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君の姿に憧れて

#6

番外編:憧れていたのは、私の方だった

 ひよりちゃんは、入社した頃から少し不思議な後輩だった。

 声は控えめで、動きもどこか慎重で、それなのに仕事に向き合う目だけは真剣で。


 資料を抱える姿も、メモを取る仕草も、どこか子供っぽくて、自然と目で追ってしまう。

「ひよりちゃん、大丈夫?」

 気づけば、そんな言葉を何度もかけていた。


 守ってあげたい、という気持ちは確かにあったと思う。年上で、先輩で、経験もある。

 だから当然だと、自分に言い聞かせていた。

 でも――それだけじゃなかった。

 彼女が少しずつ仕事を覚えて、自分なりに考えて動くようになっていくのを見ていると、胸の奥が静かにざわついた。


 嬉しいはずなのに、どこか落ち着かない。

 他の人に褒められている姿を見たとき、その理由が分からず、視線を逸らした自分に気づいてしまった。

(……ああ、そっか)

 その瞬間、ようやく理解した。

 私は「見守っている先輩」なんかじゃなかった。


 ただ、自分より少し低い位置にいてくれる存在に、安心していただけだったのだ。

 夜のオフィスで、ひよりちゃんが「隣に立ちたい」と言ったとき。


 胸の奥で、何かがほどける音がした。

 守られる側でいてほしかったわけじゃない。


 ただ、私の視界からいなくならないでほしかった。

 それが、恋だと認めるには、少し時間がかかったけれど。

 今は、手を繋いで歩く帰り道が、こんなにも自然だ。

 同じ歩幅で、同じ景色を見て。


 追いかけるでも、追いかけられるでもなく。

 ――君の姿に憧れていたのは、きっと私のほうだった。

 そう思いながら、私はひよりちゃんの手を、少しだけ強く握り返した。

作者メッセージ

また番外でその後を書く予定ではある

2026/02/12 23:49

魂染朱廻
ID:≫ 307X6okIvTEt6
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