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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#4

第一章 蛍の光 〜夜景と鏡〜


パンパンに詰まった黒いリュックを背負い、ボストンバックを引き摺りながら、蛍は旅館の個室の扉を全身で押し開けた。扉を開けてすぐの右手の壁にあった照明のスイッチを肩で押すと、真っ暗だった部屋は若干黄色が混ざった白い光に照らされた。
「お、いい感じの部屋やん」
蛍に続いて、扉が閉まらないように足で支えながら、世央が荷物をズリズリと引き摺って部屋の中へと入った。

2人で泊まるには十分に広い部屋は、何となく甘くて苦いような畳の匂いで満ちていた。部屋の真ん中には、焦げ茶色をした木製の机が置かれていて、一番奥の窓際には小洒落た椅子が2つ置かれていた。

蛍は荷物を部屋の隅に投げるようにして置くと、真っ先にその椅子が置かれた所の窓へと向かった。そして、淡い緑色の薄いカーテンを両手で勢い良く開けた。カーテンの布がパサリと椅子に掛かった。
「世央、いったん電気消して」
蛍は窓の外の景色を眺めながら、着ていた上着を脱いで近くの椅子に掛けた。
「何で?」
「そっちのほうが良いから」
世央は、よく分かっていないような表情のまま、言われたように部屋の照明を消した。

パチッという音とともに、蛍たちは暗闇に包まれた。窓の外を見ると、小さな灯りがポツポツと至る所に星みたいに散りばめられていた。
「おおお…」
世央も蛍の隣に並び、窓に広がる夜景に見入っていた。蛍は窓に映る自分たちの顔に気付きすらせず、興奮気味に世央に話し掛けた。
「京都タワーがライトアップされとる!」
右手に見えた京都タワーは、数十秒おきに様々な色に照らされた。京都タワーの上に浮かぶ灰色がかった雲も、僅かに色づいていた。

「っていうか、俺ら、夕飯までにプリント完成させんと」
蛍はふと我に返ったように左手首にはめた腕時計に視線をやった。暗闇で動きを感知すると時計盤が光るタイプのもの。時計の針は6時10分を指していた。夕飯まではあと15分。

「今日行った所の感想、修学旅行が終わったら提出やって」
「マジか」

2人は部屋の電気を付けると、リュックの中から全く同じ青いリングファイルを取り出し、机の上に広げた。世央と蛍は畳に腰を下ろし、各々ペラペラと紙を捲った。


「ええええっ!!」

静かだった旅館の通路に、男子と女子の声が混ざった歓声が突如として響いた。金閣寺の閣の六画目まで書いていた蛍は、その声に驚いたように通路側に視線をやった。
「何やろな」
世央は、ひたすらその場で思い付いたような感想をプリントの欄に羅列させていた。

ピンポーンとドアベルが何度も鳴り、蛍は「金閣寺」と書き終えると、面倒くさそうに部屋の扉を開けに行った。

「何?」
扉の向こうでは、同じクラスの男子数名が興奮した様子で騒いでいた。
「鈴珠が蛍のこと好きやって!」
「え?」

[漢字]湊風鈴珠[/漢字][ふりがな]みなとかぜ すず[/ふりがな]。彼女は、学年一の才女だった。まさに、才色兼備という言葉が似合う人だった。

蛍は困惑していた。それはただ、鈴珠に好かれるような行動を取った覚えが無いというだけでなく、もっと本能的な何かが違和感を訴えていたのだ。何に対する違和感なのかは、蛍自身にもよく分かっていなかった。

「鈴珠が?」
鈴珠は世央の再従兄弟でもあった。目を丸くした世央が鉛筆を放り投げて、扉の向こうにいる男子と何やら興奮気味に話すと、バンッと強く蛍の背中を叩いた。
「外見が良いやつはズルいよ、やっぱ」
「外見?」
蛍が首を傾げると、世央は蛍を、クローゼットの扉に取り付けられた鏡の前に立たせた。
「スタイル良し、顔面も良し、申し分無し!」

陽炎にとって、蛍は弟のような存在だったから、顔の良し悪しは気にしたことがなかった。今改めて見てみれば、それなりに精悍な顔立ちをしていた。

「ほらほら、早く返事!」
蛍は世央に押され、扉の向こうの男子数人に無理やり部屋の中から追い出された。
「え…いや…でも…俺…」

パタリ。
扉が静かに閉まった。夕飯まであと数分。おそらく、蛍たちは、そのまま夕食を食べるために広間に向かうのだろう。普段から誰にも気付かれずに日々を過ごしてきた陽炎だったが、いよいよ一人ぼっちになった。

[斜体][下線]「蛍ももう、そんな年齢か」[/下線][/斜体]
16歳の陽炎にとって、小学生の元気過ぎる恋愛事情に関わるのは疲れるものだった。手の平に乗りそうなくらいに小さかった筈の蛍は、今は陽炎より頭2つ分低いくらいに背が伸びた。

男子たちの騒がしさの余韻。静か過ぎる夜の部屋に陽炎はただ1人。陽炎の耳の中に、まだ先ほどの騒がしさが木霊していた。

陽炎は鏡の前に立った。そこには、真っ白な部屋の壁しか写っていなかった。死神は己の姿を見ることは無い。意識だけはあるのに、その姿形はこの世界の何処にも無かった。陽炎は時折、自分が本当に存在するのかと不安になることがある。死神は益々寂しくなった。見守り続けてきた蛍も、一歩ずつ確実に大人への道を歩んでいく。

[斜体][下線]「俺って、何で死神なんだろね」[/下線][/斜体]
陽炎は短く、自身を嘲笑うような溜息を付いた。

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2025/11/25 19:53

花火
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