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とある中3の恋愛物語

#10

第10話:『向日葵の予感と、止まらない砂時計』

一学期の終業式を終え、誰もいない教室に蔵持杏と佐藤匠人の二人が残っていました。
「……これで、本当に最後なんだね。中学生としての『一学期』は」
杏が黒板の隅に書かれた「夏季講習日程」を見つめて呟きました。
「ああ。明日からは部活と勉強漬けの毎日だ。……なあ、杏。夏休みの最後にある夏祭り、一緒に行かないか?」
匠人が少し照れながら誘うと、杏の瞳がぱっと輝きました。
「いいの? ……うん、行きたい。匠人くんと一緒なら、どこでも」
二人の間に流れる時間は、夏の陽光のように熱く、そしてどこか甘い期待に満ちていました。
一方、図書室では森田千春が、一人で黙々と問題集に向き合っていました。
「……集中しなきゃ」
自分に言い聞かせますが、窓の外から聞こえてくるバスケ部の威勢のいい声に、どうしても意識が向いてしまいます。匠人の声、そして彼を見守る杏の姿。
そんな千春の背中を、一学期の間ずっと見てきた荒川心春が、そっと隣の席に座りました。
「千春、あんまり根詰めすぎると夏バテするよ? たまには息抜きしなよ」
「心春……。ありがとう。でも、私は止まっちゃダメなの。止まったら、……今の自分を支えていられなくなる気がして」
千春の言葉は、勉強のことだけを指しているのではないことを、心春は察していました。
「……千春は強すぎるんだよ。もっと私に甘えてもいいのに」
心春が千春の肩に頭を預けると、千春は一瞬だけ表情を緩め、親友の温かさに目を閉じました。
その頃、体育館の入り口では、森田詩織が冷たいスポーツドリンクを抱えて立ち尽くしていました。
「あ、詩織! 本当に来てくれたんだな!」
練習を終えた匠人が、汗を拭いながら駆け寄ってきます。
「はい。……あの、先輩。これ、差し入れです」
「うおっ、冷えてて助かる! さすが詩織だ、気が利くな」
匠人が豪快にドリンクを飲む姿を、詩織は眩しそうに見つめます。中2の彼女にとって、この夏は「先輩たちが卒業に近づく夏」であり、少しでも多くの時間を匠人と共有したい、必死な季節でした。
「先輩……。夏休み、ずっと部活なんですよね? 私、毎日来てもいいですか?」
「おう、大歓迎だぞ! あ、でも杏との勉強会がある日は、体育館にはいないかもしれないけどな」
匠人の何気ない一言が、詩織の胸を微かに締め付けます。どこへ行っても、匠人の隣には杏の名前がありました。
2025年、夏休み初日。
中3の4人が見据える「高校受験」という現実と、中2の詩織が抱える「片思い」という焦燥。
5人の想いは、夏のアスファルトから立ち上る陽炎のように、ゆらゆらと、けれど確かに形を変えながら、燃えるような季節へと突入していきました。

2026/01/10 11:25

高情緒なkojyochou
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