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公安対魔特異0課:佐藤匠人の静止する日常

#12

第12話:静止する原稿、あるいは「編集」される運命

台風の悪魔が霧散し、闇の悪魔が物理的な暴力に屈して退散した後の学校。
校庭に立ち尽くす早川アキの背後には、かつての「狐」や「呪い」といった悪魔の眷属とは明らかに異なる、神々しくも禍々しい人型の精神エネルギーが鎮座していた。
その名は、『ザ・ワールド・オーバーヘブン・ドアー』。
「……なんだ、この感覚は。世界が、まるで……一冊の本のように視える」
アキは自らの震える右手に握られた、黄金の万年筆を見つめた。
匠人のスーツから放たれた「矢」は、アキの復讐心と、仲間を守りたいという切実な願いを核として、このデタラメなスタンドを産み落としたのだ。
佐藤匠人は、ボロボロになったシャツの袖を捲りながら、満足そうに頷いた。
「……適合したようだな、早川アキ。それは悪魔の力ではない。お前の精神が、この世界の『因果』に直接アクセスするための鍵だ。……時を止めて、編集しろ。それがお前の新しい戦い方だ」
「……時を、止める……?」
「ああ。だが、俺のようにただ動くのではない。お前は、止まった世界を『原稿』として書き換えるんだ。……来い、レゼ。試験の続きだ」
■ 編集される戦場
爆弾の悪魔、レゼは、アキの背後に立つ異様な存在に本能的な危機感を感じていた。
「……よくわからないけど、その『幽霊』ごと爆破してあげる!」
レゼが爆風を推進力に変え、音速に近い速度でアキへと突っ込む。その手には、接触した瞬間に校舎を吹き飛ばすほどの高熱が宿っていた。
デンジが「アキ、危ねえ!」と叫ぶ。
だが、アキの意識は、すでに現世の速度を超越していた。
「『ザ・ワールド・オーバーヘブン・ドアー』。……時は、静止する」
カチリ、と世界から音が消えた。
降りしきる雨粒が空中に固定され、レゼの放った爆炎の揺らめきが琥珀の中に閉じ込められたように固まる。
動けるのは、早川アキと、その守護霊のみ。
(……視える。レゼの全身が、文字の羅列として展開されている)
停止した時間の中で、レゼの身体は「本」のページのように見開かれた。そこには、彼女が幼少期にソ連の研究所で受けた非道な実験の記録、デンジを殺すために刻まれた命令、そして……心の奥底に隠された、デンジに対する「本当の迷い」が記されていた。
アキは黄金のペンを走らせる。
「……『攻撃を中止する』。……そして、『自らの爆破プロセスを完全に凍結する』」
サラサラと、止まった世界にインクの音が響く。
アキの精神力が、インクとなってレゼの運命を書き換えていく。
さらにアキは、レゼのページの端を、迷いなく指でつまんだ。
「……『デンジを殺すという命令』。このページは、破り捨てる」
ビリッ、と現実にはあり得ない音が、止まった空間に空虚に響いた。
レゼから「殺意」という名の能力・動機が、物理的に剥ぎ取られた瞬間だった。
■ 確定した事実
「……時は、動き出す」
アキが呟いた瞬間、世界に色彩と音が戻った。
レゼは、突進の勢いのまま、アキの目の前でピタリと停止した。彼女の腕に宿っていた爆炎は、まるで最初から存在しなかったかのように鎮火している。
「……え? 私、何を……」
レゼは困惑し、自分の手を見つめた。
彼女の頭の中にあった「デンジの心臓を奪う」という絶対的な優先順位が、綺麗に消失している。それどころか、彼女はなぜ自分がここで戦っているのかさえ、一瞬思い出せなくなっていた。
「……これが、俺の力か。……エグいな。相手の人生そのものを、俺の都合でいじれるのか」
アキは自らのスタンドの恐ろしさに戦慄し、手が微かに震えていた。
「……甘いな、早川アキ」
匠人が、二人の間に歩み寄ってきた。
「お前は、書き込みを最小限に抑えたな。本来なら『心臓を停止させる』と一行書くだけで、この女は死んでいたはずだ。……だが、その『甘さ』もお前のインクの一部か」
「……佐藤、お前は最初からこれがわかっていて、俺に矢を刺したのか」
「……さてな。俺はただ、お前の復讐に『終止符』を打つための道具を与えただけだ。……銃の悪魔が来ても、お前はそのペン一本で、奴の存在を『無かったこと』にできるだろう」
■ 教育者の決断と、レゼの行方
デンジが、這いずりながらレゼの元へ近寄る。
「……レゼちゃん……? なあ、もう戦わないのか?」
「……わからない。私、なんだか……すごく疲れたみたい。……デンジくん、私……」
レゼの瞳には、かつての刺客としての冷酷さはなく、ただの戸惑う少女の光が戻っていた。アキが彼女の「殺意のページ」を破り捨てたことで、彼女は呪縛から解き放たれたのだ。
だが、佐藤匠人は知っていた。
アキがどれだけ運命を書き換えようと、この世界の「支配者」であるマキマが、このイレギュラーを許すはずがないことを。
「……早川アキ。お前のスタンドは最強だが、インクには限りがある。……レゼ。お前は今すぐ、この街から消えろ。アキが書き換えた『平和な運命』が固定されているうちに、二度と公安の前に現れるな」
匠人の言葉は厳しかったが、それは彼女への唯一の救済だった。
レゼは、複雑な表情でデンジを見つめた後、雨の夜の闇へと姿を消した。
「……佐藤。これで、良かったのか?」
アキが問う。
「……正解などない。だが、少なくともお前の手は、無意味な殺生で汚れなかった。……合格だ、アキ。お前は今日から、特異0課の『準構成員』として扱わせてもらう」
匠人は、壊れた校舎を見上げ、ふっと指を鳴らした。
『クレイジー・ダイヤモンド』。
能力は使わないと言っていたが、もはや事後処理まで手作業でするほど、彼は勤勉ではない。
崩れた壁が吸い付くように元に戻り、血に染まったプールは透明な水へと浄化されていく。
「……ビームが戻る前に、俺も帰る。夕飯のステーキが冷めるのは『無駄』だからな」
匠人は、立ち尽くすアキと、呆然とするデンジを置いて、闇の中へと歩き出した。
彼の背中には、以前のような孤高の冷たさだけではない、どこか「師」としての穏やかな重みが宿っていた。
だが、匠人は「全知全能の眼」で視ていた。
アキのスタンド、『ザ・ワールド・オーバーヘブン・ドアー』。その能力は、世界を編集する力。
それは、いつか匠人自身の「時」と衝突する運命にあるのかもしれない。
「……面白い。早川アキ、お前がいつか、俺の物語さえも編集しにくる日を楽しみにしているぞ」
最強の男、佐藤匠人。
彼の日常は、新たなスタンド使いの誕生によって、さらなる予測不能な領域へと加速していく。

2026/03/03 21:57

taku203503
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