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鋼鉄の時空:ミッドウェー1942(第二次世界大戦編)

#1

第1話:群青の予兆

2026年6月。
ハワイ諸島での日米共同演習「リムパック」を終え、日本への帰路につく海上自衛隊の遣外任務部隊は、まさに現代日本が誇る「盾と矛」の結晶であった。
隊列の中央には、事実上の空母化改修を終えた「いずも」と「かが」が、その広大な全通甲板を初夏の陽光に輝かせ、堂々と鎮座している。それを取り囲むのは、最新鋭のイージス艦「まや」と「はぐろ」。そして、海面下には世界最高峰の静粛性を誇るリチウムイオン電池搭載潜水艦「たいげい」「はくげい」「じんげい」が、音もなく獲物を狙うかのように随伴していた。
護衛艦「はぐろ」の艦橋。
艦長の匠人(たくと)三等海佐は、双眼鏡を置き、コンソールの表示に目を落とした。弱冠30代半ば。海自内でも「冷徹な戦術家」として知られつつも、その胸の内には部下を思いやる熱い情熱を秘めている。
「現在地、ミッドウェー島北西約200海里。これより針路を270へ変更する」
匠人が静かに告げたその時、異変は起きた。
「……? 艦長、電離層に異常! 磁気嵐です!」
電測士の悲鳴に近い声が響く。同時に、視界が歪んだ。
雲一つない青空が、一瞬にして鉛色から不気味な紫色へと変色していく。海面は鏡のように静まり返り、不気味なまでの静寂が艦隊を包み込んだ。
「全艦、衝撃に備え――」
匠人の言葉が終わる前に、凄まじい衝撃波が「はぐろ」を揺さぶった。電子機器が激しく火花を散らし、多機能モニターがノイズの海に沈む。
数分後。
嵐が去った後の海は、再び青さを取り戻していた。しかし、それは先ほどまでの海とは明らかに異なっていた。空気は重く、現代の海にはあるはずのない「焦げたような磯の匂い」が鼻を突く。
「被害報告!」
匠人は揺れる体を立て直しながら叫んだ。
「本艦、システム再起動中! GPS信号……ロスト! 衛星とのリンク、完全に遮断されました!」
「僚艦を確認しろ! 『いずも』は? 『まや』は?」
「各艦、健在です! ですが……通信に混信が発生。AM波のノイズの中に、英語の音声が……それも、かなり古い暗号形式です」
匠人は戦慄した。GPSが死に、通信が途絶した。しかし、レーダーが再起動した直後、CIC(戦闘指揮所)から叩きつけられた報告は、その混乱をさらに加速させた。
「報告! 方位090、距離45マイルに高速接近する機影群あり! 数24! 巡航速度……230ノット。この速度、現代のジェット機ではありません!」
「解析急げ!」
「データ照合……嘘だろ……。形状、逆ガル翼、4000馬力級レシプロエンジン……。識別結果、米海軍機『F4U コルセア』! 繰り返します、第二次世界大戦時のプロペラ機です!」
艦橋に戦慄が走る。
2026年の最先端を行くイージス艦のレーダーが、80年以上前の骨董品を捉えている。
匠人は震える手を悟られぬよう、きつく拳を握りしめた。
「……ここは、どこだ」
その問いに答えるかのように、見張り員が叫んだ。
「右舷前方、海面に爆煙を確認! 戦闘中です! 艦影多数、あれは……空母『赤城』に酷似しています!」
匠人は悟った。自分たちは、歴史の分岐点に迷い込んだのだ。
1942年6月。ミッドウェー海戦。
かつての祖国が破滅へと向かい始めた、あの運命の日。
「艦長、コルセア編隊、本艦を敵と認識! 急降下体勢に入ります!」
「総員、対空戦闘用意!」
匠人の鋭い声が、静まり返った艦橋を切り裂いた。
「これは演習ではない。我々は、死の時代に投げ込まれた。生き残るぞ、野郎ども!」
「はぐろ」の5インチ砲が、運命に抗うかのようにその黒い砲身を持ち上げた。
空の向こうから、レシプロエンジンの野太い咆哮が近づいてくる。

2026/02/12 13:32

taku203503
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