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公安対魔特異0課:佐藤匠人の静止する日常

#6

第6話:黄金のモテ期と、硝煙の女たち

サムライソードとの死闘(といっても匠人が一方的に粉砕しただけだが)から数日。公安対魔特異4課には、奇妙な平穏が訪れていた。
しかし、その平穏の裏で、新たな「戦い」の火蓋が切って落とされようとしていた。それは悪魔との契約でも、銃による抗争でもない。
「……ねえ、匠人くん。今日の夜、空いてるかな?」
4課の執務室。書類を整理していた佐藤匠人の背後から、甘い酒の香りを微かに纏った声が響いた。姫野だ。彼女は匠人の肩に馴れ馴れしく腕を回し、耳元で囁く。
「この間の飲み会、君のおかげで命拾いしちゃったし。お礼に、二人っきりで『特別』な美味しいお店、連れて行ってあげたいなーって」
匠人は視線を動かさず、淡々とペンを走らせる。
「姫野先輩。俺は残業をしない主義だ。それに、二人っきりという言葉には、ロクな未来が視えない」
「え~、つれないな。私の『ゴースト』の手、肩揉みとかに使うと結構気持ちいいんだよ? 試してみたくない?」
「……遠慮しておく。スタンドと幽霊が混ざれば、このビルごと消滅しかねない」
匠人が冷たくあしらおうとしたその時、背後の扉がガタガタと震えながら開いた。
「あ、あの……! さ、佐藤さん!」
そこに立っていたのは、涙目で震える東山コベニだった。彼女は両手に紙袋を抱え、今にも過呼吸で倒れそうな勢いで匠人に歩み寄る。
「こ、これ……! この間の、あの……! 助けていただいたお礼に、私の実家から送ってきた……お、美味しいお菓子です! もしよかったら、わ、私と一緒に、公園で……食べませんか!?」
「あら、コベニちゃん。割り込みは感心しないな」
姫野の目が、笑っているが笑っていない、プロのデビルハンターのそれに変わる。
「匠人くんは今、私と大人のデートの相談をしてたところなの。新人くんは、あっちでデンジくんと遊んでなさい?」
「ひ、ひぃぃ……! す、すみません……! でも、でも……! 佐藤さんは、私みたいな……どん底の人間にも、優しくしてくれたから……!」
コベニは恐怖でガクガクと膝を震わせながらも、匠人への「感謝(という名の執着)」だけは譲らない。
匠人は、溜息をついた。
(……時を止めて逃げるのは簡単だ。だが、この執念は時間を動かした瞬間に倍になって戻ってくる。因果律の操作も、こんな下らないことに使うべきではない)
「……わかった。間をとって、三人で食事に行こう。場所は俺が決める。文句は受け付けない」
それが、地獄の始まりだった。
■ 修羅場のファミリーレストラン
匠人が選んだのは、どこにでもある大衆ファミリーレストランだった。
「ここなら、余計な雰囲気も出ないし、値段も手頃だ」
そう言って匠人はドリンクバーのコーラを啜るが、両隣に座る二人の女性の視線が痛い。
「匠人くん、あーんして? このハンバーグ、私が切ってあげたんだから」
姫野がフォークを突きつける。
「さ、佐藤さん! こ、こっちのポテトの方が……安くて美味しいですよぉ……! ほら、食べてください……!」
コベニが、震える手でケチャップまみれのポテトを差し出す。
「……自分で食べる。二人とも、落ち着け。周りの客が怯えている」
実際、ファミレスの店内は異様な空気に包まれていた。
絶世の美女デビルハンターと、挙動不審な少女。その中心に座る、無表情だが圧倒的なオーラを放つ青年。
匠人の背後では、『クロノス・アンリミテッド』が、二人の殺気に反応して一瞬だけ姿を現しては消える。
「ねえ、匠人くん。君って、どんなタイプが好きなの? 私みたいに頼れるお姉さん? それとも、守ってあげたくなるような……弱そうな子?」
姫野がコベニをチラリと見ながら、匠人の太ももにそっと手を置く。
「……俺が好きなのは、『静寂』と『平穏』だ。今のお前たちは、その真逆を行っている」
「う、うわぁぁぁん! 佐藤さぁん! 私は、私は……! 佐藤さんがいれば、悪魔なんて怖くないんです……! 私を……私を特異0課の専属にしてくださぁい!!」
コベニが机に突っ伏して泣き喚く。
その時、ファミレスの窓ガラスが突如として粉砕された。
■ 邪魔者は「無駄」
「ギギギ……! デビルハンターどもを見つけたぞ! 喰らってやる!」
現れたのは、周辺に潜伏していた「カマキリの悪魔」の残党だった。
食事を邪魔された客たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
姫野が立ち上がり、眼帯に手をかける。
「……チッ、いいところだったのに。ゴースト、あいつを――」
「わ、わわわ……! 私の包丁で、細切れに……!」
コベニも泣きながら包丁を抜こうとする。
だが、匠人の怒りがそれを上回った。
「……座れ、二人とも」
匠人が椅子から立ち上がることもなく、指を一回鳴らした。
本来ならここで『ワールド・エンド』で時を止め、優雅に排除するところだが、今の匠人はあえて「物理」を選んだ。
「無駄だ。食事の邪魔をするな」
匠人の背後から、黄金の拳がロケットのような速度で飛び出した。
スタンドを実体化させず、その「衝撃波」のみを飛ばす超高等技術。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!!」
ファミレスの店内に、凄まじい連撃の音が響く。
だが不思議なことに、匠人の拳は皿一枚、グラス一つも割ることはなかった。
ただ、窓から侵入しようとした悪魔だけを正確に捉え、その細胞を『黄金の回転』で分子レベルにまで粉砕していく。
「ギギャァァァッ!?」
カマキリの悪魔は、何が起きたのか理解する間もなく、店の外へと弾き飛ばされ、そのまま夜空の星となった。
匠人は何事もなかったかのように座り直し、コーラを一口飲んだ。
「……騒がしいのは終わりだ。さっさと食べて、帰るぞ」
■ 決着なき夜
食事の後、ファミレスの入り口で三人は解散することになった。
姫野は少しだけ満足そうに、匠人の頬に軽く指を触れた。
「……ふふ、あんなに怒る匠人くんも素敵ね。また明日、公安で。次は、マキマさんに内緒で飲みに行こうね」
「ひ、ひぃ……! お、お疲れ様でした……! お、お菓子……食べてくださいね……!」
コベニは深々と頭を下げ、脱兎のごとく逃げ去っていった。
一人残された匠人は、夜空を見上げ、深く溜息をついた。
(……悪魔と戦う方が、よっぽど楽だな)
すると、背後の暗闇から影が伸びた。
「あら。佐藤くん、楽しそうじゃない」
マキマだった。彼女はいつからそこにいたのか、薄笑いを浮かべて匠人を見つめている。
「マキマさん。あなたの部下の管理はどうなっている。……おかげで、俺の『平穏』が台無しだ」
「それはごめんなさい。でも、あなたが愛されるのは、あなたがそれだけ『強い』からよ。……佐藤くん。次は、私とも食事に行ってくれるかしら?」
匠人は答えず、黄金の精神エネルギーを一瞬だけ爆発させ、自身の周囲の空気を歪ませた。
「……俺を支配できると思うなよ、マキマ」
「ふふ。試してみるのも、面白いわね」
最強の男、佐藤匠人。
彼の日常は、悪魔との戦いよりも遥かに過酷で、予測不能な「愛」という名の戦場へと、本格的に足を踏み入れようとしていた。

2026/03/03 17:42

taku203503
ID:≫ 17/UklnAAecq6
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