「初めまして、東京から来た来間 寧々子です。慣れないところは多いと思いますが、これからよろしくお願いします」
そう言って女、来間 寧々子は教卓の横でぺこりと頭を下げた。
そうすると、サラサラの黒髪が肩から溢れて雪を連想されせる白い首筋が見え隠れして、クラスのエロガキだけではなく既婚者の担任も思わずため息をついた。
東京から来た、べらぼうに可愛い顔の女の子。
そんな肩書を背負っていれば転校初日でもみんな話しかけに行ってクラスは煩いぐらいに湧く。
たとえ転校してきた本人が見るからに戸惑っていても遠慮を知らない子供はきゃーきゃー騒いで、早く仲良くなろうと強引に手を繋いででも外に連れ出そうとする。
ごめんね、体が弱いからあんまり外には出れないの。
えーっと、放課後は引っ越したてだから用事があるから………。
えっ、折り紙の交換?ごめん、折り紙持ってきてないの。
大晦日に紅白派だからガキ使は見ないよ。
れ、連絡先は……えーっと覚えてないや。お父さんのでいい?
雑談と遊びの誘いが混じり合ってあっちこっちから質問が飛んでくる聖徳太子状態になっても、寧々子は丁寧に一つ一つ答えていった。
だけども眉尻を下がっていて、見るからに困惑した表情だった。
孟は教室の扉の外から見えた状況に死ぬほど大きなため息を吐いて、目の前の扉を開けた。
寧々子のクラスメイトは兄弟の居ないこのクラスに尋ねてくることなんてほとんどなかった孟が突然現れたことに驚いた。
そして、彼が天使と見紛う美貌だが中身は悪魔より残忍で、曹操よりも容赦がない学校の問題児TOP3の頂点に君臨していることは誰もが知っていた。
だからそんな予想外で想定外な出来事に誰もが動きを止めて、彼の一挙一動を目を見開いて見つめた。
神様が丹精込めて作り上げた顔の問題児に気付いていないのは寧々子に夢中になっていたクラスのリーダー的存在である女子だけだった。
「寧々子ちゃんって可愛い名前やね!ねねちゃんって呼んでええ?」
「ねこ」
うるさいぐらいに響いた女子の声に被せるようにして、孟の声が発せられた。
「宮くんだ、まだ休み時間じゃないよ」
「何言っとんねん、もうとっくにチャイム鳴っとるわ。はよ図書館行くで」
「えっそうなん。話に夢中でわかんなかった……えーっとミサちゃんだっけ、ごめんね先に約束あるからまた後で話そう」
「えっあっはぁ?つ、つとむ!?」
「名前で呼ぶなや。気色悪いねん」
「宮くん宮くん、嫌っていうのは大事だけどその理由も言わないといけないって言ったところだよ」
「あーハイハイ。名前で呼ばれんのが嫌な繊細なお年頃なもんでな、勝手に孟って呼ばれると口からヨロイモグラゴキブリえずきそうになるぐらい気持ち悪ぅなるから辞めてほしいねんけど。…………なぁ、これでええ?」
「んーまぁ、ちゃんと言えてるしいいと思うよ」
ガバガバ判定すぎて笑う。
いつもの寧々子ならいくら将来有望な美少年でも、ここまで態度が悪いと着いていくのも迷うのだが、ぐるりと机を囲まれて質問攻めに合うのはしんどいので、さっさと彼に着いていく事を選んだ。
それに、幼稚園の時から寧々子の耳は子供に囲まれるのに慣れていないので口は悪いが、静かな孟の方がいいと判断したのだろう。
そうして、二人は一緒に教室を出て図書室に向かって歩き出した。
早く校庭に行ってさっさと遊びに行こうとする児童で溢れかえる教室だが、今日ばかりは誰もが足を止めて二人の進行方向に素早く道を譲った。
だって天使と見紛う美少年と、女神の落とし子かと思う美少女が肩を慣れべて歩いていたら誰だって手を合わせて祈りたくなる。というか、祈るしかなくない。
ちなみに幼稚園がカトリックだった子たちは故意か無意識かは知らないが、讃美歌を口ずさんでいた。
余はまさに少年少女大讃美時代、ありったけの賛美と信仰をかき集めてそのうち大天使になる。
そんで寧々子と孟が通るたびにテーマソングが流れてみんなで大合唱することになるよ。
ところ変わって図書室では転校初日にテーマソングが作られている二人組こと、来間 寧々子と宮 孟は読書スペースとして置かれている椅子に腰掛け何やら真剣な話し合いを始めようとしていた。
「それで、ミューズになって何?」
最初に会話の火蓋切ったのは寧々子。
スカートから覗く白い御御足を組んで、高圧的な態度で孟に話しかけた。
そう、彼らは朝の出会い以降は全くと言っていいほど話していない!
孟が魔法少j……じゃなかったミューズになってよ!と言ったあの次の瞬間、孟何故か時間を見て慌てたように階段を駆け上がっていった。
それにもっと慌てるのは寧々子の方だったが、今まで好き勝手していたにがどこかに行ったのはありがたかった。
なのでそのまま職員室に向かっていたら、階段からさっきおさらばしたばっかりの孟の声で思いきり、「詳しい話は休み時間の図書室で!」と叫ばれた。
孟の方はこれは約束だと思っているが、寧々子の方は押し付けられたものを都合よく利用しただけだと認識している。
うーん、語弊!
「そっからないな。ミューズっちゅうのは、」
「ミューズ自体は知ってるよ。確か、ギリシャ神話の9人の女神のこと。もしくは、芸術家や作家などの創造性にインスピレーションを与える人物や物事のことだったっけ。宮くんが言ってるのは後者の方でしょ」
「なんや、よう知っとるやん」
「まぁね。それで、宮くんは絵か映像か音楽、もしくは小説でもやってるの?」
「音楽以外全部やな。そのうち、音楽も手ェ出すつもりやな」
「言い方ぁ〜」
一瞬で高圧的な態度は辞めて、骨盤に悪いので足を組むのも辞めた。
孟はミューズになって欲しいと言った。
つまり、自分にインスピレーションやらを与えて欲しいと正面から馬鹿正直に言いに来るのがいるとは……。そんな素直な愛すべきバカを疑うほど寧々子の性格は歪んでいない。
昔公園にいたら美大生に絵のモデルになって欲しいと頼まれてやったら次の日のは「俺のミューズ!!」と言って家凸されて100枚のデッサン画を渡されたこともあったのであんまりミューズって読んで欲しくない。
彼は珍しく実害はないタイプの変態だったが、家凸はトラウマなのでミューズとは呼ばれたくない。
それに絵については一切わからない事をしっかり伝えたが、孟はなんでもないように頷いた。
「別にええよ。ミューズっちゅうのはそこにおるだけでイメージが湧いてくる存在や。その点で言えないオマエはしっかりミューズや。しっかし、人生何があるか分からんなぁ……今まで俺のミューズって鏡と写真に写った俺自分やと思っとったんやったけど」
「自己肯定感えぐいね……」
見習いたくなる自己肯定感。
だがしかし、鏡を見れば一流彫刻家が人生を賭けても再現できない圧倒的な“美”が鏡で見ればすぐ側にあるのだから、作品に困った時は鏡と写真でお手軽ミューズできるだろう。
というか寧々子も曲作りの時に一回やたって。でも恥ずかしすぎてその曲は両親にも聞かせずお蔵入りとなった。
「でも、今度ねこを誰かに紹介するときになったらどうしょーかなぁ。ミューズって呼ばれんのは嫌なんやろ?」
「別に私は誰かに紹介される人物に足り得ないから悩む必要はないでしょ」
「逆にオマエは自己肯定感低すぎんねん」
真顔でキノコが生えそうなぐらい湿っぽい発言を飛ばしてくるミューズ(契約)に困惑が隠せない孟。
彼は天地は全て自分が表現し、創作するためのものだとしか思ってない傲慢かつ強引な自信家なので、寧々子とは価値観の共有が難しかった。
だが、対話は辞めない人の鏡。
「まぁ、誰かに紹介する時が来たら、ミューズやのうて友達で通しとくは」
「んー……ミューズよりはいいか。私も宮くんのことは友達って言っとくね」
渋々に表情で寧々子は頷き、ミューズ契約と偽装友人契約に同意した。
そうすれば休み時間終了の予鈴がなった。本鈴までに教室の席に座らなければいけないのだが、図書館と教室まではそれなりに距離があった。
つまり、ちょっとばかり急がなければいけない。
二人は顔を見合わせて小走りで廊下を出た。
廊下は走っちゃいけない?それはこの顔面と事情に免じてくださいなっと、適当に言い訳をして二人は本鈴までになんとか教室にたどり着いた。
担任の先生はちょっと怪訝そうな視線が、生徒たちは学校の問題児と何があったのかという好奇の視線が突き刺さった。
寧々子はそれにそれに物怖じせず、スカートと黒髪を翻して席に着いた。
すると前の席のミキちゃんが声を潜めて話しかけてきた。
「ねぇ、つとむくんとはどういう関係なの?」
恋愛ドラマみたいなセリフに少し吹き出しそうになった後、寧々子は答える。
空って青いよねっと、心底当たり前の事を言うみたいに興味なさげに、しかし堂々と。そんでちょっぴり艶っぽく、口と声帯を動かした。
「別に、ただの友達だよ」
偽装だけどね。
その言葉は、喉の奥深くに仕舞い込んだ。
そう言って女、来間 寧々子は教卓の横でぺこりと頭を下げた。
そうすると、サラサラの黒髪が肩から溢れて雪を連想されせる白い首筋が見え隠れして、クラスのエロガキだけではなく既婚者の担任も思わずため息をついた。
東京から来た、べらぼうに可愛い顔の女の子。
そんな肩書を背負っていれば転校初日でもみんな話しかけに行ってクラスは煩いぐらいに湧く。
たとえ転校してきた本人が見るからに戸惑っていても遠慮を知らない子供はきゃーきゃー騒いで、早く仲良くなろうと強引に手を繋いででも外に連れ出そうとする。
ごめんね、体が弱いからあんまり外には出れないの。
えーっと、放課後は引っ越したてだから用事があるから………。
えっ、折り紙の交換?ごめん、折り紙持ってきてないの。
大晦日に紅白派だからガキ使は見ないよ。
れ、連絡先は……えーっと覚えてないや。お父さんのでいい?
雑談と遊びの誘いが混じり合ってあっちこっちから質問が飛んでくる聖徳太子状態になっても、寧々子は丁寧に一つ一つ答えていった。
だけども眉尻を下がっていて、見るからに困惑した表情だった。
孟は教室の扉の外から見えた状況に死ぬほど大きなため息を吐いて、目の前の扉を開けた。
寧々子のクラスメイトは兄弟の居ないこのクラスに尋ねてくることなんてほとんどなかった孟が突然現れたことに驚いた。
そして、彼が天使と見紛う美貌だが中身は悪魔より残忍で、曹操よりも容赦がない学校の問題児TOP3の頂点に君臨していることは誰もが知っていた。
だからそんな予想外で想定外な出来事に誰もが動きを止めて、彼の一挙一動を目を見開いて見つめた。
神様が丹精込めて作り上げた顔の問題児に気付いていないのは寧々子に夢中になっていたクラスのリーダー的存在である女子だけだった。
「寧々子ちゃんって可愛い名前やね!ねねちゃんって呼んでええ?」
「ねこ」
うるさいぐらいに響いた女子の声に被せるようにして、孟の声が発せられた。
「宮くんだ、まだ休み時間じゃないよ」
「何言っとんねん、もうとっくにチャイム鳴っとるわ。はよ図書館行くで」
「えっそうなん。話に夢中でわかんなかった……えーっとミサちゃんだっけ、ごめんね先に約束あるからまた後で話そう」
「えっあっはぁ?つ、つとむ!?」
「名前で呼ぶなや。気色悪いねん」
「宮くん宮くん、嫌っていうのは大事だけどその理由も言わないといけないって言ったところだよ」
「あーハイハイ。名前で呼ばれんのが嫌な繊細なお年頃なもんでな、勝手に孟って呼ばれると口からヨロイモグラゴキブリえずきそうになるぐらい気持ち悪ぅなるから辞めてほしいねんけど。…………なぁ、これでええ?」
「んーまぁ、ちゃんと言えてるしいいと思うよ」
ガバガバ判定すぎて笑う。
いつもの寧々子ならいくら将来有望な美少年でも、ここまで態度が悪いと着いていくのも迷うのだが、ぐるりと机を囲まれて質問攻めに合うのはしんどいので、さっさと彼に着いていく事を選んだ。
それに、幼稚園の時から寧々子の耳は子供に囲まれるのに慣れていないので口は悪いが、静かな孟の方がいいと判断したのだろう。
そうして、二人は一緒に教室を出て図書室に向かって歩き出した。
早く校庭に行ってさっさと遊びに行こうとする児童で溢れかえる教室だが、今日ばかりは誰もが足を止めて二人の進行方向に素早く道を譲った。
だって天使と見紛う美少年と、女神の落とし子かと思う美少女が肩を慣れべて歩いていたら誰だって手を合わせて祈りたくなる。というか、祈るしかなくない。
ちなみに幼稚園がカトリックだった子たちは故意か無意識かは知らないが、讃美歌を口ずさんでいた。
余はまさに少年少女大讃美時代、ありったけの賛美と信仰をかき集めてそのうち大天使になる。
そんで寧々子と孟が通るたびにテーマソングが流れてみんなで大合唱することになるよ。
ところ変わって図書室では転校初日にテーマソングが作られている二人組こと、来間 寧々子と宮 孟は読書スペースとして置かれている椅子に腰掛け何やら真剣な話し合いを始めようとしていた。
「それで、ミューズになって何?」
最初に会話の火蓋切ったのは寧々子。
スカートから覗く白い御御足を組んで、高圧的な態度で孟に話しかけた。
そう、彼らは朝の出会い以降は全くと言っていいほど話していない!
孟が魔法少j……じゃなかったミューズになってよ!と言ったあの次の瞬間、孟何故か時間を見て慌てたように階段を駆け上がっていった。
それにもっと慌てるのは寧々子の方だったが、今まで好き勝手していたにがどこかに行ったのはありがたかった。
なのでそのまま職員室に向かっていたら、階段からさっきおさらばしたばっかりの孟の声で思いきり、「詳しい話は休み時間の図書室で!」と叫ばれた。
孟の方はこれは約束だと思っているが、寧々子の方は押し付けられたものを都合よく利用しただけだと認識している。
うーん、語弊!
「そっからないな。ミューズっちゅうのは、」
「ミューズ自体は知ってるよ。確か、ギリシャ神話の9人の女神のこと。もしくは、芸術家や作家などの創造性にインスピレーションを与える人物や物事のことだったっけ。宮くんが言ってるのは後者の方でしょ」
「なんや、よう知っとるやん」
「まぁね。それで、宮くんは絵か映像か音楽、もしくは小説でもやってるの?」
「音楽以外全部やな。そのうち、音楽も手ェ出すつもりやな」
「言い方ぁ〜」
一瞬で高圧的な態度は辞めて、骨盤に悪いので足を組むのも辞めた。
孟はミューズになって欲しいと言った。
つまり、自分にインスピレーションやらを与えて欲しいと正面から馬鹿正直に言いに来るのがいるとは……。そんな素直な愛すべきバカを疑うほど寧々子の性格は歪んでいない。
昔公園にいたら美大生に絵のモデルになって欲しいと頼まれてやったら次の日のは「俺のミューズ!!」と言って家凸されて100枚のデッサン画を渡されたこともあったのであんまりミューズって読んで欲しくない。
彼は珍しく実害はないタイプの変態だったが、家凸はトラウマなのでミューズとは呼ばれたくない。
それに絵については一切わからない事をしっかり伝えたが、孟はなんでもないように頷いた。
「別にええよ。ミューズっちゅうのはそこにおるだけでイメージが湧いてくる存在や。その点で言えないオマエはしっかりミューズや。しっかし、人生何があるか分からんなぁ……今まで俺のミューズって鏡と写真に写った俺自分やと思っとったんやったけど」
「自己肯定感えぐいね……」
見習いたくなる自己肯定感。
だがしかし、鏡を見れば一流彫刻家が人生を賭けても再現できない圧倒的な“美”が鏡で見ればすぐ側にあるのだから、作品に困った時は鏡と写真でお手軽ミューズできるだろう。
というか寧々子も曲作りの時に一回やたって。でも恥ずかしすぎてその曲は両親にも聞かせずお蔵入りとなった。
「でも、今度ねこを誰かに紹介するときになったらどうしょーかなぁ。ミューズって呼ばれんのは嫌なんやろ?」
「別に私は誰かに紹介される人物に足り得ないから悩む必要はないでしょ」
「逆にオマエは自己肯定感低すぎんねん」
真顔でキノコが生えそうなぐらい湿っぽい発言を飛ばしてくるミューズ(契約)に困惑が隠せない孟。
彼は天地は全て自分が表現し、創作するためのものだとしか思ってない傲慢かつ強引な自信家なので、寧々子とは価値観の共有が難しかった。
だが、対話は辞めない人の鏡。
「まぁ、誰かに紹介する時が来たら、ミューズやのうて友達で通しとくは」
「んー……ミューズよりはいいか。私も宮くんのことは友達って言っとくね」
渋々に表情で寧々子は頷き、ミューズ契約と偽装友人契約に同意した。
そうすれば休み時間終了の予鈴がなった。本鈴までに教室の席に座らなければいけないのだが、図書館と教室まではそれなりに距離があった。
つまり、ちょっとばかり急がなければいけない。
二人は顔を見合わせて小走りで廊下を出た。
廊下は走っちゃいけない?それはこの顔面と事情に免じてくださいなっと、適当に言い訳をして二人は本鈴までになんとか教室にたどり着いた。
担任の先生はちょっと怪訝そうな視線が、生徒たちは学校の問題児と何があったのかという好奇の視線が突き刺さった。
寧々子はそれにそれに物怖じせず、スカートと黒髪を翻して席に着いた。
すると前の席のミキちゃんが声を潜めて話しかけてきた。
「ねぇ、つとむくんとはどういう関係なの?」
恋愛ドラマみたいなセリフに少し吹き出しそうになった後、寧々子は答える。
空って青いよねっと、心底当たり前の事を言うみたいに興味なさげに、しかし堂々と。そんでちょっぴり艶っぽく、口と声帯を動かした。
「別に、ただの友達だよ」
偽装だけどね。
その言葉は、喉の奥深くに仕舞い込んだ。