行けないところだ。さっき言ってた立花と同じタイプの生徒がこいつだ」
ああ先生が言ってたやつね。
黒木くんとやらを見つめれば青色が混じった目を細めて笑顔を向けられた。
身長も壮くんとそんなに変わらなさそうだから160cmは超えているのだろう。サラサラの黒髪と甘いマスクも合わせれば、さぞ女子にモテるに違いない。
私も向けられたも「対人スキル:日本人」を発動して軽く微笑む。
微笑むって言っても、口角を微微微微微微〜ってぐらいにほんのちょっと上げるだけ。多分、笑うって言うより、表情筋が痙攣起こしてるみたいな感じの顔だ。
「小塚 和彦。クラスは三谷C。『シャリの小塚』だ」
私の頭を通り過ぎたのはレーンに乗って流れてくるお寿司のご飯の部分。
不思議な顔をしている私に小塚くんは優しく「社会と理科のことだよ」と教えてくれた。三谷Cではそう言うらしい。
おっとりしていて、そばかすのある顔が素朴だけど優しさが滲み出ている。
こういう気遣い出来て、まるみのある雰囲気の子はたぶん大人……いや、社会人あたりからすごく人気がでるんだろう。モテる基準は小学校で足の速さ、中高は顔の良さ、大学は金の多さ、社会人は性格と収入だし。
「最後は三谷Bクラスの若武 和臣」
先生はその若武くんの肩を抱き寄せると、からかうような口調で説明をしてくれた。
曰く、『ウェーブの若武』と言って、波が激しいタイプらしい。調子がいい時はとことん良くて、悪い時は塾を辞めさせられるギリギリのところまでいくらしい。
その説明に若武くんは差別だと抗議していたけど、その反応が余計にからかいたくなるんだろう。私もついつい壮くんやっちゃうときあるもん。
そして先生は最後に私の肩に手を乗せて、みんなに向かって私の説明をした。
「この子の名前は立花 綾。みんな知ってるだろ、『エイコクの立花』だ」
私は知らないが?
というかエイコクって何?英国?私はいつからイギリス人になったんだ?ヨーロッパ旅行は行ったことあるけど、国籍は取得した覚えがないんだが……。
自分の話題なのに全く置いてけぼりな私をよそに、教室からは驚きの声が上がった。
「『エイコクの立花』……?」
「英検1級取ったらしいぜ」
「いつも国語満点で、最近はずっとオール100の立花?」
「休みがちだったからな。授業以外にも週のうちで行ける日を増やそうってことで、今週から特別クラスに来た。みんな仲良くしろよ」
個人情報保護観点の上でタップダンスをするな。と、突っ込みたい気持ちは抑えて黙って先生の話を聞いておく。
ここ来ても空気みたいなものだし、なんなら休む日のほうが多いだろうから別に仲間内のノリは好きにしてくれていい。
私は大勢の人と関わるのは苦手だけど、大勢がワチャワチャしてる感じは見ている分には好き。なんか、友達だけにしか見せない顔みたいなのが垣間見れるからいいよね。
我関せずで虚構を見つめてたら時間が経って、ようやく私のBクラスに帰れる時間が来た。授業後に特別クラス用のテキストを貰う約束だけして早々に退場しようとすると、若武くんに何故か呼び止められた。
Bクラスはここから離れてるのでさっさといきたいんだけど。
「挨拶は?」
「こんばんわ……?」
「そっちの挨拶じゃねぇよ!」
挨拶ってこれじゃないの?
きょとんと首を傾げる私に若武くんは「おまえ、新入りだろう。前からいる俺たちにちゃんと挨拶しろよ」と言った。
ああ、礼儀的な挨拶をして欲しかったのか。
謎が解けてスッキりしる反面、よくよく考えたら私はさっきの「こんばんわ」以外、この教室ではずっと喋ってない。たしかに挨拶ぐらいはして然るべきだよね。
「はじめまして、立花 綾です。短い期間になるかもしれませんが、みなさんよろしくお願いします」
ぶっちゃけ、一人一人の名前を覚えている自信もなかったので「みなさん」で、ざっくりまとめて言ったら、若武くんは「そうじゃない」とばかりに頭を抱えた。
一体なんなんだ……と、困惑していたら後ろから黒木くんが若武くんの肩を叩いた。
「おいおい若武、仲良くしようって素直に言えないのかよ」
「うっせぇ」
「悪いな立花。こいつ、気になる女子の口説き方も知らないガキなんだ」
はぁ、そうですか……としか言いようのない言い訳である。
黒木くんの様子からして冗談っぽいし、真に受ける方がダメだと判断して、袖をめくってお兄ちゃんが新しいのを買うからと言って、譲ってもらった腕時計を確認する。
滑り込みセーフでギリギリ間に合うぐらいだけど、急いだことに越したことはない時間だ。
「立花、その時計」
「お下がりだよ。じゃあ、私はこれで」
上杉くんの質問を素早く返して、私はそのまま走り去る。
ほんとうに時間がやばい。
[中央寄せ]⌘[/中央寄せ]
上杉 和典にとって、立花 綾は話題の有名人と同じ括りだ。
立花 綾が有名なのはいくつか理由があって、一番の理由はやっぱり毎月行われるテストだろう。
立花は毎度張り出されるテストの順位表の一番上に君臨し続けていた。
国語は絶対に一位、受験に必須ではないものの秀明が重要視して3回に1回行われる英語も毎回一位。
そしてついたあだ名が『エイコクの立花』だった。
何でエイコクになったかと言うと、あいつの喋る英語が「クイーンズ・イングリッシュ」と言って、イギリス風の英語だから、英国と掛けたらしい。
らしいというのは、上杉にイギリス英語とアメリカ英語の違いが分からず、黒木がそう言っていたからとしか言いようがないからだ。
いつも絶対に100点を取る教科が2個あって、他の教科も絶対に上位3位以内。
なんなら最近は全教科100点満点なんて馬鹿げた偉業をやり遂げたのに、クラスは三谷Bのまま。
何でだと疑問に思っていたが、その謎は簡単に解けた。
立花 綾は塾に来る日が多くない。
授業だけは出るが、自習はもちろん、他の季節ごとの講習はほとんど来ない。
自称立花の親友曰く、低学年の頃は小学校にも碌に通えないほどの病弱な女の子だったらしい。そいつは物知り顔で、学校に毎日行って、塾は本当に最低限だけど来てるだけ立花にとって進歩なんだと言っていた。
賢い上に美少女で病弱。
属性盛りすぎて、もはや最近流行りのネット小説かと疑いたくなるような設定だ。
周りはそんなあいつを病弱だけど、頑張って勉強している才女と持て囃して、勝手に尊敬するやつも嫉妬するやつらも出てきたりした。
噂としてはそれだけで十分だった。だけど、立花の容姿がさらにそれを助長させた。
立花 綾はただ単純に美しかった。
赤みがかった茶髪に、大きな目。マッチを乗せられそうなぐらい長いまつ毛をけぶらせて、淡いオレンジ色の唇を動か下してもよく出来た人形にしか見えないぐらい整った容姿をしていた。
嫉妬に狂った数人の女子が唐突に化粧落としをかけて顔を擦っても、アイメイクどころか口紅すら取れなかった話は、美貌にもっと価値を持たせるだけだった。
(※ちなみに、噂の本人はそれらの視線も噂も完璧にスルーしていた。兄と幼馴染が過保護になるのも頷ける鈍感さというか、周囲への無関心さである。)
そんな『エイコクの立花』こと、立花 綾を恋愛的に見る人間は男は大量にいた。
中には新しい扉を開きかけた女子も居たが、全員話しかける前に玉砕していった。なぜなら、立花 綾には彼氏がいるのだ。
話すときに立花 綾がその男を「壮くん」と読んでいること以外は名前は不明。
だけど、どう見たって背がたくて、眠たげな垂れ目のイケメン。
美少女という言葉が擬人化して服着ているみたいな立花と並んでも違和感がない。
家族公認で、迎えがない日は家族の代わりに秀明の玄関の前で待っていて、仲良く帰っていく。
その他でわかるのは立花も相当懐いているということ。雨の日は一緒に傘に入って帰るし、時々戯れるようにボディータッチもする。
それの事実に枕を濡らした人間は数知れず。次の日の講義は目をぱんぱんにしてやってきていた。
中にはそれに納得できないのもまぁいるわけで、そんな諦められないやつらの代名詞だったのが、若武 和臣という男だった。
最初はミーハーな噂に惹かれて、ワンチャン仲良くなったら付き合えたら目立てる!ぐらいの感覚だったんだろう。
いつの間にか日々立花への恋心を溢れさせるようになった。
今日だって、秀明の専用グラウンドが雨でぬかるんで使えず、近くの小学校のグラウンドを借りて練習するために移動していたら、その途中で先頭を突っ切っていた若武は突然派手にこけた。
文句のついでに理由を聞けば、「立花が居たから見てたらうっかりこけた」だと答える。
周りはポカンとしていて、上杉自信もはぁ?と言いつつ振り返ったら、確かに立花と思わしき女子が黒木と同じぐらいの背の男と帰っているのを見つけた。
男は立花が抱えていた本を取り上げて、立花はその本を取り返そうと、ジャンプするが届いていたない。
どう見たって彼女の荷物を取って、それを遠慮したけど全然返してくれい仲良しカップルの図だった。
諦めろと言ってやりたいが、こいつは諦めが最高に悪いのはそこそこの付き合いで知っていたので無駄だと分かっていた。
でも、今は言ってやった方が良かったかもしれないと、後悔している。
「入るぞ」
そう言って特別クラスの教室に入ってきたのは我らが江川ティーチャー。______そして、もう一人。
「この子の名前は立花 綾。みんな知ってるだろ、『エイコクの立花』だ」
噂の立花 綾、その人だった。
そのまま手が届かない高嶺の花であってくれたら進路が別々の学校に分かれて、若武も諦めがつくと思っていたのに。
なぜ、この狭い教室で手が届く距離に立花を置いたのか。
こんなところに生まれ持った悪運も発揮するな!と、上杉は内心思った。
小塚も上杉も驚いていたが、黒木だけは嘘っぽい笑顔を浮かべるだけで何もいわない。
もしかして知っていた……?いやいや、そんなはずは……っと、思っても誰の懐にでも入れる黒木なら事前に立花がこの教室に来るのをしっていたかもしれない。
そして更に最悪なのは、
「おまえ、新入りだろう。前からいる俺たちにちゃんと挨拶しろよ」
若武本人は自分の恋心に無自覚であるということだ。
先生がまず最初に紹介したのは[漢字]縁[/漢字][ふりがな]フチ[/ふりがな]のないメガネを掛けた男の子だった。
私よりも色素の薄い茶髪で色白。中性的だけど、レンズ越しに光る目が知的で真っ直ぐ。「数の上杉」と呼ばれていると聞いて納得できるぐらい賢そうだ。
「隣が黒木 貴和。三谷Bクラスだが、欠席が多くて中々Cクラスに行けないところだ。さっき言ってた立花と同じタイプの生徒がこいつだ」
ああ先生が言ってたやつね。
黒木くんとやらを見つめれば青色が混じった目を細めて笑顔を向けられた。
身長も壮くんとそんなに変わらなさそうだから160cmは超えているのだろう。サラサラの黒髪と甘いマスクも合わせれば、さぞ女子にモテるに違いない。
私も向けられたも「対人スキル:日本人」を発動して軽く微笑む。
微笑むって言っても、口角を微微微微微微〜ってぐらいにほんのちょっと上げるだけ。多分、笑うって言うより、表情筋が痙攣起こしてるみたいな感じの顔だ。
「小塚 和彦。クラスは三谷C。『シャリの小塚』だ」
私の頭を通り過ぎたのはレーンに乗って流れてくるお寿司のご飯の部分。
不思議な顔をしている私に小塚くんは優しく「社会と理科のことだよ」と教えてくれた。三谷Cではそう言うらしい。
おっとりしていて、そばかすのある顔が素朴だけど優しさが滲み出ている。
こういう気遣い出来て、まるみのある雰囲気の子はたぶん大人……いや、社会人あたりからすごく人気がでるんだろう。モテる基準は小学校で足の速さ、中高は顔の良さ、大学は金の多さ、社会人は性格と収入だし。
「最後は三谷Bクラスの若武 和臣」
先生はその若武くんの肩を抱き寄せると、からかうような口調で説明をしてくれた。
曰く、『ウェーブの若武』と言って、波が激しいタイプらしい。調子がいい時はとことん良くて、悪い時は塾を辞めさせられるギリギリのところまでいくらしい。
その説明に若武くんは差別だと抗議していたけど、その反応が余計にからかいたくなるんだろう。私もついつい壮くんやっちゃうときあるもん。
そして先生は最後に私の肩に手を乗せて、みんなに向かって私の説明をした。
「この子の名前は立花 綾。みんな知ってるだろ、『エイコクの立花』だ」
私は知らないが?
というかエイコクって何?英国?私はいつからイギリス人になったんだ?ヨーロッパ旅行は行ったことあるけど、国籍は取得した覚えがないんだが……。
自分の話題なのに全く置いてけぼりな私をよそに、教室からは驚きの声が上がった。
「『エイコクの立花』……?」
「英検1級取ったらしいぜ」
「いつも国語満点で、最近はずっとオール100の立花?」
「休みがちだったからな。授業以外にも週のうちで行ける日を増やそうってことで、今週から特別クラスに来た。みんな仲良くしろよ」
個人情報保護観点の上でタップダンスをするな。と、突っ込みたい気持ちは抑えて黙って先生の話を聞いておく。
ここ来ても空気みたいなものだし、なんなら休む日のほうが多いだろうから別に仲間内のノリは好きにしてくれていい。
私は大勢の人と関わるのは苦手だけど、大勢がワチャワチャしてる感じは見ている分には好き。なんか、友達だけにしか見せない顔みたいなのが垣間見れるからいいよね。
我関せずで虚構を見つめてたら時間が経って、ようやく私のBクラスに帰れる時間が来た。授業後に特別クラス用のテキストを貰う約束だけして早々に退場しようとすると、若武くんに何故か呼び止められた。
Bクラスはここから離れてるのでさっさといきたいんだけど。
「挨拶は?」
「こんばんわ……?」
「そっちの挨拶じゃねぇよ!」
挨拶ってこれじゃないの?
きょとんと首を傾げる私に若武くんは「おまえ、新入りだろう。前からいる俺たちにちゃんと挨拶しろよ」と言った。
ああ、礼儀的な挨拶をして欲しかったのか。
謎が解けてスッキりしる反面、よくよく考えたら私はさっきの「こんばんわ」以外、この教室ではずっと喋ってない。たしかに挨拶ぐらいはして然るべきだよね。
「はじめまして、立花 綾です。短い期間になるかもしれませんが、みなさんよろしくお願いします」
ぶっちゃけ、一人一人の名前を覚えている自信もなかったので「みなさん」で、ざっくりまとめて言ったら、若武くんは「そうじゃない」とばかりに頭を抱えた。
一体なんなんだ……と、困惑していたら後ろから黒木くんが若武くんの肩を叩いた。
「おいおい若武、仲良くしようって素直に言えないのかよ」
「うっせぇ」
「悪いな立花。こいつ、気になる女子の口説き方も知らないガキなんだ」
はぁ、そうですか……としか言いようのない言い訳である。
黒木くんの様子からして冗談っぽいし、真に受ける方がダメだと判断して、袖をめくってお兄ちゃんが新しいのを買うからと言って、譲ってもらった腕時計を確認する。
滑り込みセーフでギリギリ間に合うぐらいだけど、急いだことに越したことはない時間だ。
「立花、その時計」
「お下がりだよ。じゃあ、私はこれで」
上杉くんの質問を素早く返して、私はそのまま走り去る。
ほんとうに時間がやばい。
[中央寄せ]⌘[/中央寄せ]
上杉 和典にとって、立花 綾は話題の有名人と同じ括りだ。
立花 綾が有名なのはいくつか理由があって、一番の理由はやっぱり毎月行われるテストだろう。
立花は毎度張り出されるテストの順位表の一番上に君臨し続けていた。
国語は絶対に一位、受験に必須ではないものの秀明が重要視して3回に1回行われる英語も毎回一位。
そしてついたあだ名が『エイコクの立花』だった。
何でエイコクになったかと言うと、あいつの喋る英語が「クイーンズ・イングリッシュ」と言って、イギリス風の英語だから、英国と掛けたらしい。
らしいというのは、上杉にイギリス英語とアメリカ英語の違いが分からず、黒木がそう言っていたからとしか言いようがないからだ。
いつも絶対に100点を取る教科が2個あって、他の教科も絶対に上位3位以内。
なんなら最近は全教科100点満点なんて馬鹿げた偉業をやり遂げたのに、クラスは三谷Bのまま。
何でだと疑問に思っていたが、その謎は簡単に解けた。
立花 綾は塾に来る日が多くない。
授業だけは出るが、自習はもちろん、他の季節ごとの講習はほとんど来ない。
自称立花の親友曰く、低学年の頃は小学校にも碌に通えないほどの病弱な女の子だったらしい。そいつは物知り顔で、学校に毎日行って、塾は本当に最低限だけど来てるだけ立花にとって進歩なんだと言っていた。
賢い上に美少女で病弱。
属性盛りすぎて、もはや最近流行りのネット小説かと疑いたくなるような設定だ。
周りはそんなあいつを病弱だけど、頑張って勉強している才女と持て囃して、勝手に尊敬するやつも嫉妬するやつらも出てきたりした。
噂としてはそれだけで十分だった。だけど、立花の容姿がさらにそれを助長させた。
立花 綾はただ単純に美しかった。
赤みがかった茶髪に、大きな目。マッチを乗せられそうなぐらい長いまつ毛をけぶらせて、淡いオレンジ色の唇を動か下してもよく出来た人形にしか見えないぐらい整った容姿をしていた。
嫉妬に狂った数人の女子が唐突に化粧落としをかけて顔を擦っても、アイメイクどころか口紅すら取れなかった話は、美貌にもっと価値を持たせるだけだった。
(※ちなみに、噂の本人はそれらの視線も噂も完璧にスルーしていた。兄と幼馴染が過保護になるのも頷ける鈍感さというか、周囲への無関心さである。)
そんな『エイコクの立花』こと、立花 綾を恋愛的に見る人間は男は大量にいた。
中には新しい扉を開きかけた女子も居たが、全員話しかける前に玉砕していった。なぜなら、立花 綾には彼氏がいるのだ。
話すときに立花 綾がその男を「壮くん」と読んでいること以外は名前は不明。
だけど、どう見たって背がたくて、眠たげな垂れ目のイケメン。
美少女という言葉が擬人化して服着ているみたいな立花と並んでも違和感がない。
家族公認で、迎えがない日は家族の代わりに秀明の玄関の前で待っていて、仲良く帰っていく。
その他でわかるのは立花も相当懐いているということ。雨の日は一緒に傘に入って帰るし、時々戯れるようにボディータッチもする。
それの事実に枕を濡らした人間は数知れず。次の日の講義は目をぱんぱんにしてやってきていた。
中にはそれに納得できないのもまぁいるわけで、そんな諦められないやつらの代名詞だったのが、若武 和臣という男だった。
最初はミーハーな噂に惹かれて、ワンチャン仲良くなったら付き合えたら目立てる!ぐらいの感覚だったんだろう。
いつの間にか日々立花への恋心を溢れさせるようになった。
今日だって、秀明の専用グラウンドが雨でぬかるんで使えず、近くの小学校のグラウンドを借りて練習するために移動していたら、その途中で先頭を突っ切っていた若武は突然派手にこけた。
文句のついでに理由を聞けば、「立花が居たから見てたらうっかりこけた」だと答える。
周りはポカンとしていて、上杉自信もはぁ?と言いつつ振り返ったら、確かに立花と思わしき女子が黒木と同じぐらいの背の男と帰っているのを見つけた。
男は立花が抱えていた本を取り上げて、立花はその本を取り返そうと、ジャンプするが届いていたない。
どう見たって彼女の荷物を取って、それを遠慮したけど全然返してくれい仲良しカップルの図だった。
諦めろと言ってやりたいが、こいつは諦めが最高に悪いのはそこそこの付き合いで知っていたので無駄だと分かっていた。
でも、今は言ってやった方が良かったかもしれないと、後悔している。
「入るぞ」
そう言って特別クラスの教室に入ってきたのは我らが江川ティーチャー。______そして、もう一人。
「この子の名前は立花 綾。みんな知ってるだろ、『エイコクの立花』だ」
噂の立花 綾、その人だった。
そのまま手が届かない高嶺の花であってくれたら進路が別々の学校に分かれて、若武も諦めがつくと思っていたのに。
なぜ、この狭い教室で手が届く距離に立花を置いたのか。
こんなところに生まれ持った悪運も発揮するな!と、上杉は内心思った。
小塚も上杉も驚いていたが、黒木だけは嘘っぽい笑顔を浮かべるだけで何もいわない。
もしかして知っていた……?いやいや、そんなはずは……っと、思っても誰の懐にでも入れる黒木なら事前に立花がこの教室に来るのをしっていたかもしれない。
そして更に最悪なのは、
「おまえ、新入りだろう。前からいる俺たちにちゃんと挨拶しろよ」
若武本人は自分の恋心に無自覚であるということだ。