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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#18

第三章 流れ星の瞬き 〜息を吐く〜

蛍たち3人は試験終了後、名古屋駅の地下や周辺を適当に歩き回り、ようやくある中華料理店に辿り着いた。他の店はどこも満席で、最低でも1時間は待たなければならなかった。翌日に平日を迎える高校生の夜に、そんな時間的な余裕はない。数ある店の中でも、唯一空席が3つ以上あったその店に3人は滑り込んだ。

蛍たちは、水の入ったコップやメニュー表を机の隅に寄せ、試験の自己採点を各々進めていた。食器の音、油が跳ねる音、客が店員を呼ぶ声、そしてそれに応える店員の声。3人はそれらの賑やかな音に包まれて、黙々と赤ペンを手に持って解答解説を眺める。時折、問題用紙に赤ペンで丸を付けたりバツを付けたりする音が、カシュッと鳴る。

「大変お待たせ致しました。柚子醤油のつけ麺でお待ちのお客様ー?」
「あ、はい!」
蛍の頼んだ商品が一番先に届けられた。蛍は小さく挙手をしながら、解答冊子を閉じて足元の籠に入れたリュックにねじ込んだ。

間もなく蝶舞と世央の分も届けられた。蛍の隣に座っている世央は特に何の拘りもなく定番の味噌ラーメン。蛍の向かいの蝶舞は横綱チャーシューラーメン、納得の大盛りサイズ。


「彼女の方から告ってきたんやけど…」
「彼女とお化け屋敷に行った時に…」
「彼女がナガシマに行きたがるんやけど、入場料がキツくて…」

3人が食べ進める中、蝶舞は妙に彼の彼女のことを露骨に強調するように話した。初対面の蝶舞と異常に話したがっていた世央は、今では淡々と麺を啜りながら蝶舞の話に軽く耳を傾けるだけ。蝶舞はその事により一層戸惑い、ただひたすら彼女の話を続け様に話した。それは惚気というより寧ろ、盾で何かを必死に防いでいるような、或いは誤解が解けるように必死に弁明しているような焦燥感だった。

「そっ…それで俺の…」
「かっ!!のじょが、だろ?」
いよいよ彼女にまつわる話もネタが尽きてきたのか、蝶舞の目が泳ぎ始めた時、蛍が蝶舞の口調を過度に強調して真似をした。

恥じる蝶舞を誂う蛍の様子は、世央の目から見ても心の底から楽しそうだった。だが、蛍と蝶舞はただの友達同士だと知ってしまえば、世央は安心して蛍の笑顔を横から眺めることが出来た。疼く胸の痛みを、心臓の奥に押し隠して。


「世央、そう言えば鈴珠どうしてんの、今?」
蛍が不意に世央の方に視線を向けると、世央は慌てて顔を逸らした。世央はただ、蛍だけには知られたくなかった。だが世央のその行動は、蛍の心をナイフでグサリと刺すような痛みを与えた。蛍はそれを世央にだけは悟られないように、喉も渇いていないのにコップの中の水を一気に飲み干した。

「鈴珠は、なんか最近彼氏が出来たって浮かれてるけど」
「あ、そうなん」

蛍は、小学校卒業の直前に鈴珠から告白されたことを忘れていたわけではなかった。だが、鈴珠に彼氏が出来たと知っても、胸は少しも痛まなかった。寧ろ安堵したような。何に安心したのかは蛍自身にも分かりはしなかったが。


「鈴珠って…もしかして湊風鈴珠さん?」


蝶舞は怪訝そうな表情で、2人のやり取りに耳を澄ませていた。彼のその言葉には、蛍と世央も思わず目を丸くした。
「何で知ってんの?!」
「同じ幼稚園とか?」
「元カノとか?!」
「同じ塾にいるとか?」
蛍と世央は椅子から腰を若干浮かせるほどの勢いで、机に両手を付いて蝶舞を問い詰めた。

「タンマ!」

蝶舞は2人から畳み掛けられると、椅子から立ち上がりかけた2人を押し戻すように両手を前に出した。
「まず、俺の元カノではない。今の彼女が初カノ。幼稚園も塾も違う」
「え?」

蛍と世央はお互いに顔を見合わせた。この瞬間ばかりは、胸に隠した恋心さえも忘れていた。なぜ、蝶舞が鈴珠を知っているのか。その問いが2人の心を占めていた。

「俺、双子の弟が違う高校に通ってて、最近彼女が出来たんやけど。世央さん、[漢字]泊兜都[/漢字][ふりがな]とまり かぶと[/ふりがな]って名前に聞き覚えは無いっすか」
「兜都?!」
今度は世央だけが大きく目を見開き、蝶舞に視線を向けた。
「鈴珠の彼氏の名前っす」
「あぁ、やっぱり?最近、兜都が鈴珠さんの話ばっかりするもんで」

蝶舞は、湊風鈴珠が話題に上ったことで、蛍と世央の間の埋まらない溝の間で途方に暮れたりすることから解放され、ようやく安堵した。

「おい?!」
「今度は何?!」

蝶舞がホッと息をついた時、今度は蛍が目を見開き蝶舞を見た。蛍は蝶舞と世央が会話をしている間、何やら思案しているような様子で会話には入らなかった。しかし、何を突然思い出したのか、蝶舞に顔を近付けた。まるで、密売人同士が違法薬物の在処を伝える時のように。蛍のただならぬ雰囲気に、蝶舞と世央はゴクリと息を飲んだ。だが、彼らの恐れとは裏腹に、蛍が発した言葉は何とも腑抜けたものだった。

「蝶舞……お前ら兄弟、虫なんやな。改めて親近感湧くわ」

他愛もない夕飯時。その夜だけは、3人の男子高校生は、それぞれの柵から解放された。

「求めてはいけないもの」を求めてしまう苦しみ、大切なものを失いたくなくて嘘を付いてしまう苦しみ。互いに手繰り寄せ合いながら自ら赤い糸を切ろうとする2人を、見守ることしか出来ない苦しみ。

[水平線]

[斜体][下線]「何が正解なのか、善なのか…もう、分からなくなってきた」[/下線][/斜体]
そして蝶舞の隣に腰掛けて、3人が談笑する様子を傍らから見ていた陽炎は、「正解」と「善」の呪いに苦しめられていた。陽炎がハァッと吐いた乾いた息は、蛍たちの机に置かれた伝票の端を僅かに揺らした。

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2025/12/09 17:50

花火
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