あなたに恋をしても
#1
第1話
「あの子可愛いね」
「本当だ」
「素敵な髪だなあ…」
「お前、絶対聞こえてっぞ!」
以下、似たような褒め言葉。
廊下を歩く私を取り巻く声は全て、称賛や嫉妬などに満ちたものだ。
せっかく、国内でも屈指の名門校に転入したというのに、庶民的だったころと全然変わらない。ごきげんよう、なんて言わないし、常日頃から[漢字]背筋[/漢字][ふりがな]せすじ[/ふりがな]を伸ばしているわけでもない。学力が半端なく高いおかげで、むしろ校則は緩いくらいだ。
壁がなく、外にむき出しとなっている廊下から気まぐれに出てみる。
何か良いことはないかと思うけれど、日が照り蒸し暑くて長居する気にはなれない。
日陰に設置された、ペンキが塗り立てのような椅子に座る。表面を撫でると暑さなど知らないようにツルツルして、しかし私の汗ばんだ手がキュッ、と音を立てた。
そういえば、私のことを良い匂いがしそう、と言った人もいたけれど、私は案外汗っかきであることを思い出した。その人に直接言ったとしたら…今度は、汗臭そう、と言うのだろうか。
どうでもいい。
どうも暑くて、蒸していて、眠たい気がするのだ。私の送る日々はいつもこうだ。
皆、理由はわからないけど世間話を私とはしたがらないし、噂話の一つも回ってこない。ただ、私の周りで回っているのみだ。
援助交際だの、悪女だのなんだの。ごく少数でも「私の知らない私」が私の知らない場所で巡りめぐっているのは、身体中をどこかに打ち付けたくなるほど気味が悪い。
たくさんの蝉が、遠いのか近いのかよくわからないところで、[漢字]忙[/漢字][ふりがな]せわ[/ふりがな]しなく鳴いている。
皆、蝉と似てるよね、と言えば、その皆は何と言うのだろう。
きっと、独創的な思考ですね、と歪な称賛の声で鳴くに違いない。
何だか一人で考えていることが無性に面白くて、思わず微笑んだ。
「蝉の声でも聞いてるのか」
「全く情緒的な方だ…」
私をどこかで見ていた誰かの勝手な声が聞こえて、それもまた、求愛を止められない蝉のようだと思った。
何にせよ、私の今日はまたしても、思考に更けるだけで終わったのだった。
「本当だ」
「素敵な髪だなあ…」
「お前、絶対聞こえてっぞ!」
以下、似たような褒め言葉。
廊下を歩く私を取り巻く声は全て、称賛や嫉妬などに満ちたものだ。
せっかく、国内でも屈指の名門校に転入したというのに、庶民的だったころと全然変わらない。ごきげんよう、なんて言わないし、常日頃から[漢字]背筋[/漢字][ふりがな]せすじ[/ふりがな]を伸ばしているわけでもない。学力が半端なく高いおかげで、むしろ校則は緩いくらいだ。
壁がなく、外にむき出しとなっている廊下から気まぐれに出てみる。
何か良いことはないかと思うけれど、日が照り蒸し暑くて長居する気にはなれない。
日陰に設置された、ペンキが塗り立てのような椅子に座る。表面を撫でると暑さなど知らないようにツルツルして、しかし私の汗ばんだ手がキュッ、と音を立てた。
そういえば、私のことを良い匂いがしそう、と言った人もいたけれど、私は案外汗っかきであることを思い出した。その人に直接言ったとしたら…今度は、汗臭そう、と言うのだろうか。
どうでもいい。
どうも暑くて、蒸していて、眠たい気がするのだ。私の送る日々はいつもこうだ。
皆、理由はわからないけど世間話を私とはしたがらないし、噂話の一つも回ってこない。ただ、私の周りで回っているのみだ。
援助交際だの、悪女だのなんだの。ごく少数でも「私の知らない私」が私の知らない場所で巡りめぐっているのは、身体中をどこかに打ち付けたくなるほど気味が悪い。
たくさんの蝉が、遠いのか近いのかよくわからないところで、[漢字]忙[/漢字][ふりがな]せわ[/ふりがな]しなく鳴いている。
皆、蝉と似てるよね、と言えば、その皆は何と言うのだろう。
きっと、独創的な思考ですね、と歪な称賛の声で鳴くに違いない。
何だか一人で考えていることが無性に面白くて、思わず微笑んだ。
「蝉の声でも聞いてるのか」
「全く情緒的な方だ…」
私をどこかで見ていた誰かの勝手な声が聞こえて、それもまた、求愛を止められない蝉のようだと思った。
何にせよ、私の今日はまたしても、思考に更けるだけで終わったのだった。