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君の姿に憧れて

#13

ゴールデンウィーク編: 少し遠くへ、同じ景色

 大型連休のはじまり。


 朝から電車に揺られ、少し遠くの海沿いの街へ向かう。


 普段は仕事とオフィスの往復だけの私たちが、こんなふうに時間を作るのは初めてだった。

 降りた駅は小さく、静かで、潮の香りがほんのり混ざる。


 玲奈さんは少しだけ手を引いてくれて、肩と肩が自然に触れる距離。


 この触れ方が、会社では絶対にない、穏やかな距離感だった。

「ここ、いい街だね」

「うん、静かで落ち着く」

 玲奈さんはぽつりとつぶやく。


 その横顔は、普段の仕事で見せる鋭さとは違って、どこか柔らかい光を帯びていた。

 小さな旅館にチェックインすると、窓の外には夕陽が海に反射して金色の道を作る。


 言葉にならない時間が、ふたりの間を包む。

「ひよりちゃん」

「はい」

 振り向くと、少し困ったように眉を寄せる玲奈さん。


 手を伸ばしてきたその手を握ると、心臓が少し跳ねる。

「こうやって、季節ごとに出かけるのも、悪くないね」

「そうですね」

 夕陽が海に沈むのを、一緒に見上げる。


 観光地の賑やかさも、旅館の部屋も、風景より印象的なのは、隣にいる人の存在だ。

 夜になると、畳の上に布団を並べる。


 ふたりで並んで眠る小さな幸せは、これまでの日常に足される特別な瞬間。

 旅先の温泉に入りながら、無邪気に笑う玲奈さんを見て、私は気づく。


 憧れていた背中は、もう遠くにはない。

 手をつないで歩く海沿いの道。


 肩が触れるだけで、何も言わなくても心が満たされる。


 ふと立ち止まると、玲奈さんも同じように立ち止まり、少し照れたように微笑む。

「これからも、こうやって一緒に行ける?」

「はい、もちろんです」

 言葉にしなくても、これからの未来を信じられる瞬間。


 旅先の静かな夜は、まるで時間がゆっくりと流れているかのようで、心の奥まで温かい。

 海沿いの小さな街で、ふたりの距離は縮まった。


 並んで歩き、笑い合い、時には黙って景色を共有する。

 憧れから始まった気持ちは、いつの間にか自然に隣にいることが心地よくなっていた。


 遠くの景色も、未来の不安も、すべて同じ高さで共有できる安心感。

 その日、私は思った。


 ――こんな日常が、ずっと続いたらいいな。

作者メッセージ

次は少し期間が開くのですが夏祭り・花火大会編です。

2026/04/29 21:08

魂染朱廻
ID:≫ 307X6okIvTEt6
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