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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#26

第四章 怪なるモノたち 〜悪夢〜

人々は今日も当たり前のように太陽の下で食べ、歩き、笑い、生きる。明日の朝日が当然見られるものとして、勤勉に見せかけた怠惰な生活を送っている。

[斜体][下線]「バク。俺は陽炎で、蛍の死神だ。で、この黒い奴が猫又のメラ。俺達は世央に会いたい。蛍を救うために、世央を救わないと。蛍と世央は、2人で1つなんだ」[/下線][/斜体]
陽炎はバクを胸に抱き、世央の自宅がある方角をキッと睨んだ。
[斜体][下線]「……うん?」[/下線][/斜体]
蛍の事情を全く知らないバクは、陽炎の真剣な顔を、キョトンとした表情で眺めている。


蛍を失ってしまう未来への恐怖。世央を救わねばならない使命。刻一刻と迫る終わりへの焦燥。自分以外にも、人ならざるものがいたという驚きと安堵と細やかな温もり。ここ20年間、蛍の傍で人間の生活に浸っていた陽炎を、あらゆる感情が包み込む。それらを全て引き受ける覚悟も勇気も持てないのに、陽炎は既に闘いに一歩踏み出してしまった。

[斜体][下線]「ねぇ、バク。世央くんが見る悪夢を、私達も知りたいの」[/下線][/斜体]
遠くを走る国道から、切羽詰まったような救急車の叫び声が喧しいくらいに響く。メラが陽炎の足元からバクを見上げて尋ねると、バクは世央が見た夢を思い起こすように目を静かに瞑った。そしてゆっくりと両目を開けると、眉間に小さな皺を寄せた。
[斜体][下線]「やだ」
「どうして?」
「やなの、やなの、やーなーの」[/下線][/斜体]
バクはまるでイヤイヤ期の幼児のように手足をばたつかせて、陽炎の腕の中で藻掻いた。そして陽炎の胸に、自身の顔をギュッと押し付けた。

[斜体][下線]「言霊が怖い…」[/下線][/斜体]

そう言ってバクは、その小さな身体を陽炎の胸の中で震えさせた。バクの震えは、陽炎の指先にも伝わる。

言霊。それは、言葉に宿るとされる魂。ある言葉を発せば、現実のものになると巷で噂される。それが真実か、嘘か。それは今はどうでもよかった。バクが言霊を怖れるということ。それは、世央と蛍に襲い掛かる未来は、口に出すのも恐ろしいほどに残酷なものであるということ。

[斜体][下線]「言わなくて良いよ、バク。その代わり、今夜、俺達と一緒に世央の寝室に居てくれないかな」[/下線][/斜体]
陽炎は足元のメラに目配せをした。
[斜体][下線]「今夜もきっと、世央は悪夢を見るんだろ?」[/下線][/斜体]
胸の中で元気を失ったバクをあやす様に揺すると、バクは小さく「うん」と返事をした。
[斜体][下線]「だったら今夜は、世央の身体に取り憑こう。メラ、お前もだ。バクも食べてしまう前に、最後まで悪夢を見てくれ。世央の悪夢を一緒に確かめよう。朝が来るまでに世央の身体を解放して、悪夢も食べてしまえば問題ないさ」[/下線][/斜体]
そう提案する陽炎を横目に、メラは不服そうに陽炎の足元を彷徨いた。
[斜体][下線]「2つの妖かしに同時に取り憑かれたら、世央くん、大変よ。エネルギーを奪い取ってしまうから。次の日は1日中、寝込むことになるんじゃない?」[/下線][/斜体]
メラの足元には、東の方に僅かに黒い影が伸びている。まだ青くて明るい空を、気の早い1羽のカラスが悠々と飛んでいく。
[斜体][下線]「大丈夫だ。仕方ない。疲れはさせても、寿命は1秒も取らない」
「あの…」[/下線][/斜体]
メラを説得する陽炎をよそに、バクは陽炎とメラに世央の悪夢を見せてしまうことを躊躇っている。バクは短い前足で、陽炎の顎の下を柔らかく突いた。
[斜体][下線]「バク、どうした?」[/下線][/斜体]
陽炎を見上げるバクの瞳の奥は、グラグラと揺れている。不安気なバクの表情が、陽炎の赤い瞳に反射している。

[斜体][下線]「蛍と世央が大事なら…見ないほうが良い。きっと、耐えられない。狂ってしまう」
「大丈夫」
[/下線][/斜体]

陽炎に訴える時もバクの声は震えていた。心が震えるから、声も震えてしまうようだった。陽炎も、全く不安と恐怖から解放されたわけではない。だが陽炎は、自分自身をも納得させるように、はっきりと、芯の通った声で「大丈夫」と答えた。


[斜体][下線]「行こう」[/下線][/斜体]


彼らは歩みだす。新たな仲間を引き連れて。悪夢の世界へ。

[水平線]
[水平線]

「あ、もう日付跨いどる」
秋の夜は冷える。冬用の布が分厚いパジャマを着て、ベッドの上で漫画を読んでいた世央はパタンと閉じると、それを枕の下に隠した。ベッドの脇に置いた小さなテーブルに手を伸ばしリモコンを取ると、部屋の照明を消して真っ暗にした。そしてリモコンを元あった場所に戻し、枕元のランプを灯した。柔らかなオレンジ色の光が、眠そうな世央の顔を照らす。

[斜体][下線]「この子が世央ね」[/下線][/斜体]
メラは予め、幸い鍵が開いていた世央の自室の窓から侵入し、ベットの下の影に息を潜めていた。バクも身体を持たないようで、世央の視線を全く気にすることなく、世央の勉強椅子に腰掛ける陽炎の膝の上にチョコンと乗っている。

「蛍…」
世央はランプの灯りに背中を向けて、枕を胸に抱いて横たわっている。陽炎からは世央の顔は見えなかったが、小刻みに震える背中と息の根は、世央が声を押し殺して泣いていることを物語っていた。
「ごめん……蛍。お前のこと…好きになっちゃった…」
今にも消え入りそうな声で、世央は何度も何度も蛍の名前を呼んだ。

この部屋はあまりにも静かだ。陽炎は困惑していた。メラ曰く、世央の死が蛍の死を引き起こす。つまり、世央は蛍よりも前に命を失う。

なのに。

[斜体][下線]「数字が…見えない…?」[/下線][/斜体]

パチン、という音とともに枕元のランプが消えた。電池式だったようで、ランプの側面に赤い光が点滅している。だが世央は既に眠ってしまった。嗚咽も聞こえない静かな夜。何の光も見えない静かな暗闇が、彼らを包んでいた。

[斜体][下線]「あ、夢、見始めた」[/下線][/斜体]
世央が眠ってから間もなく、バクが眠る世央の静かな後ろ姿を示した。今はまだ唸ることもなく、静かに寝息を立てている。
[斜体][下線]「じゃあ、失礼しようかしらね」
「そうだな」[/下線][/斜体]
メラの身体はベットの下に隠れたままだったが、猫又の形をした白い光がスゥッと世央の身体に吸い込まれるように消えていった。陽炎は膝の上のバクを世央の枕元に置くと、柔らかな毛が生えたバクの頭をポンポンと軽く叩いた。
[斜体][下線]「心配すんな」[/下線][/斜体]

陽炎は恐ろしかった。蛍たちを待ち受ける残酷な結末を見てしまうのは。だが、何も出来ないまま蛍の数字が減っていくのを見守るしかないまま、黙って終わりの時を待つことほど、恐ろしいものはなかった。

バクは世央の枕元に小さく座り込み、世央の寝息に耳を澄ませている。寝息から夢の内容を見ることでも出来るのか、怯えた瞳で世央の額を見つめている。

[斜体][下線]「さ、行きますか」[/下線][/斜体]

陽炎は静かに目を瞑った。丑の刻。静寂に包まれた空気。沈黙の時。世央の鼓動に耳を澄ませ、自身の呼吸を呼応させる。世央の波動と自身の波動を調和させる。

夜の空気と同じくらいに冷えた陽炎の身体が、ふと温もりに包まれた。身体が重い。全身に重力と大気圧を感じる。あぁ、これが身体なのか。そう思う陽炎の視界は境界線が曖昧な靄のようだった。だが、世界が次第に明瞭になっていく。見慣れぬ景色。見慣れぬ服。見慣れぬ家具。あぁ、遂に。陽炎は下唇をギュッと噛んだ。歯の感覚が唇に伝わる。

彼らは遂に目の当たりにする。

隠された未来を。

壊さなければならない未来を。

バクが怖れる、「言霊」の正体を。
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2025/12/17 08:39

花火
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