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とある中3の恋愛物語

#9

第9話:『放課後のサイダーと、透明な独白』

[明朝体]2025年も7月に入り、梅雨明けを予感させる強い日差しが差し込み始めた頃。期末テストを終えた解放感と、夏休みを目前に控えた独特の熱気が学校全体を包んでいました。[/明朝体]

約束の日。匠人の「奢り」で、5人は学校近くの古い商店にあるベンチに集まっていました。
「ふーっ! テスト終わりのサイダー、最高だな!」
佐藤匠人が瓶の蓋を威勢よく開け、喉を鳴らして飲み干しました。
「匠人くん、飲みすぎだよ。お腹壊すよ?」
隣で蔵持杏が苦笑しながら、自分のハンカチを匠人に差し出します。匠人は「サンキュ」と短く返し、当然のような顔でそれを受け取りました。
その様子を、ストローを咥えたまま黙って見ていたのは荒川心春でした。
「ねえ、千春。あの二人、もう『夫婦』って感じじゃない? 熟年夫婦の域に達してるよ」
冗談めかして言った心春に、森田千春は少しだけ困ったような笑みを浮かべました。
「そうね……。でも、お似合いなのは確かだわ」
千春はサイダーの瓶に結露した冷たい水滴を、指先でなぞりました。修学旅行を経て、杏と匠人の絆はより確かなものになった。それは認めざるを得ない事実であり、千春はその美しさに、自分の居場所が少しずつ削られていくような感覚を覚えていました。
「……あの、匠人先輩」
少し離れたところに座っていた森田詩織が、意を決して声をかけました。
「ん? どうした詩織」
「私……。夏休みになったら、先輩たちが練習してる姿、見に行ってもいいですか?」
詩織の言葉に、一瞬だけ場が静まりました。
中3はもうすぐ部活を引退します。中2の詩織にとって、匠人がユニフォーム姿でコートを走る姿を見られる時間は、もう残りわずかしかありませんでした。
「おう、もちろんだよ! 詩織が応援に来てくれたら、俺ももっと頑張れる気がするわ」
匠人が屈託のない笑顔で答えると、詩織の胸は期待と切なさでいっぱいになりました。
けれど、そのすぐ後に匠人が付け加えた言葉が、詩織の胸を静かに刺しました。
「杏も、受験勉強の合間に見に来てくれるって言ってるしな。みんなで賑やかになりそうだ!」
匠人に悪気はありません。彼はただ、自分の大切な人たちが一堂に会することを喜んでいるだけなのです。でも、詩織は知っていました。匠人の視線の先には常に杏がいて、自分はあくまで「可愛い後輩」という枠から一歩も出られていないことを。
「……はい。楽しみにしてます」
詩織は、瓶の底に溜まったビー玉をじっと見つめました。透明で、綺麗で、でも決して外には出られないあの玉は、今の自分の気持ちに似ている気がしました。
夕暮れ時、帰り道が二手に分かれます。
匠人と杏が並んで歩き出し、心春がそれを追いかけるように走り出します。
残された森田姉妹は、並んでゆっくりと歩き始めました。
「……ねえ、お姉ちゃん。恋って、どうしてこんなに喉が渇くのかな」
詩織の呟きに、千春は妹の手をそっと握りました。
「サイダーの飲みすぎじゃない?」
「……お姉ちゃんだって、一口しか飲んでないのに、ずっと喉を動かしてたでしょ」
図星を突かれた千春は、苦笑いして空を見上げました。
2025年、7月。
夏の魔物がすぐそこまで来ているような、熱い風が吹き抜けていきました。
5人の恋模様は、本格的な夏を迎え、さらに激しく、そして脆く揺れ動こうとしていました。

2026/01/10 11:15

高情緒なkojyochou
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