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とある中3の恋愛物語

#2

第2話:『放課後の図書室、揺れるカーテン』

4月の喧騒が少し落ち着き始めた、ある放課後のこと。
図書室の窓際で、蔵持杏は一人、ノートを広げていました。
「……あ、あった」
探していた数式の解法を見つけ、杏が小さく息を吐いたとき。
「あん!……あ、ごめん、図書室だったな」
ガラリと扉を開けて入ってきたのは、佐藤匠人でした。彼は親しみを込めて杏の名前を呼びかけてから、慌てて声を潜め、彼女の向かいの席に座り込みました。
「匠人くん、部活は?」
「今日は雨で外が使えないんだ。体育館も交代制だしさ。……それより、杏。今の呼び方、変だったか?」
「ううん、全然。……匠人くんに呼ばれるの、嫌いじゃないよ」
杏が少し俯きながら答えると、匠人は嬉しそうに頭を掻きました。二人の間に、4月の少し湿った、でも甘い空気が流れます。
そんな二人を、書架の陰から見つめる視線がありました。
「……やっぱり、あそこには入り込めないかな」
森田詩織は、抱えていた返却本を強く胸に抱きしめました。
詩織は中2になり、去年よりも少しだけ積極的に匠人に近づこうと決めていました。けれど、匠人が杏に向ける特別に優しい呼び方に、胸がチリリと痛みます。
「詩織、何してるの」
背後から声をかけたのは、姉の森田千春でした。彼女の手には、受験対策の分厚い参考書が握られています。
「お姉ちゃん……。あの中に、入っていける?」
詩織の問いに、千春は匠人と杏の背中を静かに見つめました。
「……私たちは、私たちのペースで進むしかないよ、詩織」
千春の言葉は、妹へ、そして自分自身への言い聞かせのようでした。千春は、匠人への想いを心の奥底に鍵をかけて閉じ込めています。それが、親友である杏を傷つけないための、彼女なりの誠実さでした。
「おーい! みんなして図書室に集まって、勉強会? 私も混ぜてよ!」
静寂を豪快に破って現れたのは、荒川心春です。彼女の明るい声に、図書室の重苦しい空気が一瞬で霧散しました。
「心春、うるさいわよ」
千春が呆れたように言いますが、心春は気にせず匠人と杏の席に陣取ります。
「ほら詩織も! ぼーっとしてないで、中3の勉強風景を見学していきなよ。来年は自分の番なんだから」
心春が強引に椅子を引いたことで、5人は一つのテーブルを囲む形になりました。
匠人と杏。
それを見つめる千春と詩織。
そして、すべてを知ってか知らずか、太陽のように笑う心春。
「ねえ、杏。この問題、教えてくれないか?」
匠人が杏のノートを覗き込む。
「……うん。ここはね、こうするんだよ」
杏の優しい声が響く中、詩織は自分の赤いリボンを指先でなぞりました。いつか、あの紺色のリボンをつける頃には、今よりももっと匠人の近くに行けるだろうか……。
2025年の春。5人の視線は、それぞれの想いを乗せて、窓の外に降り始めた雨を見つめていました。

2026/01/10 10:35

高情緒なkojyochou
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