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公安対魔特異0課:佐藤匠人の静止する日常

#4

第4話:肉の終焉と、苦い祝杯の味

ホテルの8階。そこは、理屈も時間も通用しない「永遠の悪魔」が支配する閉鎖空間だった。
第3話において、佐藤匠人は自身の「時を止める能力(ワールド・エンド)」を封印し、純粋な身体能力とスタンドの暴力――「無駄無駄ラッシュ」のみで、永遠の悪魔を文字通り粉砕した。
壁一面を埋め尽くしていた肥大化した肉塊は、もはや原形を留めていない。廊下には、悪魔の返り血が川のように流れ、鼻を突く異臭が充満していた。
「……あ、あぁ……」
永遠の悪魔の「核」であった部分は、匠人の拳によって数万箇所を同時に陥没させられ、もはや再生の意志すら失っていた。かつて傲慢に「チェンソーの心臓を寄越せ」と吠えていた化け物は、今や匠人の足元で、ただの震える肉のゴミと化している。
匠人は、自分の拳に付着した青白い悪魔の血を、懐紙で無造作に拭った。
「……デンジ。トドメは任せる。こいつはもう、抵抗する気力もない」
デンジは、目の前で起きた「一方的な虐殺」に言葉を失っていた。自分が心臓を差し出すかどうかで揉めていたあの時間が、馬鹿らしく思えるほどの圧倒的な力の差。
「……おう。わかったよ、佐藤。お前……マジで人間か?」
「失礼な奴だな。俺はただの大学生だと言っているだろう。……ただし、少しばかり『無駄』なことが嫌いなだけだ」
デンジがチェンソーを起動し、虫の息となった永遠の悪魔を切り刻む。その断末魔すら、匠人は興味なさそうに聞き流し、開通したホテルの階段を悠然と下りていった。
■ 宴の喧騒:新宿の居酒屋にて
事件から数日後。
永遠の悪魔を討伐し、無事に生還した「対魔特異4課」の面々は、新宿の古びた居酒屋に集まっていた。
本来なら、デンジが身を削って3日間戦い続けた末の勝利を祝う会のはずだった。しかし、今回、4課のメンバーたちの視線は、ひとりの男に集中していた。
佐藤匠人。
彼は上座でも下座でもない、入り口近くの目立たない席で、ひとり静かに「ウーロン茶」を啜っていた。
「佐藤さーん! 今日は飲んでくださいよ! あのラッシュ、マジで痺れましたから!」
新人の荒井が、顔を真っ赤にして匠人に絡みつく。
「そうだぞ佐藤! お前、あんな隠し球持ってたなら最初から言えよ! 狐を呼ぶまでもなかったじゃねえか!」
早川アキも、珍しく上機嫌で酒を煽っている。彼にとって、因縁の相手である「銃の悪魔」に繋がる肉片を手に入れられたことは、何よりも大きな前進だった。
「……喧しい。俺はただ、マキマさんの顔を立てて手本を見せただけだ。二度とあんな野蛮な真似はさせないでくれ」
匠人は冷たくあしらうが、その言葉には以前のような突き放すような拒絶はなかった。
その時、隣に座っていた姫野が、匠人の肩に腕を回した。
「ねえねえ、匠人くん。君、本当に時を止められるの? あの時は止めてなかったよね?」
「……止める必要がなかっただけだ。止まった世界は静かだが、退屈だからな」
「へぇ~、かっこいいこと言うねぇ。ねえ、私の『幽霊(ゴースト)』とどっちが強いか、今度試してみない?」
「……ゴーストか。お前の右目と引き換えに得た力だろ。俺のスタンドとぶつかれば、お前の存在そのものが削り取られる。やめておけ」
匠人の言葉は警告だったが、酔った姫野には子守唄のようにしか聞こえていないようだった。
■ 絶望の予感と、最悪の「味」
宴もたけなわ。
デンジは、ひとつの大きな期待に胸を膨らませていた。
「姫野先輩……。約束、覚えてるよな……? 悪魔を倒したら、キスしてくれるって……」
デンジの鼻の下が伸びる。
本来の歴史なら、ここでデンジは死に物狂いで戦った功績としてキスを勝ち取るはずだった。しかし、今回は匠人が一瞬で片付けてしまった。それでも、姫野は酔った勢いで「いいよぉ~」と答えていた。
匠人は、その様子を横目で見て、嫌な予感を感じていた。
(……酒の匂いがきつすぎる。これは、嫌な未来しか視えないな)
彼は「全知全能の眼」を使い、数秒先の未来を確定させようとしたが、すぐに思い直して能力を解いた。
「……たまには、計算できない不条理を楽しむのも『人間らしい』か」
そして、運命の瞬間が訪れる。
姫野がデンジの顔を引き寄せ、唇を重ねようとした。
デンジは目を閉じ、人生最高の瞬間を待ち構える。
「……んぐっ」
姫野の口から、妙な音が漏れた。
次の瞬間。
「げぇっほぉ!!」
姫野が吐き出した「未消化の酒とつまみの混合物」が、デンジの口の中にダイレクトに流し込まれた。
「…………っ!!???」
居酒屋の時が止まった。
それは、匠人の能力による停止ではない。あまりの惨劇に、4課の全員の思考がフリーズしたことによる、心理的な停止だった。
「げ、ゲボ……。デンジの口に、ゲボが……」
パワーが指を差して笑い転げる。
コベニは顔を青くして自分の口を押さえ、アキは天を仰いだ。
デンジは、魂が抜けたような顔で固まっている。
「……あ……。あ……」
匠人は、ジョッキを静かにテーブルに置いた。
「……因果律の操作を使えば、この『悲劇』をなかったことにもできたが。……デンジ、これも一つの経験だ。強く生きろ」
匠人は、トイレに猛ダッシュするデンジの後ろ姿を見送りながら、ひとり溜息をついた。
この男、佐藤匠人が0課として介入してからというもの、世界は少しずつ変質している。本来なら凄惨で悲劇的なはずのデビルハンターの日常が、どこかシュールで、救いようのない喜劇へと塗り替えられていく。
■ マキマとの対話
飲み会が終わり、夜風が吹き抜ける路上。
匠人は、先に店を出て待っていたマキマの隣に立った。
「お疲れ様、佐藤くん。楽しかった?」
「……最悪だ。服に酒の匂いが染み付いた」
「ふふ。でも、あなたは一度も『時』を使わなかったわね。あれほど効率を重視するあなたが、わざわざ自分の手で、泥臭く殴り殺すなんて」
マキマの琥珀色の瞳が、匠人を射抜くように見つめる。
「あなたが人間らしくなればなるほど、私は嬉しいわ」
「……勘違いするな。俺はただ、あなたの望む『手本』を見せただけだ。次は、もっとスマートに終わらせる」
「期待しているわ。……銃の悪魔の肉片が集まれば、あなたの力も、もっと必要になるはずだから」
匠人は答えず、夜の闇へと歩き出した。
背後で、黄金のオーラを纏った『クロノス・アンリミテッド』が、一瞬だけ姿を現し、マキマを威嚇するように睨みつけた。
佐藤匠人。
時を支配し、無限を操る男。
彼の日常は、ゲロの味と共に、より一層混沌とした深淵へと突き進んでいく。

2026/03/03 15:04

taku203503
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