二月十四日。
朝、隣で寝ている玲奈さんのコートのポケットを、つい気にしてしまった。
昨日、何か隠しているみたいだったから。
朝から、なんだか落ち着かない。
「ひよりちゃん、今日なんかそわそわしてない?」
キッチンでコーヒーを淹れながら、玲奈さんが首を傾げる。
「してません」
即答してしまって、余計に怪しい。
本当は、昨日の夜、こっそり仕込んだ。
湯せんして、混ぜて、型に流して。
何度も味見して、少しだけ甘さを控えた。
先輩は甘すぎるの、あまり得意じゃないから。
会社に着くと、やっぱりざわざわしていた。
女性社員たちの小さな袋。
義理です、って顔をしながら配られていくチョコレート。
そして当然のように、玲奈さんのデスクにも置かれていく。
「朝倉さん、これどうぞ」
「いつもありがとうございます」
にこやかに受け取るその姿に、胸がちくりとする。
(対等な恋、なんでしょ)
そう思いながらも、もやもやは消えない。
昼休み。
「ひよりちゃん、ちょっといい?」
人気の少ない非常階段。 冬の冷たい空気。
「どうしたんですか?」
そう言った瞬間、コートのポケットから小さな包みが出てきた。
ほんの少しだけ、甘い匂いがする。
「はい。これ」
「……え?」
「バレンタイン。私から」
一瞬、思考が止まる。
「え、でも今日って……」
「知ってるよ? 本命が渡す日でしょ」
さらっと言って、少しだけ照れたように視線を逸らす。
「いつももらう側みたいな顔してるけどさ。私だって、あげたい」
胸が、じわっと熱くなる。
「……私も、あります」
鞄から取り出した小さな箱。
震える指で差し出す。
「玲奈さん、いつもありがとうございます。 あと……好きです」
「うん。知ってる」
いたずらっぽく笑う。
箱を開けて、一粒口に運ぶ玲奈さん。
「……おいしい」
その声に、ほっと息が漏れる。
「甘さ控えめにしたので」
「私の好み、覚えてくれてるんだ」
次の瞬間、指先が絡め取られた。
「ひよりちゃん」
「はい」
「正直ね、今日ちょっとだけ嫉妬してた」
「え?」
「他の人にチョコ渡してる姿、想像したら落ち着かなかった」
驚いて目を見開く。
「渡してません」
「うん、知ってる。でも、想像しただけで嫌だった」
距離が、近い。
「……私も、嫌でした」
「なにが?」
「玲奈さんの机に、たくさん置かれてるの」
一瞬の沈黙。
それから、同時に笑ってしまう。
「子どもだね、私たち」
「でも、対等です」
そう言うと、玲奈さんは柔らかく目を細めた。
「うん。対等」
冷たい空気の中、そっと触れる唇。
一瞬だけ。誰もいないのを確認して。
「ホワイトデー、覚悟してて」
「え?」
「倍返しだから」
楽しそうに笑うその顔に、胸がきゅっとなる。
甘いのは、チョコレートだけじゃない。
隣にいる人の、 少しだけ独占欲を滲ませたその表情も。
――君の隣で迎える冬は、 去年より、ずっとあたたかい。
朝、隣で寝ている玲奈さんのコートのポケットを、つい気にしてしまった。
昨日、何か隠しているみたいだったから。
朝から、なんだか落ち着かない。
「ひよりちゃん、今日なんかそわそわしてない?」
キッチンでコーヒーを淹れながら、玲奈さんが首を傾げる。
「してません」
即答してしまって、余計に怪しい。
本当は、昨日の夜、こっそり仕込んだ。
湯せんして、混ぜて、型に流して。
何度も味見して、少しだけ甘さを控えた。
先輩は甘すぎるの、あまり得意じゃないから。
会社に着くと、やっぱりざわざわしていた。
女性社員たちの小さな袋。
義理です、って顔をしながら配られていくチョコレート。
そして当然のように、玲奈さんのデスクにも置かれていく。
「朝倉さん、これどうぞ」
「いつもありがとうございます」
にこやかに受け取るその姿に、胸がちくりとする。
(対等な恋、なんでしょ)
そう思いながらも、もやもやは消えない。
昼休み。
「ひよりちゃん、ちょっといい?」
人気の少ない非常階段。 冬の冷たい空気。
「どうしたんですか?」
そう言った瞬間、コートのポケットから小さな包みが出てきた。
ほんの少しだけ、甘い匂いがする。
「はい。これ」
「……え?」
「バレンタイン。私から」
一瞬、思考が止まる。
「え、でも今日って……」
「知ってるよ? 本命が渡す日でしょ」
さらっと言って、少しだけ照れたように視線を逸らす。
「いつももらう側みたいな顔してるけどさ。私だって、あげたい」
胸が、じわっと熱くなる。
「……私も、あります」
鞄から取り出した小さな箱。
震える指で差し出す。
「玲奈さん、いつもありがとうございます。 あと……好きです」
「うん。知ってる」
いたずらっぽく笑う。
箱を開けて、一粒口に運ぶ玲奈さん。
「……おいしい」
その声に、ほっと息が漏れる。
「甘さ控えめにしたので」
「私の好み、覚えてくれてるんだ」
次の瞬間、指先が絡め取られた。
「ひよりちゃん」
「はい」
「正直ね、今日ちょっとだけ嫉妬してた」
「え?」
「他の人にチョコ渡してる姿、想像したら落ち着かなかった」
驚いて目を見開く。
「渡してません」
「うん、知ってる。でも、想像しただけで嫌だった」
距離が、近い。
「……私も、嫌でした」
「なにが?」
「玲奈さんの机に、たくさん置かれてるの」
一瞬の沈黙。
それから、同時に笑ってしまう。
「子どもだね、私たち」
「でも、対等です」
そう言うと、玲奈さんは柔らかく目を細めた。
「うん。対等」
冷たい空気の中、そっと触れる唇。
一瞬だけ。誰もいないのを確認して。
「ホワイトデー、覚悟してて」
「え?」
「倍返しだから」
楽しそうに笑うその顔に、胸がきゅっとなる。
甘いのは、チョコレートだけじゃない。
隣にいる人の、 少しだけ独占欲を滲ませたその表情も。
――君の隣で迎える冬は、 去年より、ずっとあたたかい。