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こちらはBL作品です。性的な描写は一切ございませんが、苦手な方はご遠慮頂くようお願い致します。
また、部分的に自殺描写を含めました。露骨な表現はありませんが、ご注意下さい。

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冥刻の子守唄 〜シニガミコモリ〜

#17

第三章 流れ星の瞬き 〜夜にトケル〜

「解答冊子を受け取っていない人はいませんか」

試験終了後。蛍は首周りが凝ってしまい、両手で首を擦りながらゆっくりと首を時計回り、そして反時計回りに回した。休み時間がテスト毎にあるとは言え、長時間に及ぶ試験を全て受け終えた後の疲れは堪える。身体は椅子に座っているばかりで殆ど動かさずにいたが、頭を働かせ過ぎたのか蛍は顔の周りが熱く火照っているのを感じた。ふうっと長い息を吐き、窓の外に目をやると空は既に薄暗く、数羽のカラスが鳴きながらビルの間を右往左往しながら飛ぶのが見えた。

「成績は後日、ネットにて公開します。解答用紙番号を無くさないように気をつけて下さい。本日はお疲れ様でした」
教壇に立っていた試験監督官がそう言ってペコリと小さくお辞儀をしたのと同時に、ザザザっと受験者が椅子を引いて立ち上がる音が会場に響いた。

「ゔあぁっ……」
蛍は筆箱と塾の宣伝のチラシ諸々をリュックにねじ込んだ後、両腕をグイと宙に伸ばし背中を軽く反らせた。

「はぁぁっ……!」
限りなく吸い込んだ息を精一杯肺に溜めて、それらを一気に吐き出したと同時に、蛍は腕を下ろして背中ももとに戻した。完全に疲れが取れたわけではなかったが、全身に重力がしがみつくような感覚は無くなって多少はマシになった。熱っぽくてボンヤリとしていた脳にも酸素と血液が巡る。

「蛍!」

教室の外の廊下から蛍の名前を呼ぶ声が聞こえた。教室の出口は沢山の高校生で混んでいたが、少し背の低い女子高生の向こうに、世央が蛍の方を見て小さく手を振っているのが見えた。蛍は胸の高鳴りを悟られないようにぎこちない表情を作りながら、蛍も小さく手を振り返した。

蛍は物理選択だったが、世央と蝶舞は生物選択だったから、受験会場は同じでも教室が違ったのだ。

世央から少し離れたところに蝶舞が立っている。蝶舞は世央の表情を伺うような面持ちで、大きな身体をできる限り縮こませて廊下に置かれた自販機の陰に隠れていた。
「泊ー、お前、夕飯は名古屋駅かどっかで食ってくん?」
しかし、蝶舞は隠れるには余りにも大きすぎた。蛍は何気ない気持ちでただ尋ねたつもりだったが、蝶舞は世央の前で蛍が自分の名前を呼んだのを聞くと、あからさまにギクリとした表情を見せた。そして蝶舞は居心地が悪そうな顔で、世央の方に視線を向けた。世央は半ば諦め切ったような笑顔で、「数学が死んだ」だの「古文が終わった」だの蛍が愚痴るのを静かに聞いていた。だが、世央は蛍に隠すように右手を背中に回し、爪が食い込むほどに拳を固く握っている。
「斗波、俺は適当にコンビニで何か食って帰るから2人は…」

「いや!」

蝶舞は目にも止まらぬ速さで大きな両手を胸の前でヒラヒラとさせた。蝶舞は何とかして蛍から距離を取り、かつ蛍と世央が2人きりになるようにしたかった。それを遮ったのは世央だった。世央は覚悟を決めたような表情で、蝶舞を睨みながら静かに言った。静かな言葉なのに、ビリリと蝶舞と世央の間を震わすものがあった。
「俺…話がしたいです。貴方と」
「へぇぁ?俺ぇ?」
蝶舞は蛍に睨まれると、路傍に捨てられた子猫のようにオドオドとしながら間抜けな声を出した。

段々と他の受験者たちがエレベーターや階段を使って一階に向かい始め、廊下が空いてきた。
「そんなら、名古屋駅に大量にラーメン屋さんあるで、そこで食ってこう。3人で」

蛍は、世央と蝶舞の気持ちを知らない。

世央と2人きりになりたいとは、世央を前にしては口が裂けても言えない。蛍は同性に好意を抱くことを蝶舞に打ち明けはしたが、その相手が世央だとは知られたくなかった。蛍だけの世央でいてほしかった。

だが、それを蛍に知られてはいけない。あくまで、「普通の男子」でいなければならない。

「泊、明日は放課後に委員会があるから一緒に帰れへんわ。ごめん」
「あ……明日の話?ええよ、別に…何で今…?」

蛍は、蝶舞と一緒に過ごすことで辛うじて平静を保っていた。

蛍の想い人は世央。だが、未だ家族にすら打ち明けられていない本当の自分を知ってくれているのは蝶舞だけ。蝶舞にだけは、安心して自分の「異質さ」を見せることが出来た。世央は蛍にとっては、手の届かない、そして触れたら壊れてしまいそうな星空のような存在だった。そして蝶舞は、蛍を包む空気のような存在だった。

世央が目の前にいながら、毎日蝶舞が蛍と一緒に下校していることを仄めかしたことに、蝶舞は焦った。そして、悔しそうに蝶舞を睨む世央の視線にいよいよ耐えられなくなり、蝶舞は叫んだ。
「お、俺!彼女おるで!」
「え?」
蝶舞の言葉に、誰よりも驚いた表情を見せたのは世央だった。そして世央はクルリと蛍の方を振り向いた。蛍は小さな子供のように目をキラキラと輝かせ、蝶舞の横腹を誂うように肘で突いた。
「誰?同じクラス?」
「いや、あの、小学校の時から付き合ってて、彼女は違う高校に行ってる」
「夕飯の時に詳しく聞かせろよ」

世央は、蛍と蝶舞のやり取りを聞くに、少なくとも、蛍も蝶舞もお互いに特別な感情を抱いているというわけではないということをようやく感じた。そして安堵したような、だが悲しげな表情で小さく笑った。
「なんだ…」
世央は蛍に聞こえないように、小さな声で「良かった」と呟いた。

蛍の気持ちが自分に向けられなくても良い。「男友達」のままで良い。

世央はただ、蛍の隣にいる理由が欲しかった。

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2025/12/08 17:03

花火
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