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無糖のケーキを召し上がれ。

#7

14ー2

 あたしは学校帰り――もちろん隣に京花ちゃんはいない――に、病院を見上げた。

 実を言うと、すこし遠回りすれば、登下校で尊くんのいる病院の前を通る。

 京花ちゃんの家はここを通るととんでもない距離になるから、通るはずはない。

 顔を合わせる対策としてはうってつけの通学路。

 昨日から雨はマシになって、午後になると止んだ。今は曇り。

 お母さんに言ってあって、そのまま向かっていいことになっていたので、学校鞄を背負ったまま病院の建物に入った。

「307号室……伏見 尊くんのお見舞いに来ました」

「あら、歩佳ちゃん。今日はひとり?」

「はい」

 受付の人が言う「ふたりめ」は、お母さんだろうか。それとも――。

 階段を上って、病室のドアをたたく。

「……尊くん」

「あ、歩佳。久しぶり」

 まるで病気なんてなくて、ついさっきまでバスケしてました、みたいな明るい声で、尊くんは言った。

 いつぶりだろう、声を聴くのは。

 14歳、周りの男子はみんな声変わりしてるっていうのに、尊くんはまだ子供の声のままだ。

「久しぶり……」

 あ、そっか、半年ぶりになるんだ。

 ……スマホを買ってもらった去年の5月くらいから、お見舞いの頻度がかなり落ちた。

 1月に行って以降はずっとスマホだった。

 学校から帰ってきたら、毎日学校のことを聞いてくるようになったのが、2~3月だっけか。

 適当に「お弁当を誰ちゃんと食べた」「部活で煮物を焦がした」「理科のハゲ山のギャグが面白かった」みたいなしょうもないことを流してたのに、文字だけで楽しんでくれてるのが分かった。

 文面だけでも誕生日を祝えばすごく喜んでくれて、デジタルの板を通しているはずなのに喜びが伝染した。

 毎日、その日あったことを伝えるのが日課になっていた。

 それが突然途絶えた。

 6月――先月、あたしが学校で京花ちゃんと馬鹿してる頃、あいつは心臓が止まって死の淵に居た。

 お母さんが知るより先に、あたしが通知のないスマホを見て何か嗅ぎ取っていた。

 ママ友ネットワークで伝え聞いた後の記憶は曖昧だ。

「どうしたの? ぼーっとして」

「え? あぁ、ごめん。考え事」

 無理に笑ってみたけど、尊くん、あたしに愛を豪語するだけある、やっぱり感づかれたみたいだ。

「……歩佳、思い詰めすぎると“こっち”に来ちゃうよ?」

 “こっち”のところで病院のベッド側に手招きする。

「……はぁ、ブラックジョークも程々にしてよ。 あんたの自虐ネタ、全然面白くないから」

「いやいや、だって俺さぁ」

 あたしの声に割り込んで尊くんが言う。

「大好きな歩佳のケーキ食べるために生きてるって言っても過言じゃないよ?」

 朗らかで、外とは大違いな晴れの表情。

「だから、それまでは健康に生きてもらわないと! ね?」

 ……9歳という、幼い子供の約束を、こいつは純粋に信じて生きてきたんだ。

 [明朝体]……いつか、あんたにケーキを作る。無糖の、……でも甘い、すっごく甘いケーキを。[/明朝体]

 馬鹿らし。こいつも、あたしも。

 でも、あたしがあたしを信じてるからには。

「……もちろん!」



 帰り道、書店に寄った。

 そこを出てきたあたしの手には、何枚もの1000円札の代わりに、製菓レシピの本と、あいつの病気についての本が握られていた。

作者メッセージ

お久しぶりです。
書きすぎた。

2026/02/19 20:51

◇Alice◇
ID:≫ 6.HwTpWbghe22
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