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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#25

第四章 怪なるモノたち 〜繋ぐ〜


「こうもしていられないわ。陽炎、世央くんのいるところまで案内して頂戴」

メラは周囲に人影がないことを確かめると、植え込みを飛び出した。そして陽炎に早く案内するように急かす。だが陽炎は、メラが言うほど急いでも無駄だと感じて尻込みをした。というのも、今は世央も学校にいるはずで、猫又としての姿を隠したいメラが世央に接近するのは困難だ。だからといって人間に化けて、世央が通う高校の敷地内に無断侵入してしまえば、世央に近付くことは絶対にできない。そもそも、世央がどこの高校に通っているのかすら、陽炎は知らなかった。

「メラ、夜の方が良い。俺、世央がどこの高校にいるのか、知らないんだ。家の場所は知ってるから、夜になるまでに家の玄関前とかにいれば…」

「陽炎。あんたは、世央が今から死んでしまうかもしれないとは思わないの?」

メラの冷静なその言葉が、陽炎の気持ちにズシンと響いた。同時に、悪寒が陽炎を襲った。

「私にはね、近いうちに死ぬってことだけが分かって、具体的にいつかは分からないの。明日かもしれないし、1週間後かもしれない。だから、貴方の力が必要なの。世央くんがいつ死んでしまうのかを確かめるために。」

メラはクルリと陽炎に背中を向けると、自分たちがもと来た方に駆けていった。陽炎の脳裏を、蛍と世央の間の微笑ましい幼い思い出の記憶と、秘めた恋の苦い記憶が交互に通り過ぎていく。

「陽炎!行くわよ!」

陽炎はメラの呼ぶ声にハッと我に返った。メラは数十メートル先の畦道に立ち止まって、陽炎の方を見ていた。黄金のような金色の瞳は、まるで燃える炎の様だった。陽炎はそれに惹きつけられるように、我武者羅に走った。

「世央の家は北に150キロ先だ!ついて来い!」

眩しい太陽の光。陽炎の影は地に落ちない。メラの黒い影は、双子の兄弟のようにメラに引っ付いて地面の上を走っているよう。人が通るには細すぎる畦道に入ってしまえば、人の目も気にせずに走ることが出来た。遠くを走る黒猫の姿を辛うじて捉えることが出来たとして、それが猫又であろうとは誰が気付くだろうか。

[水平線]

「あとどれくらい?」
「今ちょうど半分くらいだ」

奇怪なるモノたち。彼らは疲れを知らない。人間が電車で1時間かけて移動する距離を、陽炎とメラは走り続けた。

「頑張ればお昼時に着くわね」

駆けるメラと陽炎の頭上には、青空を切り裂くような飛行機雲が浮かんでいる。

「うおっ?!」

突然、走る陽炎の足元に、バスケットボールサイズの小さな白い何かが現れた。膝下くらいの高さしかない、丸っこい何かだった。陽炎は転けそうになったのを何とか体勢を立て直し、それをピョイと飛び越えてから立ち止まって後ろを振り向いた。

「何よ、この子。アリクイと豚と鹿と猪が混ざったみたいな見た目ね」

白い何かはメラにも見えていた。プルプルと小さな身体を震わせ、それは黒い円な瞳で陽炎とメラを交互に見た。

「ぶちゃかわいいな、こいつ」

神様が生命をこの世に作り出した時に余り物を適当にくっつけた様な見た目をしている謎の白い生物に、始めこそ戸惑ったものの陽炎は段々と愛着が湧いてきた。

「ああ…でも、こうしちゃいられねえ」

陽炎は謎の小さな生物を、ワシャワシャと撫で回したい欲を必死に抑え、後ろ髪引かれる思いで再び世央の自宅を目指して走った。

「あっ、待ってぇ!」

その小さな白い生き物は、ダッと勢い良く走り出した陽炎の脹脛に全身でしがみついた。

「喋ったぁ?!」

メラはそれを見ると、目を丸くして口をあんぐりと開けた。話す猫が驚くのは、実に面白い。

「どうちたの〜っ?」

白い生き物の腹に生えた柔らかな短い毛の感触が、陽炎の脹脛を優しく包んだ。陽炎は走るのを忘れてその場に立ち止まると、それを胸に優しく抱いて頬を擦り寄せた。

「あの、僕、バクなんですけど」

何とも言えぬ風貌をした白い生物は、バクの子供らしかった。ただ、動物園が近くにあるわけでもない田舎道に、それが突然姿を現した事実は、陽炎とメラに微かな違和感を抱かせた。何よりも、陽炎を認識した。

それは、バクも「奇怪なるモノ」の仲間である証。

「迷子になったの?」

メラは、普段は喧しいくらいの声を落として、陽炎に抱かれるバクに優しく声を掛けた。メラに答えたバクの言葉は意外なものだった。

「ううん。会いたい人がいて」
「会いたい人?」

陽炎がバクの顔を覗きながらそう尋ねると、バクは小さく頷いた。バクは陽炎に抱かれながら、陽炎とメラが目指す先に視線をたびたび不安気な表情を浮かべて送る。

「ねぇねぇ」
「ん?なぁに?」

バクのか弱い子犬のような声を聞くと、陽炎は男でありながら母性が刺激される感覚を覚えた。そしてバクの姿に、生まれて間もない新生児だった頃の蛍の姿を重ねた。蛍を守らねば。その気持ちがより一層、陽炎の心を燃やした。

「あの、蛍って人、知ってる?」
「蛍…?!」

陽炎とメラがバクの言葉に同時に目を丸くして、小さく叫んだのを見ると、バクは驚いたように陽炎の胸の中で身体を埋めた。

「あの、僕、人の悪夢を食べる妖怪。最近になって毎日毎日嫌な夢を見る男の人がいて。その夢の中にね、蛍って人が絶対に出てくるの。予知夢だったら僕も嫌だなって。」

バクは夜の内に、悪夢を餌とする妖怪。それが、この真っ昼間に、餌を減らす行為であるにも関わらず、蛍に会うためにたった一人で現れた。それを思うと陽炎は、胸の奥にギュッと詰まるものを感じた。

「君が言う、夢を見る男の人って誰なの?」

メラにそう尋ねられたバクは、後ろめたそうに首を横に振った。だが、その後にバクが何気なしに言った言葉は、世界を繋ぐ引き金となった。

「知らない。でもね、夢の中に出てくる蛍っていう人が、その男の人のことを世央って呼んでるよ」

奇怪なるモノたちと、人間たち。明るい筈の未来に待ち受ける運命に抗うには、何も欠けてはいけない。

嘘と現実の狭間。

闘いは、まだ始まったばかりなのだ。

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2025/12/15 18:33

花火
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