「はぐろ」の艦橋から見える光景は、地獄そのものだった。
かつての栄光の象徴、空母「赤城」が真っ赤な火柱を上げ、黒煙が天を突いている。匠人三等海佐は、その無残な姿を直視しながら、CIC(戦闘指揮所)へと降りた。
「生存者の救助を開始しろ。内火艇を出せ。ただし、米駆逐艦の接近を許すな」
匠人の命が下る一方で、海面下ではもう一つの「未来」が動いていた。
最新鋭潜水艦「たいげい」「はくげい」「じんげい」の三隻である。リチルムイオン電池による圧倒的な持久力と、最新の吸音タイルを纏ったその艦体は、1942年の未熟なソナー(探信儀)では決して捉えることのできない「幽霊」だった。
[大文字]海深100メートル:潜水艦「たいげい」発令所[/大文字]
「……信じられんな。これが、歴史に名高い第16任務部隊か」
「たいげい」艦長は、潜望鏡(非貫通式光電潜望鏡)のモニター越しに、波間に浮かぶ巨体を凝視していた。
そこには、米海軍の至宝、空母「エンタープライズ」がいた。周囲を固めるのは、重巡洋艦「ニューオーリンズ」や駆逐艦群。彼らは上空でF-35Bに翻弄される自軍の艦載機を救おうと、必死に対空砲火を打ち上げている。
「艦長、いずも司令部より命令。『米空母を沈める必要はない。だが、これ以上の日本艦隊への攻撃を阻止するため、その足を止めろ』とのことです」
「……殺さずに勝て、か。難しい注文だ」
艦長は不敵に微笑んだ。
「魚雷発射管1番から4番、装填。目標、エンタープライズ。舵とスクリューのみを狙う。……18式魚雷、発射準備」
現代の長射程・高精度魚雷が、歴史上最強の武勲艦に向けて放たれようとしていた。
[大文字]護衛艦「はぐろ」左舷:救助活動[/大文字]
一方、「はぐろ」の舷側では、海に投げ出された帝国海軍の兵士たちが、信じられないものを見る目で「令和の巨艦」を見上げていた。
「おい……あの船はなんだ。日の丸がついているぞ」
「あんな巨大な戦艦、見たことがない。大和か? いや、煙突がないぞ……」
救助された兵士の一人が、甲板に引き上げられた。ボロボロの作業衣を着た若い整備兵だ。
彼は、最新のタクティカルベストを装備し、見慣れぬ自動小銃を背負った自衛官たちに囲まれ、恐怖に震えていた。
そこへ、匠人が歩み寄る。
「……怪我はないか」
匠人が発した言葉は、紛れもない日本語だった。整備兵は目を見開き、ガタガタと震える声で問い返した。
「貴様ら……どこの所属だ。この艦はなんだ……日本に、こんな秘密兵器があったのか……?」
匠人は答えに窮した。自分たちが「84年後の日本」から来たと言って、誰が信じるだろうか。
「私は、日本国海上自衛隊、三等海佐の匠人だ。……今はただ、日本の船だと思ってくれ」
その時、海を割るような大爆発が水平線で起きた。
「たいげい」が放った魚雷が、エンタープライズの艦尾に命中したのだ。巨大な水柱が上がり、世界最強の空母がその場に立ち往生する。
しかし、この勝利の予感は、CICからの悲鳴のような報告で打ち消された。
「艦長! 方位300、超高空より高速移動物体を確認! 速度マッハ3……! これは、コルセアでも、1942年の兵器でもありません!」
匠人の顔が強張る。
「なんだと……? この時代に、マッハ3だと?」
「データ照合……不可能です! ですが、この熱源反応は……現代の、対艦ミサイルに酷似しています!」
ミッドウェーの空に、もう一つの「未来の影」が忍び寄っていた。
かつての栄光の象徴、空母「赤城」が真っ赤な火柱を上げ、黒煙が天を突いている。匠人三等海佐は、その無残な姿を直視しながら、CIC(戦闘指揮所)へと降りた。
「生存者の救助を開始しろ。内火艇を出せ。ただし、米駆逐艦の接近を許すな」
匠人の命が下る一方で、海面下ではもう一つの「未来」が動いていた。
最新鋭潜水艦「たいげい」「はくげい」「じんげい」の三隻である。リチルムイオン電池による圧倒的な持久力と、最新の吸音タイルを纏ったその艦体は、1942年の未熟なソナー(探信儀)では決して捉えることのできない「幽霊」だった。
[大文字]海深100メートル:潜水艦「たいげい」発令所[/大文字]
「……信じられんな。これが、歴史に名高い第16任務部隊か」
「たいげい」艦長は、潜望鏡(非貫通式光電潜望鏡)のモニター越しに、波間に浮かぶ巨体を凝視していた。
そこには、米海軍の至宝、空母「エンタープライズ」がいた。周囲を固めるのは、重巡洋艦「ニューオーリンズ」や駆逐艦群。彼らは上空でF-35Bに翻弄される自軍の艦載機を救おうと、必死に対空砲火を打ち上げている。
「艦長、いずも司令部より命令。『米空母を沈める必要はない。だが、これ以上の日本艦隊への攻撃を阻止するため、その足を止めろ』とのことです」
「……殺さずに勝て、か。難しい注文だ」
艦長は不敵に微笑んだ。
「魚雷発射管1番から4番、装填。目標、エンタープライズ。舵とスクリューのみを狙う。……18式魚雷、発射準備」
現代の長射程・高精度魚雷が、歴史上最強の武勲艦に向けて放たれようとしていた。
[大文字]護衛艦「はぐろ」左舷:救助活動[/大文字]
一方、「はぐろ」の舷側では、海に投げ出された帝国海軍の兵士たちが、信じられないものを見る目で「令和の巨艦」を見上げていた。
「おい……あの船はなんだ。日の丸がついているぞ」
「あんな巨大な戦艦、見たことがない。大和か? いや、煙突がないぞ……」
救助された兵士の一人が、甲板に引き上げられた。ボロボロの作業衣を着た若い整備兵だ。
彼は、最新のタクティカルベストを装備し、見慣れぬ自動小銃を背負った自衛官たちに囲まれ、恐怖に震えていた。
そこへ、匠人が歩み寄る。
「……怪我はないか」
匠人が発した言葉は、紛れもない日本語だった。整備兵は目を見開き、ガタガタと震える声で問い返した。
「貴様ら……どこの所属だ。この艦はなんだ……日本に、こんな秘密兵器があったのか……?」
匠人は答えに窮した。自分たちが「84年後の日本」から来たと言って、誰が信じるだろうか。
「私は、日本国海上自衛隊、三等海佐の匠人だ。……今はただ、日本の船だと思ってくれ」
その時、海を割るような大爆発が水平線で起きた。
「たいげい」が放った魚雷が、エンタープライズの艦尾に命中したのだ。巨大な水柱が上がり、世界最強の空母がその場に立ち往生する。
しかし、この勝利の予感は、CICからの悲鳴のような報告で打ち消された。
「艦長! 方位300、超高空より高速移動物体を確認! 速度マッハ3……! これは、コルセアでも、1942年の兵器でもありません!」
匠人の顔が強張る。
「なんだと……? この時代に、マッハ3だと?」
「データ照合……不可能です! ですが、この熱源反応は……現代の、対艦ミサイルに酷似しています!」
ミッドウェーの空に、もう一つの「未来の影」が忍び寄っていた。
- 1.第1話:群青の予兆
- 2.第2話:鋼鉄の洗礼
- 3.第3話:邂逅、そして混迷
- 4.第4話:深海の静かなる狩人
- 5.第5話:集結、そして決断
- 6.第6話:巨艦、対峙
- 7.第7話:ミッドウェー・フリーズ
- 8.第8話:鋼鉄のカーテン・2026
- 9.第9話:鋼鉄の苗床
- 10.第10話:蒼焔の翼、本土防衛
- 11.第11話:降臨、大いなる列島
- 12.第12話:孤立する「自由の砦」
- 13.第13話:蒼穹の騎士道
- 14.第14話:ワシントンの邂逅
- 15.第15話:巨神降臨、ハワイ沖
- 16.第16話:鋼鉄の怒涛、ノルマンディー
- 17.第17話:黒十字の幻影と「陸の王者」
- 18.第18話:狂気の終焉、ベルリンの落日
- 19.最終話:鋼鉄の黎明
- 20.番外編:鋼鉄の福音 ―植民地主義の終焉―