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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#30

第五章 夢のオハナシ 〜蝕む、恋心〜

世央はまだ、自分の心を蝕む死への憧れには気づいてはいない。今はまだ、蛍への叶わぬ恋心に打ちひしがれているだけだと思っている。殺意とも取れる蛍への情愛を世央が自覚してしまった時には、時すでに遅し。だが、きっとまだ間に合うはず。世央の心から蔓延る希死念慮を追い出せば、或いは世央が自らそれを追い出すことが出来れば。願わくは、世央と蛍が結ばれれば…。

「運命を打ち壊すって…何か案があるのかしら?」

運命に抗う闘志に燃える陽炎を訝しげに首を傾げているメラを横目に、陽炎は根拠があるような無いような自信に満ち溢れていた。それは、不安定ながら確固たる、矛盾した側面を持ち合わせていた。蛍や世央と意思疎通が出来ない自分に何が出来るというのか。誰にも気付かれないのに。いや、死神だからこそ出来ることがあるはず。渦巻く諦観と期待が混ざって出来た燃える炎が、身体の奥深くで灯ったことを陽炎は感じ取っていた。

「んっ?!」

バクの突然の大声に、陽炎とメラは身体をビクッと震わせ、眠っているバクの方に視線を向けた。

「どうしたのよ、バク」

眠りこけていた筈のバクは、両目を大きく開けて、辺りの匂いを嗅ぐようにクンクンと鼻を動かした。そしてその匂いに誘われるように立ち上がると、緊張した面持ちで陽炎に視線を向けた。

「陽炎。悪夢の匂いがする」
「世央か?!」

陽炎がバクを抱き上げると、バクは首を横に振って、ただ黙ってある方角を見つめていた。白い空気の層のずっと向こう。縁が錆びた窓格子の外側に見える小さな川と草むらの遥か遠く。目を凝らせば、小さな小さなビル街の建物たち。


「蛍…か…!」


気付いた時には陽炎の身体は、蛍の居る場所を目指して一心不乱に走っていた。

川沿いの懐かしくてどこか苦い香り。竹林の涼し気で淋しそうな香り。そして太陽のむさ苦しい香り。色んな香りが混ざって混沌とした田舎街を、陽炎はその合間を縫うように走り続けた。

「わぁ、あぁ、あぁ」

陽炎に無造作に脇腹の横に担がれたバクは、陽炎が走る度に宙ぶらりんの状態でされるがままになった。

「ちょっと、あんた達!」

メラが慌てて廃墟の奥から姿を現した時には、陽炎は既に走っても追いつけないくらいに遠くに行っていた。メラは蛍のことが気にならないわけでは決してなかった。だが、人間に認識される身体を持っている以上、陽炎たちを追って都心部に向かうことは余りにもリスクが大きい。それに、恐らく陽炎は蛍の学校に向かうだろうということは言われずとも分かった。そうなれば人間の姿になったとしても無意味だ。メラがそんなことを考えているうちに、陽炎はますます遠くへ行く。目を凝らせば微かに、バクの真っ白な身体が太陽の光を受けて眩しく光っているのが見える。

「私は遠回りしていくから!学校裏の雑木林で合流しましょう!」

太陽の光は、陽炎とバクを無視していく。そよ風も彼らには気付かない。影さえも彼らには興味がなかった。

それでも彼らは駆ける。

それは、なぜ?

幸せな未来を守りたいから?

それとも、残酷な未来を見たくないから?

理由など知らない。考えたこともない。

ただ1つ、確かなこと。

「お願い…蛍くん、世央くん。私はね…もう涙は御免なのよ」

メラは暫くの間、遠ざかっていく陽炎の後ろ姿を見送った後、小さな溜息を付いた。そして、キッと前を睨むと踵を返し、蛍の自宅近くの林に続く木々が茂る雑木林へとタッと駆けて、姿を消した。

[水平線]

「来週ですね、校外学習で遊園地に行きますから…」
「イェーイ!!」
「アツすぎるー!!」
「はいはい、静かに静かに」

陽炎がバクを連れて蛍の通う高慧学院高等学校に着いた頃、蛍たちは2限目と3限目の間に15分間設けられたSHRで、担任の先生から校外学習の諸連絡を聞いていた。だが蛍は、自分の机の周りをまるで万里の長城のようにテキストや筆箱を積み上げて囲んだ中に突っ伏して、眠っていた。1クラス当たり50人も居るため、担任も逐一全員の様子を確認する余裕は無かった。

「どうだ、バク。蛍は今、どんな夢を見ている」
陽炎はバクの顔を蛍の頭に擦り付けるくらいの勢いで近付けた。バクは犬のようにクンクンと蛍の後頭部を嗅ぎ回る。

「う…うん…」
蛍が小さなうめき声を上げるたび、陽炎は胸の奥が小さな針で刺されるように痛むのを感じた。表紙の端が破れた、分厚い化学の資料集の上にダランと置かれていた蛍の右手の指先が、ピクピクと痙攣するように動く。陽炎は蛍の頭上に視線を向けた。まだ、「0:11」のまま。大丈夫。時間は沢山ある……はず。

「陽炎、あのね。この人の悪夢は、世央のと少し違って…」
バクが陽炎に抱かれたまま首を後ろに向けた時。


「逝くな!!嫌やぁ!!」


ガタンッと机と椅子が倒れる音、そしてテキスト類がバサバサと無造作に床の上に落ちる音が教室に喧しく響いた。
「斗波?寝てたんか」
余りの物音に、教室中の生徒皆がグルリと一斉に蛍に視線を浴びせた。担任の先生も、怒ることを忘れて呆気に取られた表情で、軽く「座りなさい」と指示した。
「え…あ……すんません」
蛍は流石に教室にいる全員から奇異の視線を送られて気恥ずかしかったのか、いそいそと机と椅子を立て直し、散らかったテキスト類を鞄や机の引き出しの中にしまい始めた。
「お前、何の夢見てたん」
蛍の隣の席のある男子から呆れたように尋ねられた蛍は、目を逸らして誤魔化すように笑った。蛍の黒い瞳孔が揺れる。震える指先には油汗が光る。

陽炎はバクを廊下に連れ出した。ヒンヤリとした冷たい空気が流れる廊下の物陰で、陽炎はバクと身体を正面に向かい合わせた。
「バク。何を見た」
陽炎のその問いに、バクは素直に答えることはしなかった。いや、出来なかった。それはきっと、言葉に出してしまうのが怖かったから。そして、バク自身が辛くなってしまうから。だが、普段はオドオドしているバクは、真っ直ぐと陽炎を見つめている。そして、覚悟を決めたようにその小さな口を開いた。

「蛍は後悔してる。それが蛍を苦しめてる。だけど、もっと厄介なのは、世央が…」
「世央が……?」

「購買で昼飯買いに行こうぜ」
蛍が誰かに誘われて、廊下の階段を駆け下りていくのがチラリと見えた。次第に廊下も生徒や教師が行き交い、騒がしくなり始めた。バクは少し背伸びをして、陽炎の耳に口を近付けた。


「世央が…蛍の目の前で死んじゃう夢を見てた」


太陽が雲の向こうに隠れ、廊下は一瞬だけ暗くなった。生徒たちはその事には気づきすらしなかった。だが陽炎には、それが数億年もの長い時間のように感じられた。

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2025/12/30 22:20

花火
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