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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#19

第三章 流れ星の瞬き 〜1:00〜

「蛍。…話したいことがある」
「…何?」

蛍と世央は夕飯を食べ終えると、ゆったりとした足取りで名古屋駅まで向かっていた。蝶舞は母親から、早く帰ってくるようにと電話で催促され、一足先に名古屋駅に向かって走っていってしまった。

夜の冷たい風が、蛍と世央の間を吹き抜けていく。ビルの窓から溢れる白い光と、店のネオンサインの色とりどりの光が降り注ぐ。灰色の大きな雲に覆われた星のない夜空を、赤いライトを点滅させながら飛行機が高く飛んでいく。暴走族のバイクの音やパトカーの音。夜の都会の喧騒の中、世央は蛍の横顔に語り掛けた。
「俺さ…ずっと前から好きな人がいて…」
「…うん…」
夜の灯りが世央の顔を照らす。世央の頬は淡いピンクに染まっている。

蛍は世央の言葉を聞くのが怖かった。世央の心を知りたくなかった。自分はあくまで世央の友達。それ以上の関係になることは絶対にない。世央は、自分以外の誰かを想っているに決まっている。金輪際、性別のことはどうでも良かった。自分が世央にとっての「特別」ではなくなってしまう。それを知ってしまうのが怖かった。

蛍は、チラリと世央に視線を向けた。世央は真っ直ぐと蛍の目を見ていた。震える唇。揺れる瞳。世央は、震える口から精一杯の言葉を紡ごうとした。

「蛍、俺、本当は…」
「世央!!」

蛍は堪らず叫んだ。世央は一瞬、怯えたように目を見開いた。世央が好きなのは俺じゃない。自分の心の中で認めてしまうことには慣れた。でもそれを、世央本人から突き付けられたくはなかった。

そして、蛍は逃げることを選んだ。


自分が求めているものを、自ら手放すことを。


「叶うと良いな。その恋。俺、友達として応援するから。いつでも相談しに来い」
蛍のその言葉に、世央は絶望したように俯いた。そして、零れ落ちそうになる涙を必死に飲み込み、震える声を必死に抑え、蛍の足元に言葉をポロリと溢した。

「……わかった」

夜風は、余りにも冷たかった。空を見上げても星は光っていない。蛍にとっての星の光。世央にとっての星の光。本当は光っていたかもしれない。だが、それは厚い雲の向こうに隠されて、お互いにその存在を知ることは出来なかった。


[水平線]

世央とはぎこちない雰囲気のまま駅で別れてしまった。世央は自分の惨めさを蛍に悟られないように振る舞い、最後まで張り付けたような笑顔を蛍に見せていた。蛍もまた、胸の傷を忘れ去るように、面白くもないことを大きな声で笑い飛ばしながら、くだらない世間話をしていた。

家に帰った頃、玄関の電気だけが付いていて他は暗かった。蛍の祖母は既に眠ってしまっていた。普段の蛍は、明日までの宿題は何だったか、明日の昼ご飯には何を食べようか、等と他愛もないことを頭の中で考える癖がある。しかし今宵だけは、蛍の心は奥底まで静まり返っていた。虫も鳴かない田舎の寒い夜。光の届かない深海のような冷え切った心。蛍は骨の髄から暗闇と一体化しているような気分だった。

蛍は祖母を起こさないように玄関の扉を閉めて戸締まりをした後、服を洗濯機の中に放り込んで寝間着に着替えた。心臓には今もまだ、世央を突き放してしまった後悔が渦巻く。目を閉じれば、心の中では密かに泣き叫んでいるような世央の笑顔が浮かぶ。この想いを、蛍はあらゆる言葉を尽くしても表すことは出来なかった。明日も変わらず日は昇る。夜の闇を忘れたように光は空を照らす。明日になれば、少しは心も晴れるだろうか。蛍が光に救いを求めるたびに、蛍の心は深く深く沈んでいく。

「そう言えば…世央が聴いてた歌って…」
蛍は自室の電気を消して布団に潜った後、スマホである曲名を検索した。
「馬山透宇…foolish…」
今朝、模試の受験会場に向かう電車の中で世央が聴いていた歌。理由は分からない。ファンでもないのに、衝動的に彼の歌声が聴きたくなった。そうすれば、少しは世央と繋がっていられる気がした。

リュックからイヤホンを取り出し、絡まって団子のようになっているのを地道に解く。YOUTUBEでその歌のMVを開き、イヤホンのプラグをスマホに挿す。そしてイヤホンを両耳に挿し、目を瞑ると、馬山透宇の歌声が静かに蛍の耳の中に流れた。まさに、透き通った宇宙のような彼の歌声は、後悔とやり場の無い怒りで濁った心を浄化していくようだった。

『遠ざかる貴方の背中に恋焦がれた
正解だらけの世界から連れ去りたいと願う
臆病な僕は綺麗な夢を見るばかり
口付けの温度も知らないまま』

ふと目を開いてスマホの画面を見てみれば、蛍に瓜二つな彼と目があった。その目が余りにも自分と似ていた。

『抱き締めてしまえば貴方は壊れてしまいそうで
さよならさえ言えないまま
恋心だけが残っていた』

もしかしたら世央は、馬山透宇を自分に見立てていたのではないか。世央は本当は、自分のことを好きでいてくれたのではないか。馬山の歌声を聴きながら、蛍は天井をボンヤリと見上げ、微かな期待を胸に抱いた。

『馬鹿らしい』

馬山がそう歌った時、蛍の心臓がビクリと飛び起きたような感覚を覚えた。蛍は咄嗟にイヤホンを耳から外し、スマホの電源も消してリュックに投げ入れた。そして、狼を怖れる子ヤギのように布団を頭から被って身体を縮こませ、ギュッと目を瞑った。
「分かってんだって……馬鹿らしいってことくらいさ…」
だが蛍は知らなかった。その後に続く歌詞を。

『馬鹿らしい形だらけの世界
君となら何処へでも飛んでいける気がした』


[斜体][下線]「蛍…」[/下線][/斜体]
蛍の寝息が聞こえるようになった頃、陽炎は蛍の頭を撫でようと床に膝をついた。
[斜体][下線]「えっ……?」[/下線][/斜体]
陽炎の膝頭が布団の端に触れた途端、蛍の頭上に突如として、ある番号が浮かび上がった。それは、微かに白い光を放っている。

「1:00」

デジタル時計のようだったが、壁の時計を見てみると今は午後の11:00。
[斜体][下線]「これ……何?」[/下線][/斜体]
得体の知れぬ数。陽炎は妙な胸騒ぎがした。残酷な未来が待っているような気がした。何をすれば良いのか分からないまま、陽炎はその数字をただただ眺めていた。



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2025/12/10 17:47

花火
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