四月の柔らかい風が、桜を揺らしていた。
会社の有志でのお花見。
ブルーシートの上には、色とりどりのお弁当と紙コップ。
少しだけ賑やかな空気の中で、私はそわそわと落ち着かなかった。
「[漢字]小鳥遊[/漢字][ふりがな]たかなし[/ふりがな]さん、こっち座る?」
同期に手招きされる。
けれど視線は、少し離れた場所に立つ玲奈さんを追っていた。
背が高くて、淡いベージュのコートがよく似合う。
誰かに話しかけられて、穏やかに笑っている。
去年の私は、あの背中を遠くから見ていた。
憧れの先輩。追いつきたい人。
「朝倉さん、ここ空いてますよ!」
男性社員の声。玲奈さんがそちらに目を向ける。
一瞬だけ、胸がざわついた。
そのとき、玲奈さんの視線が私を捉える。
ほんの少しだけ目を細めて、それから――
「ごめん、今日はこっちがいい」
そう言って、迷いなく私の隣に腰を下ろした。
「……いいんですか?」
「いいの」
さらっと返される。
肩と肩の距離が近い。コート越しに伝わる体温に、心臓が妙に意識を向ける。
「去年はさ」
「はい?」
「ひよりちゃん、私の後ろばっかり歩いてたよね」
図星で、言葉に詰まる。
「背中、見てたんだなって思ってた」
「……見てました」
正直に答えると、くすっと笑われた。
「でも今年は」
紙コップを手渡される。
「隣」
その一言が、胸の奥に静かに落ちた。
風が吹き、桜の花びらが舞う。
ひらりと玲奈さんの髪に落ちた一枚を、そっと指で取る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
その仕草が自然すぎて、ふと気づく。
守られる側、守る側。
そんな立場は、もう曖昧になっている。
「ひよりちゃん」
「はい」
「来年も、ここでいい?」
問いかける声は、冗談めいていない。
私は少しだけ考えるふりをして、それから笑った。
「隣、空けておきます」
「予約制?」
「先着一名です」
「じゃあ一番に来る」
そう言って笑う横顔が、春の光に溶ける。
憧れて追いかけた背中は、もう遠くない。
同じシートに座り、同じ桜を見上げる。
肩が触れるたび、くすぐったいような安心が広がる。
ひらひらと舞う花びらの下で、私は思う。
追いつきたいと願った人の隣に、 今、ちゃんと並んでいるのだと。
会社の有志でのお花見。
ブルーシートの上には、色とりどりのお弁当と紙コップ。
少しだけ賑やかな空気の中で、私はそわそわと落ち着かなかった。
「[漢字]小鳥遊[/漢字][ふりがな]たかなし[/ふりがな]さん、こっち座る?」
同期に手招きされる。
けれど視線は、少し離れた場所に立つ玲奈さんを追っていた。
背が高くて、淡いベージュのコートがよく似合う。
誰かに話しかけられて、穏やかに笑っている。
去年の私は、あの背中を遠くから見ていた。
憧れの先輩。追いつきたい人。
「朝倉さん、ここ空いてますよ!」
男性社員の声。玲奈さんがそちらに目を向ける。
一瞬だけ、胸がざわついた。
そのとき、玲奈さんの視線が私を捉える。
ほんの少しだけ目を細めて、それから――
「ごめん、今日はこっちがいい」
そう言って、迷いなく私の隣に腰を下ろした。
「……いいんですか?」
「いいの」
さらっと返される。
肩と肩の距離が近い。コート越しに伝わる体温に、心臓が妙に意識を向ける。
「去年はさ」
「はい?」
「ひよりちゃん、私の後ろばっかり歩いてたよね」
図星で、言葉に詰まる。
「背中、見てたんだなって思ってた」
「……見てました」
正直に答えると、くすっと笑われた。
「でも今年は」
紙コップを手渡される。
「隣」
その一言が、胸の奥に静かに落ちた。
風が吹き、桜の花びらが舞う。
ひらりと玲奈さんの髪に落ちた一枚を、そっと指で取る。
「ありがとう」
「どういたしまして」
その仕草が自然すぎて、ふと気づく。
守られる側、守る側。
そんな立場は、もう曖昧になっている。
「ひよりちゃん」
「はい」
「来年も、ここでいい?」
問いかける声は、冗談めいていない。
私は少しだけ考えるふりをして、それから笑った。
「隣、空けておきます」
「予約制?」
「先着一名です」
「じゃあ一番に来る」
そう言って笑う横顔が、春の光に溶ける。
憧れて追いかけた背中は、もう遠くない。
同じシートに座り、同じ桜を見上げる。
肩が触れるたび、くすぐったいような安心が広がる。
ひらひらと舞う花びらの下で、私は思う。
追いつきたいと願った人の隣に、 今、ちゃんと並んでいるのだと。