[明朝体]2025年の夏が終わり、9月。二学期という「現実」が始まった中学校の風景を描きます。2026年の卒業まで残り半年を切った、少し切なくも前向きな物語です[/明朝体]
夏休みが明けた校舎には、どこか落ち着かない空気が漂っていました。
中3の生徒たちの胸元で揺れる紺色のリボンは、受験生としての自覚を促すように、心なしか引き締まって見えます。
「……あ、匠人くん。おはよう」
始業式の後、廊下で佐藤匠人を見つけた蔵持杏が、少し照れくさそうに声をかけました。夏祭り以来、二人の間には、クラスメイト以上の柔らかな絆が確かに息づいていました。
「おはよう、杏。……夏休みが終わっちゃうと、なんだか少し寂しいね」
匠人は優しく微笑みながら、杏の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出しました。
「うん。でも、これからはもっと一緒に勉強できるね」
「そうだね。頑張って、同じ景色をこれからも見ていきたいから」
匠人の言葉は、以前よりもずっと穏やかで、杏を包み込むような温かさに満ちていました。
その様子を、教室の入り口で見守っていたのは荒川心春でした。
「……ったく、朝からごちそうさま。千春、あんまり見すぎると目に毒だよ?」
森田千春は、広げていた英単語帳から視線を外さずに答えました。
「分かっているわよ。……私はただ、二人の歩調が合っているのが、少しだけ綺麗だと思っただけ」
千春の声には、夏の頃のようなトゲはありませんでした。彼女は自分の恋心を、受験という大きな壁に挑むための「強さ」に変えようとしていました。
放課後。
いつものように5人が集まる図書室に、中学2年生の森田詩織がやってきました。
「匠人先輩、お疲れ様です。……これ、今日の小テストの範囲のプリントです」
「あ、ありがとう、詩織。いつも助かるよ」
匠人は詩織が持ってきたプリントを丁寧に受け取り、彼女の目を見て「無理してない?」と優しく気遣いました。
詩織は、その優しさに胸の奥がキュンと締め付けられます。夏祭りの夜に交わした「待っている」という約束。それは詩織にとって、何よりも大切な宝物でした。
「先輩。私、今日から図書室の自習、中3の皆さんの隣でやってもいいですか?」
詩織の申し出に、匠人は一瞬杏の顔を見ましたが、杏は優しく頷きました。
「もちろん。詩織ちゃんがいてくれた方が、私たちも頑張れる気がするわ」
図書室の一角。
匠人と杏。
それを見守る心春と千春。
そして、少し背伸びをして彼らの背中を追いかける詩織。
5人が並んで座るテーブルには、秋の澄んだ光が差し込んでいました。
中3の4人がつける「紺色のリボン」と、詩織がつける「赤いリボン」。
その色の違いはまだはっきりとしていましたが、2025年の秋、5人はそれぞれに「誰かのために強くなりたい」という想いを抱き、ペンを走らせていました。
「……よし、始めようか」
匠人の穏やかな号令と共に、2026年という未来に向かって、新しい章が静かに幕を開けました。
夏休みが明けた校舎には、どこか落ち着かない空気が漂っていました。
中3の生徒たちの胸元で揺れる紺色のリボンは、受験生としての自覚を促すように、心なしか引き締まって見えます。
「……あ、匠人くん。おはよう」
始業式の後、廊下で佐藤匠人を見つけた蔵持杏が、少し照れくさそうに声をかけました。夏祭り以来、二人の間には、クラスメイト以上の柔らかな絆が確かに息づいていました。
「おはよう、杏。……夏休みが終わっちゃうと、なんだか少し寂しいね」
匠人は優しく微笑みながら、杏の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出しました。
「うん。でも、これからはもっと一緒に勉強できるね」
「そうだね。頑張って、同じ景色をこれからも見ていきたいから」
匠人の言葉は、以前よりもずっと穏やかで、杏を包み込むような温かさに満ちていました。
その様子を、教室の入り口で見守っていたのは荒川心春でした。
「……ったく、朝からごちそうさま。千春、あんまり見すぎると目に毒だよ?」
森田千春は、広げていた英単語帳から視線を外さずに答えました。
「分かっているわよ。……私はただ、二人の歩調が合っているのが、少しだけ綺麗だと思っただけ」
千春の声には、夏の頃のようなトゲはありませんでした。彼女は自分の恋心を、受験という大きな壁に挑むための「強さ」に変えようとしていました。
放課後。
いつものように5人が集まる図書室に、中学2年生の森田詩織がやってきました。
「匠人先輩、お疲れ様です。……これ、今日の小テストの範囲のプリントです」
「あ、ありがとう、詩織。いつも助かるよ」
匠人は詩織が持ってきたプリントを丁寧に受け取り、彼女の目を見て「無理してない?」と優しく気遣いました。
詩織は、その優しさに胸の奥がキュンと締め付けられます。夏祭りの夜に交わした「待っている」という約束。それは詩織にとって、何よりも大切な宝物でした。
「先輩。私、今日から図書室の自習、中3の皆さんの隣でやってもいいですか?」
詩織の申し出に、匠人は一瞬杏の顔を見ましたが、杏は優しく頷きました。
「もちろん。詩織ちゃんがいてくれた方が、私たちも頑張れる気がするわ」
図書室の一角。
匠人と杏。
それを見守る心春と千春。
そして、少し背伸びをして彼らの背中を追いかける詩織。
5人が並んで座るテーブルには、秋の澄んだ光が差し込んでいました。
中3の4人がつける「紺色のリボン」と、詩織がつける「赤いリボン」。
その色の違いはまだはっきりとしていましたが、2025年の秋、5人はそれぞれに「誰かのために強くなりたい」という想いを抱き、ペンを走らせていました。
「……よし、始めようか」
匠人の穏やかな号令と共に、2026年という未来に向かって、新しい章が静かに幕を開けました。
- 1.第1話サクラ・グラデーション
- 2.第2話:『放課後の図書室、揺れるカーテン』
- 3.第3話:『五月の雨と、重なる影』
- 4.第4話:『紫陽花の誓いと、渡せなかったお守り』
- 5.第5話:『渡月橋の約束と、夕暮れに溶ける恋心』
- 6.第6話:『五重塔の鐘と、忘れ物の恋わずらい』
- 7.第7話:『それぞれの景色』
- 8.第8話:『雨音のシンコペーションと、紫陽花の告白』
- 9.第9話:『放課後のサイダーと、透明な独白』
- 10.第10話:『向日葵の予感と、止まらない砂時計』
- 11.第11話:『陽炎のラプソディと、秘密の約束』
- 12.第12話:『星空の境界線と、五色の火花』
- 13.第13話:『九月のチャイムと、図書室の領分』
- 14.第14話:『十月の風と、夕暮れの帰り道』
- 15.第15話:『十一月の雨と、温かな缶コーヒー』