文字サイズ変更

とある中3の恋愛物語

#12

第12話:『星空の境界線と、五色の火花』

[明朝体]2025年8月の終わり。夏休み最後の夜がやってきました。街の喧騒から少し離れた裏山の神社で、5人の想いが夜空に打ち上がります。[/明朝体]

神社の境内に続く長い階段を、浴衣姿の5人がゆっくりと登っていました。
「あはは! 匠人、その帯、解けそうだよ?」
荒川心春が、不慣れな浴衣で少しぎこちなく歩く佐藤匠人を見て笑いました。
「あはは、本当だね。……心春こそ、裾を踏まないように気をつけて。転んだら危ないから」
匠人は穏やかに微笑みながら、心春の足元を気遣いました。その視線は自然と、隣を歩く蔵持杏へと向けられます。薄い水色の浴衣をまとった杏は、夜風に吹かれるたびに、どこか儚げで、けれど息を呑むほどに綺麗でした。
「……綺麗だね、匠人くん」
杏が少し俯きながら囁くと、匠人は立ち止まって、彼女の瞳を優しく見つめました。
「うん……。本当に、すごく綺麗だよ、杏」
その言葉が景色だけでなく自分に向けられたものだと気づき、杏の頬は提灯の明かりよりも赤く染まりました。
その後ろを歩く森田千春は、自分と妹の詩織が選んだお揃いの浴衣の袖を、ぎゅっと握りしめていました。
千春は、前を歩く二人の間に流れる「穏やかで優しい空気」を感じていました。もうそれを壊すつもりはありません。けれど、この夏が終われば、受験という現実がやってくる。5人で笑っていられる時間は、砂時計の終わりのように、さらさらと零れ落ちていくのです。
「……お姉ちゃん。私、今日だけは、わがまま言ってもいいかな」
隣を歩く詩織が、消え入りそうな声で言いました。
「詩織……?」
中学2年生の詩織の瞳には、静かな決意が宿っていました。彼女は階段の踊り場で足を止めると、前を行く匠人の背中に向かって駆け出しました。
「匠人先輩! ちょっとだけ、お話ししてもいいですか?」
振り返った匠人のもとへ、詩織は迷わずに進みました。驚く4人の前で、詩織は匠人の浴衣の袖をそっと掴み、背伸びをして囁きました。
「……私、来年、絶対に先輩と同じ高校に行きます。だから、待っていてください」
それは、彼女なりの精一杯の約束でした。
匠人は一瞬目を見開きましたが、詩織の真っ直ぐな瞳を受け止めるように、ふわりと柔らかく笑いました。
「……うん。分かった。詩織なら、きっと大丈夫だよ。待ってるから、頑張ろうね」
匠人が優しく詩織の頭を撫でた、その直後でした。
ドォォォォンッ、という地響きのような音と共に、夜空に巨大な大輪の華が咲きました。
「わあ……っ!」
心春が歓声を上げ、杏と匠人の距離が自然と縮まります。千春は、夜空を見上げる横顔の美しさに、静かに涙をこぼしました。それは苦しい涙ではなく、この眩しすぎる季節を愛おしむための涙でした。
色とりどりの火花が、5人の顔を交互に照らし出します。
2025年、夏。
中3の4人がつける紺色のリボンと、詩織がつける赤いリボン。
その境界線は、打ち上がる花火の光の中で一瞬だけ消え、5人の心は一つに重なったようでした。
「……行こう。明日から、また新しい毎日が始まるね」
匠人の穏やかな声に導かれるように、5人は再び歩き出しました。
夏休み最後の夜。
降り注ぐ火の粉は、彼らの未来を優しく包むように、いつまでも夜空を彩り続けていました。

2026/01/10 11:39

高情緒なkojyochou
ID:≫ 10a8Rho2sBdDU
コメント

この小説につけられたタグ

NL

通報フォーム

お名前
(任意)
Mailアドレス
(任意)

※入力した場合は確認メールが自動返信されます
違反の種類 ※必須 ※ご自分の小説の削除依頼はできません。
違反内容、削除を依頼したい理由など※必須

盗作されたと思われる作品のタイトル

どういった部分が元作品と類似しているかを具体的に記入して下さい。

※できるだけ具体的に記入してください。

《記入例》
・3ページ目の『~~』という箇所に、禁止されているグロ描写が含まれていました
・「〇〇」という作品の盗作と思われます。登場人物の名前を変えているだけで●●というストーリーや××という設定が同じ
…等

備考欄
※伝言などありましたらこちらへ記入
メールフォーム規約」に同意して送信しますか?※必須
タイトル
URL

この小説の著作権は高情緒なkojyochouさんに帰属します

TOP