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とある中3の恋愛物語

#13

第13話:『九月のチャイムと、図書室の領分』

[明朝体]2025年の夏が終わり、9月。二学期という「現実」が始まった中学校の風景を描きます。2026年の卒業まで残り半年を切った、少し切なくも前向きな物語です[/明朝体]

夏休みが明けた校舎には、どこか落ち着かない空気が漂っていました。
中3の生徒たちの胸元で揺れる紺色のリボンは、受験生としての自覚を促すように、心なしか引き締まって見えます。
「……あ、匠人くん。おはよう」
始業式の後、廊下で佐藤匠人を見つけた蔵持杏が、少し照れくさそうに声をかけました。夏祭り以来、二人の間には、クラスメイト以上の柔らかな絆が確かに息づいていました。
「おはよう、杏。……夏休みが終わっちゃうと、なんだか少し寂しいね」
匠人は優しく微笑みながら、杏の歩幅に合わせてゆっくりと歩き出しました。
「うん。でも、これからはもっと一緒に勉強できるね」
「そうだね。頑張って、同じ景色をこれからも見ていきたいから」
匠人の言葉は、以前よりもずっと穏やかで、杏を包み込むような温かさに満ちていました。
その様子を、教室の入り口で見守っていたのは荒川心春でした。
「……ったく、朝からごちそうさま。千春、あんまり見すぎると目に毒だよ?」
森田千春は、広げていた英単語帳から視線を外さずに答えました。
「分かっているわよ。……私はただ、二人の歩調が合っているのが、少しだけ綺麗だと思っただけ」
千春の声には、夏の頃のようなトゲはありませんでした。彼女は自分の恋心を、受験という大きな壁に挑むための「強さ」に変えようとしていました。
放課後。
いつものように5人が集まる図書室に、中学2年生の森田詩織がやってきました。
「匠人先輩、お疲れ様です。……これ、今日の小テストの範囲のプリントです」
「あ、ありがとう、詩織。いつも助かるよ」
匠人は詩織が持ってきたプリントを丁寧に受け取り、彼女の目を見て「無理してない?」と優しく気遣いました。
詩織は、その優しさに胸の奥がキュンと締め付けられます。夏祭りの夜に交わした「待っている」という約束。それは詩織にとって、何よりも大切な宝物でした。
「先輩。私、今日から図書室の自習、中3の皆さんの隣でやってもいいですか?」
詩織の申し出に、匠人は一瞬杏の顔を見ましたが、杏は優しく頷きました。
「もちろん。詩織ちゃんがいてくれた方が、私たちも頑張れる気がするわ」
図書室の一角。
匠人と杏。
それを見守る心春と千春。
そして、少し背伸びをして彼らの背中を追いかける詩織。
5人が並んで座るテーブルには、秋の澄んだ光が差し込んでいました。
中3の4人がつける「紺色のリボン」と、詩織がつける「赤いリボン」。
その色の違いはまだはっきりとしていましたが、2025年の秋、5人はそれぞれに「誰かのために強くなりたい」という想いを抱き、ペンを走らせていました。
「……よし、始めようか」
匠人の穏やかな号令と共に、2026年という未来に向かって、新しい章が静かに幕を開けました。

2026/01/10 11:51

高情緒なkojyochou
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