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君の姿に憧れて

#12

お花見編:隣に座る理由

 四月の柔らかい風が、桜を揺らしていた。

 会社の有志でのお花見。

 ブルーシートの上には、色とりどりのお弁当と紙コップ。

 少しだけ賑やかな空気の中で、私はそわそわと落ち着かなかった。

「[漢字]小鳥遊[/漢字][ふりがな]たかなし[/ふりがな]さん、こっち座る?」

 同期に手招きされる。

 けれど視線は、少し離れた場所に立つ玲奈さんを追っていた。

 背が高くて、淡いベージュのコートがよく似合う。

 誰かに話しかけられて、穏やかに笑っている。

 去年の私は、あの背中を遠くから見ていた。

 憧れの先輩。追いつきたい人。

「朝倉さん、ここ空いてますよ!」

 男性社員の声。玲奈さんがそちらに目を向ける。

 一瞬だけ、胸がざわついた。

 そのとき、玲奈さんの視線が私を捉える。

 ほんの少しだけ目を細めて、それから――

「ごめん、今日はこっちがいい」

 そう言って、迷いなく私の隣に腰を下ろした。

「……いいんですか?」

「いいの」

 さらっと返される。

 肩と肩の距離が近い。コート越しに伝わる体温に、心臓が妙に意識を向ける。

「去年はさ」

「はい?」

「ひよりちゃん、私の後ろばっかり歩いてたよね」

 図星で、言葉に詰まる。

「背中、見てたんだなって思ってた」

「……見てました」

 正直に答えると、くすっと笑われた。

「でも今年は」

 紙コップを手渡される。

「隣」

 その一言が、胸の奥に静かに落ちた。

 風が吹き、桜の花びらが舞う。

 ひらりと玲奈さんの髪に落ちた一枚を、そっと指で取る。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 その仕草が自然すぎて、ふと気づく。

 守られる側、守る側。


 そんな立場は、もう曖昧になっている。

「ひよりちゃん」

「はい」

「来年も、ここでいい?」

 問いかける声は、冗談めいていない。

 私は少しだけ考えるふりをして、それから笑った。

「隣、空けておきます」

「予約制?」

「先着一名です」

「じゃあ一番に来る」

 そう言って笑う横顔が、春の光に溶ける。

 憧れて追いかけた背中は、もう遠くない。

 同じシートに座り、同じ桜を見上げる。

 肩が触れるたび、くすぐったいような安心が広がる。

 ひらひらと舞う花びらの下で、私は思う。

 追いつきたいと願った人の隣に、
今、ちゃんと並んでいるのだと。

作者メッセージ

今年開花とか満開が早くてびっくりした…
次はゴールデンウィーク編です

2026/04/04 14:31

魂染朱廻
ID:≫ 307X6okIvTEt6
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