コーギーじゃなくて、ワンパチ。
ツバメじゃなくて、スバメ。
クジラじゃなくて、ホエルコ。
小さい頃になんとなくあった引っ掛かりが、違和感となったのをきっかけに前世を思い出した。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。という、なんとも懐かしいオーキド博士のセリフが聞こえて来た。
多分、幻聴だろう。
ポケモンのゲームは初代をいとこの家で一回やった程度だし、アニポケが放送する頃はいつも塾の時間であまり見たことがなかった。
でも世界に誇れるゲームだし。日本に生きていれば一生に一度ぐらいは目にする言葉なので、知らないわけじゃない。
黄色いピカチュウがサトシと冒険するやつ程度の認識はあった。
つまり、にわか中のにわか。
そんな私がポケモンの世界に転生なんて何かの間違いかと思った。
こういう、アニメの世界に転生って、原作愛がある人がするものじゃないの?って、思っていたけど、転生してしまったもんは仕方ない。
バトルとかは苦手だから、しない方向でそこそこ幸せに。
そして、穏やかに暮らしていこうと、隠居前のじじいみたいな決意をしていつも通り過ごしていた。
それが明確に変わったのは、たぶんあの子にあったとき。
「くうん?」
ピンク色の、かわいい子。
草むらの向こうから、少し遅れて顔を出したその子は、丸くて、柔らかそうで、世界に対してちょっとだけ警戒心が薄い目をしていた。
この地方では見かけない姿に好奇心がうずいて、お父さんの手持ちのパピモッチと、最近家に棲みついたスバメにあげる予定だったきのみをそっと、その子の側においた。
ピンク色のかわいい子は、匂いを嗅いだ後、むしゃむしゃと食べ始めたのだ。
その姿ったら、かわいいしかない!!
本当にぬいぐるみが動いているような愛らし過ぎる姿に文字通り心を鷲掴みにされた私は、今すぐにでもこの子を抱きしめようと、ホールド体制をとった。
でも、一番はこの子の気持ち。
私が好きばっかりを押し付けたらダメだから、ちゃんと話し合おう。人間がポケモンの言葉を分かることは少ないけれど、心は通わせられる。
ちゃんと、この子に納得してもらって私の人生のパートナーになるのだ!
というわけで、対戦よろしくお願いします。
まずは自己紹介からで。
「初めまして、リコっていいます。年齢は6歳、来年からポケモンスクールに通う予定のパルデア一般通過女子です。もしよろしければあなたについて教えて貰ってもいいですか?」
「くぅん!くぅくぅん」
「キャワタン……」
「くっくぅう!?くうん!くうん!」
あまりの可愛さに即死してしまい、逆にお相手さんに心配されるという事態が発生。
地面に膝をついて五体投地している私を、ピンク色のかわいい子が不安そうに覗き込んでくる。
「く、くぅん……?」
丸い前足が、ちょん、と私の手に触れた。
あったかい。やわらかい。生きてる。
「あ、ごめんね。大丈夫だよ」
心配かけてごめんね、さっきのは君が可愛すぎて脳が処理落ちしただけなので……怖がらないでほしいな。
息を整えながらそう言うと、その子はほっとしたように尻尾――なのかよく分からないけど、後ろの方をふりふりした。
かわいい。
かわいいが過ぎる。
「えっと……改めて」
「くぅ?」
首を傾げる仕草まで完璧で、再びHPが削られかけるのを必死で耐える。
「あなた、迷子?それとも、この辺に住んでるの?」
「くぅん。くぅ、くぅ」
言葉は分からない。
でも、拒絶じゃないのは分かる。少なくとも、私から逃げようとはしていない。人間に酷いことをされなかったのだろ。
「怪我は……なさそうだけど、ここの地方の子じゃないでしょ?どうやって来たか分かる?」
私が聞くと、かわいい子もまた首を傾げた。ぎゃんきゃわ……。
どこからか逃げ出してきたって訳じゃないみたいだけど、本当にこの辺で見たことない子だしなぁ。ジュンサーさんに確認してもいいかもだけど、そもそも名前すら分かってないので調べないと。
この世界では辞書のノリで各家庭にポケモン大辞典があるので、調べてみるか。
こういう時にロトムスマホが便利なんだろうけど、私はまだ持てる年齢じゃないからね。アナログで我慢だ。
「かわいい子ちゃん、ちょっと君について調べてくるからここで待てる?このきのみは全部食べていいから」
「くうん?」
そう言って、きのみが入ったかごを地面に置いて、家まで走ろうとしたその時だった。
「くうぅん!」
足にふわふわなものが抱きついて来た。
いうまでもなく、ピンク色のかわいい子である。
かわいい子の思わぬ行動に、心臓がギュンっという音を立てて、締め付けられる心臓を抑えながら、抱きつくピンク色のかわいい子を恐る恐る撫でた。アッ、ふわふわ。
「えーっと、もしかして一緒に来てくれるって、ことでいいのかな?」
「くうん」
「そっかぁ」
ならもううちの子だね!
という暴論が脳裏に浮かんだが、ちゃんと自分からモンスターボールの中に入っていただくまでは保留だ。
大丈夫、私は自制ができる女!あっ、気持ちよさそうにお目目細めたねぇ〜〜〜かわいい〜〜〜もう君うちの子だね〜〜〜。
というか、君以外と重いね。大分ぽちゃっとした猫の体重ぐらいあるよ?抱きつかれた足が、意外と動かしにくくてびっくり。
まぁ、これも含めてかわいいからね、この子は。
ぬいぐるみみたいな見た目で実はぽちゃぽちゃとか、ギャップ萌え(?)しかないでしょう。
っと、いつもより負荷が重くなった足を引き摺りながら帰宅。
そしてその後、いくら図鑑をひっくり返しても出てこないので、お父さんに助けを求めてロトムスマホで調べて貰ったら、今度はお父さんがひっくり返った。
「リコ、その子から一旦離れよう。ね?」
「やだ。私、この子と一生を共にするって決めてるの。進学および就職、そして老後まですっと一緒なんだもん!」
「そうは言ってもなぁ……リコ、その子がいくら優しくておとなしくても、お父さん心配だよ」
抱きしめ合う私たちに、お父さんは心配そうな目顔で言葉を重ねた。
「うん、ポケモンに悪い事は一つもないんだけど、さすがに……流石にお父さん、進化したら背筋1tを超える子をリコの手持ちにするのは心配なんだ」
「じゃあ私が強くなるから、この子とヌイコグマと一緒にいさせて!!!
………っていうのが、この子との出会い」
「ほへぇ」
ヌイコグマから進化した、キテルグマに抱きつかれている私を見ながら、アンは興味深げに頷いた。
あの日、私が出会ったヌイコグマははるばるガラル地方からやって来た子だったらしい。しかし、親ポケモンが見つからないのと、私にめちゃくちゃ懐いたのを理由に、我が一家に引き取られた。
「全身筋肉のマッシブポケモン」という、分かりやすい注意喚起に最初こそ恐れていた両親だったが、一緒に暮らしているうちにいいところも悪いところも知っていき、今ではすっかり家族の一員だ。
そして私も、強くなるという宣言通りに強くなった。
バトルはもちろん、いろんなかくとうタイプのトレーナーさんと話したり、キテルグマおよびヌイコグマの主な生息地であるアローラやガラルに行って、躾け方や礼儀などを教えてもらった。
そのついでにガラルカナテとアローラのサーフィンも教えてもらい、趣味も増えた。
そしてなにより、人との交流を通じて、私自身が強くならなくてはいけないと気づいたのだ。
手っ取り早く筋トレかと思ったけど、年齢と体格的には私には難しいかった。だから、その分技を磨いてこの子に負けないぐらい強くなろうと、頑張った。
その陰で小柄さと俊敏さを生かした技抜けと重心の掛け方にも、自信が出て来た。
年齢と成長が追いついたらもっと体の負荷を増やして、キテルグマの抱擁にも負けないぐらいの筋肉をつけるつもりだ。
「いや、努力の方向性!」
「え?」
きょとん、と首を傾げる私に、アンは頭を抱えた。
「いや、普通そこはさ。“キテルグマに抱きつかれても大丈夫な体を作ろう”じゃなくて、“キテルグマに優しく抱きしめてもらう方法を教えよう”とかじゃない?」
「いやまぁ、それは最初に思ったけど……やっぱり、この子に力加減を教えるなら、私自身が強くないと」
「そういうもの……なの?」
私と、キテルグマのくりくりお目目を順番に見つめるアンに私は頷いた。
私が話を聞きに行ったかくとうタイプのトレーナーさんも「力こそパワー!力こそジャスティス!」って言ってたし、やっぱり力のあるポケモンと心を通わせるには、心も体も強くならないと!
ツバメじゃなくて、スバメ。
クジラじゃなくて、ホエルコ。
小さい頃になんとなくあった引っ掛かりが、違和感となったのをきっかけに前世を思い出した。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。という、なんとも懐かしいオーキド博士のセリフが聞こえて来た。
多分、幻聴だろう。
ポケモンのゲームは初代をいとこの家で一回やった程度だし、アニポケが放送する頃はいつも塾の時間であまり見たことがなかった。
でも世界に誇れるゲームだし。日本に生きていれば一生に一度ぐらいは目にする言葉なので、知らないわけじゃない。
黄色いピカチュウがサトシと冒険するやつ程度の認識はあった。
つまり、にわか中のにわか。
そんな私がポケモンの世界に転生なんて何かの間違いかと思った。
こういう、アニメの世界に転生って、原作愛がある人がするものじゃないの?って、思っていたけど、転生してしまったもんは仕方ない。
バトルとかは苦手だから、しない方向でそこそこ幸せに。
そして、穏やかに暮らしていこうと、隠居前のじじいみたいな決意をしていつも通り過ごしていた。
それが明確に変わったのは、たぶんあの子にあったとき。
「くうん?」
ピンク色の、かわいい子。
草むらの向こうから、少し遅れて顔を出したその子は、丸くて、柔らかそうで、世界に対してちょっとだけ警戒心が薄い目をしていた。
この地方では見かけない姿に好奇心がうずいて、お父さんの手持ちのパピモッチと、最近家に棲みついたスバメにあげる予定だったきのみをそっと、その子の側においた。
ピンク色のかわいい子は、匂いを嗅いだ後、むしゃむしゃと食べ始めたのだ。
その姿ったら、かわいいしかない!!
本当にぬいぐるみが動いているような愛らし過ぎる姿に文字通り心を鷲掴みにされた私は、今すぐにでもこの子を抱きしめようと、ホールド体制をとった。
でも、一番はこの子の気持ち。
私が好きばっかりを押し付けたらダメだから、ちゃんと話し合おう。人間がポケモンの言葉を分かることは少ないけれど、心は通わせられる。
ちゃんと、この子に納得してもらって私の人生のパートナーになるのだ!
というわけで、対戦よろしくお願いします。
まずは自己紹介からで。
「初めまして、リコっていいます。年齢は6歳、来年からポケモンスクールに通う予定のパルデア一般通過女子です。もしよろしければあなたについて教えて貰ってもいいですか?」
「くぅん!くぅくぅん」
「キャワタン……」
「くっくぅう!?くうん!くうん!」
あまりの可愛さに即死してしまい、逆にお相手さんに心配されるという事態が発生。
地面に膝をついて五体投地している私を、ピンク色のかわいい子が不安そうに覗き込んでくる。
「く、くぅん……?」
丸い前足が、ちょん、と私の手に触れた。
あったかい。やわらかい。生きてる。
「あ、ごめんね。大丈夫だよ」
心配かけてごめんね、さっきのは君が可愛すぎて脳が処理落ちしただけなので……怖がらないでほしいな。
息を整えながらそう言うと、その子はほっとしたように尻尾――なのかよく分からないけど、後ろの方をふりふりした。
かわいい。
かわいいが過ぎる。
「えっと……改めて」
「くぅ?」
首を傾げる仕草まで完璧で、再びHPが削られかけるのを必死で耐える。
「あなた、迷子?それとも、この辺に住んでるの?」
「くぅん。くぅ、くぅ」
言葉は分からない。
でも、拒絶じゃないのは分かる。少なくとも、私から逃げようとはしていない。人間に酷いことをされなかったのだろ。
「怪我は……なさそうだけど、ここの地方の子じゃないでしょ?どうやって来たか分かる?」
私が聞くと、かわいい子もまた首を傾げた。ぎゃんきゃわ……。
どこからか逃げ出してきたって訳じゃないみたいだけど、本当にこの辺で見たことない子だしなぁ。ジュンサーさんに確認してもいいかもだけど、そもそも名前すら分かってないので調べないと。
この世界では辞書のノリで各家庭にポケモン大辞典があるので、調べてみるか。
こういう時にロトムスマホが便利なんだろうけど、私はまだ持てる年齢じゃないからね。アナログで我慢だ。
「かわいい子ちゃん、ちょっと君について調べてくるからここで待てる?このきのみは全部食べていいから」
「くうん?」
そう言って、きのみが入ったかごを地面に置いて、家まで走ろうとしたその時だった。
「くうぅん!」
足にふわふわなものが抱きついて来た。
いうまでもなく、ピンク色のかわいい子である。
かわいい子の思わぬ行動に、心臓がギュンっという音を立てて、締め付けられる心臓を抑えながら、抱きつくピンク色のかわいい子を恐る恐る撫でた。アッ、ふわふわ。
「えーっと、もしかして一緒に来てくれるって、ことでいいのかな?」
「くうん」
「そっかぁ」
ならもううちの子だね!
という暴論が脳裏に浮かんだが、ちゃんと自分からモンスターボールの中に入っていただくまでは保留だ。
大丈夫、私は自制ができる女!あっ、気持ちよさそうにお目目細めたねぇ〜〜〜かわいい〜〜〜もう君うちの子だね〜〜〜。
というか、君以外と重いね。大分ぽちゃっとした猫の体重ぐらいあるよ?抱きつかれた足が、意外と動かしにくくてびっくり。
まぁ、これも含めてかわいいからね、この子は。
ぬいぐるみみたいな見た目で実はぽちゃぽちゃとか、ギャップ萌え(?)しかないでしょう。
っと、いつもより負荷が重くなった足を引き摺りながら帰宅。
そしてその後、いくら図鑑をひっくり返しても出てこないので、お父さんに助けを求めてロトムスマホで調べて貰ったら、今度はお父さんがひっくり返った。
「リコ、その子から一旦離れよう。ね?」
「やだ。私、この子と一生を共にするって決めてるの。進学および就職、そして老後まですっと一緒なんだもん!」
「そうは言ってもなぁ……リコ、その子がいくら優しくておとなしくても、お父さん心配だよ」
抱きしめ合う私たちに、お父さんは心配そうな目顔で言葉を重ねた。
「うん、ポケモンに悪い事は一つもないんだけど、さすがに……流石にお父さん、進化したら背筋1tを超える子をリコの手持ちにするのは心配なんだ」
「じゃあ私が強くなるから、この子とヌイコグマと一緒にいさせて!!!
………っていうのが、この子との出会い」
「ほへぇ」
ヌイコグマから進化した、キテルグマに抱きつかれている私を見ながら、アンは興味深げに頷いた。
あの日、私が出会ったヌイコグマははるばるガラル地方からやって来た子だったらしい。しかし、親ポケモンが見つからないのと、私にめちゃくちゃ懐いたのを理由に、我が一家に引き取られた。
「全身筋肉のマッシブポケモン」という、分かりやすい注意喚起に最初こそ恐れていた両親だったが、一緒に暮らしているうちにいいところも悪いところも知っていき、今ではすっかり家族の一員だ。
そして私も、強くなるという宣言通りに強くなった。
バトルはもちろん、いろんなかくとうタイプのトレーナーさんと話したり、キテルグマおよびヌイコグマの主な生息地であるアローラやガラルに行って、躾け方や礼儀などを教えてもらった。
そのついでにガラルカナテとアローラのサーフィンも教えてもらい、趣味も増えた。
そしてなにより、人との交流を通じて、私自身が強くならなくてはいけないと気づいたのだ。
手っ取り早く筋トレかと思ったけど、年齢と体格的には私には難しいかった。だから、その分技を磨いてこの子に負けないぐらい強くなろうと、頑張った。
その陰で小柄さと俊敏さを生かした技抜けと重心の掛け方にも、自信が出て来た。
年齢と成長が追いついたらもっと体の負荷を増やして、キテルグマの抱擁にも負けないぐらいの筋肉をつけるつもりだ。
「いや、努力の方向性!」
「え?」
きょとん、と首を傾げる私に、アンは頭を抱えた。
「いや、普通そこはさ。“キテルグマに抱きつかれても大丈夫な体を作ろう”じゃなくて、“キテルグマに優しく抱きしめてもらう方法を教えよう”とかじゃない?」
「いやまぁ、それは最初に思ったけど……やっぱり、この子に力加減を教えるなら、私自身が強くないと」
「そういうもの……なの?」
私と、キテルグマのくりくりお目目を順番に見つめるアンに私は頷いた。
私が話を聞きに行ったかくとうタイプのトレーナーさんも「力こそパワー!力こそジャスティス!」って言ってたし、やっぱり力のあるポケモンと心を通わせるには、心も体も強くならないと!