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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#21

第四章 怪なるモノたち 〜影〜


蛍に許された時間は残り1年足らず。残酷な未来は既に始まっている。死が避けられないとしても、出来うる限り先に延ばさなければならない。焦燥感とも使命感とも付かぬ衝動に駆られて、陽炎は世央の元へと走った。

暗闇に沈むような夜のアスファルトを心細い月明かりだけが照らす。ポツリポツリと疎らに建つコンビニやガソリンスタンドの灯りが、駆ける陽炎の視界を過ぎ去っていく。新幹線の窓から眺めた夜の景色のような、光の線で歪んだ曖昧な世界の隙間を縫うように、陽炎は風に逆らって走った。


[水平線]

世央の自宅まで残り約数キロ。鬱蒼と繁った林を貫く細い車道に差し掛かった。月の明かりは暗い林に遮られ、道の向こうはブラックホールのように際限なく暗闇が続くように見えた。身体を持たない死神は、生きた人間のように疲れを感じることはない。陽炎は迷わず、車1台通らないその林の中を駆け抜けようとした。だが、陽炎が林の中盤に来た頃、陽炎は思わずある一本の木に目を奪われて足を止めてしまった。


陽炎の視界の先。みすぼらしい姿の1人の中年男性が、長いロープを手に持って立っていた。伸ばし放題になった前髪に遮られた両目で、空まで高く伸びる木の太い枝を恍惚と眺めている。

彼が今からしようとしていること。陽炎はそれを図らずも知ってしまった。だが、陽炎は彼の頭上に浮かぶ赤い光に戦慄せずにはいられなかった。


「0:59」「0:58」「0:57」「0:56」


彼の頭上に浮かぶ赤い数字は、1秒経つごとに減っていく。それを見て、陽炎はほぼ確信に近い推測をした。

光の色が、残り時間の単位を示すということ。蛍の頭上に浮かぶ数字の光が、赤くなるまでに、数字の光を消さなければならないこと。

同時に陽炎に絶望が、激しい波のように押し寄せた。

何をしなければならないのかは分かるのに、何をすれば良いのかが陽炎には見当もつかなかった。目的だけを知らされ、手段は闇の向こうに隠れている。手を伸ばした先に、確かにそこに手段があるのかさえも知らず、刻一刻と迫りくる終わりに抗わなければならない。

[斜体][下線]「俺に何が出来るってんだよ…」[/下線][/斜体]

陽炎が立ち竦んだまま苦悩しているこの瞬間も、蛍に残された時間は無情に減っていく。夜の暗闇を照らす月は、雲に隠れたり、雲の隙間から顔を出したりを繰り返す。時は余りにも無表情に過ぎ去っていく。

陽炎は堪らず叫んだ。もどかしさ、怒り、焦燥、悲哀。それら全てを吐き出すように、陽炎は空虚な夜の暗闇に喉が枯れるほど叫んだ。

[斜体][下線]「うるっさいわね」[/下線][/斜体]

誰にも聞かれるはずのなかった陽炎の叫び。この夜、初めて陽炎の声に反応した存在が現れた。だが、皮肉なことに陽炎自身はその事に気付きもしなかった。残り時間が刻一刻と減っていく赤い数字と、今はまだ生きている男性から少し離れたところで足元に力なく視線を落としている陽炎。彼のその姿を、木陰から闇に紛れて訝しそうに観察しているモノが背後にいることも知らない。


月の光が雲間から漏れて林を僅かに照らした。


雑草と苔に覆われた土の上を、猫の形の影が揺ら揺らと踊るように揺れていた。
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2025/12/12 17:50

花火
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