三雲の姉
#1
▼01
沈丁花の香る雑木林を抜けて、背丈の低い草木を掻き分けた先にあるボロボロの廃墟のような家。
小さな足を必死に動かして明らか私有地の場所に転がり込むようにして侵入したあの春の日に、私達は出会ったのだ。
灰を浴びたような白髪、春とは対極のような芽吹いた花々を全て凍らすような冷たいアイスブルーの瞳。その瞳で全身ボロボロで柵から不法侵入してきた子供を写して、こう言った。
「これは珍しいお客さんだ」
___“逃げるために不法侵入する度胸と生汚なさが気に入った”
そんな理由で、当時6歳だった私を家に招き入れた老人の名前はフォンセ。後に私に便利な主婦の小技のような技術から、銃器や飛行機の操縦まで覚えさせ、師匠と呼ぶことを強制させた自称元ドイツ軍人である。
そして、とんでもなくめんどくさい事を押し付けてきた戦犯でもある。
[中央寄せ]・
・
・[/中央寄せ]
「三雲 周です。好き嫌いも趣味も特にないので、高校生で探していけたらなって思っています。よろしくお願いします」
高校生活開幕の挨拶は、担任が提示したテンプレに乗っ取り名前と好きなものと趣味だけという実にシンプルなもの。
しかし、よく聞けば好きなものも趣味も何も明かしていないではないか!
周りも私の自己紹介に「アレ?」と思ったようだが、私が普通に席に座ればなんか納得いかなさそうだけど拍手をしてくれた。優しいクラスでよかったと改めて思いながら後ろの席の人の自己紹介に耳を傾ける。
「三輪 秀次です。好きなものはね……間違えしまた、ざる蕎麦です」
「ね」って何を言い間違えたの?猫?というか趣味は?
と、クラスメイトとはいえ初対面の同年代男子(装備:無表情)に聞けるコミュニケーション能力はまだちょっと芽生えて居なかったのでスルーで拍手。
私よりもインパクトがある自己紹介が来てくれたらお陰で私の存在は薄れたので、まぁよしとしよう。
別に話は目立たずに隠居生活みたいな高校生活を送りたいとかやれやれ系主人公のような事は言わないのだけど面倒ごとは嫌いだ。
だから当たり障りなく楽に不真面目に生きていきたい………今の所、当たり障りなく生きれた試しはないけど。
それからも自己紹介は続き、全員分が終わると書類関係、そのほか諸々の説明。それも終わると、お開きとなった。
私は真新しい鞄に荷物を詰めて早々に教室から出ようとしたが、なんかチャラそうな男子に呼び止められた。
「周〜、ちょっといい?」
「どうしたの」
いきなり名前呼び捨てか、結構馴れ馴れしいな……
と、思わず眉を顰めそうになったが、母から譲り受けた鋼の表情筋でなんとか耐えた。ここで嫌そうな顔をすると今後の学校生活にどんな影響が出るから分からないので。
ある程度の対処法は知っているけど、使わないにこしたことはないので波風立てずにしておこう。
「クラスでカラオケ行こ〜って話なんだけど、周も行く?」
「申し訳ないけど今日は用事あるの。私はパス」
「残念〜じゃあ三輪は?カラオケ行く?」
「俺も悪いがこれから防衛任務だ」
「あ、ボーダーって言ってたもんね」
街の平和をよろしくお願いしま〜すと、軽い調子で返して彼はすでに出来上がっているグループに入っていった。
ああいうコミュニケーション能力は羨ましいけど、交友関係が広過ぎて苦労するタイプだね、あの男子。
……まぁ、交友関係の広さについての苦労は私も人のこと言ってられないんだけど。
そそくさと扉から出れば後ろから三輪さんがついてきた。
まぁついてくるも何も、目的地は二人とも玄関なので当たり前なのだが。
「三輪さんってボーダーなんだな。悪い、全然話聞いてなかった」
「自己紹介のときは言ってないからな知らなくて当たり前だ。あと悪いが三輪さんっていうのは辞めてくれ。同級生に言われるとむず痒い」
「んー呼び捨てもあれだし、三輪くんって呼ばせて貰うよ。私も好きに呼んで」
そういえば三輪くんは「なら三雲と呼ぶ」と言われた。んー会話の発展なし!
初日履いたらしばらくは家の靴箱で眠ることになるであろうローファーに履き替えるとさっさと駅に向かって歩き出す。
そうすると三輪くんがいるので、おやおやっとなる。
私の家は蓮見市付近なので電車を使ってこの三門市立第一高等学校に来ているので駅に行くのだが、三輪が行くはずのボーダー本拠地は駅とは反対方向だ。
なのに三輪くんが居る。
思い浮かんだのは監視の2文字だが、初対面で近界民と思われそうな怪しい動きはしていない。
というか師匠にその辺仕込まれてる私がそんな初歩的なミスをするとは思えない。なら………
「三輪くん、こっちボーダーとは反対方向だよ」
「……知っている。アレは嘘だ」
「なるほどカラオケ参加がそんなに嫌だったのか。まぁ、気持ちは分からないでもないね。私も大音量で大して上手くもない歌を聴くのは嫌だし」
「家には一旦帰るが、実際にボーダーには訓練に行く予定だ」
大体予想はしていたが、なるほどと納得する。
だが、三輪はあまり嘘をつき慣れていないのかムッとして付け加えるように言い訳をした。
クラスメイトを傷つけたくないが、カラオケに付き合うのは嫌だから、防衛任務という三門市に住んでいれば誘いにくくなる嘘を盾に逃げてきたっと……。
うちの弟はそういう嘘はつかないけど、周りを傷つけまいとするその優しさに覚えがあったので、下に弟がいる姉としてちょっと庇護欲が上がった。
「そっか。じゃあそのことはクラス含めて黙ってるから、三輪くんも私が今からコンビニに寄ってから家に帰ることを黙っといてね」
「お前も嘘だったのか」
「心外だな、俺は別に用事がないなんて言ってないよ。途中のコンビニでからあげサンを買って帰って美味しく食べるっていう義務があるんだ」
「それは……用事か?」
「用事だよ。私にとってはね」
食は大事だよ。
途中までは三輪くんと当たり障りのない会話をして、分かれ道で解散した。
三輪くんは言っていた通りこの後ボーダーの基地に行って訓練、私はコンビニに寄ってからあげサン期間限定梅プロテイン味を買って家に帰る予定だけど、その前にバイトだ。
お小遣いとバイト以外に収入のない学生なので財布がちょっぴり寂しい。なので頑張って給料アップを目指そう。
っと、誰に言うでもない目標を決めてバイト先に向けて歩き出した。
小さな足を必死に動かして明らか私有地の場所に転がり込むようにして侵入したあの春の日に、私達は出会ったのだ。
灰を浴びたような白髪、春とは対極のような芽吹いた花々を全て凍らすような冷たいアイスブルーの瞳。その瞳で全身ボロボロで柵から不法侵入してきた子供を写して、こう言った。
「これは珍しいお客さんだ」
___“逃げるために不法侵入する度胸と生汚なさが気に入った”
そんな理由で、当時6歳だった私を家に招き入れた老人の名前はフォンセ。後に私に便利な主婦の小技のような技術から、銃器や飛行機の操縦まで覚えさせ、師匠と呼ぶことを強制させた自称元ドイツ軍人である。
そして、とんでもなくめんどくさい事を押し付けてきた戦犯でもある。
[中央寄せ]・
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・[/中央寄せ]
「三雲 周です。好き嫌いも趣味も特にないので、高校生で探していけたらなって思っています。よろしくお願いします」
高校生活開幕の挨拶は、担任が提示したテンプレに乗っ取り名前と好きなものと趣味だけという実にシンプルなもの。
しかし、よく聞けば好きなものも趣味も何も明かしていないではないか!
周りも私の自己紹介に「アレ?」と思ったようだが、私が普通に席に座ればなんか納得いかなさそうだけど拍手をしてくれた。優しいクラスでよかったと改めて思いながら後ろの席の人の自己紹介に耳を傾ける。
「三輪 秀次です。好きなものはね……間違えしまた、ざる蕎麦です」
「ね」って何を言い間違えたの?猫?というか趣味は?
と、クラスメイトとはいえ初対面の同年代男子(装備:無表情)に聞けるコミュニケーション能力はまだちょっと芽生えて居なかったのでスルーで拍手。
私よりもインパクトがある自己紹介が来てくれたらお陰で私の存在は薄れたので、まぁよしとしよう。
別に話は目立たずに隠居生活みたいな高校生活を送りたいとかやれやれ系主人公のような事は言わないのだけど面倒ごとは嫌いだ。
だから当たり障りなく楽に不真面目に生きていきたい………今の所、当たり障りなく生きれた試しはないけど。
それからも自己紹介は続き、全員分が終わると書類関係、そのほか諸々の説明。それも終わると、お開きとなった。
私は真新しい鞄に荷物を詰めて早々に教室から出ようとしたが、なんかチャラそうな男子に呼び止められた。
「周〜、ちょっといい?」
「どうしたの」
いきなり名前呼び捨てか、結構馴れ馴れしいな……
と、思わず眉を顰めそうになったが、母から譲り受けた鋼の表情筋でなんとか耐えた。ここで嫌そうな顔をすると今後の学校生活にどんな影響が出るから分からないので。
ある程度の対処法は知っているけど、使わないにこしたことはないので波風立てずにしておこう。
「クラスでカラオケ行こ〜って話なんだけど、周も行く?」
「申し訳ないけど今日は用事あるの。私はパス」
「残念〜じゃあ三輪は?カラオケ行く?」
「俺も悪いがこれから防衛任務だ」
「あ、ボーダーって言ってたもんね」
街の平和をよろしくお願いしま〜すと、軽い調子で返して彼はすでに出来上がっているグループに入っていった。
ああいうコミュニケーション能力は羨ましいけど、交友関係が広過ぎて苦労するタイプだね、あの男子。
……まぁ、交友関係の広さについての苦労は私も人のこと言ってられないんだけど。
そそくさと扉から出れば後ろから三輪さんがついてきた。
まぁついてくるも何も、目的地は二人とも玄関なので当たり前なのだが。
「三輪さんってボーダーなんだな。悪い、全然話聞いてなかった」
「自己紹介のときは言ってないからな知らなくて当たり前だ。あと悪いが三輪さんっていうのは辞めてくれ。同級生に言われるとむず痒い」
「んー呼び捨てもあれだし、三輪くんって呼ばせて貰うよ。私も好きに呼んで」
そういえば三輪くんは「なら三雲と呼ぶ」と言われた。んー会話の発展なし!
初日履いたらしばらくは家の靴箱で眠ることになるであろうローファーに履き替えるとさっさと駅に向かって歩き出す。
そうすると三輪くんがいるので、おやおやっとなる。
私の家は蓮見市付近なので電車を使ってこの三門市立第一高等学校に来ているので駅に行くのだが、三輪が行くはずのボーダー本拠地は駅とは反対方向だ。
なのに三輪くんが居る。
思い浮かんだのは監視の2文字だが、初対面で近界民と思われそうな怪しい動きはしていない。
というか師匠にその辺仕込まれてる私がそんな初歩的なミスをするとは思えない。なら………
「三輪くん、こっちボーダーとは反対方向だよ」
「……知っている。アレは嘘だ」
「なるほどカラオケ参加がそんなに嫌だったのか。まぁ、気持ちは分からないでもないね。私も大音量で大して上手くもない歌を聴くのは嫌だし」
「家には一旦帰るが、実際にボーダーには訓練に行く予定だ」
大体予想はしていたが、なるほどと納得する。
だが、三輪はあまり嘘をつき慣れていないのかムッとして付け加えるように言い訳をした。
クラスメイトを傷つけたくないが、カラオケに付き合うのは嫌だから、防衛任務という三門市に住んでいれば誘いにくくなる嘘を盾に逃げてきたっと……。
うちの弟はそういう嘘はつかないけど、周りを傷つけまいとするその優しさに覚えがあったので、下に弟がいる姉としてちょっと庇護欲が上がった。
「そっか。じゃあそのことはクラス含めて黙ってるから、三輪くんも私が今からコンビニに寄ってから家に帰ることを黙っといてね」
「お前も嘘だったのか」
「心外だな、俺は別に用事がないなんて言ってないよ。途中のコンビニでからあげサンを買って帰って美味しく食べるっていう義務があるんだ」
「それは……用事か?」
「用事だよ。私にとってはね」
食は大事だよ。
途中までは三輪くんと当たり障りのない会話をして、分かれ道で解散した。
三輪くんは言っていた通りこの後ボーダーの基地に行って訓練、私はコンビニに寄ってからあげサン期間限定梅プロテイン味を買って家に帰る予定だけど、その前にバイトだ。
お小遣いとバイト以外に収入のない学生なので財布がちょっぴり寂しい。なので頑張って給料アップを目指そう。
っと、誰に言うでもない目標を決めてバイト先に向けて歩き出した。