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友人が人間脱却しようとした話


「私と共に人間脱却のため、逃避行と洒落込みませんか?」隣の席の田辺蛍がまた変な話しを始める。私にはそれが普通であったが、田辺とあまり関わりのない、彼を一般常識人と思い込んでいる私の友人たちは「田辺さん、どうしたの?」と結構真面目な声で彼の正気度を確かめる。それが変にツボにはまったようで田辺は軽快に笑って、「ふふ、二人の計画に首突っ込んだら一緒に無理心中しますよ?」と元演劇部の縁の下の力持ちの実力を以て、ホラー映画の悪役のように不敵な笑みを浮かべて私の貴重な友人たちを退散させてしまう。

 田辺は私の親友的人物であり、私は彼のワトソン博士的人物である。田辺の考えていることは二か月間の友情を紡いだ今でも理解不能だが、彼の話を聞いていると、彼の実行したいことの輪郭が見え隠れする。田辺のしたいこと、それは人間からの脱却だった。今の今までそれを成し遂げた人物はいない、というのが彼の言い分である。私は未知の考えを固まった頭に多様性として無理やりに受け入れさせた。
 田辺の人間の定義は「一つ、人間社会的常識をある程度持っていること。二つ、人間として認識できるほどの形をしていること。三つ、人間としての一般的な生活知識を持っていること」が条件であり、その
三つの内、一つでも欠ければそれを人間と田辺はみなしていないらしい。田辺は「形を変えるのは痛そうだし、知識を捨てるのは勿体ないから、人間と人外との境界線ギリギリ人外ぐらいまで常識を捨てる」と私がワトソンになった直後にお得意の夢話を話していた。

 彼はこの二か月の間に常識を捨てようと奮闘していたが、それも空しく頑張り損であった。負け犬の遠吠えのように彼は「自殺をして形を人間じゃなくしたらいいんじゃないか」と酒に溺れた人間のような突飛で非現実的な話しだす。私はもはや彼がどうなろうが、知ったことないと割り切り始めて、残酷になっていた。そのへったくれ根性で「やってみたらいいじゃないか?」と彼の命を簡単に投げ捨てる助走をつけ始める。そして、田辺も田辺で「いいね。明後日の全校集会で実行しよう」と指を鳴らす。彼は中学生と思えない程軽々しく己の命を弄ぶ。
 決めたら曲げない精神の私たちの心は明後日の田辺の自殺に向けて真っすぐ進んでいた。「この時に壇上に駆けあがったら?」「否、そうしたらゴリラ野郎に引き裂かれて自殺どころじゃない」とか田辺の命の実験計画をコソコソと繰り広げている。「………‥‥…」「………………」………………、………………………。

 全校集会の今日までの二日間、私と田辺は綿密な計画を手早く練った。作戦はまず、全校集会の少し前に田辺は仮病で保健室に入る。それから全校集会になれば先生は離籍するから、その隙を突いて保健室から抜け出し、予め予定していた場所に息を潜める。私は先生に田辺が保健室へ行ったことを先生に報告することと、校長の演説の中腹痛を装ってブレーカーを落としに行くだけだ。そうすれば後は勝手に田辺が動く。勝手に、そう、勝手に…。

 全学年全クラスが空気の籠った体育館に集合する。私は一呼吸おいてから、担任に田辺が保健室に入ったことを伝える。担任は「そうか」と一言だけ言って、私に感謝のかの字も見せない。マイク越しの男子生徒の低い声変わりした声が体育館に響く。「起立、礼、着席」全員が動くから、音がとても聞こえる。私は床に座って、校長の演説まで腹が痛いフリをするための種まきをしておく。生徒指導の厳つい声や学校代表の高らかな柔らかい声。次は校長の演説が始まる。私は生唾を飲んで、担任に「おなかが痛いので、トイレ行ってもいいですか」と尋ねると、予想どおり担任は頷く。

 私は小走りで体育館を後にした。先程の昼休みに拝借させていただいた鍵を使って電気管理室へ足を踏み入れる。ちゃんと予備電源と体育館電源をオフにした。私はそのボタンを押した一瞬でとてつもない罪を背負った気がして、冷や汗が止まらなかった。
ただ、電源を落とす悪戯をしただけなのに。

 帰り道は本気で走って、田辺の演説を見物しに行く。私は少し遠回りしてステージの方の扉から体育館に侵入した。体育館は騒めきと田辺のマイク越しの遺言が支配している。「皆さんは人間ですか?私は自分がまだ人間であることに酷く苛立ちを覚えます。私は貴方達、下等生物とは違う場所に在るべき者なのです。ですから、私は下等生物、人間を脱却しようと思います」指先から、全身まで、身体が震える。分かっていた。分かっていたはずなのに、私は田辺への恐怖で動けない。生徒たちの高い悲鳴が耳に侵入してくる。ここからは田辺の姿は見えないけれど、舞台上で誰がいるか、どんな顔をしているかは瞼にパッと浮かんでる。私は耳も目も塞いで泣いた。
 私は、人間じゃない。人間であるべきじゃない。人間ほど賢くなんてないんだ。

 五分くらいして落ち着きを戻した私は、人間脱却した私は、涙を拭って普段の入り口から体育館にまた入った。担任が「おい!田辺が、田辺が自分の胸めった刺しにしちまったよ!」物凄い剣幕で私に話してくる担任は私が犯した罪を知ったらどうなるんだろう?担任を振り払い、私は野次馬の海に潜って行った。人を押しのけて田辺を一目。それは、人間になれなかった化け物のような姿だった。
 私は思わず「田辺、君は人間脱却じゃない、人間合格を目指したんじゃないか?」と小声で呟いた。

作者メッセージ

ゲーセンに立ち寄ってハッと頭に電流が流れだした設定です。
私的に主人公のバカらしさが私に酷似しているとことか、主人公私の胃の中に取り込みたいくらいかわいいんですよね!
因みに主人公は女の子です。田辺さんは男の子です!恋愛系は私苦手祭りなんですよね

2024/06/23 22:06

水中 口天良
ID:≫ 05i7.ABq7ApP6
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