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天秤と王冠の少年

#2

やさしかったひと

唇を噛んだ。

すごく、こわい。

でも、いかなきゃ。

僕は一歩、踏み出した。

その瞬間、誰かにぶつかった。

「うわっ」

見上げると、大人の人だった。

「……君、子供?」

「あ、えっと……」

声がうまく出ない。

どうしよう。

目を瞑ってしまった。

だめだ。泣いちゃだめだ。

でも、勝手に涙が出てくる。

「親、いないの?」

その人はしゃがんで、僕と目を合わせた。

こわい目じゃなかった。

「……いないなら、一旦この街に入っていいよ。身分証も、お金も、なさそうだしな」

優しい声だった。

僕は慌てて涙を袖でぬぐった。

ばれないように、左目を前髪で隠したまま。

こくん、と小さくうなずく。

そして――

街に、一歩、踏み入れた。

石畳の感触が、足裏に伝わる。

人の声。

パンの匂い。

笑い声。

……あったかい。

でも。

その瞬間。

遠く、ずっと遠くの国で。

魔力を測る器が、わずかに揺れた。

小さく、ほんの小さく。

それでも確かに。

あの国は、気づいていた。

王冠が、街に入ったことを。

作者メッセージ

作品をご覧になっていただきありがとうございます

2026/04/29 15:55

幸山七音
ID:≫ 02JLigkJEArSA
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